リーリカは決意する
舞踏会後、ナージャはしばらく学校に来なかった。
「お姉様、今日も居ないの?」
「ええ、まだ熱が下がらないらしくて……」
ナージャの居ないナージャの教室にやって来たリーリカが問い掛けると、応じてくれたアデリナが眉を下げてふぅと溜め息を吐いた。リーリカがナージャに会えず残念がっているのと同様、アデリナもまた残念なのだろう。
「というかリーリカ、アナタの隣に居るのはナージャ様の弟さんですわよね?普通にそちらに聞きませんの?」
「カーナに聞いて確定したら嫌じゃない。アタシはこの教室にもしかしたらお姉様が居るかもしれないっていう期待を抱いてここに来てるのよ」
「要するに現実を後回しにしてるだけだと思うけど」
「お黙りカーナ」
リーリカは机の上に広げていたクッキーを一つ摘まんでカーナの口の中に突っ込んだ。
現在リーリカ達は、アデリナとラーザリの机をくっつけてその上にリーリカが持ってきたクッキーを広げてシェアしているのである。要するに簡易お茶会。
どうせ話をするなら腰を落ち着けた方が良いだろうというラーザリの案にアデリナが賛成し、リーリカが丁度持ってきたからとクッキーを提供した結果だ。
尚カーナはただリーリカの付き添いで居るだけなので特に何もしていない。
「アデリナ」
「はい」
「どうも」
ラーザリはカップを持ってアデリナの名前を呼び、アデリナはそれだけで察したのか水筒から紅茶を注ぐ。
……完全に熟年夫婦のソレよね、このやり取りって……。
こういった自然なやり取りがありながら喧嘩が多くて恋人関係でも無いという辺りがモブなのにファン人気高めな理由なんだろうなあ、とリーリカは思った。
というか貴族と一般人なのにさらっとこういったやり取りが出来る辺りかなり仲が良いと思う。
……それ言っても、両方否定するけど。
お互いあてがったかのようにピッタリなのだから、いい加減仲が良い事を認めれば良いのに。
そう思いはするも、ナージャを慕う一人としては相手をライバルと認識してしまうのもわからなくはない。カーナはナチュラルにシスコンっぽい感じがあるが、それでもナージャの弟枠でありカーナの性格が性格だからリーリカと大親友になれたのだ。
もしカーナがリーリカに似た性格でナージャとの仲を張り合ってくるようなら、きっとアデリナとラーザリのように頻繁に言い争いをしていただろう。
「あ、そういえば」
喉を潤したラーザリはサクサクとクッキーを食べながら、思い出したように言う。
「昨日ナージャ様の従者に会いましたよ。ほら、あの東洋人の」
「あの野郎に?」
「えっ怖いなんですか突然その目」
思わずリーリカが剣呑な目でラーザリを見ると、リーリカの一诺嫌いを知らないラーザリはビクリと肩を揺らした。
「リーリカ、リラックス。目が怖い」
「んぬぬぬ……」
隣に座っているカーナの手が伸ばされ、リーリカはぐりぐりと眉間を押された。
「目が怖いったって、仕方ないでしょ。アタシあの野郎はホンットーに大っ嫌いなんだから!」
「まあ……リーリカは東洋人嫌いでしたのね」
「東洋人は嫌いじゃないわよ!アタシが嫌いなのは!あの男!あの野郎!いっつもお姉様と一緒に居やがるのよアイツ!」
「それは従者なら当然だと思いますわよ?」
「はい、ナージャ様の場合は狙われる事も多いからこそ護衛をしっかりするのは大事だと思います」
「ナージャ様のお体のか弱さを思うと、守れる上にすぐ屋敷まで運べる方というのは大事ですわよね」
「というかリーリカ、口が悪いよ。そんな口調を孤児院の子供に聞かれて影響させたらどうするの」
「アタシの味方は居ないの!?」
「味方、と言われましても」
カップを両手で持ちながら、アデリナはうーんと首を傾げる。
「嫌う理由がありませんもの。ナージャ様もあの方のお話をする際はとても嬉しそうで、聞いているこちらが微笑ましい気持ちになりますわ」
「アタシは憎しみに溺れるわ」
「感情が強いんだよね、リーリカは」
「糖分摂った方が良いですよ」
ラーザリにクッキーを勧められたので、リーリカは素直に従ってクッキーを食べる。
……これ作ったのアタシだから勧められるって何かおかしい気もするけど、まあ良っか。
もぐもぐサクサクしながらリーリカはそう思った。
「それでラーザリ、アナタ結局あの従者に会ってどうかしたんですの?」
「そうそう、偶然買い物の時に会ったから声を掛けたんですよ。ナージャ様の容体はどうなのかが気になったので」
「!」
リーリカはそれに思わず前のめりになった。
……聞きたい……けど!あの野郎の!言葉だと思うと!真実じゃない可能性もあるし真実でも癪だし何よりあの野郎が顔を赤らめて弱ってるお姉様と一緒の空間に居るとか想像しただけで殺意が湧く!
