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リーリカは捜す



 リーリカからすれば、あり得ない展開だった。



「……お姉様が、居なくなった……!?」


「うん」



 わなわなと震えるリーリカに、教会まで来て報告したカーナはさらりと頷く。



「な、何で!? 何でお姉様が居なくなってんのよ!?」


「さあ。俺はちゃんと親に報告したよ」


「すぐに!? すぐに報告してあの野郎のケツ蹴っ飛ばして外に出した!?」



 掴みかかるようなリーリカの言葉に、カーナは眉を下げて苦笑した。



「リーリカ、口調。女の子が言う言葉じゃないんじゃない?」


「今はどうだって良いのよそんな事! 今重要なのはそこじゃない! そうでしょ!?」


「んー……まあ、そうなんだけど」



 ガックンガックン揺さぶられながらも、カーナはまったく動じずにいつも通り。


 ……カーナは、どうしてそうも冷静でいられるわけ?


 考えられる理由をリーリカは脳内で列挙する。

 既に発狂し終わったとか、現実逃避の結果だとか、モブキャラクターだから感情に激しい波が無いとか、そういう理由が浮かぶものの結局は一般人でしかないリーリカにはどれが正解かなどわかりはしない。


 ……お姉様関係のイベントに絡む頻度が多いからこそ、実はカーナはシスコンなんじゃ説があって、アタシもそう思ってたけど……。


 この場合、どうなんだろう。

 実際はそうでは無いパターンと、実際にそうで既に相当のダメージを負ってしまったパターン。

 前者の可能性など考えた事は無かったが、しかしそれにしたって様子がいつも通り過ぎる。


 ……いくらシスコンじゃ無かったとしても、姉よ?


 リーリカは前世で、姉に育てられていた。

 両親の分まで愛してくれて、両親の分まで育ててくれて、両親の分まで働いてくれて、両親の分までリーリカを、紡の事を思い遣ってくれていた。

 そこまで歳も離れていないし、親を無くしたのは当然ながら同じなのに、寧ろ物心がついている分姉の方が大きなショックを受けただろうに、ただ世話されるだけの子供よりも全ての世話をしなくてはならなくなった姉の方がずっと大変だっただろうに、姉は紡を立派に育ててくれた。


 ……数が多いっていうのもあるとはいえ、院長先生とかのサポートがあってもチビ達の世話は大変なのに……。


 姉は最低限しか他人を頼らず、一人でそれをやってのけたのだ。

 それを知っているからこそ、リーリカは今でも姉が大好きだし尊敬している。

 つまりリーリカにとって、姉というだけで好感度が上がる存在にまで至っているという事。

 だからこそ、シスコンじゃなくても姉には強い関心を抱くものだという先入観があった。


 ……実感が無いとか現実逃避してるとか、そういう系統かしら。


 故にリーリカはそういう結論に至っていた。

 もしくは立ち塞がるパターンの一诺(イーヌオ)を知らないからだろうか、と、そういう方向に思考が向かう。



「……えーと」



 黙り込んだリーリカから視線を逸らし、カーナは口を開いた。



「実はすぐに報告、はしなかったんだよね」


「はあ!?」


一诺(イーヌオ)の様子もおかしかったし、姉さんだって相当にダメージ受けてただろ。姉さんが魔法を暴走させてたの、忘れた?」


「…………昨日の今日で忘れられるわけないでしょ」



 ……まさかお姉様の得意魔法が攻撃魔法全般だなんて、想像もしなかったわよ。


 ナージャ自身の性格や弟のカーナの得意魔法からするにやっぱり光魔法じゃないか説が強かったので、青天の霹靂とは正にこの事かと思うレベルで予想外だ。



「うん、まあ、そういう事。あんまりすぐに報告して解雇だ何だっていう事になったらさ、一诺(イーヌオ)が自棄になる可能性、あるよね」


「あるの?」


「あれで結構繊細だし」


「……あの野郎が……?」



 ……想像出来ないし、想像もしたくないわね、正直言って。


 リーリカからすれば一诺(イーヌオ)はクソ厄介な敵でしかない。

 増量版で掘り下げる云々言われていたがそちらはやる前に殺されたのでプレイしていないし、無印版はやり込んでいたもののそちらに登場する一诺(イーヌオ)はほぼ完全にラスボスとして君臨している。

