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龍の腕は世界を抱く  作者: 萌葱クレイオ
第八章 始まりと終わり
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249話 VS ガリウス

読んでいただきありがとうございます。

 



「どいてくだ、さい……ッ!!」

「残念ですが、貴方の要望には応えられません」


 レイ達がガリウス、シュウと応戦している後方で、ヒバリは一人、出遅れた少女と相対していた。

 少女は、現在地上でガリウスの手勢を相手する幻想部隊副隊長らと同じ衣服に身を包んでおり、ガリウスの手勢のように改造が施された裏の顔ではなく、正真正銘の幻想部隊の一員であった。それも、正規部隊員とも異なる、副隊長格の証である襟章を付けている事から、目の前の彼女が幻想部隊の副隊長である事をヒバリは見抜いていた。


 ガリウスに反旗を翻した副隊長らと同じ所属であるはずの彼女がどうしてガリウスに与しているのかまでは、流石のヒバリと言えどもこの短い時間でそこまで読み取ることは出来なかった。けれども、ヒバリにとって目の前の少女がどうしてガリウスに与しているか、などと言う事情は至極どうでも良いもので、敬愛するマスターであるレイが自分を呼んでいるかもしれないと言う第六感が鋭敏に反応を示している以上、たかが少女如きに時間をかけている暇は無いのであった。


「私、は……ッ! ガリウス様の期待、にっ、応えなくては、ならない……ッ!!」


「それで、蛇さんを奪取しようと特攻を仕掛けてきた訳ですか。……失礼ですが、貴方如きの力では蛇さんを奪取する事は疎かヒバリを超えていく事も出来ないようですが、そこの所、どうお考えですか?」


「うるさいっ! 私は、ガリウス様の、役に……!」


「……挙句、思考を停止させて馬鹿の一つ覚えの如き猛進。それではまるで駄々を捏ねる子供ですね。貴方のその行動……そこに貴方の意思や理念は微塵も感じられません」


「私は、子供なんかじゃない!!」


「自らの状態も鑑みる事さえできず、あまつさえ無謀な特攻にも嬉々として挑むその姿をして、どこがお子様ではないと言えるのですか? 蛇さんの言葉を借りれば、どいつもこいつもみみっちい、ですかね。さぁ、お好きにどうぞ、お子様さん」


「私の、名前は、アキナ、だ……ッ!! お子様、なんかじゃ、無い……ッ!!!」


 シュウが片刃のナイフを愛用するように、少女――アキナは両刃の短剣を用いて攻勢に出る。

 両者共にガリウスのような膂力を誇る身体には恵まれなかったため長剣は相応しくなく、非力な彼らでも扱えるナイフや短剣が愛用の武器であった。


 だがしかし、レイやシオ、システィナと言った常識外れの戦闘力を誇る彼らに付き従うヒバリがただの従者で終わるはずも無かった。ヒバリは、人工生命体(ホムンクルス)としての性能を存分に生かして、彼らに守られるだけの足手纏いのような存在にはなりたくないと自ら進言した結果、最低限の護身術を教わっており、ナイフや短剣の間合いであれば十分に対処できる程の実力を兼ね備えていたため、アキナの刃はヒバリには届かない。


「うぐ……っ!」


「フフフ。ヒバリはいつまでも進化を止めない超高性能人工生命体(ホムンクルス)なのです!」


 ヒバリの煽りに負けて真っ直ぐに突っ込んできたアキナを、華麗な体捌きで投げ飛ばしたヒバリはその整った顔を存分に生かした決め顔と決めポーズを取るのだが、そこはかとなくダサい風貌は誰もが驚く美しさすら霞む。これを見て「かっこいい!」と言ってくれるのはレイのみで、シオとシスティナからは批判の嵐であったものの、敬愛するマスターからの誉め言葉で詰まったヒバリの耳は非難の声など受け付けない。


 とは言え、ヒバリの体術はこの時点でほぼ完成されており、これ以上の発展は見込まれない。

 ヒバリの身体は魔眼に適応させる為に複雑な再生魔術の魔術式で埋め尽くされており、その魔術式と魔力による身体強化が互いに干渉し合ってしまう為、過去にレイと共に出会った戦闘特化型人工生命体(ホムンクルス)である「ユメ」のように、レイやシスティナと張り合うような戦闘技能を積むことは出来ない。


