101話「学ぶ五人」
ヴィオラはシェリアの母であり、先生の中で最も自分の中の世界観が独特な人だ。その性格にはシェリアでさえ普段の明るい様子が一変し、ため息を吐くほどだ。
「あなたたちはまず影についての理解が足りていないわ。だからまずは身体は動かさずに影を移動させてみなさい」
「そんなの無理だよおばさん、」
「何か方法は教えてくれないの?私たち何も分からないのに」
ヒイロとエリセツアは最初に文句を言った。それもそのはず生まれてきて影は光が物体に当たることで初めて出来るものだと信じてきたのに急に影を操るなんて不可能でありイメージすらできなかったからだ。
「とりあえず今日は影を観察してみなさい。何となく影がどのようなものか理解できる日が来ると思うわ。それじゃ私は日陰で休んでるわね」
エリセツアは初日に影の力を学んだのは運が悪かったと思った。大して詳しく丁寧に教えてくれるわけでもないし、影について悩み続けた結果、何も理解出来なかったからだ。
しかしその日の夜、父さんに他の八つの力、魔法、呪いの力、聖なる力、オーラ剣術、仙武術、精霊術、空間魔導術、時間魔導術を学ばなければならないと言う話を聞き更に絶望した。それは影の力は確かに難しいがそれ以上に空間魔導術、時間魔導術はレベルが違うとのことだったからだ。
エリセツアはそのことを四人に報告すると、
「私無理だよ、」
「僕も流石にそこまで多くの力を学ぶのは現実的じゃないと思う」
五人の中で真面目な方のジオルドとスピカでさえ諦めている。流石に無茶なことだと思った彼らは親たち全員を集めて抗議した。
「いくら何でもここまで多くの力を操れる訳ないと思います!そもそもパパやママたちだって一つしか使えないでしょ!」
シェリアは大人たちの前で堂々と、異議を唱えた。その姿を見たエリセツアたちは拍手をして大人たちを睨みつけた。
「ふぅん、私が影の力しか使えないと思ってたんだ。しかしそれは間違いよ!魔法や呪いだって使えるんだから!」
「でも九個の力なんて使える人いないよ!だからせめて学ぶ力を減らしたり出来ないの?俺たちだって頑張ってるけど出来る気しない、」
ヒイロは泣きそうになりながらも精一杯大人たちに訴えかけた。するとヒョウセウが口を開いた。
「まあまあ確かに子どもたちの言い分も分かる。ではこうしないか?自分がやりたい、もしくは得意な力を選んで、その力だけを学べばいい。その代わり学んだ力は極めないといけないというものだ。アリエたちはどう思う?」
「私もヒョウセウさんに賛成です。私なんて精霊術しか使えないですし、」
スピカの母であるテーランはヒョウセウに賛成した。理由は力は何も手数だけが重要じゃないからと言うものだった。確かにテーランは精霊術しか使えない。しかしその精霊術が万能すぎて他を学ぶ必要がなかっただけだ。
「なあヒョウセウ、最低でも魔法だけは全員学ばせないといけないんじゃないか?魔法は一番教えやすいし、大陸でも一番有名な力だしな」
そう言ったのはスピカの父であるロイドだった。
「ロイド、良いアイデアだ。じゃあ最初の一年間は魔法だけに集中して修練しよう」
「最初から言おうと思っていたことがあるんだが、俺が思うに剣と魔法を両立させるのは効率が悪すぎる。極めるのには向いていない」
ヒョウセウとロイドが意気投合したと思ったら口下手なヒイロの父ジョハンがそう告げた。
「はぁ、もっと早く言ってくれよ。それじゃあ親の僕たちは明日までに考えておくから子どもたちは遊んでおいて」
「やった!今日は久しぶりに皆んなで遊べるぞ!」
ヒイロがそう喜びながら走って行くと五人は笑みを浮かべヒイロについて行った。
それから三年後、エリセツアは魔法と呪いの力、聖なる力を極め、時間魔導術と空間魔道術もある程度操る事ができる様になった。
「エリセツア。十三歳の誕生日おめでとう。私が貴方に教えられた事は少なかったけど、、胸を張って旅に出れる程、成長してくれてありがとう!」
「僕からも。五人の中で最も多く力を手に入れたのは紛れもなくエリセツアの努力のおかげだ。もちろん僕らの才能を受け継いでると言うのもあるけどね?」
「父さんはいつも最後に余計な事を言っちゃう癖直した方がいいよ。でも父さん母さん今までありがとう!!」
その日、五人の中で最年少のエリセツアが十三歳を迎えた事で待ちに待った旅立ちの日となっていたのだ。
「シェリアは剣、スピカは精霊術、ジオルドは影、ヒイロは殴り、そして私は魔法に聖なる力、呪いの力に空間魔導術と時間魔導術!!皆んなでやっと九つの力を学ぶ事が出来てバランス良くなったよね」
「流石半分以上がエリセツアだ。こうしてみると、ヒイロと僕は学ぶ事を変えて、結果的には間違ってなかったようだ」
去年の夏、ヒイロは身体強化魔法、ジオルドは遠距離魔法を学んでいたがそれぞれもっと才能が活かせる仙武術と影の力を見つけ、それらを極めたのだ。
「では五人とも。島の外には僕が造った船で旅立ってもらう。目的地はホワイセン大陸だ。この数年、誰も島を出なかったから今の情勢は分からない。でも臨機応変に!自由に!協力し合って行ってきなさい」
ヒョウセウがそう言うと、五人は旅立ちにワクワクして大きな声で返事をした。
しかし見送りがヒョウセウしかいなかったのは、五人にとって少し違和感だった。
「なあお前ら、最年長の十五歳であるこのヒイロ様が船長をやらせてもらう。それでいいな?」
「僕はそんな肩書きに拘らないから譲るよ」
「私とスピカは船内で休んでるから、事故らない様に気をつけてね」
ジオルドは謙虚で、エリセツアとスピカは興味を持たず、景色に夢中なシェリアはそもそもヒイロの言葉を聞かなかった。
「張り合いがないのは寂しいが、俺は今この瞬間から船長ヒイロ!!ジョハンとラフテーユの息子だ!!今に見てろこの広い海!俺が波に乗りこなしてみせるぜ!!」
「いやこれ風魔法で動かすから、乗りこなすとかそう言うのないと思うけど?」
「ロマンだろこう言うの。それが分からんジオルドはまだまだお子ちゃまだな」
「見てみて二人とも!!あそこにデカい魔物がいる!!島にいるやつと比べ物にならないね!」
そうして五人は知らない人間しかいない、広大なホワイセン大陸と言う未知へと旅立った。互いの絆が緊張感を置き去りにし、高揚感で溢れていた。
するとスピリアたちに話すエリセツアは、その後の波瀾万丈だった日々の断片たちが頭に流れ、思わず口を止めた。




