14 竜騎士団2年目 転生者と暗部
市長室での話はまだ続いている。
「とはいえ、君はまだ2年目だ。当面は実力をつけることを優先してもらって構わない。現時点で団長補佐という肩書によって業務内容が大きく変わるようなことはない。・・・何か新しいことをやろうとしたとき、体制や面子を盾にするものは多い。今後そういった障害を正攻法で押し通る手段の一つがこの団長補佐という肩書だ、と思ってくれればよい」
「ケイはこの一年で随分と力をつけた。それは竜騎士団団員全員が認めている。もう立派な竜騎士団団員だ。だが他部署から見たとき、ケイは2年目の若造。竜騎士団内の戦闘能力序列でも未だ最下位だ。そうなると色々と侮られることもあるだろう。ケイの成長を外から見える形にしたかった、というのもある」
ケイは自分が評価されていると理解し、うれしくなった。
市長は時計をちら、と見て言った
「すまないが、そろそろ別の予定の時間だ。色々と情報が多く、整理がついていないこともあるだろう。今日はこの辺で終わりとしよう。いいか?」
「はい」
団長とケイが頷くのを見て、市長は次の予定を口にした。
「カイとは定期的に会合を持っている。これからはケイ、君も参加するように」
「わかりました」
「よし、では退出してよい。竜騎士団には期待している」
「はい」
「はい」
「カイ、フォローを頼む」
「ああ、分かった」
ケイと団長は立ち上がり、市長室を去ろうとした。そのとき、不意に市長が言った。
「おっと、お茶とお菓子は食べていけ。残していると秘書が悲しむからな。・・・ケイ君、気づくことはないか?」
話に集中してあまり意識が向いていなかったが、改めて見ると普段出されるお茶菓子とは違う。普通に食べてしまったが。
「カステラでしょうか?」
「そうだ」
この世界にはカステラに似たお菓子は存在するが、あの紙をペリペリするザラメのカステラにお目にかかったことはなかった。それがこの部屋で出てきたということは・・・
「市長お手製ということでしょうか?」
「はは、それは違う。秘書が自身の記憶を基に再現したものさ」
扉から秘書さんが入ってくるところだった。
ケイも見たことはあるが、彼女も転生者だったとは。
「お菓子作りの記憶を持っているのでね。重宝しているよ。何か食べたいものがあればリクエストするといい」
秘書さんは3人が何の話をしていたか、なんとなく理解したらしい。
「ご要望にお応えできるよう努めます。お気軽にお申しつけください」
「はい、機会があれば、ぜひお願いします」
「ちなみに、カステラはカイのリクエストだ」
「そういうこと」
市長と団長が笑っていた。ケイを気遣って雰囲気を軽くしてくれたようだった。
団長とケイは秘書と共に市長室を退室した。
秘書と別れた二人は、詰所へと戻る前に少し話をすることにした。
市庁舎には機密事項のやり取りをするための防魔防音の会議室がいくつかある。そのうちの一つに入った。
「市長の話は理解できたかい?」
「はい、内容は理解できたつもりです」
「それはよかった」
「さて、ケイが聞きたかったことについて簡単に話しておこうと思ってね」
「はい。私の友人たちのことです。転生者なのでしょうか?」
途中で一旦飛ばした話題について、単刀直入に質問した。
「私が会ったことがあるのはカオリさんだけだが、彼女は違う。あと、ケイの同級生の友人には転生者はいない、はずだ」
「そう、ですか」
最も知りたかった人物についての情報が得られ、ケイはほっとした。
「じゃあどうしてカオリさんがマヤと、竜騎士団と親しいのか疑問があると思う。だがそれを私から言うのはやめておくよ。マヤか、カオリさんに聞いてほしい。」
「何か事情があるんですか?」
「いや、マヤに怒られそうな気がする。勝手なことをしないでください、って。それに私も事情を全部知っているわけではないからね」
「わかりました。直接聞くことにします」
「おっと、注意点だ。カオリさんには転生者のことは内緒にね」
「はい」
転生者とは関係のないところで竜騎士団とつながりを持つ、というのがいまいちピンときていないケイであった。
団長は、話題を変えてきた。
「さて、もう一つ。別の相談もあってね」
「何でしょうか?」
「ツララさんのことだ」
「彼女も当然転生者なんだが、竜騎士団入団の背景が特殊でね。まず、学校に通っていない」
「確か、1〇才だと」
「そうだ。しかも暗部出身。色々な事情があってね」
「はい」