 故に、ヒバリの体術が通用するのは悪漢のような人相手のみであり、アキナに関してはシオの拘束するために彼女の幻想種、竜石像(ガーゴイル)が力を使い果たして眠っていたお陰であった。

 元より短剣の扱いも、竜気の扱いも中の下と評されるアキナだからこそヒバリでも相手できるのであって、もし仮にこれが他の幻想部隊副隊長、カムクラやセスラス、ハオと言った戦闘巧者が同じ条件で相手であったなら、逆に押し倒されて気絶させられる羽目になっていただろう。


 例えヒバリに刃が通じずとも、意識を落とされてしまってはヒバリの再生の魔術式は反応してくれない。彼女の体に刻まれた魔術式が発動するのはあくまでも外傷のみであり、無限に再生し続ける肉体に加えて魅了の魔術に抵抗できるのであれば、ヒバリは脅威にはならないはずだった。

 しかし、今回は能力のみを買われて言われるがままにこれまで生きて来たアキナは、その能力を行使できない状態であり、結果ヒバリの敵ですらなく地面に転がされるのであった。


「うぅ、私は、私は……。ただ、ガリウス様の期待に、応えたかっただけなのに……」

「もし本当にそう思っているのでしたら、今もこうして転がったままではなく、果敢にヒバリを超えんとばかりに攻めているはずでしょう。それが、今の貴方は諦めている様子。それでは、ヒバリはマスターの下に向かいたいと思いますので。さようなら」

「……」


 最近ではすっかり人間臭くなったヒバリだが、そんなヒバリが不意に見せる人工生命体(ホムンクルス)の影とも言える無表情で見下ろされたアキナは、出掛かった涙も引っ込むくらいの寒気を覚えると同時に、分不相応な希望を感じ取ってしまう。




「――ま、待って……くだ、さい……!!」




「……まだ、何か?」




「わ、私は、間違っていたんですか……? 誰かの言う通りに生きる事は、間違い、だったんですか……!?」




「……ハァ」




 少し前にも同じような話をしたばかりでは、と浮かんでくる感想を抱きつつも、システィナはレイの元へと駆け付けたい感情を抑えつつ簡潔に答えようと口を開く。




「誰かの言う通りに生きる。それ自体は間違いではないのかもしれません。それもまた、一つの生き方であると、ヒバリは尊重します。……ですが、貴方の人生は貴方のもの。誰かが貴方を導いてくれようとも、貴方の人生の最終決定権は貴方に在るのです。故に、言われた通りの人生が本当に正しいのかどうか、貴方は常にそれを考え続けなければならなかった、貴方はそれを怠ったのです。人には、考える力がある。今を打破する頭がある。何が正しくて何が間違いか、貴方の人生が間違いか正解か。それはヒバリが答える事ではありません。貴方が自分で考えに考え抜いた先の未来に、答えがあるはずです」




「あ、あぁ……それじゃあ、私は、わた、しは……!」




「貴方の動きには、迷いがありました。自らを声で奮わせようとも、暗示しようとも、芽生えた疑念は既に根付いた後。貴方はそこに気が付いていながらも蓋をしたのです。ですが、貴方はその間違いに気付くことが出来ていた。その蓋を取り、もう一度考えることが出来たなら、貴方はきっと生まれ変われる。その為にも、貴方は自分の人生をもう一度振り返る必要があるのです。……考えに考え、考え抜いたその先。もしかしたらそこに答えなど無いのかもしれませんが、それでも貴方は考え続けなければならないのです。その時こそ、貴方はようやく新たなスタートラインに立つことが出来るのですよ」




「ぅ、う゛ぅ……っ。ありが、とう……っ、それと、ごめん、なさい……!」




「感謝の言葉は受け取りますが、貴方が謝るべきはヒバリではありませんので、その謝罪は聞かなかった事にしましょう。――では、ヒバリはこれで」


 簡潔、などと言うには些か文字の多い高説だが、それは確かにアキナの胸を打ったようで、アキナは冷たい石の床の上で仰向けになって嗚咽を上げる。


 根が真面目であるが故に、一度踏み外したら戻る事は許されないと無意識のうちに錯覚してしまう。

 フィオリスを縛った純粋なる恐怖ではなく、依存と言う名の恐怖で離れられないように調教されたアキナは、誰かが引き上げてやらねばならなかったのだろう。

 今回はその引き上げる為の縄をアキナに向かって投げたのはヒバリだったが、それはもっと近しい人物であれば彼女が公安ってしまう前に止められたかもしれないのだ。その事実を知った時、その近しい人物は後悔するやもしれないけれども、アキナが前を向くと決めた以上不必要に悔いる暇など、これからの幻想の森には無いかもしれない。