 一応ルートによっては会話する事もあったが、登場は大体ナージャが話題に出す程度。


 ……そういや会話するルートの時も、主人公はあの野郎に対して言いようの無い不信感を感じてたっけ。


 あの野郎を嫌うこの感覚は本能とかそういう系なのだろう、多分。



「……でも繊細って、お姉様の方が繊細だと思うわよ?」


「確かに、それもある。既に感情爆発させてたから、すぐに一诺(イーヌオ)に解雇宣言がされたら屋敷内で暴発しかねないって事で、多少クールダウンタイムを……ってね」



 そう言いにっこり笑って肩をすくめるカーナは、何となく演技っぽいと感じた。



「…………念のために聞くけど、お姉様の専属とはいえ十年以上の付き合いがあるからってあの野郎に対して同情だの情が湧いただの情状酌量の余地だの、与えてないわよね」


「まさか」



 きょとんとした顔で即答された。



「姉さんの事は大好きだけど、それとこれとは別だから。俺の方の整理が出来てないから報告を遅らせて……っていうのは無いよ。それは保障する」


「本当に?」


「うん。俺はリーリカ以外にそこまでの感情抱かないし」


「へえ。まああの野郎に加担さえしなけりゃそれで良いんだけど」



 ……ん?


 リーリカは何となく違和感を感じた。


 ……今何か、カーナ、何かを言ってなかったかしら。


 小声でも無かったのに普通に聞き逃してしまった。

 デウス・エクス・マキナの言葉もそうだが、少々聞き逃し過ぎな気がする。


 ……主人公補正で鈍感とか難聴状態にでもなってるのかもしれないわね。


 東洋の物を取り扱う店は輸入分が加算されて高いものの、一回行って耳かきでも買うべきだろうか。

 大事な話をあまりに聞き逃している気がするし。


 ……普通に聞き流しちゃったから、今更聞き直すのもアレだし……まあ、良いわよね、多分。


 カーナはいつも通り微笑んでいるのでただの世間話的なワードだったんだろうとリーリカは解釈した。



「ただ加担するしないは置いといて、居なくなっちゃったんだよね。一诺(イーヌオ)、翌朝までには居なくなれって言われてたんだけど、朝になったら一诺(イーヌオ)も姉さんも居なくなってたっていう」


「誘拐? 分家が主犯?」


「誘拐かは……どうかな」



 ふ、とカーナは含みのある笑みを浮かべる。



「……どういう顔よ、その含みのある表情」


「別に。誘拐っていうのは他人を騙して誘い出して連れ出すって意味だから、どうかなって、ね」



 ……つまり飴あげるからおいでとか、そういうのが誘拐って事かしら。



「強制的な手段で無理矢理連れ去ったから誘拐とは違うって事?」


「その場合略取とか拐取って呼ばれる事があるみたい」


「へえ……」



 ……今、その話してたかしら。



「って違う! そういう問題じゃないのよカーナ! お姉様の安否は!?」


「うん、一応発覚してからすぐさま分家に乗り込んでたよ、父さんも母さんも。そしたら一诺(イーヌオ)は結局戻ってすらいないみたいだったんだけど、俺や姉さんを害そうとする証拠が結構出たらしくて。今兵士とか呼んで大掃除してる」


「それ、大掃除っていう名の一斉検挙とかそういう系じゃない?」


「人間とゴミって同じ位置には居ないものだし……」



 ……カーナ、結構キッツイ事言うのね。


 やはり姉が行方不明ともなれば、その原因の一端を担っているだろう存在に対し必要以上の毒を放ってしまうと、そういう事なのだろうか。

 未だに大分シスコンの自覚があるリーリカはそう思った。



「でもそうなると、お姉様はどこへ行ったのかしら……部屋に痕跡とか無いの?」


「来る?」


「……ええ」



 カーナの誘いに、リーリカは乗った。


 ……お姉様のお部屋への訪問イベントが、まさかこんな形になるとは思わなかったわ。


 もっと素敵なイベントであって欲しかったのに。





 初めてナージャの部屋に入るという事で、リーリカはちょっぴりドキドキわくわくしていた。

 していたのだ。

 だって大好きな推しの部屋。

 どんな部屋かとわくわくしていたら、流石カーナの姉というべきか、思ったよりもシンプルな部屋だった。

 それでもカーナの部屋より柔らかい印象を与える空間だったが、しかし、壁を見た瞬間にその感情はリーリカの中から霧散した。



「……何よ、この壁」



 物が少ない為に開けている壁には、焼け焦げた跡があった。

 まだ新しいものらしく、微妙に焦げ臭さが残っている。


 ……火魔法よね、コレ。


 ただの火では無いだろう。

 だって、壁に焼け焦げた跡で文字が書かれているのだ。


 ……漢字だから東洋系だと思うけど、日本語じゃないわよね、コレ……中国語?