殺意は駄目だからどうにか敵意くらいに抑えたいが、心の中の包丁を構えたくなる衝動はどうにもならない。
前世で殺された身としてあれはとても怖いし嫌なのでそんな行為をするつもりはないが、心の中で殺意を抱くくらいは許して欲しかった。実際に包丁を向けたりはしないのだから。
まあ内心でそう弁解しつつも敵意などは実際に向けるのだが。
「……あの、リーリカ?普通に怖いんですが……主に目が」
「流石のわたくしもラーザリに同情するレベルの目ですわよ」
「う、ごめんなさい」
「よしよし」
確かに睨むような目になっていた自覚のあるリーリカは素直に謝罪し、カーナに頭を撫でられた。
「それでラーザリ、ナージャ様の容体はどうだったんですの?」
「高熱はどうにか治ったようですが、まだ上がったり下がったりを繰り返しているそうです。ナージャ様、本当に舞踏会やパーティといった場所や催しにトラウマがあるんでしょうね……」
「そうですわねぇ……」
しんみりした空気で言うラーザリに、アデリナも同意なのか頬に手を当てながらふぅと息を吐く。
「やっぱりあの赤マフラーを近付ける事は出来ませんわね」
「ええ、まったくもって同意です」
そして両名とてつもなく鋭い目になってそう言った。さながら一诺の名を出されたリーリカ並みに目が鋭く、敵意に満ちている。
「実際あの赤マフラーと顔合わせをしていないはずなのに、これだけ体調を崩されるのですから」
「それに熱が上がったり下がったりという事は、心が治る事を拒絶しているのかもしれませんわ。あの赤マフラーに絡まれる可能性がある学校になど、と」
「あり得ますね……」
「まったく、実家の権力だか金だか知りませんけれど、わざわざ無理に留年までしてナージャ様の学生生活に要らぬ闇を落とすだなんて……!」
二人の中でふつふつとヴァレーラへの怒りが煮込まれているのがわかる熱を感じていると、凄い勢いで教室の扉が開けられた。
「ナージャ・ノヴィコヴァ!居るか!?先日舞踏会に来たという件から俺とお前に和解の道はあると思って……ん?居ないのか?」
「あ」
……ヴァレーラ先輩、ホンットーに持ってないっていうか、運が悪いっていうか……。
リーリカはクッキーを齧りながら、ヴァレーラへと向けていた視線を恐る恐るアデリナとラーザリへと戻す。
「……これはこれは諸悪の根源じゃありませんの」
「よくその顔を見せに来る事が出来たものです」
それぞれ赤と金の目をギラギラと光らせながら、二人は捕食動物染みた目でヴァレーラを見つめ立ち上がった。
「「いらっしゃいませ、クソ赤マフラー」」
「な、何だ?何だか知らないが物凄く嫌な予感がするような……」
「それが察せるならいい加減来るのを止めてくださいませんこと!?」
困惑した様子で呟いたヴァレーラの言葉に反応し、アデリナが噛み付くようにそう叫ぶ。
「アナタのせいでどれだけナージャ様に負担がかかっているかわからないんですか!?今だってアナタのせいでナージャ様は熱にうなされながら寝込んでいるんですよ!」
「いや、だから俺はそれに関する問題を解決する為にもナージャ・ノヴィコヴァに接触し謝罪し、そういった負担を掛けずに済むようにとだな!」
「アナタが金輪際関わりさえしなければそれで丸く収まる話ですのよ!」
「ナージャ様の心情を完全に無視してよくそんな事が言えますね!?」
基本的にガンガン行こうぜタイプなヴァレーラだが、流石に敵意バリバリな二人に責められるのは厳しいらしくたじたじになっていた。
「ヴァレーラ先輩に味方して是非ともお姉様と和解の道に行って欲しいところなんだけど……道は長そうよね」
「んー……リーリカの場合、今の会話にそういう反応しちゃう?」
「え?」
「リーリカっていうか、誰も彼もがブーメランな気はするんだけど」
「何が言いたいのよカーナ。言っておくけど、アタシ別にアンタに対して不思議属性を求めたりとかしてないわよ?」
「それは俺もわかるよ。不思議属性になったつもりもないしね」
黙々とクッキーを齧っていたカーナは、次のクッキーを摘まんで言う。
「ま、気にしないで。そのままの方が俺としては話が早く済むわけだし」
「……何か企んでる?」
「俺の将来の夢っていう、俺の幸せを得る為の計画なら」
