54話「イージェスの力」
それから私たちはイージェス王の話を聞いた後、共に博士のいる牢屋へと向かった。その場所は海の中の国ということもあり、水草が至る所に生えていたが嫌悪感を抱くほど汚くはなかった。
「エリセツアさん!ウミオチくん!君たちも捕まったのか!?僕のせいで、すまない」
「博士、私たちは大丈夫です。私たちはあなたを救うために来たんですから」
「私の前で堂々とそんなことを言うということは私への侮辱か?それとも純粋が故か?」
「私は博士に報われてほしいだけです。博士は確かに悪いことに手を出してしまうかもしれませんが才能はピカイチです。それもこの私が認めるほどの」
リボルバー型箒は革命だ。需要は確かに少ないかもしれないが私にとっては偉大すぎる発明だ。あれほどロマンに満ち溢れた物を見たのは初めてだった。
神の眷属が認めるほどの才能と言えば凄そうだな。
「博士、聞いた限りこのイージェス王たちはあなたを雇いたいだけなんだそうです。あの森からこっちへ拠点を移すと考えたらどうでしょう」
「でもここの人たちは私をよく思ってません。いつ殺されるかも分からないのに素直に頷けませんよ」
「確かにな。私の部下もどうやら君たちの命を狙ってしまったようだからな」
他人事のように話すイージェス王にイライラしながらも博士にとってベストな選択は何か深く考えた。しかし、しばらく沈黙が続いても私は考えが出てこなかった。
その沈黙を破ったのは気まづさに眉を寄せていたウミオチだった。
「てかそもそもさ、イージェス王は何で海に国作ったんだ?地上に出てくれば博士は人間なんだし安心出来るんじゃないか?」
「人間が地上でのみ生活するように私たちは海の中に住む。海の民は単純に海に住むからそう呼ばれているのではない。地上の光が苦手になってしまい地上から逃げ、光から隠れたのが私たちだ」
「だから夜に襲ってきたのか、と言うか博士は元々地下室に住んでたようなものだし、海の中かどうかは関係ないんじゃないか?」
「そうです。私は自分の研究が自由に出来るのならそれで良いんですよ」
会話が続かなくなって来ると、イガールフ宰相が汗だくで牢屋へと走ってきた。
「陛下、奴らがやって来ました!!直ちに指揮をお願いします!」
「ああ分かった。では君たちはしばらく待っててくれたまえ。面倒ごとだ」
そう言うと、イージェス王は早歩きでイガールフ宰相の話を聞きながらどこかに行ってしまった。
「ウミオチ、私たちも行こう。博士すみません、何があったのか見て来ます」
「ああ私は大丈夫だ。心配しないでくれ」
その返事に安心し、私たちは焦るイージェス王を追いかけ、イージェス王の住む城の城門へと来た。
「陛下!魔獣の群れは現在全ての門に到着しております!一刻も早く命令を!!」
「第一部隊は南の門を、第二と第三部隊、それから魔法部隊は東の門を守れ。北と西は私がやろう」
「しかし、陛下お一人で大丈夫でしょうか、」
「心配するな。私の言った通りに動け」
どうやらこの国は魔獣にたびたび襲われているようだ。おそらくポリスイナ付近の海には強力な魔物が住んでいるからだろう。
元々ポリスイナの陸上に住んでいた魔物たちは魔力が消えたことで海に身を潜めた。そのせいで魔物たちは餌を追い求めて、このネフェリアという国を本能的に襲っているのだろう。
イージェス王は自分がポリスイナから魔力を奪って国をつくったというのにそのせいで魔物たちに襲われ、滅びに近づいてしまっている。これでは本末転倒ではないか、
「イージェス王、さすがのあなたでもこの数を相手取るのは厳しいのでは?私たちが手伝いましょうか?もちろん貸しではありますが」
「どいつもこいつも私を侮りおって、、目にもの見せてやろう。我の主人、水神の権能、今ここに力を借りよう」
イージェス王は北の門と西の門が視界に捉えられる高さまで飛び、神の眷属としての力を最大出力で使うために詠唱を始めた。その集まる力は一個人が持つにはあまりにこの世界の秩序を乱してしまうほどのものだった。
「『万水の始まり』」
穏やかな雨が降り始め、それには暖かさを感じた。しかし、その雨は地面へと落ちる前に空中で止まり、その途端、小さな雨粒たちは暴れ出し魔獣たちの身体を貫いた。
「これがイージェス王、、エリセツアと師匠以上の実力者なんて初めて見たぜ。こんなのありかよ、」
「見たか少年少女。私は伊達に長年生きてきた訳ではない。力を手に入れ、使いこなすまで長い時間努力をしたのだ」
「確かにこれは凄かった。でもこの力を使うには相当なエネルギーが必要になる。一体どこから手に入れた?」
神の権能は決して万能なものではない。あれは強力故に一個人で使うには反動がきついものだった。ミロスでの襲撃事件の時に使ったエネルギーは私の魔力全てで、影の力や聖なる力で補ったものの効率は悪かった。
「もちろん自分の魔力ではなくポリスイナの魔力を借りているのだ。あの魔力は普段、ネフェリアに使われているが、いざとなったら時私が扱えるように設定しているのだ」
「じゃあイージェス王、聞かせてもらいましょうか。ポリスイナの魔力を奪っている理由を。そして何故この海という人間に適していない環境で生活しているのかについてね」
「ああ、ではシューガイゴも呼び、聞かせてやるとしよう。このネフェリアと私の秘密について」




