79話「ヴィアレンの戦い」
「は、暗殺任務しか成功してない?それはペルヴェリンの最終目標に着実に近づいている良い証拠だ。それにあの計画は君が逃げてから新たな段階へ進んでいる」
「ペルヴェリンが何をしようと僕には関係ないと思ってたけど、僕は組織から抜けてしまったからね。あんな計画を実行されたら溜まったものじゃない。止めてみせるよ」
ヴィアレンは時間を稼いでいた。今のケイディはまともに体を動かせないほど魔力を消費した。そして目の前にはペルヴェリンの幹部二人でその内、一人は自分より序列が上。つまりヴィアレンでは勝ち目がない。つまりエリセツアを起きてもらうしかないのだ。
「止めてみせるよとか言っておきながら君はあの魔女が目覚めるのを待ってるんだろ?でも無駄さ。ネル、彼女の魅せる夢は目覚めさせたくない夢でありながら目覚めたいと言う意思を持ったとしても目覚められない、夢と言う名の牢獄だ」
「殺すぞ」
ネルは口を開いた。透明化は無駄だと判断し、解除してナイフをテラの首に当てた。それもそのはず敵に能力を教えると言うことは対策を考えさせる余地を与えると言うことだからだ。
「ごめんって。でも殺せば関係ないだろ?特にあの魔女はこの一年、散々任務を失敗させ続けてきたからね」
「僕は勝ち目のない戦いはしない主義だったんだけどね。守らなきゃ死ぬんだよ」
そして動き出したネルは再び透明化し、ヴィアレンを襲った。
「ふう、ただ僕がひたすら待ってると思ったら大間違いだよ。黒魔法『ダークテール』」
すると地面は黒くなり、突然闇が現れた。それは幹部二人を事前に察知させていたため、一直線に二人を攻撃した。
ヴィアレンは本来、空間を壊すための黒魔法は詠唱をしなくても発動できる。それでも詠唱を行ったのは斬撃の黒魔法の魔力効率を最適化させ、魔力を温存させるためである。つまりここまではヴィアレンの想定内だ。
「はっは。やはり実戦に関しては君の方が上だね。でも魔道具があれば己の強さなんて関係ないのさ」
テラは防御の魔道具を使い、ヴィアレンの攻撃を防ぎ切った。そしてもうネルは闇を切り、止まらずヴィアレンに襲いかかった。
「テラ!貴様は引っ込め!!」
「はいはい、ネルさん。作戦中は名前で呼び合うなんて、まるで仲が良いパーティみたいだ。それじゃヴィアレンくん、せいぜい頑張れ」
「引いてくれるのはありがたいね。それでも厄介だけどね」
テラと呼ばれた幹部は呑気にどこかへ去って行った。それが何故なのかは考える暇もなくヴィアレンは目の前の敵に集中した。
「僕は君の能力を知っているんだよ。組織にいた頃、邪魔になったら消せるようにするためにね」
「無駄口が多い、だから油断する」
「煽ってる暇がある君は僕を舐めてるみたいけど序列だけで実力を測らない方が良いよ」
その頃、ケイディは体が少し動かせるようになり、エリセツアを起こそうとしていた。
「エリセツアさん!起きてください、ヴィアレンが、ヴィアレンが、、」
「ケイディ!僕をバカにしているのかい?こんなやつに負けるわけないだろう」
しかし、ネルの力はヴィアレンにとって厄介だった。隙を付き、敵に触れただけで眠らせる能力と魔道具による身体強化。これが黒魔法使いと言う本来後衛の戦いをするはずのヴィアレンとは相性が悪い。
それなのに単独での戦闘が多かった経験で、補っているヴィアレンの力は間違いなく努力によるものだった。
「炎黒魔法『スピリットフレイム』」
ヴィアレンは距離を取り、黒魔法の派生である炎属性魔法との混合したそれは前方に黒い炎を放ち、目の前の景色を凍らせ、近づけられないようにした。
「無駄。そんなことをしても、私には勝てない」
「強がりも良い加減にしたらどうだい?まるで子どものようじゃないか」
「ちっ、これだからおしゃべりが好きなやつとは戦いたくないんだ」
そうしてヴィアレンとネルの戦いは拮抗していた。しかしそれが数十分続くとヴィアレンの体力はなくなってきて、余裕がなくなった。
「このまま戦ったら勝てないね。エリセツアかケイディが戦えるようになってくれたら可能性は上がるんだけど」
「ヴィアレン!魔力は少し回復した。短い時間だが戦える。俺は何をすればいい」
「はぁ、はぁ、ここから抜け出すための方法を探せ。あいつらの目的は殺すことじゃなくて足止めすることだから、ね」
しかしケイディが必死に付近を探したが、脱出するにはテラが消えた方向の道しかなかった。そしてそこはネルが常に防いでいて、ヴィアレンだけならともかく、エリセツアをおぶって運ぶのは不可能だった。
「ヴィアレン、下がってくれ。風魔法『ウインドスラッシュ』!」
残った方法は一つしかなかった。ネルを制圧することのみ、ケイディはヴィアレンの後ろから魔法を操り、的確にネルだけを狙った。
「いくら魔法使いと言ってもまだ未熟。ひっこんでて」
するとネルがケイディを睨みつけたと思ったら、ケイディは覇気で白目を向いた。
「はぁ、精神を攻撃したようだね。僕の仲間が目覚めなかったらどうするつもりだい?」
「関係がない。複数人での戦いにおいて弱いことは罪だ。お前との会話も鬱陶しくなってきたからそろそろ終わりにする」
「ふぅ、まだ奥の手を隠しているのかい?」
「悪夢は過去のトラウマを見せる。それは眠っていなくても見せることができる」
ヴィアレンはネルから漂う煙を避けようとしたが吸ってしまった。すると目の前にいるネルが途端に恐ろしい怪物となった。
「小さい頃のトラウマがまさか今でもこれだとはね、マンティコア、あの時あいつが討伐してくれなかったら間違いなく殺されてた伝説の魔物。認めたくないけど本当に恐ろしいね」
ヴィアレンは幼い頃から一人だった。毎日働き、 野宿し、それが何年も続いた。とある日、毎日野宿していた森には邪悪な力を手にすることができる本があることを知った。それまで子どもだからと給料を少ししかもらえなかったヴィアレンは見返してやろうと必死に森を探し続けた。
そしてついに見つけた。洞窟の奥に妖しく光っていた黒魔法秘典は手にした途端、身体と繋がった感覚になった。
「は、はは。これで僕は強くなった。こんな生活とおさらばなんだ!」
しかしその洞窟には秘密があった。何十年も存在が確認されていない、一級を超える伝説の魔物、マンティコアが住んでいたのだ。つまり黒魔法秘典は誰も見つけられなかったのではなく、見つけた者が全員マンティコアに殺されていたのだ。