「そういえばカーナって将来の夢があるの?跡継ぎになるんでしょ?」
「跡継ぎでも叶えられる夢なんだよ。寧ろ跡継ぎの方が良い」
「ふぅん?ちなみにそれ、アタシに教えてくれたりって」
「その内わかるよ。大丈夫、ちゃんと皆が幸せになれて、リーリカもハッピーエンドを迎えられるよう考えてるから」
「………………」
目を細めてうっすらと微笑むカーナを見て、リーリカは胡散臭そうに眉根を寄せた。
「……アンタみたいなタイプがそうやって隠し事すると、とんでもない事になりそうな気がするのよね」
「もしくは超重要な何かが発生した時に切り札を渡す役」
「あー、それっぽい」
リーリカはうんうんと頷き、話の流れに流されて先程まで感じていた不穏さをすっかり忘れていた。
・
礼拝堂では、デウス・エクス・マキナが逆さ状態の空気椅子という体勢でふわふわと浮いていた。
「おい、リーリカ」
「何よ」
「随分と機嫌が悪いな」
「あったりまえでしょ!?」
リーリカのホウキを持つ手に思わず力が入り、ホウキの柄からミシリという音がしたので慌てて力を抜く。
「何かあったか」
いつも通りの無表情にいつも通りの淡々とした声で、デウス・エクス・マキナはそう言った。
逆さ状態でありながら重力の影響下に無いデウス・エクス・マキナは、まるで天井に重力があるかのようにぶらんと鉄の足を遊ばせる。それは正に力無い人形のようで、デウス・エクス・マキナの頭部に繋がっている一際大きい歯車の存在を強調するような動きだった。
歯車はまるでマリオネットを糸で操る、木の棒のよう。
「これでも一応は神って存在やってっからよ」
腕が無い為、足をぶらんと遊ばせていると完全に人形にしか見えない。生気も腕も無い少年の見た目をしたデウス・エクス・マキナは、逆さの状態でリーリカを見つめた。
「悩みくらいなら聞いてやるぜ。それもまたこの機械装置からすればエンターテイメントになるしな。もっともこの機械装置に誰かを抱きとめる為の腕はねーんだけど」
「要らないわよアンタの抱擁とか」
「神相手になんつー言い草だ」
「うっさいわね!神だってんならわかってんでしょ!?」
……人工物だか何だか知らないけど、全知全能謳ってんだから知らないはずがないじゃない……!
「何も無いから!アタシはこんなに不機嫌なのよ!」
叫びのままに力を込めてしまったホウキの柄が、悲鳴を上げるかのように一際大きくミシリと鳴った。
「イベントがまったくもって発生しないっていうか、ストーリーがまったくもって進んでない!ヴァレーラ先輩と仲良くはなって来てるけど!ラヴィル先輩とも仲良くはしてるけど!ゴーシャとだってよく登校時とかに顔合わせては会話してるけど!何の進展も無いのよ!」
そう、本来ならもっとナージャが話を聞いてくれるはずなのに。
なのに熱が治って再び登校し始めたナージャは、相変わらず暖簾に腕押しと言わんばかりの状態。あまりに怯えを見せる病み上がりのナージャに強要しまくるのもどうかと思い押しを多少弱めているが、それにしたって進展が無い。
……ゲーム本編のシナリオからすれば、舞踏会イベントはエンディング前の最大イベントだったはず……。
しかし実際は、誰とも歩み寄っていないという現実。
カーナとの交流を多めにしつつナージャにアタックしながら他の攻略対象と仲良くなっているつもりだったが、何かフラグを回収し忘れたのだろうか。増量版対応の世界だからこそ、リーリカの知らない新フラグがあったのかもしれない。
そういった考えがぐるぐると脳内を巡り、元々あまり考え込むタイプではないリーリカのストレスが溜まっていく。
「ストーリー自体は進んでんだけどな」
「確かに舞踏会はあったけど!」
「そういう意味じゃねえんだが、まあ良いか」
逆さ状態から水平状態、つまり横向きに立ちながらデウス・エクス・マキナはそう言った。
当然のように立っているかのようで、しかし壁があるわけでもない何もない空間に立っている姿は、何ともリーリカの平衡感覚を狂わせる。
「んじゃ、役割としては一応アドバイザーであるこの機械装置が助言しよう」
「アンタの助言、役立った事無いじゃない」
「そりゃお前が意味を読み取る気がねーからだよ馬鹿」
「喧嘩売ってんの!?」
