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龍の腕は世界を抱く  作者: 萌葱クレイオ
第八章 始まりと終わり
252/258

251話 因縁の決着

読んでいただきありがとうございます。

 


「ヒバリ、アレ出して!!」

「マスターのお身体では、負荷に耐えられないかもしれません……!」

「今、ここでやらないと意味が無いんだ! だから、お願い……!」


 背中に深い傷を負い、全身を打撲や裂傷に苛まれるレイ。

 それでもまだ立ち向かおうとするレイがこれから何をするかを知ったヒバリが心配の言葉を口にするが、レイはどんな苦痛が生じても、今ここでやらなければならないと言う本気の眼差しを向けるが故にヒバリも折れざるを得ない。


「……ヒバリは、何があってもマスターの、お傍に居ますから」

「うん、分かってるよ。ありがとう」


 そう言ってヒバリが取り出したのは、手のひらに乗るくらい小さな弓と矢のセット。

 一体これが何なのか、とストラウスが興味を持って覗き込むと、ヒバリはそれに魔力を流し込む。


「わっ、え、大きく、なった……!?」


 途端、ヒバリの掌には収まるはずも無いくらいそれは巨大化し、レイの背丈ほどもある巨大な大弓と、強靭な矢の組み合わせがレイ達の前に出現するのであった。


 それは、レイが作ったはいいが持ち運びに苦悩していた大弓。

 その答えを与えてくれたのが、大弓の指導と称してレイの一挙手一投足、筋肉の全ての観察を行っていたヒバリであり、ヒバリが大弓と矢筒に複雑な魔術式を書き込む事で「縮小」と「拡大」の魔術を併用する、と言うレイには到底理解できない技術が組み込まれる事になったでのあった。

 そのお陰で持ち運びに苦難する事無くこうして持ち運ぶことが出来、普段はヒバリが肩から提げる、何が入っているのか不明なポシェットに収納されていた。


「レイ、運んできたぞ」

「ありがとう! それじゃあシオ。後は、任せていい?」

「任せとけ。レイにはこれ以上傷一つ付けさせやしねぇからよ」

「わ、わわ……! お、大きくなって……!?」


 膝から崩れ落ちて放心状態のままと化したアキナをシスティナが運び入れ、シオは竜気を奔らせて巨大化する。その下ではレイ達が身を一つに固めており、降り注ぐ巨大な瓦礫をシオの風の魔法が防いでくれる。


 人一人など簡単に押し潰してしまえるような瓦礫が、シオの生み出した風の結界によって防がれ、風化していく様は、この場所が安全だと知っていても恐怖を感じずにはいられない光景で、案の定ストラウスは怯え切った様子で頭を抱えていた。






「行くよ、シオ。――竜気覚醒。真名解放、空を導く龍(シエラルゼア)






 大弓を構え、全身に竜気を奔らせたレイは、その身に龍の力を降ろす。

 鎧のように天色の鱗が生まれては、剥がれて消えていく。無意識にも竜気の具象化が起こってしまえる程の竜気の量にストラウスは圧倒されてしまう。

 けれども、これでもまだ、ガリウスには届きそうも無いと思わせるのが、龍人(ゼア・イーリス)と成ったガリウスと言う存在。それに手を伸ばすかの如く、レイは狙いを定めていく。



「――ふっ、くっ……!!」



 歯を食い縛り、大弓に矢を番える。


 弓の本体、幹の部分には「帰らずの森」から採れる良質な木材を。矢を引く弦の部分には、シオの(たてがみ)を用いて作られており、その強度はストラウスの腕ではビクともしない程。

 シオやシスティナと比べてもただでさえ非力なレイにとってその強靭な弦を引くのは竜気覚醒を経て、十全なまでの身体強化が施されても尚一苦労であった。ましてや、体の全てを使って引かなければならない以上、大弓を引く行為は全身の傷が開くのを促進するような真似でもあって、弦が引かれていく度に「ギリ、ギリ」と音を鳴らすのに比例するかのようにレイの身体からも大量の出血が見られ、悲鳴が上がる。


