106話「ケイディの苦難」
「ケイディ見て!オシャレな服に化粧品、魔女の国だけあって女の理想が詰まってるよ!」
「はは、いやー、まじか」
ケイディはいざ新都へ訪れ、立ち並ぶブティックを見ると、どこも女性向けで自分の居場所がなく肩身の狭い思いをしていた。
「レットはたくさんあるからね。まずあの大きな帽子の看板があるお店に行こう」
「あ、はい!」
そしてエリセツアは店に入るとすぐさま服に集中しだし候補の服を数十個見つけると、店員の魔女に試着室へと案内してもらった。
「どうケイディ?似合ってる?」
最初にエリセツアが着たのは探究の魔女マリのような知的な雰囲気の服だった。
「うわあ、いつもとは全然違いますね。良い感じです」
「なるほど!次!」
(なんだよ良い感じって、、可愛いとか綺麗とかもっとあったろ!本当俺何やってんだ、)
「どうこの服は?ポリスイナで会った貴族の友人が動きやすいようにと着ていた服なの。カジュアルなのにどこか高貴でゆったりとしたブラウスとロングスカート!」
「わあ。服だけでこんなに印象変わるものなんですね!その服も素敵ですよ」
そして次々とエリセツアは着替えていった。ポリスイナの新聞記者が着るようなハッチング帽子と服のセット、国際プロテクトオーダーの戦闘員が着るような術式の施されたスーツにコートを重ね着したカッコいい服のセット。他にも様々な服に着替えていき、準備していた服は全部着終わった。
「はい、可愛くて美しくて素敵です。とっても良い感じ」
「ごめんって。まあとりあえず荷物にならない程度の量は買うね。ケイディはどれが一番良かった?」
「俺的には、いつものエリセツアさんが白くなった版みたいなやつが良いと思いました!」
「へええ良いセンスしてるじゃん。店員さん、お会計お願いします」
私はケイディがおすすめしたセットの他に術式が組み込まれたかっこいい服とポリスイナで出会ったメルニークが着ていたような動きやすい服を選んだ。
「三万五千レットですね。でも!魔女のご友人との事なので一万レットに値引きしましょう!」
するとエリセツアは五万レットを支払った。店員は困惑し、ケイディも驚いたが、私は振り返って、
「お釣りはいらない。良い買い物が出来たからね!」
そうカッコつけて店を出た。しかし後からケイディが焦りながら私の箱詰めされた服たちを抱えて持ってきた。
「あ、服忘れてた、ごめん!」
ケイディに迷惑をかけて申し訳ない気持ちで顔を赤くしながら私は服たちを異空間バッグへ詰め込んだ。
「ふう、次はケイディの行きたい場所へ行こう。どこに行きたいとかある?」
「俺腹減ってきたのでご飯を食べに行きたいです。どこか喫茶店とかないですかね?」
「あるよ!私も丁度行きたいと思ってた!」
二人はテラス席のある喫茶店へ足を運び、席についた。そして話していると、二人の魔女が近づいてきた。
「おやぁ?これはこれはジャンヌの友人エリセツアとその仲間ケイディだろう?良かったら私たちと話さないかい?」
「良いですよ。でも何か聞きたい事でもあるんですか?」
「まあ待ちな。まず自己紹介、私は紫の魔女アン。そしてこっちのぼうっとしてるのは微睡の魔女ナトモリだ」
「よろしく、」
椅子を他の席から魔法で引き寄せ座り、アンはしばらくアイスティーを飲み、喉を潤して真剣な眼差しになった。
「あんたたち、空中楽園計画に協力しようとしてるだろう?」
「ジャンヌちゃんが言ってたとんでもない計画ですよね?協力しますけどそれがどうかしたんですか?」
「ジャンヌには悪いけどこの国の問題にあんたたちは関わらないで欲しいんだ。それはこの国の存続のためであり、この国の予言を守るためだ」
「なるほど、じゃあその予言ってどんな物なんですか?」
エリセツアとアンが真剣に話し始めるとケイディは内心落ち込んでいた。確かにこの国の魔女たちと関わってきたから未来のための話は大事だとは思う。
しかし、ケイディにとってはそんな難しく広い規模の話よりもエリセツアとの緩い会話が大事なのだ。
(まあどうせこれ以上仲を深めるのは厳しかっただろ俺。それなら会話の邪魔にならないためにもここから去った方がいいよな、?)
「あのエリセツアさん。俺さっき買いたい物見つけたんで、買いに行ってきます」
「お腹空いてるんじゃなかったの?」
「大丈夫ですよ。それじゃ行ってきます!」
そう言うとケイディは走ってその場を去った。ケイディは生まれてからこんなに胸が苦しくなったのは初めてだった。とにかくエリセツアから離れて冷静になりたかった。
そして路地裏に来ると壁に寄りかかり、そのまま屈んで顔を手で覆った。
「あー、もう本当俺って何やってんだろ、空気読めずに立ち去るし、服もちゃんと褒められないし、気持ち悪いな」
そう独り言を言っていると路地裏の奥から気配がした。
「ごめん、ケイディ。私は微睡の魔女ナトモリだよ」
「えさっきの、でも何でここに、」
「ちょっと君と話したかったんだ。なんだか君は不思議だからね」
ケイディは警戒していた。今まで魔女と関わる時はいつも誰かがそばにいた。しかし今は一人であるかつナトモリと言う魔女がどのような人なのか何も知らない。
分かる事があるとすれば近づかれるまで全く気づかないほどの気配のなさ、そして目の前にしていても軽薄でまるで夢の中で出会っているかのような異質さだった。
「エリセツアさん、ですか、それがどうかしたんですか?」
「私は君よりも弱いから警戒しなくていいよ。私は君の感情に興味があるだけなの。この国にはないその華やかな色の感情。そして今みたいな青い窮屈な色の感情」
「分かりましたよ。今の俺は最悪なんです、貴方を警戒する余裕もないですしね」
「じゃあ、まずは教えて。何故ケイディは今そんなに苦しんでるの?」
ケイディはまた下を向いて語り始めた。自分がエリセツアに抱く感情、認められない自分の行動、そしてこんな事が初めてで何も理解出来ず、悔しい思いをしていることを伝えた。
「そうなんだ。面白かったよ。それで、これからどうしなくちゃいけないの?」
「逆にどうすりゃ良いか教えてくださいよ。まあ結局、これまで通りに接するのが俺ですけどね」
「それでいいの?」
ケイディは悔しくなった。もっとエリセツアと近づきたい。そんな事は分かりきっているのに口に出す事さえ躊躇い、自分の理想に妥協してしまう。
「考えさせてください、」