 言いたい事を言い終えてスッキリしたヒバリは、アキナを放置してレイ達の元へ駆け足で戻っていくのだった。










 ――――――――――











「――お待たせしました、マスター!」


 言いたい事を吐き出せたヒバリが、戦場には似つかわしくない軽やかな足取りでレイの元へ合流すると、いの一番にレイへと駆け寄っていく。


「遅ぇぞ、ゲロ女」

「おや、もう正常に戻ってしまわれたんですか? 素直な蛇さんは確かに気持ち悪かったですが、いざこうして元に戻られるとそれはそれで寂しい部分がありますね」


「戻って来てもらって早々悪いんだけど、足止め! お願いできる!? 標的は――」




「――おいおいおい、死人が喋ってやがるじゃねぇか!! フ、ハハッ! 死んだ姉にそっくりな相手を囲って、在りし日のおままごとでもしてるつもりか、レぇイ……! 本当に……、気ッッ、持ち悪ぃなぁ! 人形遊びに手を出す程落ちぶれるとは思ってもみなかったぜ? それで許してもらってるつもりか!? お姉ちゃん、殺しちゃってごめんなさ~い、ってよぉーお!? ギャハハ! レイ、お前、今、最ッ高に狂ってやがるぜぇ!?」




「――()()、ですね」




「どうした!? 本当の事だろ? 良いこと教えてやるよ、お前は、こいつの死んだ姉の代わりで――」




()()()()()




「……」




「自害――」

「ヒバリ、待って」

「何故ですか、マスター! この男は、口にしてはならない事を口にして――」

「シュウには、全てが終わった後に報いを受けてもらう。今はそれよりも、別の事を優先しよう」

「マスターが、そう仰るのなら……」


 ガリウスの戦闘時、シュウの厄介な横槍はヒバリの到来によって封殺することが出来たため、この場におけるガリウスは完全に孤立したと言える。


「――っ、攻撃が、更に激しくなっている……!」

「システィナ! まだ、行ける!?」

「あぁ、問題無い。援護を頼む」

「次は、必ず隙を作るよ」

「頼りにしている」



「……シュウ、何を呆けて――声が届いていない、か。ふむ、その女の能力か? 一瞬目が光ったように思えたが、なるほど。竜術とは異なる技術のようだが……、その目を見なければ良いだけだろう? 容易い事だ」




 システィナ相手に攻防を繰り広げながらも、ヒバリとシュウのやり取りを観察していたのか、レイ達を前にヒバリの目を警戒する素振りを見せる。

 ヒバリの魅了の魔眼は、対抗策を持ち得ていない場合はただそこに居るだけでも相手にプレッシャーを与えることが出来る。ただでさえ魔力も魔術も知らない幻想の森で対抗策など用意しようも無いガリウスにとってみれば純粋に目を潰されたようなものだと言うのに、ガリウスは冷静なまま黙ってそれを受け入れ、それどころかより凶暴性を増した笑みでカカカ、と笑って見せる。


 手に持った長剣はいつしかガリウスの枯れた手と一体化しているのかと錯覚してしまえる程に体の一部であり、今も魔力を解放しているはずのシスティナが弾き飛ばされたばかり。


「シオ」

「……問題ねぇ。ヤツの未来視のカラクリは粗方解けたからな、次で仕留められるはずだ。ヒバリはそのまま待機、俺とシスティナでかく乱させ続けるから、レイは本気で矢を打ちまくれ。俺達の事は気にしなくていい。俺達が、レイに合わせる」

