75話「仕方のない裏切り」
十層は砦だった。暗い空に包まれたそこには至る所に魔物がいて、私たちはその砦の侵入者となった。
「ここの魔物たちには知性があるのか?防具を身に付けるとは厄介だな」
「ここには探索者が見当たらないようだ。どうなっているんだい、」
「でもここまであの五人組のパーティを見ていないってことはここにいるのは間違いない。とりあえず先に進もう」
そして私たちは現れる魔物たちを油断せず、確実に倒して行った。一時間が経った頃、私たちの耳には悲鳴が聞こえた。
「逃げろー!!!!」
その声は五人組のパーティの一人であった、オレワという少年のものだった。
「君たち大丈夫か?」
「あんたたちも逃げろ!魔物の集団に見つかっちまったんだ!」
「君たちは五人組じゃなかったか?一人はどうしたんだ」
「ケイディは囮になったんです、、私たちの役に立つために、」
そう言ってワイカは涙を流した。
「魔物たちはどこだ?私たちがそのケイディを助ける」
「やれやれ、人助けなんて柄じゃないのに」
「この先にいます!ケイディは私たちの大事な仲間なんです。どうかお願いします!」
「とにかく後は私たちに任せて、君たちは怪我をしているから早くキャラミャンに戻るんだ」
そして私たちは四人と別れ、急いで先に進んだ。すると目の前には邪悪なオーラのケンタウロスがケイディと思われる少年を甚振っていた。
「ヴィアレン、ここは私に任せて。聖術氷魔法『ホーリーアイススピア』」
エリセツアの聖なる力と魔法によって現れたそれはケンタウロスたちの頭を一瞬で打ち抜いた。
「大丈夫か!」
私は急いでケイディの元へ駆け寄り、様子を確認した。すると何度も踏みつけられたせいでたくさんの骨が折れ、傷だらけだった。
「ヴィアレン、何か治癒する方法はある?」
「僕が弱者の命を救うために施しを与えるとでも?それにここまでの傷はどうしようもないんじゃない?」
「ちっ、じゃあ仕方ない」
そうして私は頭の中で祈り始めた。氷を司るラゴスハインの神を呼ぶためにひたすら祈った。
「どうしたのですエリセツア」
氷神なら目の前のこの少年を救う方法を知っているかもしれない。それなら教えて欲しい。
「それなら聖なる力を使えば良いのです。あなたの聖なる力は治癒には元々向いていませんが、私の加護がある今、それは容易でしょう」
私に治癒能力がある?元々私の治癒能力は擦り傷の痛みを和らげる程度なのに、、しかしまあ今は氷神を信じるしかない。
「聖なる癒しを貴方に、『セイクレッドグレイス』」
するとケイディの、踏みつけられて青くなっていた腕や足の色は元通りになり、出血していた傷も回復した。苦しそうだった表情も穏やかになった。
「エリセツア、君は異常だよ。そんなこと出来るなんて人間に出来る範疇を超えてるじゃないか」
「ヴィアレン、これほどの治療技術は様々な国から重宝されるだろう。だから絶対に誰にも言ってはいけないからね」
「当たり前さ。君が忙しくなったら着いていく僕も面倒だからね」
それからしばらくケイディが目を覚ますのを待つことにした。どうやらケンタウロスはこの階層で一番強い魔物らしく、それを倒した私たちに魔物は寄って来なかった。
「う、あなたたちは誰ですか?」
「やっと目覚めたね。私はエリセツア、あいつはヴィアレンだ。魔物に襲われてた君を助けて治療したんだ」
「え?は?すみません、俺今混乱してて、」
「じゃあ待つよ。体を休めたら一緒にここから出よう」
数秒ケイディは下を向いていた。そして涙を流し始めた。
「そうか、俺はいらないんだ、」
「どうしたんだ?怖い思いをしたからね。話を聞くよ」
「俺は裏切られたんだ。弱いからって、囮になれって言われて、ワイカも俺を囮にするのに納得して、、」
なるほど、何となく察せた。このパーティに元々十層を探索出来るほどの実力はなく、覇王の戦利品のために無理をしていたんだ。そんな中、倒せない敵が現れたらこうなるのは必然だ。
これに関して悪いのは全員だ。自分たちが危険な目に遭うことを想定せず、欲望のために進もうとするリーダー的存在だったオレワ。そしてそれに賛成するメジャミとヨーデス。それにケイディが着いていけておらず、このままじゃ探索は厳しいと理解しながらも反対意見を強気に出せなかったワイカ。何よりも自分がパーティのレベルに合っていないことを理解しながらも共に探索をしようとしたケイディだ。
ケイディの話を聞いたが、全く私の想像通りだった。ケイディたちのパーティは小さい頃からの幼馴染で探索者になるのが夢だったらしい。
「よし、それじゃあキャラミャンに戻ろう」
私はとある懸念があったが、その懸念が杞憂であることを願った。小さい頃からの幼馴染、その絆は今も存在し続けているのか、私がそれを心配するのはありえないから。
「本当にありがとうございました。治療費に関しては明日、払いに行くのでギルドに来てもらえますか?」
「そうだね。貸し借りは出来るだけ無くしたいし、頼むよ。千レットで頼むね」
「いやそんな額じゃ足りないです!命を救ってもらったのでせめて十万レットは払わせてください」
「君に十万は貴重だろ?君のおかげで私も発見があったから気にすることない」
そしてケイディに反論される前に逃げるようにヴィアレンと去った。
次の日、私たちがギルドに行くと、うつむいているケイディがそこにいた。私の懸念が本当になっていないことを願い、話しかけた。
「エリセツアさん。せめて五万レットは払わせてください」
平静を装っていたが、少し顔が引きつっている。ヴィアレンもそれに気づいたが、意図的に無視しようとした。
「ケイディ、、もしかして君はもうあのパーティから必要とされていないんじゃないか?」
「ど、どうして分かるんですか、、」
「少し前に見た小説で君の境遇に似た物があったんだ」
私はミロス学園にいる間、暇な時に小説を読んでいた。その物語を初めて見た時、どうして信頼していた仲間が裏切るのか理解できなかった。何故なら私のかつての仲間であった幼馴染たちは完全に信頼し合い、互いに切磋琢磨して成長したからだ。
しかし実際にケイディたちのパーティを見ると、何となく理解できたのだ。
「ケイディ、君はあのパーティでどう言う役職だったんだ?」
「俺は前線で戦うのが怖かったので魔法使いでした。でも全然術式も覚えられなかったので、使えるのは数個です、」
「ふーん、魔法使いか。それなら都合が良い。ケイディ、私の弟子にならないか?」
「え?」
「エリセツアどう言うつもりだい?こんなどうしようもないやつを弟子にするなんて、僕は認めないよ」




