93話「大魔女の城」
転送魔法による衝撃は遠ければ遠い程、大きくなる。その時の感覚は四肢が離れていきそうな感じだ。ほんの一瞬なのにとても長い時間の移動に感じる転送魔法は、ケイディとスピリアを吐かせた。
「うぉえぇ、気持ち悪りぃ、スピリアさんもですか、」
「ケイディさんもこう言うの無理なんですね、うっ、」
ヴィアレンとマリも少しめまいがしていたが、気にせず周りの景色を見た。するとそこには大きな門があった。
「流石グランバス校長、完璧な転送魔法です。では皆さん、私について来て下さい。さもないと魔女に殺されますから」
突然の物騒な言葉に三人は固まった。思わずエリセツアをおぶっているケイディは手が滑りそうになった程だ。
「この魔女の国と呼ばれた場所では法律なんてないんです。何故なら一人一人が魔女と呼ばれるだけあって強く、空気を読むので、争いなんて絶対に起こらないからです。そして魔女は互いの悩みを聞き合う仲間です。しかし貴方たちは魔女ではない、つまりここでは異端と見なされます。なので排除しようとする者たちもいるでしょう」
「と言う事は男は存在しないんですか?」
「はい。だからヴィアレンくんとケイディくんは急に魔法を放たれてもおかしくないですよ」
三人が呆然としていると、マリは忙しいからと急かし、魔女の国と呼ばれたその地へ足を踏み入れた。
魔女の国は森林地帯、旧都ディーズガーズ、新都アグレイブ、レインガーデ祭壇で構成されるモナレン王国と同じぐらいの大きさだ。そしてマリが先導しているこの場所はこの国の結界を管理している城がある新都アグレイブだ。
「す、凄い。これが魔女の国ですか、至る所に高度な魔術が施されていますね」
「スピリアさんは魔術と魔法の違いを分かっていらっしゃるんですね。魔術は叡智の結晶です。実戦向きではありませんがこうして結界を管理するために複雑な術式を組み込んでいる塔が多くあるんですよ」
「俺もエリセツアさんから学びました。術式を用いる魔法は魔術なんですよね」
「僕は黒魔法使いだから意味が分からないんだけど、」
そんな雑談をしていると、数人の魔女がマリたちを覗いた。それにマリが気づくと絡まれない様に箒を取り出して乗った。
「エリセツアさんは私が抱えます。皆さんも箒を使って行きましょう。目指すのは大魔女が住むあそこです」
マリは大きな城を指差した。そして一気に速度を上げて周りの目から逃れようとした。ヴィアレンたち三人も急いで箒に乗り全速力を出した。
そして城に着いた。この城は魔女の国を統率する大魔女が住んでいて、この国を管理する魔女たちが数百人働いている。
「探究の魔女が、少し早いですが定期報告に参りました」
マリがそう言うと、城の門が開いた。内部は吹き抜けとなっていていくつもの螺旋階段がある。真ん中には魔力によって動く昇降機があり、一行はそれに乗って上層へと昇った。
「実は定期報告をするためにこの国に帰って来たと言う名分があるんです。だからエリセツアさんを救うための頼れる人が今いるかどうかは分からないんですよね」
「え!?じゃあどうして校長は私たちをここに向かわせたんですか?」
「おそらく大魔女に貸しがあるんでしょう。この国には数千人の魔女が住んでいます。だからエリセツアさんの治す方法を知ってる人は必ずいる。その人に頼るんですよ」
「何でそう言い切れるんですか?」
ケイディが疑問に思い、マリに質問をした。するとマリは少し躊躇った。グランバスにエリセツアの素性を詳しく話しすぎてはいけないと言われているからだ。
「魔女は凄いからですよ。この国の歴史は千年以上あります。そしてその歴史の中で独自の魔法研究を重ね、今があります。とにかく絶対に大丈夫なんですよ」
はぐらかされてしまった事に不満を抱きつつも、ケイディたちは言及しなかった。それはこの魔女の国がそれだけ秘密だらけの未知の国であり、自分たちじゃ量ることが出来ないと悟ったからだ。
そしてとうとう大魔女がいる部屋まで来た。
「探究の魔女マリが帰りました。入ってもよろしいですか?」
すると扉の向こうから威厳のある声が聞こえた。
「構わない。入れ」
そう言われてマリを先頭に大魔女の部屋に入った。そこは多くの本に囲まれ、窓からは新都アグレイブが一望できる。黒い樫の木で出来た壁に、床は全て赤いカーペットで埋め尽くされている。
その雰囲気に圧倒されつつも、大魔女の机と椅子の向こうにはもっと圧倒的な気配があり、マリ以外は身構えた。
「まさかこの国に魔女として認められないガキが三人も入ってくるなんて、思ってもいなかったぞ。マリ、説明しろ」
「実は、校長が、見ての通りエリセツアさんが心神喪失状態になったので助けて欲しいとの事です」
「は?あいつの借りはもう返しただろう?何で私が助けないといけないんだ?」
「それに関しては彩旅の魔女エリセツアだから、と答える様に言われております」
すると大魔女は大きな声で笑った。そして椅子の後ろから姿を現した。その様子を見たヴィアレンたち三人はとても驚いた。
「確かにその娘は魔女として登録されている。そしてこの国の魔女は支え合わなければならない。救うために手を貸すのは当然と言う事か」
「それよりスピリアさんたちが驚いているのですが、」
「驚いたか?ガキども。私こそがこの国を導く大魔女、ジャンヌ様だ」
「僕より君の方がガキにしか見えない。十四歳ぐらいの見た目で十七歳の僕に上から目線なのやめてくれるかな?」
ヴィアレンの生意気な態度にマリは慌てた。それもそのはず、魔女の国に住む魔女は歳を取らない。だから一見ジャンヌは幼く見えても、実年齢は十四年に魔女の国の建国当初から今までの年数を足した結果となる。
マリも普段ミロス学園にいるが、特別に魔女の国の外にいても老化しない魔道具を持たされているので、数十年若く見えている。
「おい貴様、黒魔法使いだな。その割に近接が得意と見える。名を名乗れ」
「ヴィアレンだ。ご存知の通り黒魔法使いだ」
「じゃあそこの二人。お前らも名乗れ」
ケイディとスピリアも挨拶をさせられ、ジャンヌは三人を見ながら考え事をしていた。耐えきれなくなったヴィアレンがジャンヌに文句を言った。
「あのさ、僕たちはエリセツアを助けるために来たんだ。早く助ける方法を教えてくれないかな?」
「うるさいなぁ。慌てさせるんじゃない、考えているんだよ」