活該(フォゥガイ)


「は? 何? ほうがい?」


「そこの文字だよ」



 まったく理解していないリーリカに苦笑し、カーナは焦げ跡で書かれた文字を指差した。



活該(フォゥガイ)……状況からするに、意味としては「ざまあみろ」ってところかな」


「は!? つまりあの野郎の開戦宣言か何か!? お姉様を攫ってざまあみろって、そういう事!? 宝は頂いたとかほざく怪盗気取りか何かなのあの野郎!」


「んー……」



 カーナは怒りに叫ぶリーリカを見て、眉を下げながら笑う。



「……カーナは火魔法を得意としてないし、マッチの火くらいの火しか出せなかったから、こんなのを書けるはずがないんだけどね」


「そんなの、今まで魔法が使えない振りをしてたって事じゃないの?」



 ……だって、中国語でこんなのを書き残せるのはアイツくらいしか居ないじゃない!



「ま、リーリカがそう思うなら良いとして、あっち」


「?」



 カーナは部屋にある大きな窓を指差した。


 ……さっきから不思議に思ってたけど、何であの窓開いてるのかしら。


 焦げ臭さを抜く為の換気だろうか。



「この部屋さ、念の為にって今朝の状態そのまんまにしてあるんだ」


「……え、つまり」


「そ。窓はその時から開いてた。多分ここから出たんじゃないかな」


「前に窓から入ろうとした事あるけど、この部屋って周囲に木も何も無いわよね!?」


「うん」


「つまり魔法が苦手っていうのは完全なるホラで、風魔法か何かを使って着地したって事じゃない……あの野郎! アタシに色々ほざいてた癖にやっぱりアイツ自身が一番の敵じゃないのよ!」


「あ、そういう受け取り方になるんだ」


「は?」



 どういう意味かとカーナを見ると、いや、とカーナは首を振る。



「普通抱き上げるにしろ、姉さんが暴れれば魔法を使ってても無事に着地なんで出来ないと思うんだけどなーって」


「夜だったんでしょ? なら寝てるお姉様を誘拐したとかがあり得るわ」


「……ふぅん、成る程」



 カーナはにこり、と微笑んだ。



「まあ、この件に関してはいいや。で、リーリカはこれから」


「今すぐヴァレーラ先輩のトコに行って報告してから人海戦術使いつつ聞き込みするに決まってんでしょ!? お姉様連れてる東洋人なら聞き込みですぐわかるわ! 舐めんじゃないわよあの野郎! 明日学校が始まるまでに絶対とっ捕まえてお姉様を保護してみせるんだから!」


「了解。じゃ、マショー家まで案内するね」


「お願いします」



 方向音痴の自覚があるリーリカはカーナにペコリと頭を下げた。

 そんなリーリカを見るカーナは、普段眠そうな顔が多い彼には珍しく、実に嬉しそうに楽しそうに、にこにこと微笑んでいた。

 もっとも、頭を下げていたリーリカはその顔に気付けなかったが。





 マショー家に行ってヴァレーラに、そしてマショー家に宿泊していたラヴィルとゴーシャにも事情を伝え、それぞれで聞き込みをするもどうにも上手くいかない。



「だーもう! どこ行きやがったのよあの野郎!」


「どうどうリーリカ。口が悪いよ」


「悪くもなるわよ!」


「しかし、本当にどこに行ったのかわからんな!」



 最初一人で聞き込みするも上手く言葉を伝えられなかったヴァレーラは、その後ふらふらしがちなゴーシャを掴まえて聞き込み要員として背中に背負った状態で動き回っていた為、汗だくで近くの縁に腰掛けて空を仰ぐ。

