80話「ヴィアレンとケイディの過去」
「ガキか、腹を満たすには少々小さいな。まあ良い。死ね」
「折角力を手に入れたんだ!こんな所で死ぬなんて嫌に決まってるだろ!」
幼いヴィアレンは洞窟の外へと逃げた。しかし知能のあるマンティコアは弄ぶかの様にヴィアレンの速さに合わせ、笑い続けた。
そして洞窟の出口が見えたところでマンティコアはヴィアレンを尻尾で飛ばした。
「うっ、ここで、死ぬのか、」
「やはり人間は面白いな。久しぶりに気持ちよかったぞ」
マンティコアは大きく口を開き、ヴィアレンを飲み込もうとした。
「マンティコアか。まさかこの時代まで生き残っていたなんて思わなかったぞ」
「気配がしなかったぞ人間。どうやらこっちはもっと美味そうだな」
「相変わらずマンティコアと言う生き物は気色悪いな。でももう遅い。お前は最初から負けている」
マンティコアがもう話すことはなかった。脳天を撃ち抜かれていたのだ。そしてその人間はヴィアレンに近づくと突然叫び出した。
「お、お前、まさか黒魔法秘典と契約したのか!?くっそここまで来た甲斐がなかった、お前、なんでこんな所に来たんだ?」
「僕の人生を誰にも邪魔されたくなくて、それで力が欲しくて、、」
「なるほど、その様子から察した。俺たちの組織に来い。ちなみに拒否権はないと思え。俺の黒魔法秘典を奪ったんだからな」
ヴィアレンはそのまま気絶した。気づくとどこかの建物のベッドにいて、それから組織で働き始めた。後々自分を連れてきた人物が幹部の序列一位である「鬼照の魔皇」だと知った。
「あれから何やかんやでずっと世話になってたんだね。でも破滅の道を辿るのはごめんだ」
「食ってやるぞ、小僧!!」
「これは所詮幻影。トラウマだからと言って僕が動けなくなるとでも思った?」
それからヴィアレンは幻影に立ち向かった。ネルの攻撃が全てマンティコアの攻撃の様に見えるヴィアレンは回避行動を大袈裟にしなければならない。そしてヴィアレンの攻撃もマンティコアの幻影の中にいるネルに直接当てなければならない。
やがてヴィアレンは回避が遅れ、足を斬られた。
「二十五位にしては強かった、じゃあ眠って、」
「くっ、結局僕はあの時から変われなかったんだな」
地面に這いつくばるヴィアレンは身体の力を抜き、抵抗することを諦めた。
「そこまでだ」
そうネルの首に向かって杖を構えていたのは、数秒前までケイディに身体を揺らされていたエリセツアだった。
「あなた本当に何者、反応出来なかった、」
「私は一級冒険者のエリセツアだ。お前こそ誰だ?ヴィアレンをここまで追い詰めるなんて、」
「そいつはちょっと前までの同僚だよ、まあほとんど面識はないけどね」
「エリセツアさん、殺すんですか、?」
ケイディは人の死体を見たことはあっても死ぬ瞬間を見たことはなかった。この世界には人を殺してはいけないと大陸に決められたはいるが、正当防衛は許されるし、国によってはそのルールを厳しく取り締まらないため、殺しは珍しくない。
「降参。元々殺すつもりなんてなかった。妨害したかっただけ」
「そうなのヴィアレン?」
「いや眠らせるって、本当にただ眠りにつかせるつもりだったのか、でも確かに一度も僕たちを殺すとは言っていなかった」
「じゃあ殺しはしない。でも私が直々にギルドまで連行する。言っておくけどもう『夢煙邪術』は効かないよ」
「どうして私の力を知ってる?この情報はペルヴェリンでもほとんどの人間が知らないのに、」
夢煙邪術、エリセツアはかつて幼馴染と共に冒険していた時にそれを知った。萬毒王が作り出した毒に由来する力の内の一つであるその術は現在風天畳武道国が情報を独占している。
しかし使える者は一族のみで、風天畳でも武人しか情報を持っていない。
「風天畳の情勢はそれほど詳しくないけど、いつから緑髪以外の人間がその力を使うようになったんだ?」
夢煙邪術を使う一族、鳳唐家。その家で生まれる者は皆、暗緑色の髪を持っている。もし鳳唐家で緑以外の色の髪を持つ者は噂によると殺されるらしい。
「まぁいいや。ヴィアレン、歩ける?」
「黒魔法でこの怪我を一時的に治すことは出来るけど、明日になったら反動が来る。ここまで守ったんだ、治療してくれるだろう?」
「エリセツアさん。そのネルってやつに仲間がいましたよ。何か話聞く限りヴィアレンの元同僚?らしいですけど」
「ペルヴェリンの幹部が二人も?まさか覇王の戦利品を狙ってるのか?」
ネルは口を閉ざした。まぁ組織を裏切ろうとしたら死ぬ聖法が施されているのだから仕方ない。
そうして私はヴィアレンを治療し、ネルを連れてキャラミャンに戻った。それからネルをギルドに引き渡し、会議をすることにした。
「あの、ヴィアレンとエリセツアさんって何者なんですか?俺とほとんど変わらない年齢で一級冒険者になるぐらい凄い人ってのは分かるんですけど、それだけじゃないですよね、」
「あはは、話したら長くなるけどね、」
私は今までの旅でのペルヴェリンとの関わりや、冒険の数々を語った。ケイディはそれを聞いて目を輝かせていて私も話していて気分が良かった。
しかしヴィアレンの話した今までの人生の話は過酷そのものだった。親を知らず、一人で生きてきて、死にそうになったことは数えられないほど。だからこそケイディの様に対等な友人と言える存在が出来て良かったと思う。
「と言うかケイディの話も聞かせてよ。正直私たちが言うのもなんだけど若いのに赤銅級って凄いよね。どうやったらそこまで頑張れるの?」
「俺は小さい頃、少し遠くの村で生まれました。その村はキャラミャンの迷宮目当てで来る探索者たちがよく訪れてて話を聞いてたんですよ。そしていつの間にか自分は探索者として生きていくしかない!みたいな考えを持つようになって、成人になってからすぐ友人たちと来たんです。それからずっと潜ってました。その努力のおかげで赤銅級の凄腕ルーキーパーティと言われるまで上がれたんです」
「それじゃ、魔法については独学なの?」
「昔、探索者の人に魔力が多くて才能があると言われたんです。そしてその人に魔法が学べる本を買わせてもらいました。その時のお小遣いを全て使ったので当時は複雑でしたよ」