「レイ……」

「マスター……!」


 額に汗を滲ませるレイは、大弓を引くことが出来るのはこの一度だけだと確信しており、これを外せば次は無いとまで考えていた。


 それだけ消耗の激しい大弓をレイは遂に引き絞る事に成功し、後は狙いを定めるのみ。


「――ストラウス! この矢が、ガリウスに届く瞬間に……っ、お願い!!」


「ま、任された!!」


 レイが狙いを定める相手。

 遥か高い頭上に君臨するのは、どう考えても敵うはずのない相手。


 エネルゼアの力を継いで、他の幻想種を食らうかの如く竜気を吸収してしまうようなそんな化け物を相手に、レイは一切退く事もせずに立ち向かわんとする。


 その姿勢に感化されたのか、影響されたお陰か、自分でももしや、と思えるようになったストラウスが拾い集めた幻想種の成れの果て、竜気の塊をかき集める。


 幻想部隊副隊長らの前では「十体」と称していたものの、ストラウスが本当に付き従える幻想種の数、それは全部で「六十九(69)体」。

 その殆どが、この六年の間に、ガリウスが関わる無念な死を遂げた幻想種の数であり、ストラウスはそれら全てをガリウスの未来視に干渉すべく費やしていく。


「凄まじい、竜気だな……」

「――ハハッ! やればできんじゃねぇか!!」


 レイ同様に、本来ならば耐え切れないような竜気に身体を晒す負荷と言うのは想像を絶するものであるせいか、ストラウスの額に無数の脂汗が滲む。

 だが、それでも諦めたりしないのは、レイが信じてくれているからだろうか。



 ――自分自身は信じられないけれども、レイ君が信じてくれたオイラなら。



 感化されて立ち上がることが出来たように、今回もまた、レイの肩を借りて立ち向かう。

 ストラウスの視界は恐怖のせいか涙で滲んでいながらも、それでも決してその手を降ろす事はしない、と覚悟を定めて、ストラウスは声を張り上げる。


「……ッ、いつでも、行けるよッ!!!」


「――決めちまえ、レイ!!」


 全ての準備が整った瞬間、シオがこれから起こる未来に胸を躍らせるかのような声音で、暗澹たる雲に覆われた未来を晴らすかの如く、目の前を塞ぐ瓦礫を吹き飛ばし、レイの視界を十全なものに確保する。


 レイが見開く目の奥には、今にも地上へと向かいそうなガリウスの姿。

 暗い地下空間でも、無駄に黄金に輝いているが故に、見失う事は無い。






「落ちろ、竜星。穿て、彗星。――万窮天崩撃ッ!!!!」






 竜術の祝詞を口ずさんだレイが放つのは、星落としの一矢。

 発射と同時に途轍もない轟音が響き、呆けていたアキナが悲鳴を上げて我に返る中、レイの身体から生まれ落ちた無数の天色の鱗が大弓に纏わり付くかのように軌跡を描き、地上から天へと昇る光を描く。


 その威力たるや、受けずとも分かる破壊力。

 その反動も大きく、放った後のレイは息も絶え絶えに弦を引いていた手が血だらけになる程のものであった。

 けれども、レイはその程度の負傷にかまける事も無く、誰もが空へと駆け上がる光に目を奪われる中、レイの放った万窮天崩撃はガリウスへと迫っていく。



『む……? 雑魚共が、精々悪足掻きをしようとでも言うのか? この程度――』


「ストラウスッ、今――ッ!!」


「わ、分か――ッ!? ガハッ……!?」



 レイの声に合わせてガリウスの未来視に干渉すべく手を伸ばした刹那、ストラウスは強烈な負荷による激しい頭痛に襲われ、膝を付いてしまう。



『――同じ手は二度喰わぬぞ、ストラウス。お前如きが、俺に手が届くとでも思ったか!? 下等も下等。一度は生きる事に諦めを抱いたお前が、今さら出しゃばるなッ!! お前達は黙って地を這い、俺に殺されるのを待つだけで十分だ!! クハハハハハハハッ!!!』



 ヒバリの魅了の魔眼への対抗策のように、ストラウスの干渉による反動(リバウンド)が彼を襲ったのか、邪魔者を排除したガリウスは迫る「万窮天崩撃」に「未来の選択」を加えようと悠々と身構える。


「……」


 頼みの綱が一太刀で切り伏せられた中、膝を付いて屈するストラウスにレイは声を掛けるでもなく、信じて待つ事を選択する。まだ、ストラウスの心が完全に折れた訳ではないと、信じて。




「……オイラは、確かに弱っちいし、諦めが早いし、すぐに泣く駄目な人間だ」




『む……?』




「――でも、こんなオイラでも、信じてくれる人が居るんだよ!! その人の為なら、オイラは、何度だって、立ち上がってみせるんだぁあああああああああ!!!! うぉわああああああああああ!!!!」