 微妙にのけ反るような体勢だが、恐らくおんぶする事で少し丸まっていた背中を伸ばしているのだろう。


 ……まあ人ひとり背負いながらマフラー装備で走り回れば、汗だくにもなるわよね。



「聞き込みをしてもまったく情報がありませんでしたからねぇ……」



 大量のドリンクを手に持ったゴーシャはヴァレーラに背負われていた為か氷属性だからか、特に汗は掻いていない。



「あ、これ近くの屋台で値切って買ったドリンクですよぉ。背負ってもらうなんてかなり久々だったので楽しかったです~」


「ああ、助かる」



 ドリンクを配るゴーシャから、一つだけある大き目サイズのドリンクを受け取ったヴァレーラは一気に呷り、


 ……あ、噎せた。


 ヴァレーラはゲホゴホ噎せていた。

 リーリカはゴーシャから受け取った普通サイズのドリンクを飲んで水分補給しつつ、ぼんやりとそれを見つめる。

 動き回って聞き込みをしたというのに情報が欠片も無いという現実に、正直尋常じゃない疲労感が襲ってきているのだ。

 ぐったりと座り込むしか出来ない。



「ラヴィルも~……えっと、大丈夫ですかぁ?」


「無理ぃー……」



 ラヴィルは前に堂々と体力が無いと宣言していただけあって、近くに一つだけあったベンチを占領して倒れ込んでいた。

 ベンチを占領されている為にリーリカ達は人気(ひとけ)が無いからとその辺の地べたやら縁やら階段やらに座っているが、致し方なし。

 そのレベルでラヴィルの顔色は酷い。


 ……アタシの方向音痴対策でカーナが付き添い、ヴァレーラ先輩は聞き込み下手過ぎたからゴーシャを背負って、ラヴィル先輩は単体で聞き込み出来るけど体力が無いもんだから……。


 五人三組で別れ、ラヴィルだけ単体だったせいだろう。

 ここまで背負う相方が居なかったラヴィルは体力の限界を迎えてグロッキー状態になっていた。

 今もゴーシャにより補助をされながら、どうにかストローを咥えてドリンクをちまちま飲んでいる。



「…………本当、どこに連れていかれちゃったのかしら、お姉様」


「まったくだ! 俺はまったく謝罪出来ていないのに!」


「謝罪に関しては現状接触禁止以前の問題だと思いますけどぉ、僕も僕でナージャ様とは少しお話をしてみたかったので残念ですねぇ……」


「僕もー……」



 まだぐったりした様子で、ラヴィルはへろへろと挙手した。



「お礼とか言えてないし、手紙で伝えようとした日に大変な事実が発覚しちゃったからねー……」


「それにしても」



 早くもドリンクを飲み終えたカーナは、目を細めて小首を傾げる。



「馬車を取り扱ってるところに聞き込みしても、全滅だったね」


「まったくだわ! 昨日の夜中に出た人は殆ど居なかったし!」



 一応何人かに話を聞いたが、どれもハズレだった。

 背丈が似ている二人組は居たようだが、未亡人貴族とそのお付きとか明らかに違うし。

 まず性別から立場から何から何まで全て違う。


 ……無理矢理連れ去られてお姉様が協力するとも思えないし、もし二人組だったならお姉様の協力が必須だろうから、まず大前提で二人組って部分を選択肢から外すべきよね。


 寝ているナージャを袋とかトランクに詰め込んでいるという可能性はあり得るので、大きな荷物を持った客を探した方が良いかと思った。

 しかし大きな荷物を持っているのは先程の未亡人貴族とお付きか、夜便で村まで帰る五人ファミリーという二組のみ。

 流石に五人ファミリーに混ざっている可能性は無いだろうし、未亡人貴族の方は普通にあり得ないだろうから容疑から外れる。


 ……つまり、詰みよね。


 馬車以外の手段で出たか、もしくは馬車を自分で用意してたか、という辺りかもしれない。



「……っていうか分家に帰ってない癖にお姉様だけはしっかり誘拐してくとかどういう了見よあの野郎!」


「うわっ」


「あ」



 思わず力を込めてしまった為、まだ三分の一程が残っていたドリンクの器がめきょりと逝った。

 紙コップ系だったのが敗因だろう。

 中身がちょっと零れたので、隣に座っていたカーナが声を上げるのもさもありなん。



「あーもう、ちょっと待ってて。ハンカチ濡らしてくるから飲んじゃいな」


「ごめん」


「いいよ」



 言われた通りドリンクを飲み干している間にカーナが戻ってきて、空になったドリンクの器を地面に置いてからジュースに塗れた手を取られ、濡らしたハンカチでしっかりと拭かれた。

