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リーリカは泣いた



 見つからない。





 見つからない。





 見つからない。





 見つからない。





 見つからない。





 見つからない。





 見つからない見つからない見つからない見つからない見つからない。





 一诺(イーヌオ)とナージャの失踪から一週間以上、どころか半月が経過し、リーリカは礼拝堂に浮いているデウス・エクス・マキナに怒鳴り散らす。



「どこに居るのよお姉様は!」


「うるっせ」


「捜しても捜しても見つからない! 予知でもまったく視えてこない! でもアンタなら知ってるでしょ!? 知ってるはずよね!? だってアンタ、全知全能の神なんでしょ!? 違うの!?」


「いやだからうるっせえっての」



 無表情のまま溜め息を吐いたデウス・エクス・マキナは、逆さの状態で天井に足をつけた。

 つま先立ちのようにも見えるが、足が鉄で出来ていて、先の方が尖っているせいでそう見えるだけだろう。

 髪が重力に従う事も無いまま逆さになったデウス・エクス・マキナは、いつも通りの無機質な目でリーリカを見た。



「既にこの機械装置の役目は終わってんだよ。この機械装置からお前に対して何かを言う事はねえ。既にエンドは決定したんだ」


「じゃあなんのエンドなのよ! どうやったら回避出来るか教えなさいよ! いや、違う、そうじゃなくて」



 リーリカは思わず頭を抱え、髪をくしゃりと手の中で乱す。



「お姉様が帰ってくるならそれで良いけど、このエンドでお姉様は!」


「帰ってくるわけねーだろ」



 神はさらりとそう言った。



「しかしまあ、このルートに入るだろうとは思ってたが、やっぱこのルートになったな」


「じゃあアンタ、わかってたって事!? お姉様があの野郎に誘拐されるって!」


「誘拐じゃねーんだけど」


「何で回避する為の方法を言ってくれなかったわけ!?」


「ちまちまアドバイスはしてたはずだぜ。お前が聞かなかった、そして気付かなかっただけでな」



 天井からジャンプしたデウス・エクス・マキナはそのまま床に落ちるでもなく、海の上で揺蕩うように空中に寝転がる。



「ま、ナージャが幸せになれるルートなんだから良いだろ、これで。既にこのルートは確定してんだから抗うなっての。この機械装置にしっかり見せろ」



 こちらの人生を、そしてナージャの人生を観劇としてしか認識していないとわかるデウス・エクス・マキナの言葉に、リーリカはギリッと歯を食い縛る。



「……観測者気取りが」


「気取りじゃなく、観測者なんだよこの機械装置は」



 ……ホンット、応答が毎回毎回癪に障る言い方なのどうにかならないのかしら……!


 相変わらずの無表情かつ抑揚ゼロの棒読みで紡がれる言葉に、リーリカは苛立った。



「回避方法」


「あん?」


「だから回避方法よ! お姉様が帰ってくるようにする方法は!? この世界で生きてるんだから、出来るでしょうそのくらい! アンタがお姉様の居場所を教えてくれさえすれば!」


「既に決まったルートを回避する方法なんざ、観測者でもあるこの機械装置が教えるわけねぇだろ。大体教えたところで無駄に終わるんだよ、このルートじゃ」


「はあ!?」


「お前、もう詰んでるし」



 ……詰んでる?


 どういう意味かと問おうとした時、礼拝堂の扉が開いた。



「リーリカ? 何か叫んでる声が聞こえたけど……大丈夫?」


「……カーナ」



 入って来たのは、カーナだった。


 ……チッ、デウス・エクス・マキナは今の隙に消えやがったわね……。



「…………何か、進展があったりした?」


「いやまったく。痕跡すら皆無で、父さんも母さんも憔悴しちゃってる」



 カーナは頭を掻きながら、ハァ、と溜め息を吐く。



「それでリーリカは大丈夫かな、ってさ。最近学校で見る度にどんどん弱って来てるし、今日なんて子供達がわざわざ俺のところに来たよ」


「チビ達が?」


「リーリカの恋人でしょ、って」


「恋人じゃないってのに、アイツら……」


「俺は嬉しかったけど」


「?」



 にっこりと微笑んでいるカーナはリーリカへと歩み寄り、そのままぎゅうと抱き締めた。

 わりとよくカーナに抱き締められているリーリカは慣れもあり、よくわからないままその腕の中に収められた。



「……ねえ、リーリカ。凄く嫌がるだろう事、言っても良い?」


「何よ」


「姉さんの事は、諦めようよ」


「…………!」



 ぶわり、と怒りが体内を駆け巡ったような感覚がした。

 諦めよう、なんて。


 ……諦められるわけ、ないじゃない……!