 再度立ち上がったストラウスは、干渉の反動(リバウンド)を受けて片方の眼球が血に染まる中、六十九の幻想種の成れの果ての力を借りてガリウスの未来視へと干渉する。


 その足は、恐怖で震えている。その声は、恐怖で震えている。その目は、恐怖で震えている。


 けれども「誰かの為に」と固く決意した心の芯は、決して揺らいだりしていない。



『また、まただ……! 未来が、定まらぬ……! 小癪な、真似、をおおおおおおおお!!』



 ストラウスの周囲に散らばる光は明滅を繰り返し、ガリウスの干渉と共に打ち消し合う。その明滅がストラウスに力を貸す幻想種の成れの果てが最後に見せる命の輝きであることは誰の目から見ても明らかであり、その数はガリウスの干渉を受けて如実に数を減らしていく。

 それに合わせてストラウスの体が反動(リバウンド)による制裁が与えられるものの、ストラウスはガリウスへの干渉を諦める事はしない。



『邪魔を、するなあああああああああ!!!!!』



「――人生のほぼ全てをこの森に捧げて来た? 馬鹿言うなよ。オイラはなぁ、人生の全てを、お前に幽閉されてから今日に至るまで、全てをこの竜術に捧げて来たんだ……ッ! たかだか借り物の力で、舞い上がってんじゃ、ねぇえええええええええええええああああああああああ゛――!!!!!!」



 ストラウスの魂の叫びが轟くと同時に、先程ガリウスの好きを生み出したガラスが砕け散るような音を立てて、ガリウスから黄金の輝きが消え失せる。


 それと同時に、ガリウスの命を刈り取る「万窮天崩撃」が直撃する。



『馬鹿、なッ……!? ――だがァッ、この程度……ッ!!!』



 しかし、未来視が一時的に消えたとてガリウスのエネルゼアから引き継いだ力は未だ健在であり、「万窮天崩撃」に圧されながらも攻撃がその身に届く気配は見せない。


『無駄、だ、ァアッ!!!!! ――クハッ、クハハハハハハハッ! 全て、無駄に終わったようだなァ!!!!』


 ガリウスは竜術と凄まじい身体能力を用いて「万窮天崩撃」を弾き飛ばし、全てが徒労に終わった事を証明づける。


 まさか、レイの命を込めた一撃が届かないとは。

 まさか、ストラウスの決死の攻防が無駄に終わるとは。


 誰もがその絶望に囚われたその瞬間――。


 突如としてレイは声を張り上げる。











「――ギぃぃぃぃぃぃいいいいいンッッッ!!!!!!!!」











 ガリウスが最後の希望を弾き飛ばした事で愉悦に浸る中、地上へと抜けた穴に一つの影が差す。


 その陰は四つ足を翳し、出現と共に嵐が如き猛威を振るう。


 月光が差す中に舞う白銀の毛並みは何よりも眩しく、苦痛に喘ぐストラウスでさえも言葉を失って見蕩ればかり。


 ガリウスが気が付き振り向いた時点で攻撃の全ては終わっていて、万物悉くを無に帰する牙がガリウスの首に突き立てられてようやく、ガリウスは動き出すことが出来るのだった。



『――ぁ、ガッ……!? 何者、だ……!?』



 抵抗は疎か、何者であるかも理解出来ぬまま致命傷を負わされたガリウスは、自分を見つめる酷く冷たい眼差しに射貫かれ、生まれて初めて感じる死の恐怖に怯える他無いのであった。


 ガリウスを口に咥えたまま、肉を削ぎ落すかのように地上へと放り投げたギンは、空中で立ち止まりレイ達を一瞥した後、ガリウスの後を追って地上へと駆けて行く。


「れ、れれれれ、レイ君、あ、あれあれ、あれはまさか……!?」

「話は後! シオ、お願い!!」

「お前らァ! しっかり掴まっとけよ!!」


 大弓をヒバリに預けたレイは、ギンがガリウスを蹂躙している間に残った全員でシオに跨り、ギンの後を追う。


 大弓での一撃に見せかけ、ストラウスで作り出した隙はギンの到来を悟らせない為のものであり、あの一瞬さえあればギンはレイの声に駆け付けることが出来ると言う全幅の信頼を寄せた上での作戦。

 全ては大弓の一撃、「万窮天崩撃」に全てを込めていると見せかける為の仕込みであり、ガリウスが龍人(ゼア・イーリス)と化したその瞬間から構築していた作戦でもあった。


 しかし、ここまでやってもまだ死なないガリウスに追撃せんと、レイは巨大化したシオに跨って、瓦礫が降り注ぐ中を地上へと昇っていく。


「ひぇ、ぁ……駄目、意識が、とんだ――」

「ストラウスが気絶した! アキナは無事!?」

「マスター、ヒバリも、かなり、厳しい、のです、がっ……!」

「二人ともオレが支えている! 問題無い!!」

「あ、私も、もう、無理――」


 飛び立つと同時に最高速へと加速する為に、風の魔法を速度にのみ注力した結果、荒々しいルートを通る中で慣れていないストラウスとアキナは早々に気絶してリタイア。残された一行を背に、降り注ぐ瓦礫を縫うように飛行するシオの背に跨る事ものの十数秒で地上へと抜けたシオは、白銀の孤狼と黄金の龍人(ゼア・イーリス)が対峙する様を目の当たりにする。