 貴族系だというのに、相変わらず面倒見の良さがカンストしている。


 ……カンストっていうか、世話をし慣れてるっていうか……。


 ペットを飼っていたりもしないようだから、貴族であるカーナが世話に慣れるタイミングなんて無かったと思うのだが。

 しかし元から面倒見が良かったりチビ達の面倒を普通に見れたりする辺り、元々そういう性質なのだろう、とリーリカは思った。



「はい、綺麗になった。次からは気をつけてね」


「ありがとう」


「うん」



 地面に置かれていた器はカーナによってゴミ箱にきちんと捨てられた。



「でもさー……」



 ドリンク効果か多少顔色が回復したラヴィルは、しかしまだ起き上がる気力は無いのか寝ころんだままに口を開く。



「僕帰ったらヤバいんじゃないかなーって思ってヴァレーラ先輩に保護してもらったけど、そうじゃなかったら一緒くたに連行されてたよねー……」


「ああ、分家の関係者はほぼ全員検挙だったか」


「近くに行ったら騒ぎになってましたからねぇ」


「本当ありがとヴァレーラ先輩……お泊まりさせてもらえてなかったら僕まで連れてかれてた……」


「一応報告しておいたから、ラヴィル先輩はこっちの味方だってわかってる分そうはならないと思いますよ」


「そうなの?カーナ」



 少しだけ頭を動かしたラヴィルに、んー、とカーナは唸る。



「まあ、多分ですけど」


「多分かあー……」


「とはいえ、仮にヴァレーラ先輩の家が駄目だった場合、アタシのとこに連れてきてたと思うから、どっちにしろあんなところに帰したりはしなかったと思うわよ? ウチなら結構部屋あるし」


「でもそれなりに人数居るから、確実に相部屋状態だよね?」


「……まあ、そうなるわね」



 流石にカーナは孤児院の様子をよく知っている。



「んん、というか、ラヴィルの家をあんなところって堂々と言うのはどうなんでしょうか~……?」


「あ、それは良いよー。僕もあの家はアウトだってわかってるもん。出ても行く先が無いから出られなかっただけで、あと適当なところに行くと権力と金で面倒な事しそうだなーって思ってただけで、問題無いならいつでも縁切りたかったし」


「わぁ」



 一般的な家族関係であるゴーシャはちょっと驚いたようにそう言った。

 いや、表情はあまり変化していないが。



「ならマショー家に養子縁組でもして弟になるか?」


「あ、それちょっと嬉しい。これでお父さんもお兄ちゃん達もアウトになるだろうから、その方が話早いかもしれないよね」


「それなら血縁もあるし、いっそ本家でって手もありますよ」


「いやー、それはちょっと。元々分家だったし、今回分家があんな感じだったしね。僕はナージャに敵対してなかったし寧ろ恩があったくらいだけど、うん」



 大分回復したらしいラヴィルは寝転がっていた体勢から起き上がり、ベンチの背もたれに上半身をぐだりと預ける。



「年齢的にも色々面倒臭そうだしって思うとね、マショー家の方が気兼ねしなくて良いかなあ。最近交流あるし、お父さんと違ってマショー家のお母さんとお父さんどっちも優しいし」


「……いや、あれは客人相手であって、俺には普通に厳しいぞ? よくマフラー引っ張られて首絞まるし」


「ヴァレーラ先輩の場合、厳しくされるような理由があるんじゃないかしら」


「言うな! いつだって俺はやらかしてから気付くんだ!」



 自覚があるらしいヴァレーラは耳を塞いでぶんぶん頭を振った。



「あ! ここに居ましたのね!」


「え」



 聞き覚えのある声に振り向けば、私服姿のアデリナとラーザリが居た。



「あれ、アデリナ先輩とラーザリ先輩だ。どうかしたの?」


「どうかしたのって、それはこちらのセリフですわよ!」


「俺達ついさっき帰って来たところですけど、馬車の業者の人が伝言があるって。そしたらナージャ様の従者が刺客だったとかナージャ様が居なくなったとかいう手紙渡されてどうしろって感じでしたよもう!」