「そしたら、オレがぶっ飛ばす。分かりやすくて、いいな」

「ヒバリは言われた事を守れる子です」


 全員がやる気を見せた上で、シオの指示に従って動き出す。


 開始の合図は、シオとシスティナが動き出した瞬間。


「後継自ら動くとはな。もしや、俺が殺さないとでも思っているのか? 辛うじて死なない斬り方なら知っているからな。地獄を見せてやろう」


「抜かせ。未来が視えるのはお前だけじゃねぇってのを思い知らせてやるよ。そうだな……視えたぜ? お前が俺達の前で骸を晒す未来がなぁ?」

「行くぞ、シオ。――極竜黎魔万象体」


「む、う……ッ!?」


 ガリウスの神経を逆撫でするようにシオが語ると、ガリウスの血の気が失せた表情は面白いように険しさを増す。

 その陰でシスティナが極限まで高めた竜気と夜明けが如き洗練された魔力の奔流が渦巻き万象悉くを超越せんとする力を解放する。


「綺麗……!」


 ガラス瓶の底に星々を散りばめたかのような輝きを放つシスティナの背を見て、レイが思わずうっとりとしたような声を漏らすと、システィナは振り返って笑みを見せる余裕を伺わせた直後、ガリウスが勢いよく後方へと弾き飛ばされる。



「――ぐ、うぅ……!? まただ、また、未来が、揺らぐ……! だが、その力は一度、見たものだッ!!」


「また攻撃が逸らされるか。だが、お前の後ろに目はないだろう?」


「――ッ!! 甘いわッ……、あ?」


「馬鹿だな、上だよ」


「ぬぅ!? ぐああああああ!?」



 後方へ飛んだガリウスに追撃を仕掛けるシスティナ。

 先程までの足止めの為の動きを軽々と凌駕するその動きに、例えそれが牽制だと分かっていてもガリウスは「未来の選択」を使わざるを得ない。システィナが繰り出す全ての攻撃は、防御の薄い今のガリウスにとってみれば全てが致命傷になりかねないからこその判断であったが、ガリウスはシスティナの甘い言葉に誘導される。


 この為だけに、シオは追撃するシスティナを追い越し、わざわざガリウスの眼下を潜って後方へと抜けていっており、ガリウスはそれを目視していたが為に背後へと誘われるがままに剣を振るってしまう。


 しかしシオが現れたのはその更に上、ガリウスの頭上であり、展開された風の魔法が容赦なくガリウスへと降り注ぎ、地下空間を激しく揺らす。

 魔力を知らないガリウスにとって魔法の発動を察知するのは至難の業であり、確実にガリウスには直撃した、と確信を持ったシオが更なる追撃を加えようと一瞬の()()を作り出した――刹那。



「――俺の上には、誰であろうと、立つことを、許さぬ……ッ!!!」



 風の魔法が降り注ぐ中を、未来の選択によって最低限の外傷で抑えたガリウスは凡そ人間が取るような動きとは思えない動きで抜け出して、腱を持たない逆の手でシオを掴みにかかる。

 普通であればそこから抜ける事を優先するはずが、ガリウスはシオに固執するかのように、どこか忌々しさすら思わせる風体で襲い掛かった。



「させない――ッ」


「……チッ、また弓矢か。下賤な真似をする。まずは、お前から――」


「余所見している暇、あるの?」


「俺の、邪魔をォ……するなァッ!!!」



 レイの元へと歩みを進めようとしたガリウスを阻むのは、極竜黎魔万象体を発動するシスティナ。

 身の毛もよだつような咆哮を上げるガリウスに怯むことなく果敢に攻め込んでいくシスティナの背後で、レイは静かに精神を研ぎ澄ませていく。


「……すぅ、はぁ」


 静かに番えた矢は、レイの目の先、シオとシスティナの二人を相手に身体に傷を増やしながらも厭わずに突き進まんとするガリウスを捉え、放たれる。

 レイの目はガリウスの筋肉や目の動き、些細な癖からガリウスが次に動く先を予測し、放った矢はガリウスの意識の、そのまた向こうへと到達する。未来視にさえも映らない無意識の内の被弾。それは間違いなくガリウスの身体に突き刺さって――。



「――小賢しいッ!!」



「ッ、当たらなかった……!?」



「この俺がぁ、矢が刺さる未来など有り得てはならぬッ! 来ると分かっていれば、未来を操るまでもないわ!!」



「クソッ……! レイ! 気にせず打ち続けろ!!」



 シオの声に、レイは心を再度落ち着けて弓矢を構え、再びガリウスの無意識の最中に矢を放つ。

 けれども、やはりそれもまた回避されてしまう。

 ならば、と今度は一瞬以下の無意識の内に、レイは二つの矢を放つ。これならばどちらかの矢が当たる未来を届けてくれるだろうと信じて。――けれども、それもまた回避されてしまう。