『俺はぁ……、最強の男……。真祖エネルゼアの力を継いだ、真の強者だぞ……! だと言うのに、この俺が……、敗北する事など、あってはならない……!!』


 羽を動かして空中に佇むガリウスだが、余闇に輝くはずの黄金の輝きは地下で見た時よりもずっと弱々しいように映っていた。


「ギン! 合わせるよ!!」

『ヤツの黄金は我が剥がす。その間に、叩き込むぞ』

「シオ、システィナ、行くよ!!」

「今度こそぶちのめすぞ……!」

「合わせる!!」


 シオの背から降ろしたストラウスとアキナの様子をヒバリに見てもらいながら、システィナはシオに跨り、レイはその横に並んで宙に立つ。ギンの合図に合わせてレイとシオは特攻し、シオはシスティナの動きに合わせて空を泳ぐ。魔法での援護の傍ら、ようやく拝めた空の下、シオの本領を発揮する事の出来る舞台に喜んで極大の魔法を器用にも詠唱し始めた。



「――空の青さを知る人よ、空の深さを知る夢よ、やがて夢は空へ羽撃く」

『――神亡き空の下、天の恵みを受けし子よ、数多の星が貴方を照らす』



 それと同時に、ギンが抵抗するかの如く魔法の詠唱を被せて謳う。

 当然、ガリウスの黄金を剥がす魔法も準備しながらと言う次元の違う技術にシオは苦笑いを浮かべながら、ガリウスの牽制に励む。


 それらの魔法が危険であると知りながらも、ガリウスは多岐に渡る竜術を用いることが出来たとしても、レイとシスティナの波状攻撃やシオの魔法による牽制によって攻め切ることが出来ず、妨害する事もままならない。これも全て、ギンが付けた深手のお陰であり、ガリウスは死に瀕した体を留めておくので精一杯な状態なのであった。



「――風の谷(アルハブレスク)の小屋の音と、雷鳴轟く鹿の角、夢失せし後の栄光よ」

『――戻りし時に悔いは無く、過ぎし日に憧れは宿りて、道行く先に幸あらん事を』



「終撃・羅刹ッッッ!!!!!!」



「――空の彼方、夢の境界、飃風犇めく天の鍵、天の門(アビアリア)が封じし災厄の時」

『――無限の刹那、永遠の一瞬、白い烏が鳴く丘、落ちる砂時計に笑う夜、禍ツ時に開くは神の眼(ザブリシア)



「破空、竜掌波ァアアッ!!!!」



「――降りよ禍津日、開け天啓」

『――揺らげ鮮明、踊れ浄滅』






「――混沌極めよ、風禍招雷(ふうかしょうらい)

『――黎明の時来たれり、夜を跨ぐ(ヴァルフレムズ)星の名(・フォービドゥン)






 魔法の完全詠唱が遂げられた次の瞬間、ガリウスの周囲から黄金の輝きは消え失せ、頭上に発生した嵐がガリウスを襲う。

 突風は風の刃となってガリウスを切り刻み、雨粒は避けようのない乱打となって全身を強く打ち付ける。そして降り注ぐ雷はガリウスを引き裂かんばかりに命を削っていく。


 ただでさえ消耗が激しい再生の竜術も、ギンに付けられた傷も癒えていない状況で他の部位を優先する事など叶わず、決死の抵抗も振るわぬままガリウスは滅多打ちにされ続ける。

 しかし、そんな嵐も不意に止んだかと思うと、頭上に発生した嵐を突き破るかの如く光の柱が落ちてくる。それは寸分違わずガリウスの頭上に落ちる。





『……ッ、馬鹿な、バカなばかな馬鹿な、馬鹿なァアアアアアアアア――!!!!!!』





 一本の光の柱を辛うじて避けたのも束の間、続けて降り注いだ二本目の光の柱を前にガリウスは断末魔を上げる事しか出来ずに、エネルゼアの力を継ぐ以前の姿、古木の枝のような姿で、地面に横たわるのであった。