「あー……」



 ……成る程、あの時カーナが聞き込み終わった業者に何か渡してたのはソレってわけね。


 本当に用意周到というか、裏方特化という感じ。

 まさか知らない内にそんな事をしていたとは。



「どうかしたのも何も無く、それが事実だ! そして俺達は足取りを捜しているがまったくもって進展無し!」


「うわっ赤マフラー」


「汗だくで何してんですのアナタ」


「見てわからんのかナージャ・ノヴィコヴァを捜してたんだ!」


「まあ赤マフラーはどうでも良いとして、そちらは?」



 ヴァレーラに対しスパッとそう言い放ち、アデリナはゴーシャへと視線を向けた。



「初対面ですわよね?」


「あ、僕はゴーシャ・ボーンです~。パトソールニチニク魔法学校の方の一年で一般人ですけど、個人的に彼らと仲良くさせていただいてましてぇ」


「成る程、ラーザリみたいなもんですわね。アデリナですわ、よろしく」


「アデリナ、確かに俺は一般の生まれですけどね……あ、俺はラーザリです。よろしく」


「よろしくお願いします~」



 ……本当にさらっと仲良くなるわね、このゲームの攻略対象達……。


 一般的な乙女ゲームだと既に知り合いだったりやたら確執があったりするらしいので、この初対面から物凄い勢いで仲良くなる辺り、結構異色なんじゃないだろうか。

 まあ恋愛ゲーム特有の初対面から物凄い勢いで仲良くなるあの感じを思うと、攻略対象側もそのくらいコミュ力がある、というのは不思議でも無いのかもしれないが。



「ところでアデリナ先輩とラーザリ先輩、途中であの野郎とお姉様っぽい人とか見かけなかった?」


「あの野郎が誰を差しているのかわかりませんけれど、とりあえずナージャ様の従者だと仮定した上で答えますがまったく見かけませんでしたわ」


「ええ、途中すれ違った馬車はありましたが、何やら物憂げな気配を纏いながら微笑みを浮かべていた貴族女性と男装っぽいお付きの方、という感じで……」


「座っているから背丈はわかりませんでしたけれど、髪色は同じだったように思いますわね。馬車内がちらりと見えた程度ですから、本当に一致していたか定かではありませんが」


「まあ性別からして別人でしょうが……うーん、他にすれ違った馬車なんてありましたっけ……」


「わたくし達が事情を知ったのは帰って来てからですもの。何も知らない状態でそうそうすれ違った方の事なんて覚えてたりしませんわ」


「意識して見てませんしね……」



 アデリナとラーザリは息ピッタリに腕を組んで首を傾げた。

 まったく同じ方向に首を傾げるのではなく、対であるかのようにお互いの方向に首を傾げる辺り、不思議な仲の良さを感じさせる。



「その貴族とお付きについてはアタシも聞いたけど、性別や立場からしてあり得ないと思うのよね」


「ですよね」



 リーリカの言葉に、ラーザリがうんうんと頷いた。



「明日からは普通に学校があるわけだし、どうしようか……多分父さん達があちこちに部下を派遣して捜させると思うし、俺達が出来るのはここまでだと思うよ」


「ちょっとカーナ! 弟として誘拐された姉に対してもうちょっとねばろうとかないの!?」


「ねばるだけ、後が辛いと思うけど」



 ……それは、それは! わかるけど! わかるけど……!


 リーリカにとって、姉とはとても大事な存在。

 カーナにとっての姉もそういう存在だと思うから、あまり強い感情を持って捜して駄目だった時、かなりのダメージを負うだろう事もわかる。


 ……それでも……。



「……アタシは捜すわ」



 だってこんなエンディング、知らない。

 増量版だろうが何だろうが、知らない話なのだから。



「諦めるもんですか」



 キリキリカチャカチャ。

 どこかから聞こえる歯車の音など、聞こえない。聞く気は無い。



「……よし!」



 ヴァレーラが赤いマフラーを翻しながら立ち上がる。



「一先ずもう少し聞き込みをしてみるとするぞ! 明日からは学校がある分今日程捜せない可能性があるが、しないよりはする方が良い!」


「あ、じゃあ僕もパトソールニチニク魔法学校の方で色々聞き込みしてみますねぇ~」


「そっか、学校での聞き込みっていう手もあるもんね! ナージャを慕ってる生徒は多いし、協力してもらえば捜しやすいかも!」


「そうですわね、わたくし達も声を掛けてみますわ。手始めに友人や、貴族の知り合いなどでしょうか」


「俺はそういう知り合い居ませんけど、お世話になってる店の人とかに聞いてみますね!」


「ええ、ええ! 頑張って捜して、何としてでもあの野郎からお姉様を無事奪還するわよ!」



 リーリカを始めとして盛り上がる彼らは、気付かない。



「…………」



 カーナがその輪に、まったく加わろうとしていない事に。



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