 そもそもの「矢に当たる未来」がガリウスの中で存在している以上、ガリウスは常に矢を警戒してしまい、ガリウスに生じる無意識の時間が限りなく少なくなってしまうが故に、レイに与えられた時間はそう多くは残されていない。


 今もレイの矢を警戒しているが故にシオとシスティナの二人がかりで抑えつけることが出来ているのだが、未来視と未来の選択、その両方の効果は恐らくガリウスに近しい程強く受けてしまうのだとシオは言っていた。

 ガリウスは近い者の未来をより鮮明に視る事で近接戦では無類の強さを誇るが故に、遠距離で確実にダメージを与えらるかつ、未来視を超えて届く可能性のあるレイの弓矢こそが、ガリウス討滅の鍵なのであった。


 しかし、恐れを知らぬガリウスが本気で後衛を狙いに来た場合、レイは弓矢を捨てざるを得ない。

 そうなってしまっては最後、ガリウスの粘り勝ちと言う最悪の未来が訪れてしまいかねない。むしろガリウスが優先して後衛の二人を狙おうと躍起になっている事からも、それが確定しているのが見て取れる。


 であるならば、今こそが弓矢をガリウスに突き立てる絶好の機会。

 だがそれも、ガリウスの未来視と言う規格外の能力に加え、常軌を逸した身体能力の前には叶わぬ未来となってレイ達の前に立ち塞がる。


「どうしたら……」


 絶えず弓矢を放つも、辛うじてガリウスに届いたのは数本。それも、動きに支障のない可動域の外の部位ばかり。

 こちらの余裕が無い事を悟ったのか、ガリウスが一気に仕掛けるべくシオとシスティナを振り切らんばかりに攻撃の苛烈さを増していく。


 このままでは最悪の未来が、あの男に再び奪われてしまう未来が訪れてしまう状況の中、レイはただ焦燥ばかりが浮かんできては弓矢の精度も格段に落ちていってしまうばかり。


 脂汗が滲み、息も荒くなる。

 ヒバリが心配する声も耳に入らなくなる程狭窄するそんな中。






 ――不意に、レイの肩に手が置かれる。






「落ち着くんだ、レイ君。焦っても、しょうがない」


「――ッ!? ストラウス、さん……!?」


「今から、オイラがガリウスの未来視に干渉する。言っただろ、この時の為に、オイラが着いて来たんだ、って。その瞬間、ガリウスは完全に無防備になる。そこを、狙うんだ」


「でも、未来視が……!」


「これだけは言って無かったな。実はオイラ、ガリウスの未来視には映らないんだ。オイラの過去視にガリウスが映らないのと同様に、ね。それじゃあ、行くよ――」



 レイの肩を叩いたのは、先程まで怯え切っていたストラウス。

 しかし、今レイの横を通って一歩を踏み出したストラウスは、まるで別人かのように覚悟を決めている様子で、両の手に幻想種の成れの果てである竜気の塊を呼び出す。


 すると、ストラウスはそれに何かを語りかけるかのように口を動かした後、徐にその手をガリウスへと向け、宙に翳した。


 直後、ガラスが盛大に割れるような音が響いたかと思えば、ガリウスの様子に変化が起こる。






「――ッ、未来が、消え……!? す、ストラウス……ッ、きさ、貴様ァァァァァアアアアッッッ!!!!」






「――今だよ!! レイ君ッ!!」


「はいッ!!」



 ガリウスの動きが止まり、ストラウスに注意が向いた瞬間、レイは既に矢を放っており、直後にガリウスの胸に一本、二本と矢が突き立ち、ガリウスは後退する。



「馬鹿、な……! 馬鹿な、馬鹿な、バカな、バカなあああああああああ――」



「うるせぇよ!! っとぉ」

「黙って寝てろ!! っと」



 突然の理想の未来の崩壊、それによる困惑と狂乱に戸惑うガリウスであったが、右からシオの強靭な尾による一撃と、左から襲うシスティナ岩をも貫く拳による一撃が突き刺さり、白目を剥いて後方へと吹き飛ばされる。


「マスター! やりましたね!」

「つ、疲れたよ……」


 二人の攻撃をまともに受けながらも人の形を保っているのもおかしな話だが、完全に沈黙した様子を受けて、レイ達はようやく肩の力を抜くことが出来るのだった。












ガリウス戦におけるMVPはヒバリです。

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