58話「険しい道のり」
私たちは朝からポリスイナの中央地域へと旅立った。途中までは箒で飛んで行けるので、ウミオチを乗せてとても速く飛んだ。
「エ、エリセツア!こんなの速いし高くて怖すぎだろ!早く下ろしてくれ!!」
「仕方ないでしょ、それにもうすぐ山脈に着くからそこからは私を運んでくれよ」
それから数十分後、ポリスイナ東山脈の入り口に着くことが出来た。山脈は相当寒いが、私が氷の神の眷属のおかげか、寒さを全く感じなかった。
「今度は任せろ。俺がしっかり運んでやる。何やかんや言ってこれが俺のエリセツアよりも優れていることなんじゃないか?」
「そうだよ。だから普段私にお世話になっている分、頑張ってくれたまえ」
「ふん。まあ俺の体力を見せてやるよ」
山脈を登る人たちはいたが、どれも防寒着をしっかり着て長い杖を持っていた。それに比べて私はただのローブと帽子、ウミオチは普段の上着よりも少し分厚いだけだ。周りからは懐疑的な目で見られ、私はウミオチにお姫様だっこされていてとても恥ずかしかった。
「なあウミオチ、まさかお姫様だっこしか運び方を知らないのか?」
「え?他にどう運べばいいんだよ。と言うか文句があるならエリセツアも走って欲しいんだが」
「山脈を走って超えれるような人間は剣士でも中々いないぞ、魔法使いなら尚更だ。私からしたらこの険しい道を歩くのが精一杯だからな」
一応、影の力には「縮地」という技があり普通に走る何倍も速く移動出来る。しかし私は筋肉がないから使ったら筋肉痛は確実、最悪の場合は骨折だ。
それからウミオチは私を抱え、走り続けた。私は長い距離の移動で魔力を消費したため、疲れて眠ってしまっていた。
「お、エリセツア起きろ!あそこを越えれば後は下るだけのはずだ。そこからはエリセツアが箒に乗せてくれよ?流石の俺も山道を数時間走るのは疲れるからな」
「ん、んうー、、ってあれ?ウミオチ、私はどれくらい寝ていた?」
「三時間は寝てたな。結構険しい道通って揺れたはずなのによくそんな眠れるぜ」
「さ、三時間!?私としたことが、、山の景色を楽しみたかったのに、、私は普段箒に乗るから三半規管が強いんだよ」
目覚めたその場所は開けていて、もうナイガトピンの街並みが見えていた。それにしてもこの山の中の森を走って下るのは登るよりもきついことだ。
「こっからは私の箒に乗ってくれ。箒と言うのは上昇は魔力を大量に消費する下降は逆に少なく済むんだ」
「なあ、せめてゆっくり進んでくれよ。俺は高いところもあまり得意じゃないし、速いのは落ちそうで怖いんだよ」
「ああ分かった。到着は夕方になるけどそれでも良いの?」
「予選は集団制だから何人でも受け付けられるから、申請できるのは当日の第一試合が始まる一時間前までだ。だから何も今日中に着かなきゃいけない訳でもない」
大会のルールについてはしっかり調べていたようだ。ウミオチは頭が良くないと思っていたが考えを改めるべきだな。
にしても人を箒に乗せると言うのは少し面白いな。
「すっかり夕方だが到着だ。剣術都市ナイガトピン」
「じゃあ俺は受付に行ってくるぜ。エリセツアは宿を探してくれ」
「分かった。集合はあの大きい像でいいかな?」
「大きい像じゃなくて初代剣聖ユージオ・ルーブローズな!ユージオ様はすげぇんだぜ!」
どうしたと言うのだ。初代剣聖がそこまで凄い人なのか?ウミオチがここまで興奮しているのは初めて見た。
「ごめんって。じゃあまた後で」
そうして、エリセツアとウミオチは別行動を始め、ウミオチは予定通り大会の受付に来ていた。
「あのー、大会に出たいんですけど」
「大会の参加希望者ですね。名前と使う武器を書いてください。できれば肩書きや二つ名も書いてくだされるとありがたいです」
「武器はロングソードで、肩書きか二つ名は何にするかなー」
「おいクソガキ!早くしやがれ!!」
何だ何だこのおっさん、急に叫びやがって。でも我慢だ。ここで問題起こしちゃ出場できなくなっちまう。もしやそれが狙いか?
「今書いてんだよ待ってくれ」
「おい俺が見えてねぇのか。よくも俺様にそんな態度取りやがったな。しっかり教育してやらねぇとな」
「ちょ、ちょっと、お二方。この場で騒がれると困るのですが、、」
「受付の嬢ちゃん。これは何度も大会に出てる俺様が教育するだけだ。問題はねぇだろ?」
周りの空気は変わり、斧を持つ戦士とウミオチに注目が集まり、ウミオチも察して戦士を睨みつけた。
「このヨグス様が直々に大会の厳しさを教えてやるよ!お前みたいなガキが出るには早いんだよ!喰らえ!!」
そして、ヨグスはウミオチに向かって拳を振りかざし、周りの人たちは目を瞑った。すると次の瞬間ウミオチの前に風が靡いたと思ったら、目の前には屈強な体格を持ったヨグスの拳を片手で受け止めるマントの剣士がいた。
「おいおい子ども相手によくもそんなまあ、強く出れたもんだ。そしてここで俺にここでボコられたらもはやお前のメンツはないに等しいな」
「お前は誰だ!俺様の邪魔をしてどうなるのか分かってんのか!?」
「アイル、そのぐらいでやめて。これ以上事を大きくしたら面倒だわ」
人混みから現れたのはどこかの国の貴族令嬢とその従者らしき人だった。
「メルニーク、こいつ出場停止にしてもらうか?」
「えぇそうね。こんな不躾な野郎にこの神聖なる大会に出る資格なんてないでしょう」
「おいあれって火剣のアイルゴーンじゃないか?」
「去年の大会で準優勝だったやつだろ?まさかこんな場所で見られるとはな」
そしてアイルゴーンはヨグスが気付けない速さの手刀で気絶させ、どこかへ連れ去って行った。
「あなた大丈夫だった?若いのに強気になっているといつか危険な目に遭うわよ」
「あんたたちは誰だよ。それにさっきのあいつも」
「私はメルニークよ。こっちはイースドラン。そしてさっきのあいつはアイルゴーン。二人は私の従者なの」
「メルニーク様、他の参加者を心配しても意味があるのでしょうか?」
「イース、さっきも言った通りこの大会は正々堂々戦うための大会なの。そうじゃなければきっとアイルだってこの大会に出たがらないわ」
この人たちは何なんだ。さっきのアイルゴーンってやつは前回の準優勝者で、それを従える程の貴族。それにイースドランってやつは魔法使いだな。
「あんたたちは何者なんだ。何のために俺を助けようとしたんだ?」
「それはね、私が心優しくて可愛いメルニークだからよ。困っている人がいたら助けるのが私という人間なの」
「そういう事だ。メルニーク様に出会えてお前は運がいいな」
「はぁ、まあ助かったぜ。でも人を待たせてて急いでるんだ。じゃあな」
そうしてウミオチはエリセツアとの集合場所である剣聖の像へ走って行った。




