13 竜騎士団2年目 転生者
市長と団長による話は続く。
ケイは頭をフル回転させて話についていく。
「帝国内では時折転生者が生まれる。転生者はその名の通り、別の世界の記憶を持っていることが多い。その知識を用いて特殊な能力を開花したり、画期的な道具を作ったりするため、適切に保護する必要がある。竜騎士団は転生者の隠れ蓑という側面もある」
二人はケイが言葉の意味を理解できるまで待っているようだった。
市長の話、色々と聞きたいことがあるが、ケイは順番に聞くことにした。
「すいません。その言い方だと前世の記憶を持っていない転生者、がいるんでしょうか?」
「ああ。実際、ケイは領都に来る前、記憶が蘇っていななかっただろう?」
団長が口にした言葉に、ケイはさらに驚いた。
自分が転生者だと理解したタイミングまで把握されていたからだ。
「今まで秘密にしていたことは申し訳ない。全部わかっていたんだ」
「いえ・・・それはいいんです」
申し訳なさそうにする団長に対し、ケイは気にしていないことを告げた。
市長がフォローするように告げる。
「帝国には、転生者を特定する手段がある。帝都の一部人間しか知らない超極秘事項だ。そして各領にはそこから定期的に情報が送られてくる。どこの誰が転生者か。覚醒しているかどうか。記憶を思い出した者を覚醒者、自分が転生者だと気づいていない者を非覚醒者と分類している」
市長は続けた。
「そして、転生者は一定の年齢になると竜騎士団が常駐する都市に集められる。覚醒者、非覚醒者は関係ない」
「自分は別の町生まれなのですが、領都の学校に入学したのは、集められたから、ということですか?」
「その通りだ。君の場合、町長殿を通してご両親に話を通した」
「町長や私の両親は、このことを知っているのですか?」
「当然、町長殿やご両親は転生者云々ということは何も知らされていない。辺境伯の名で、君を領都の学校に入れるよう勅命が出され、それに従っただけだ。優秀な才能を持つ人物を領都に集める、というのが表向きの理由だな」
そこで6年越しの疑問が解決した。両親が幼年学校卒業前に急に領都の学校に進学するよう告げたのは、こういう背景があったのか。
「ということは、私の同級生たちにも転生者がいるということでしょうか?」
ホノカ、カオリ、ウルハ、ガイ。4人とも別の町から領都の学校に進学のために上京していた。特に、カオリは竜騎士団メンバーと裏でつながっていた。怪しい。
「高度な教育環境がそろっている各領都に優秀な人物を集めて教育する、という方針は帝国の教育政策として公表されている。そこに転生者を紛れ込ませている形だ。全員が転生者というわけではない」
「だから、非覚醒状態の転生者よりも非転生者の方が優秀、という場合の方が多いんだ。・・・おそらく、ケイは今プライベートの事情で疑問を感じていると思う。それは後で説明するから一旦本筋の話を続けさせてほしい」
「あ、はい。分かりました」
カオリたちのことは後で団長に確かめよう。
「話を続ける。転生者の覚醒時期、覚醒のきっかけには個人差がある。実績として、5、6才で覚醒するのが最も多い。早くて2才、遅くて17才という記録がある。きっかけは千差万別だ。大怪我を負ったとき、大病にかかったとき、中には、乳歯が抜けたとき、風呂の中で背中に水滴が落ちたとき、という報告もある」
「ケイの場合は、大怪我を負ったとき、が相当するね」
死を意識しないと覚醒しないわけではない、と聞き、ケイは複雑な気持ちになった。
もっと簡単に覚醒したかった。
「覚醒時期が早い方が有利であることは分かるな。前世の知識を活用できる時間が増えるわけだ。だが、そこでもう一つ、重要なことがある。思い出す内容だ。これも各々違う。・・・だが共通している事項もある。30才までの記憶しか思い出せず、前世の自分が死んだ記憶がない。」
ケイにとっても、それは当てはまっていた。大学を卒業、就職して、会社で管理職になったあたりまでしか思い出せない。
「30才までを思い出す者、12才までしか思い出せない者。記憶の量は各々違う。一般的に、30才に近い記憶を思い出せた者の方が優秀である傾向が強い。有用な知識を持っていたり、モチベーションが高かったりだ。ただし、一癖ある性格をしていることも多い」
ケイにもこの理由が何となく分かった。大人になった記憶を持っているからこそ、高等教育や仕事で得た知識を使って2度目の人生を有意義にしようと、後悔したくないと頑張るのだ。
小学生が幼稚園をやり直したところで、ちょっとした知識の差でマウントを取って、お山の大将になるのがせいぜいだ。
市長と団長はケイが納得するのを待って、言葉を続けた。
「ケイのこれまでの行動から、より30才に近い記憶を持っていると推測している。私も、セージもそうだから」
「・・・はい。その通りです。会社で働いていた記憶があります」
「君が持っている知識は興味深いが、それは一旦置いて、話を戻そう」
少しほっとしたような雰囲気を見せた市長は、話を続けた。