 でもカーナは、ナージャの弟。

 きっとカーナの方がリーリカよりも辛い気持ちを感じている。

 そんなカーナが、リーリカが嫌がり怒るだろうというのを理解しながらも言ったのだ。


 ……理由が、あるわよね。



「……何で、諦めようってなるのよ」


「見つからないから。父さんと母さんも憔悴してて、リーリカも酷く憔悴してて、このままじゃ良くないよ。捜す事自体は良いけど、このまま全力で、身を粉にして捜し出そうとするのは、体を壊しちゃう。そうなったら元も子もない……違う?」


「そう、かもしれない、けど……」



 でも、捜さないと見つからない。



「俺はリーリカが好きだよ」


「知ってるわよ。何今更」


「うん、そう言うのはわかってたから改めて言うけど」



 カーナはリーリカを抱き締めたまま、顎を持ち上げ視線を合わせる。



「俺はリーリカの事が、恋愛の意味で大好きだよ」


「……は?」


「告白された顔じゃないなあ」



 カーナはへにゃりとした笑みを浮かべていた。


 ……確かに今のはちょっと酷かったわね。


 信じられないものを見る目で睨みつけてしまった。

 いやでもタイミングが悪過ぎると思うのだ。



「何で、今、このタイミングで告白してくんのよ」


「…………怒らない?」


「怒るような理由ありきでの告白なわけ?」



 カーナは誤魔化すように明るい笑みを浮かべている。



「姉さんが居なくなって心が弱ってる今なら、つけ込めるかなって」


「最低! 最低の発想よソレ!?」


「だってこのタイミングしかないと思ったし。前からリーリカの事が好きだったのは本当だよ」



 ……確かに、何か、好意的に接してくれるなとは思ってたけど……。



「……いつから?」


「出会って間も無い頃、大親友だって言ってくれた辺りからかな。当然のように仲良くなってくれた辺りで多分惚れてた。その後指輪を貰った時に……」



 真顔で口ごもって少し考えてから、カーナは再びにこりとした笑みを浮かべた。



「うん、まあ、オブラートに包むと、そこで絶対リーリカと結婚したいなって決めた」


「オブラートに包まなかったらどうなるのよソレ」


「絶対断れないように外堀しっかりと埋めつつこういうタイミングを見計らおうかなって。つけ込めば深いところまで入り込めるし、そうしたら断られずに済むと思ったんだ」


「……それ、本人に言う事じゃないわよね」



 ハァーーーー……とリーリカは深い溜め息を吐いた。


 ……まあでも、正直に言ったのは良い事かしら。


 黙ったままよりかは、先に言っておいてもらえた方が良い気がする。

 そこまでして自分と恋人になりたかったのかと、そうも思えるし。


 ……カーナの用意周到さを思うと、そう思われるところまで含めて作戦な気がしてくるわね……。


 笑顔からして多分そう。



「…………他」


「ん?」


「他にも理由、あるわよね。アタシが今お姉様と会えなくなって落ち込んでるとか、それ以外にも」



 んー、と一回首を傾げてから、カーナは口を開いた。



「リーリカがうちに来てくれれば、娘が出来たと同義になる。娘を失った事で父さんも母さんも悲しんでるけど、そこに新しく娘が増えれば、少しは良くなるんじゃないかって思ってさ。リーリカ、父さん達と仲良いし」


「アタシで代理出来るわけないじゃない。お姉様とアタシじゃ雲泥の差よ?」


「平気だよ」



 カーナはリーリカをぎゅうと抱き締めてその頭に顎を乗せ、リーリカに見えないところで目を細める。



「……()、よりも()()とか()を見てるだけだし、懐いてくる方が好印象だと思う。二人は過去にするのも得意だから、キッカケがあれば良いんだ。そもそも父さんも母さんも、姉さんとはまったくもって交流無かったしね」


「そうなの?」



 一緒に居て楽しい人達だから、もう少し交流があると思っていたが。



「姉さん、昔から部屋に引きこもりがちだったから。あと性格が合わなかったんだと思うけど、外に全然出なかった。俺との会話だって、リーリカが姉さんに絡むようになるまでは数える程度。父さんと母さんも同じくらいだろうから、学校で話すチャンスが無い分、もっと交流は皆無だろうね」



