107話「本音の表し方」
しばらくケイディは考えたが、やはり自分でやるべき事を口に出すのは難しかった。
「多分私が教えてあげなきゃいけないんだよね、でもごめん。分からないの」
「いや良いんです。これは俺が正直になれるかどうかなんです。聞いてくれるだけでも本当にありがたいんですよ」
「じゃあ気分転換でもする?買いたい物があるんでしょ?」
「いやまぁありますけどあれはあの時言った出まかせみたいなもの、、」
しかしナトモリは買い物に行きたそうにしていた。ケイディの見るナトモリへの印象は隠居派だと言う事だ。魔女の国には大きく分けて三つの種類の魔女がいて、新都や大魔女の城で働くマリのような社会派と、新都や旧都で複数人で集まって日々を楽しむ生活派、そして森林に住み、基本的に他者と関わらない隠居派だ。
しかし隠居派は陰気な魔女が多く、本音は新都で遊びたいけれど面倒くさがったり、他の魔女と関わるのが恥ずかしくて動き出せないなど、色々だ。
「俺アクセサリーをエリセツアさんに買いたかったんですよ。女性物の商品の選び方は分からないし、教えてくださいよ!」
「うん分かった。ちゃんと気が遣えるならエリセツアにもその感じで話した方がいいと思うよ」
「えなんか、雰囲気さっきと違いません?」
「私が森に住むぼっち魔女って思ってたでしょ。私って実は友だち多いしよく新都で遊んでるんだよ」
ケイディは完全に弄ばれていたことに気づいて恥ずかしくなった。そして路地裏で固まっていると後ろからナトモリに背中を押された。
「行くよ坊や。元気出して」
「もう敬語辞めよ。着いてきなばあちゃん!」
「うぅこれは予想外。か弱い女の子だったのに、」
そして二人は街を歩いた。ケイディが先頭となりナトモリを急がせ、ナトモリは周りの魔女たちからニヤニヤされながら見られていた。
「ばあちゃんはエリセツアさんがどんなものが好きそうか分かる?俺的にはこのオレンジ色の綺麗なネックレスがいいと思うんだけどな、」
「え、うん。いいと思うよ、」
「ふっ、周りの目気にしてるのか?さっきまであんな余裕ぶってたのにな!」
「レディをからかうなあ!」
ナトモリはポコポコとケイディを殴り拗ねたが、売られているアクセサリーはしっかり観察しており楽しんでいた。
「いや待ってくれよ。よくよく値段見てみればとても買えそうにないぜ、、」
「そりゃそうでしょ。魔女と言うのは皆んなプライドが高くて安物は身につけないんだよ。私もね?だからそもそもこの国には手頃なアクセサリーなんてないんだよ」
「ばあちゃん俺はどうしたら良いんだ、プレゼントは諦めた方が良いのか?」
「ふっふー。私はアクセサリー店をやってる知り合いの魔女に借りがあってね。ばあちゃん呼びを止めるなら安く売ってくれるようにして上げてもいいよ」
ケイディはナトモリの呼び方を考えた。名前呼びは嫌だし、さん付けはもっと嫌。そして結論を出した。
「お姉さん、」
そう言われたナトモリは目を見開き、ケイディの手を握って笑顔になった。
「合格!」
「え?ほんとに?」
そしてナトモリはケイディの手を掴んだまま空へジャンプした。そして空を歩き、戸惑うケイディに普通に歩くよう促した。
「ほら、凄いでしょ。褒めて」
「お姉さんすげえ!箒がなくても飛べるぜ」
「私はかつて魔力運用に関する研究をしてたの。だからこうして上手く活用する事も出来るんだよ」
ケイディはそれが凄い事だとは思っていたが、実際はケイディの認識とは比べ物にならない程の偉業である事を知る由もなかった。
「ここがお店だよ。中には宝石の魔女がいるからね。ケイディはペースに呑み込まれないようにするんだよ」
「『宝石』の肩書き持つって事だもんな。という事はその宝石の魔女に借りがあるのか?」
「うん。セレラはおっちょこちょいでね。一番高い宝石無くした事があったの。その時私がたまたま見つけて上げたんだよ」
二人が店内に入ると、ナトモリは宝石の魔女セレラと目が合い、手を振った。
「うわ、とうとう来たか。まさかとは思ったけど貸しの話かい?」
「うんどうせ私はたくさん宝石持ってるしこのケイディに安く売って欲しくてね」
「へえ。あんたたちはどういう関係なんだい?巷ではもう噂になってたけど。まさか、そう言う関係じゃないだろうね?」
ナトモリは口角が上がり、ケイディの腕を抱きしめた。
「秘密だよ」
「いや俺はエリセツアさんにアクセサリーを買いたいんです。このお姉さんとは、、友だち、、?」
「なるほどねー、まあ理解したよ。ナトモリは年寄りの独りよがりな優しさを見せたいんだろうよ。それじゃ少年、品を見て行ってくれ」
セレラは店を案内して行った。宝石が入ったアクセサリーの数々にケイディは少し気圧されていたが、一つ目に止まった物があった。
「このブレスレットってどのくらいするんですか?」
「それはヘミモルファイトだね。でもどうしてそれなんだい?」
「何となくこの色はエリセツアさんの氷魔法に似てる気がするんです。カッコよくて尊敬した瞬間だったからより鮮明に覚えてるんですよ」
「まあこれはあまり人気の色じゃないからねえ。本来は五千レットだけど、特別に千レットでどうだい?」
「じゃあそうします!」
すると色々な宝石を眺めていたナトモリが割って入って来た。
「それじゃ借りを返すと言うには甘いよセレラ。だからもう一個その特別価格でこのヘミモルファイトのブレスレットを買わせて」
「へいへい。まああの宝石は相場五百万レットの見せ物用だからね、それに比べりゃ別にいいさ、」
そしてブレスレットを購入すると二人は店を後にした。そしてナトモリがケイディの前に立って歩みを止めさせた。
「うーんケイディ、私はやっぱりこのブレスレットいらないかも。だからあげる!」
「いやいいよ。俺にとって千レットは安いものじゃない。そう簡単に受け取れるものじゃないんだぜ」
「はあ、最初からそのつもりで買ってたんだから素直に受け取ってよ。ほら言ったでしょ?私はたくさん宝石持ってるんだって」
そう言うとナトモリは無理やりブレスレットを渡して来た。
「今日はありがとうケイディ。もう夕方だし帰らなきゃなんだ。じゃあねー」
そう言ってナトモリはまた軽快なステップで空中を歩き始めて行った。
その時、ケイディは後ろから自分を呼ぶ声を聞いた。
「ケイディー、何してるのー?」




