90話「代償の色彩」
「ははそうかそうか、価値がない、か。でも私は君と違ってペルヴェリンに忠誠を誓ってたんだ。大義のためならば犠牲を厭わない程にね」
「おいヴィアレン、こいつ何かしようとしてないか!?」
「は?何か出来ることなんて、」
「私は非道なやつでね。今回の作戦に参加した私と幹部は、私が開発した時計型の魔道具を使ってただろ?その魔道具全てに爆弾を埋めていたらどうなると思う?」
その発言を聞いたのはヴィアレン、ケイディ、そして丁度、ダーヒを倒して他の仲間を助けに来たエリセツアだった。
「おい!幹部たちの魔道具に爆弾が仕込まれている!!」
ヴィアレンは叫び、ペルヴェリンと探索者たちは一瞬、その発言を聞いて固まった。
「カチっ」
動かない時計の魔道具についている時計の針が進んだ。
流石のホークも幹部一人の独断で仲間全員が犠牲になることを予想出来なかった。魔道具の爆弾と言うのは銃と違い、所持するだけで大陸プロテクトオーダーに逮捕される。何故なら防ぐ事が銃の様に難しくデリケートだからだ。
エリセツアの様に自分自身の身体に結界を張り、防御するのはほとんどの魔法使いは出来ず、魔力やオーラによる身体強化で防ぐ事になる。しかし身体強化ではダーヒでさえも防ぐことは出来ない。
その瞬間動く事が出来たのは時間魔導術により、一瞬考える時間を得たエリセツアだけだった。
「爆発を止めるなんて出来ない、ならば爆発を包み込むしかないな。こんな方法しかないなんて、少し悲しいな」
仲間の命が懸かっている状況では冷静であっても正常な判断が下せるとは限らない。私には代償を伴う方法しか思いつかなかった。
そしてほんの一瞬、エリセツアは心を落ち着かせ、覚悟を決め、仲間を想う気持ちを高めた。
「彩旅による記憶は力であり、私の中の根源の力である。そして根源から生み出した力と共に色彩へと変化する。色彩幻現『花の領域』」
私はモナレンから始まった旅で見て来た色を思い出した。仲間の髪の色、私が放った魔法の色、豊かな自然の色、建物の壁の色、人の感情の色。どれもが私にとって何よりも大切だ。
エリセツアの持つ力の中で唯一自身で作り出した力である色彩幻現は、自分の記憶によるエネルギーを使う。エリセツアの記憶は魔力にも呪いの力にも聖なる力にもなっていた。だからこそ三つの力全てが高水準なのだ。
(この私だけの領域で爆弾を全て花に変えよう)
エリセツアの見て来た色と同じ色の花畑は段々と広がっていき、迷宮都市キャラミャン全域に咲いた。
そして次の瞬間、ヴィアレンたちが気がつくとその時には花畑は消え、鮮やかな風だけが残っていた。
「ば、爆発しなかった?しかも何故だか心地良いな、」
「何呑気なこと言ってるケイディ、でも確かに、ペルヴェリンの奴らも戦意を喪失しているし、この匂いは安らぐ」
ホークが張った結界は色彩幻現により崩れ、ホークは一瞬焦ったが何故かそんな事どうでも良くなってしまった。
「ペルヴェリンの奴らは気絶している。今のうちに捕縛してくれ」
あまりに急な展開で皆んなキョトンとしていたが、作戦が成功した事を実感すると喜んだ。
ケイディは喜びを分かち合おうとエリセツアに近づいた。しかし、エリセツアは喜ばなかった。
「エリセツアさん?」
目は虚ろになりケイディが肩に手を置くと、膝をついた後倒れた。
「エリセツアさん!」
朝日が昇ったと同時に響いたケイディの必死な声は周りの人間に危機を伝えた。
ギルドにあるベッドに運ばれたエリセツアは虚ろな目を開いたままだった。ホークはそっと目を閉じさせて、周りで見守る共に戦った仲間たちに告げた。
「死んではいない。しかし、目覚めさせるために私たちが出来る事は何もない」
「そんな、」
ヴィアレンは表情に出るほど怒っていた。周りを思いやる事を少し覚えたが、自分を犠牲にする程じゃないと考えていたヴィアレンにとって意味の分からないエリセツアの行動は許せないからだ。しかしヴィアレンには分かっていた。この気持ちは決して怒りだけではなく、他の気持ちも含まれていた事に。
ケイディは恐怖を噛み締めていた。自分を強くしてくれたエリセツアは自他共に認める強者であり、自分にとってはいつだって最強だったにも関わらず、虚ろな目を浮かべたまま倒れた。その時の恐怖は何よりも恐ろしく死ぬ瞬間と同等、もしくはそれ以上だった。
他にもライトは、わざわざここに残って作戦に参加したにも関わらず肝心な時に何も出来なかったことに悔しさを覚えた。センファはただでさえ悲しみと怒りで戦ったのに、報われたと思えばまた新たな悲しみが現れた事に絶望して涙を流した。ノイルはエリセツアの本気がどれほどの物か知り、彼女に対して最高の敬意を表していた。
「実はな、エリセツアがこうなったのは初めてではないんだ」
「ホークさん、どう言う事なんです!?そもそも以前こうなる可能性があることを聞いてたんですか?」
「落ち着けギルド長。私とエリセツアは元々知り合いだったんだ。エリセツアには気付けないのだがな」
ホークはエリセツアが結界を破壊するほどのことを一瞬で行い、爆弾は花となり匂いだけ残ったことを伝えた。
「ギルド長!ギルド本部経由で一級冒険者エリセツア様宛ての手紙が来ました!」
「こんな時に誰が、、ってミロス学園の校長!」
そこには自分ならばエリセツアを救う事が出来るからミロス学園にエリセツアを連れて来てほしいと書いてあった。何故エリセツアが気を失ってから数時間しか経っていないのに遠く離れた神聖ミロス学園から手紙が届いたのかは分からなかったが、とにかく現状を変える方法はそれしかないと誰もが思った。
「ヴィアレン、ケイディ、君たちはエリセツアの仲間だろ。ミロス学園までの費用は我々ギルドが出そう。頼む連れてエリセツアを連れて行ってくれ」
「私も付いて行こう。こうなる可能性も考慮出来なかった私の責任でもある」
「ホークさんありがとうございます、心強いです。ヴィアレン、行こう、ミロス学園に!」
「そうだね。このままエリセツアが衰弱して死んだら僕も死ぬし、どうにかしてエリセツアを起こさないと」
そうしてケイディとヴィアレンはたくさんの人たちに別れを告げ、ホークと共にエリセツアを車椅子に乗せて迷宮都市キャラミャンを出た。