 だから、とカーナはリーリカを抱き締める腕の力を強める。



「だから、リーリカが家に来てくれれば、きっと励ましになると思うんだ。きっと、ううん、必ず」


「…………そうかしら」



 抱き締められる事で温もりが伝わって、温かくて、ゆっくりした鼓動が安堵を誘うのがわかった。



「俺も、リーリカが来てくれたら凄く嬉しい」


「……そう」


「リーリカは、俺と一緒になるのは嫌?」


「嫌じゃないわよ」



 そこは即答した。



「嫌じゃないけど、でも、お姉様を過去にするような、まだそんな時間も経ってないのに過去扱いするようなのは、アタシ、アタシには」


「リーリカ」



 ぎゅう、と抱き締められる。

 既に結構な力が加えられていたのに、尚更だ。

 ちょっと痛いくらいの力で、抱き締められた。



「俺が居るよ」



 耳元で囁かれる。



「俺がここに居る。俺はリーリカから離れないし、離しもしない」



 優しく、染み込ませるような声。



「俺はリーリカを愛してるから、嫌がらない。ちゃんと受け止める。リーリカが認められないリーリカも、愛してる」



 ぐ、とリーリカの喉が鳴った。



「ねえ、リーリカ」



 痛い程に抱き締められる。



「もう、泣いても良いんだよ」



 その言葉に頭の中が真っ白になって、気付けばリーリカの目からぼろぼろと大粒の涙が流れていた。

 ナージャに万が一があったら、恐い事をされていたら、無事なのか、もう会えないのか、自分は間違っていたのか。

 それらの考えを押し殺して見ていない振りをして涙をも殺して、捜す事に躍起になって、悲しまないように、そんな現実を見ないようにしていたのに。



「う、あ、う、う、あ……!」



 異世界に生まれて、どうしたら良いかわからなくて、リーリカはナージャを幸せにするという目標を掲げていた。

 それだけが指針で、故にこそ今のリーリカは全てを見失ってしまっていた。

 ここでナージャを見つけなければ、どうすれば良いのか、どう生きて良いのかもわからなかった。

 だから現実を見ないようにして、自分をおろそかにする事で、泣いたり現状を考えてしまったりという事を拒絶していた。



「ひ、う、う、あ、ぅう……!」



 でも、もう駄目だった。

 抱き締められて優しく声を掛けられてしまえば、決壊するしかなかった。

 それ程までに、限界だった。



「カーナ、カーナ、カーナ!」



 リーリカはカーナの背に腕を回し、泣き叫ぶ。



「ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」



 カーナの背の布を裂いてしまうのではと思う程に強く掴んで、



「アタシ、アタシ! 絶対お姉様を助けるって! お姉様を幸せにするって思ったのに!」



 リーリカは泣いた。



「アタシが間違ったから! アタシが間違ったから、アタシ、アタシのせいで、アタシのせいでカーナからもお姉様を奪っちゃった! アタシが失うだけじゃなくて! カーナのお姉ちゃんだったのに! お姉様、カーナのお姉ちゃんなのに!」



 泣いた。

 涙が止まらなかった。

 声を上げて子供のようにわんわん泣いた。



「大丈夫、大丈夫だよ、リーリカ」



 強く強く抱き締められながら、すり、と頬擦りをされた。

 きっと安堵を誘う為のものだろう。

 親猫が子猫を慰めるような、そんな動き。

 体全体で覆って包み込むようにしながら、カーナはリーリカにぐりぐりと頬擦りした。



「俺が、ずっとリーリカのそばに居るからね」


「うん、うん、うん……!」



 ……ああそうだ、アタシ、寂しがりだったんだわ。


 ずっと昔、姉と手を繋いであちこちに行った事を思い出す。

 姉と手を繋いでいないと嫌だと駄々を捏ねるくらい、己は甘えん坊だった。

 そう、寂しいのだ。

 親が先に居なくなってしまって、物心ついた時には姉しか居なかったから、姉が居なくなったら一人ぼっちになってしまうとしか思えなくて。

 居なくなる事が、恐ろしい。



「一緒、一緒だからね! 離れたら許さないからね!? アタシ、アタシから離れたら……!」


「だいじょーぶ」



 優しく、甘い声で囁かれる。



「俺がリーリカから離れる事は、決して無いよ」



 痛い程抱き締められる。

 ああ、これは優しさによる抱擁だろう。

 泣けないリーリカに、泣く理由を与えるもの。

 痛いから泣いているのだと、そう言い訳をさせるものだ。

 それを理解して、リーリカは泣いた。

 痛いから仕方がないという言い訳があると、そう思って子供のようにわんわん泣いた。

 子供の時よりわんわん泣いた。

 だって前世では物心ついてから、歳もそう離れていないのに一人で全部やってくれている姉に迷惑を掛けるのは、とあまり泣かなくなったから。

 今世では、既に中身が大人だったから周りの面倒を見る側で、泣く側では無かった。

 けれど今なら泣いても良いからと今までの分まで、感情のままにわんわん泣いて、カーナを離すまいとその背に回す腕に強く強く力を込める。



「……そう、決して」



 いつもより低く聞こえる声で紡がれたその言葉は、リーリカの中に安堵を生んだ。



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