「先ほど市長が言っていたとおり、帝都から転生者リストが送られてくるんだが、極稀にそのリストに修正が入る。20才未満の人物名が消えたり、10才の人物名が突然追加されたり、だ」
「修正ですか。では転生者は生まれたときから把握されているということでしょうか?」
「基本的には、その通り。生まれたタイミングと、リストが送られてくるタイミングによるけどね」
前置きでこの話をしたということは・・・
「何となく察したと思うが、ツララさんは今回のリストで追加された。しかも覚醒済ということだ」
「それが、今回の背景・・・」
「通常であれば、転生者としての扱いをする状況だ。幼年学校卒業のタイミングで領都の学校に入学させて、暗部の護衛兼見張りをつける。だが、今回は対象者自身がその暗部だ。しかもあの年で暗部の中でも指折りの実力。いわゆる天才ってやつだ」
「実はもっと小さいころに覚醒していて、その結果天才になった、というのでは?」
「そうだったら、よかったんだけどね」
団長は困ったような表情で腕組みをした。
「調査の結果、本当にこの一年で覚醒したという結論に至った。若く才能に秀でた暗部の天才が、覚醒済転生者になってしまった。しかも、成人以降の前世の記憶を持っている」
「・・・」
「関係者の間では暗黙の事実なのだが、暗部には転生者に対する抑止力としての役割もある。転生者が悪影響をもたらす場合に‘処理’することもある。そのため、特殊な技能を秘伝として持っている。
だが今回、監視するものが監視されるもの、に立場を変えてしまったわけだ。だからと言って監視をつけようとしても、余程の手練れをつけないと監視していることがバレる。自分がこれまでやっていたことだからね」
「彼女は、自分がいままでやってきたことの意味を知ってしまった・・・」
「そう。困った上層部が出した結論は、先送りにすることだった」
「先送り、ですか」
「領都の学校入学の年齢にはあと一年の余裕がある。その間、試験的に竜騎士団に入団させて一年後にどうするか決めようということだ」
「それはまた・・・問題は解決していないような気がします」
「その通り。ただ、竜騎士団に入れば、暗部の監視を外す名目ができる。転生者たちが周りで見張るから、という理由でね。」
「少なくとも、一つは問題が解決するというわけですね」
「彼女は現時点でも有能だからね。実力的に竜騎士団に仮所属してもやっていけると思う。聞き取り調査にも協力的だ。クロカゲの下につけようと思ったが・・・」
そこで団長は言葉を区切った。一呼吸置いて、ケイの目を見て話を続けた。
「彼女は表向きケイの部下にしようと思う」
「え?私ですか?」
「ああ。この理由はいくつかあるが、一番大きいのは、クロカゲに余裕がない。クロカゲは今もフルに動いてもらっている。もちろん彼女には、諜報活動の実務的な部分をクロカゲから学んでもらうが、その他の教育まで任せる余裕はない」
団長は判断の理由を説明し始めた。
「初期教育についてはマヤにお願いすることもあるが、この1年は仮所属だから、書類手続きを厳格に覚える必要はない。となると、竜騎士団の心構えというか、竜騎士団としての自分の高め方、周りとの接し方についてのフォローが重要になる。そこを、ケイ、君にお願いしたい」
「・・・」
これは大変なことを言われているぞ、とケイは思った。自分自身、まだ竜騎士団として研鑽を積まなければいけない状態で、後輩を指導することになる。
少し考える時間をもらおうか、弱気になってきたケイであったが、団長はさらに押してきた。
「すまない。だが、ケイが適任なんだ。竜騎士団改善の練習として、1年間やってもらえないか?」
ケイは先ほどの市長室のやり取りを思い出した。そして、何の根拠もないが、直感的に思った。ここで断ってしまう自分には、組織的な改革などできない。恩人である団長の頼みであれば。
「わかりました。彼女の指導、やります」
「そうか。やってくれるか。ありがとう!」
団長が嬉しそうに、安心した様子を見せた。
ケイは、最後に一つ質問をした。
「ちなみに、クロカゲさんは転生者ではないのですか?」
「クロカゲは転生者に関する事情を知っているが、転生者ではない。そういう意味では、クロカゲも異端だな。元暗部の転生者は正真正銘ツララさんがはじめてだ」
ケイはその後、団長からツララに関する追加情報を教えてもらい、詰所へと戻った。
竜騎士団2年目、初日の出来事であった。




