55話「シローナの過去」
今度は客間ではなく、イージェス王の書斎に連れてこられた。
「まず、私に関する話をするためには大陸の歴史について話さなければならない。これはエリセツアさんにしか話せないことだ。だから呼び出しておいて申し訳ないがシューガイゴ博士とウミオチくんは席を外してもらえるかな?」
私はウミオチたちに頷いて、部屋から出てもらった。
「私にしか話せないことってどういうことですか」
「もちろん私がこの国の神の眷属であるように君はラゴスハインの神の眷属だ。どうやら前の神の眷属を何も知らずに殺してしまったようだね」
「ははは、まあ仕方がなかったんですよ」
「まあそれは良いだろう。私は他の神の眷属たちのことなどどうでも良いからな。それより歴史について話そう。そもそも君はどれくらいシローナ大陸について知っているのだ?」
シローナ大陸の歴史は実はそれほど判明していない。およそ二万年前、神々は俗世に降り、それぞれの国を創り、国ごとに巨大な壁を建て分断した。それから数千年経った後、神々は神界へと帰り、その後は龍が大陸を統治した。
しかし、龍たちは神が創造した壁に対して不満を抱いていた。それぞれの国の統治者である龍王と呼ばれた者たちは各々のやり方で壁を壊し、戦争を始めた。その戦争は大陸の存続に関わるものだったため、神々はまた降臨し、龍たちに神罰を与えた。
神罰を受けた龍たちは力を失い、繁殖力の強い人間が統治するようになった。
「私が知っているのはそのぐらいですね」
覚えている限りの情報を私は全て話した。
「なるほど、人間たちではそのようになっているのか。しかし不十分だ。詳しい歴史を話そう」
イージェス王の話は実に興味深いものだった。まず、大陸を統治していたのは実は人間ではなかった。と言うか人間だけではなかった。海の民やエルフ、ドワーフなどの様々な種族が対等に統治していたらしい。それに龍は神罰を受けたと思っていたが、実際は龍と神も戦争をして勝ったのが神というだけだったという。
「じゃあどうして現在は人間が統治しているのですか?」
「実は私たちの種族やエルフ、ドワーフの国自体は存在している。こうして表立って大陸で動けないからほとんどの人間は知らないだけなんだ。そして人間が他の種族よりを抑えて統治できるほどの力を持った理由は過去の英雄たちのせいなんだ」
「英雄?それって勇者とか賢者とか呼ばれてる人たちのことですか?」
「そうだ。私が知る限り、過去に覇王、勇者、魔王、大魔法使い、大賢者の五人が特に大陸に影響を与えたのだ」
イージェス王はついこの間あった出来事のように詳しくその五人について語り始めた。
覇王は武術を極め、自身の圧倒的な力で人々を従え、多くの弟子たちにもその力を受け継がせた。その結果、まだ魔法があまり進歩していなかったこともあって他の種族は逆らうことが出来ず、大陸の半分を人間が統治することになった。
勇者と魔王は同じ時代を生きた人間だった。しかし思想の違いから対立し、互いの強大すぎる力がぶつかり合った結果、魔王はあらゆる残虐な手段を利用し、人間をやめ、勇者は全ての種族と協力して戦った結果、果てしない犠牲を払い勇者側が勝利した。その過程で全ての種族が力を失ったが、主導権は人間である勇者が握っていたため、人間が大陸のほとんどを統治することになった。
大魔法使いと呼ばれた者は人間ではなくエルフだった。エルフは寿命が果てしなく長いため、あまりにも長い時間、関わり続けた同族に興味を失い、文明に変化が多かった人間に興味を持った。その結果、大魔法使いはエルフが統治しても大陸は良くならないと判断し、魔王の手下であった邪悪に染まった人間の敵である魔族を倒し続け、人間の文明発展に貢献した。
大賢者はダリナーの王だった。大陸には様々な種族がいるのにも関わらず、ほとんど表立っていなかった人間以外の者たちと共に生きることを望んだ彼は大蛇と龍とドライアドを従え、大陸を練り歩いた。その結果、現在のようなあらゆる種族が色々な国でたまに見かけるぐらいになった。
「その人たちは数千年に一度現れるかどうかの強さを持った人たちだったんですね。大賢者のことはダリナーの神の眷属であるフローラから聞きました。まさか今の大陸にそれほどの影響を与えていたとは思いませんでしたよ」
「それでこの話が私の計画とどのような関係があるかだ。今の話は全て事実である。これが何を表すか君には分かるか?」
「そうですね。魔王のように、大陸に悪影響をもたらす意志と力を持った者がまた現れてしまうかもしれないでしょう」
大陸に影響を与える個人、、そのような人物は数人知っている、私もそうだ。しかしその人たちは私の味方だ。
私は大陸の外からやって来た魔女。この大陸に属さない力を持つ、つまり父さんも、、
あ、そう言うことか。
「そうだ。実際いつの時代も大陸に影響を与える力を持つ者は多くいる。人の世界では確かこう呼ぶのだったな」
「『特別冒険者』ですね?」
「よく知っているな。他の神の眷属から私は聞いたのだが、君もそうなのか」
特別冒険者と呼ばれた人たちがどう言う定義でそうなったのか父さんは教えてくれなかった。それはきっとそれが世間に何かしらの理由で漏れてしまった瞬間、大陸がひっくりかえるからだろう。
あまりに大きすぎる力を持つ個人。それはその者の意志一つに世間がかかっている。それを警戒するのは国であり、戦争を招きかねない。
「この世界はとても不安定で壊れやすいですね。でもその均衡を守っているのも特別冒険者なんですよ。目には目を歯には歯をってことですね」
「だから私はポリスイナの魔力を無くし、私の国に移すことでこの国の近くに現れるかもしれない危険な者から魔力を利用した私の神の眷属の力で護れるのだ」
「確かにこの大陸では魔力がなければほとんどの場合、無力化できる。仮に魔法以外の力を持っている者がいたとしても国一つ分の魔力があれば対抗できる、でもあなたは一体どうしてそこまでするんですか」
「私は所詮、怖いだけだ。長い時間を生きてきて、生に執着することもなくなると思っていた。しかし、まだまだ私はこの国の民たちを引っ張っていかなければならない。最初は些細なきっかけだったが今ではこの国の民全てが私の子どものようだからな。残りの生を私はこのネフェリアルムスト王国に費やしたいのだ」
最初、暗殺者たちがイージェス王を慈愛に満ちた人物だと言っていたことを疑問に思っていたが、間違っていなかったんだな。