「……終わ、った?」

「あぁ、終わったな」

「――っ、シ゛お゛ぉぉぉぉぉ……!!!!」

「んちょっ、苦しっ、泣き過ぎだっての」


 ガリウスの行動を阻止するために放った竜掌波を最後にレイの竜気覚醒は解除されており、最早立っているのも限界な状態でシオに抱き着く力は相当なものであり、感極まって涙を流すのをシオは宥めるばかり。


 その中で、システィナは一人、未だに極竜黎魔万象体を解くことなくガリウスの亡骸の元に歩を進めていた。

 先程のように、死を確認するまでが狩り。弱った獣は死んだ振りも得意である、と両親から学んだ経験を活かし、ガリウスの死を確認するまでは油断できないのであった。



「おれ、は……、おれは、ま、だ――」



「……やっぱりだ」

『ほう、角人は存外、真面目なのだな』

「! ……ギン」

『放っておいても死ぬだろうに。レイの過去は聞いているのだろう? そいつをどうするかは、お前に任せて、我はレイに戯れてくるとするか』


 虫の息で、最早生きているのもおかしいと言える程に黒焦げと化したガリウスだが、その目は未だ復活を望んでいる程に生気に満ち溢れていた。狂おしい程に生に執着する男こそが、ガリウスと言う人物なのであった。


「お前、は……! くはっ、はは……、これが、おれ、のみ、らい、とでも、言いたい、か、牡鹿、よ……」


 聖区の真ん中、瓦礫の積み重なったこの場所で最後にガリウスの前に立ちはだかったのは、奇しくも牡鹿がガリウスに見せた最期の光景。乗り越えたと思っていても、最後には巡り巡ってここに戻ってくるとあらば、それを予知して見せた牡鹿の勝利と言う他無い。

 ガリウスは、この瞬間を回避するためだけに生きてきた。人ならざる行為を容認したのも、自分の邪魔をするものを排除してきたのも、全て、全てこの瞬間を回避するためのもの。


 だがそれも全て無に帰したかの如く、息を引き取る瞬間ガリウスの前に居合わせたのは予知の通り、角の生えた女、システィナであった。


 レイ達は最早ガリウスは終わったもの、これで因縁は片付いたものと思って騒いでいる中で、システィナだけはガリウスを見下ろしている。これが未来の収束なのか、はたまた運命だったのかは誰にも分からない。この未来を予知した牡鹿は、もう既にいないのだから。


「……ころ、せ」

「……」


 殺せと訴えるガリウスを、システィナは黙って見下ろし続ける。

 手を下す訳でも無く、手を貸す訳でも無く、ただ黙って、見下ろし続ける。


 そんな彼女の中に在るのは、このガリウスの姿が、もしかしたら有り得たかもしれない自分であったかのように思えてならないと言う感情。


 レイに出会わず、レイに救われず、復讐と怨嗟に塗れた有り得たかもしれない自分の姿。

 だが、今は違う。今はただ、これから先の未来も、永遠にレイと共に居たいと思える感情だけを感じていた。


 そんなレイが苦しめられた相手と言うだけで殺すには十分だが、それ以上に殺す価値も無い、と決定づける。それこそが、ガリウスが受けるべき報いであり、彼の築いてきたもの全てを否定する行為であると気付いたから。



「……」

「ま、待て……待って、く、れ……! おれを、おれ、を、ころし、て――」



 体を起き上がらせる事さえ出来ないガリウスを置いて、システィナは極竜黎魔万象体を解く。

 踵を返す先は、わんわん、と泣き喚くレイの元。ガリウスに背を向けるや否や走り出したシスティナの頭に、最早ガリウスの存在は無く、地に伏したガリウスはただひたすらに、死を待つのみ。


 そうして間もなくしてシスティナがレイの元へ合流した頃、ガリウスは一人、誰に看取られる事も無く、苦痛に喘いだ末に息を引き取るのであった。











ブクマ、評価等ありがとうございます。


風禍招雷に続いて、夜を跨ぐヴァルフレムズ星の名・フォービドゥンの完全詠唱です。

風禍招雷よりも難しいですが、皆さんも是非挑戦してみて下さい。


――神亡き空の下、天の恵みを受けし子よ、数多の星が貴方を照らす。

――戻りし時に悔いは無く、過ぎし日に憧れは宿りて、道行く先に幸あらん事を。

――無限の刹那、永遠の一瞬、白い烏が鳴く丘、落ちる砂時計に笑う夜、禍ツ時に開くは神の眼ザブリシア

――揺らげ鮮明、踊れ浄滅。

――黎明の時来たれり、夜を跨ぐヴァルフレムズ星の名・フォービドゥン




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