「転生者はよっぽどのことがない限り、領都の学校卒業までは監視の下自由に過ごさせる。この、よっぽどの場合、というのは、覚醒済の者が、自分が転生者であることを言いふらしたりするような場合だな」
「監視というのはどういうことでしょうか」
「その名の通り、‘暗部’が護衛件見張りをしている」
「念のため言うと‘暗部’は転生者だとかの話は知らない。あくまでも重要人物として任務を行っているよ」
ということは、ケイは見張られていたのか。気づかなかった。
「覚醒済であっても、転生云々を口外していない者には、卒業前に接触する。そして適性に応じた部署に振り分ける。卒業時点で未覚醒の者は、念のため20才までは監視が継続され、その後対象者から外れる。もっとも、18才以上での覚醒報告は未だないが」
「ケイは最初から竜騎士団を目指してくれたからね、我々としては苦労がなかったよ」
ここで市長と団長は話を止めた。ケイは、これまでの内容を消化する時間を取ってくれているのだと思った。
市長がテーブルの上のベルを取って鳴らした。
ほどなくすると、ワゴンにティーセットを載せた職員が市長室へと入ってきた。秘書さんだ。
秘書は飲み物を出すと、一礼して部屋を出て行った。
「飲むといい。菓子もうまいぞ」
とういうと、市長はカップに手を付けた。団長も飲み始めたので、ケイもいただくことにした。
お茶菓子を少し食べ、市長が話を再開した。
「さて、先ほどまでが転生者について。今から話すのが、転生者と竜騎士団についてだ」
「はい」
「転生者の中でも有能なもの。早く目覚め、専門の知識を持ち、それを身に着け、磨いたものが振り分けられるのが2つの騎士団。具体的には帝都の近衛騎士団と、各領の竜騎士団だ。どちらに所属するかは領主の裁量に任されている。
基本的には、人格的に問題がない者を近衛騎士団、一癖ある者は竜騎士団に振り分けている。領の代表だからな。実力が高くとも、人間的に問題がある人物を近衛騎士団に推薦することはできない」
「なるほど」
近衛騎士団が帝国最強と言われている理由、竜騎士団の面々のくせが強い理由。色々な意味で納得である。
近衛騎士団に入った先輩は、確かに強くて人格者だった。
「竜騎士団を貶すつもりはない。有能な転生者だからこそ、特殊個体の単独討伐、などという無茶な任務をやり遂げることができるのだから」
市長は、そこで一旦話を止めた。
カップを手に取り、口へと運ぶ。言葉を探しているようだった。
「では、ここからが本題だ」
「はい」
「転生者についての事情を知る者にとって、竜騎士団は近衛騎士団になれなかったつまはじき者の集まり、という認識だ。私はそれを変えたい」
「・・・」
「私はもともと近衛騎士団に所属していた。近衛騎士団団員の実力はたしかに素晴らしかった。だが、我が領の竜騎士団団員がそれに劣るとは思わない。むしろ、ある面では近衛騎士団を凌駕している」
団長は黙って聞いているようだった。
「違うのは組織としての力だ。騎士団員全員、さらに外部の人間も含め、一致団結して物事にあたる近衛騎士団に対して、竜騎士団の組織力は皆無と言っていい」
そう言う市長は少し悲しそうだった。
「私の前任者、前市長は、2代前の前任者と比較して転生者に対する理解に乏しかった。転生者は有能な歯車、という認識しかなかった。それは仕方ないことかもしれない。転生者は得体のしれないもの、というのは事実なのだから。だが、上に立つものの認識によって、竜騎士団は本当に歯車に変えられてしまった。特殊個体を見つけ、殲滅するだけの歯車だ。」
「今はいい。カイの強さは圧倒的だ。カイ以外にも、歴代最強レベルの戦闘能力を持つ団員ばかりだ。生半可な特殊個体は苦も無く討伐するだろう。だが、5年後はどうか?10年後はどうか?今のメンバーで、このやり方でずっとやっていけるのか?」
「・・・」
「カイが太刀打ちできないような、大災害レベルの特殊個体が今発生すれば、領は壊滅的な被害を受けるだろう。いずれ‘勇者’が出てくるとはいえ、国レベルの手続きが必要になる。その間の被害は免れない。組織力が皆無の今、カイが負けるというのは領の負けに直結する」
「・・・」
「私はこの土地が、この土地に住む人たちが好きだ。守りたいと思う。同時に、転生者として、転生者の力を有効に使いたいと考えている。私が市長の間はバックアップもできる。だが私がいなくなった後、理解の乏しい市長が、竜騎士団を意図せず弱体化させることがあるかもしれない。そうなったとき我々の安全は脅かされる」
「・・・」
「長くなったが、君を団長補佐に任命したのは、この竜騎士団の現状を変えたい、という思いからだ。外から変えられた組織を、更なる外からの力で変える。だが、それによって内外で反発も生じるし、関係者各々にも言い分もある。繊細で、難しい取り進めになるだろう」
市長はケイの目を見た。
「君に関する報告を見たが、覚醒以降、そのあたりを実に上手くやっている。竜騎士団マネジメントに協力してほしい」
市長がケイに頭を下げる。
ケイは何かが始まる予感がしていた。