「神が売った喧嘩が人間に支払える額のはずないだろ。そもそもこの機械装置にそんな感情の機微は存在してねぇんだっつの。だからこそ感情の機微が豊かなお前達人間を見守ってんだよ」
「結局は覗き魔って話じゃない」
「そんな神からの助言、っつーか神託だぜ」
感情豊かに思える口調でありながらその声に抑揚と温度は無く、到底信用できる言葉には思えない。
「この後の展開、お前の感情のままに行動しない方が良い。関わらないのが一番だ。あの男に相談するのは最大の悪手とも言えるだろうな」
「は?」
「もっともこの機械装置としては、その舞台も観賞したいっちゃ観賞したいから、言うのはここまで。邪魔をする気はねーし。後の事は、生きてその人生っつー舞台を演じてるお前の行動次第だ」
何を言っているのかわからないと言う前に、デウス・エクス・マキナはその姿を空気に溶かすようにして消えた。
「……ほんっと、何が言いたかったわけ?アタシ達人間の人生は神様の暇潰し用娯楽とか、そういう話?」
このままではナージャを救えないかもしれないという焦りでイライラしながら、リーリカはそう受け取った。
溜め息を吐いたリーリカは掃除を再開しようとして、
「リーリカ!居る!?ここだよね!?リーリカ!?」
「っ!?」
突然扉をどんどん叩く音と、聞き覚えのある声に驚いて慌てて扉の方へと駆け寄る。
「リーリカ!」
扉を開ければ、声の通りラヴィルがそこに立っていた。
明らかに私服、どころか部屋着なのだろう服を着ているラヴィルは、酷く焦った様子だった。髪と呼吸は乱れているし、手には握り締め過ぎてぐしゃぐしゃになった封筒がある。
……こんな夜に、何があったのかしら。
「ラヴィル先輩、何があったの?暴漢?」
「ちが、違くって……」
ぜぇはぁと息を乱すラヴィルをそのままにするわけにもいかないと、リーリカは一先ず中に招き入れて扉を閉めた。
「僕、すぐに誰かに報告しなくちゃって思って、でもノヴィコヴァ本家には近寄れなくて……」
乱れた髪を指で軽く直しながら、ラヴィルは乱れた息のままどうにか語る。
「マショー家に行くのもあれだし、前に話して仲良くなったゴーシャはほぼ無関係だから、他に助けを求められそうなのはここしか無くて……」
「落ち着いてちょうだい、ラヴィル先輩。一体何を報告しに来たの?その手紙について?」
「ん、んん、いや、これは僕が書いた手紙で、ナージャに今までのお礼とか色々についてを書いたから、リーリカに渡して貰えないかなって思ったヤツで……」
……イベントじゃない!
ラヴィルがリーリカに頼む事でナージャと文通するようになるイベントだ。
尚その際一诺には見つからないように読んで、と言う必要がある。が、ナージャとの会話数が足りないと一诺に見せてしまうという問題が発生する。
それによりまたエンディングが変化する為、ランダム出現であるナージャとの会話数を条件に組み込むなと幸薄い系実況者が嘆いていたのを思い出した。
……でもこの手紙渡しイベントは学校で発生するはずだけど……明らかに知らない展開だし、これも増量版で増えたイベントなのかしら。
「あの、あのね、聞いちゃったの」
どうにか呼吸を整えたラヴィルは、言う。
「……親が誰かと、ナージャを手籠めにするとか何とかって話をしてた」
「!」
「僕、廊下で偶然それを聞いちゃって。誘拐とか刺客とか、色々言ってて。その、この手紙は見つかったら怒られるか利用されちゃうからずっと持ってて、それで思わず握って……」
ラヴィルは辛そうに眉根を寄せる。
「僕、ナージャには助けてもらった事があるから。見捨てないで助けてもらったから、僕もここで見ない振りをしないで、せめて詳しい情報だけでもって慌てて隠れて様子を見てたら、親の部屋から出て来たの、ナージャの従者のあの東洋人で……」
「……一诺、ね」
「うん」
声が低くなったリーリカに気付いていないのか、ラヴィルは視線を下に向けながら頷いた。
「前から時々何だか見覚えがある気がするというか、昔東洋人が家に居た気がしてたんだ。でも家族は東洋人嫌いだから気のせいかなって思ってたけど、ハッキリと思い出したよ。あの東洋人は、昔確かに、僕の家に居た」
「……刺客だった、って事よね。十年以上の年月、お姉様のそばに居たあの男は。お姉様に出会う前から、最初っから敵だったって事なのよね、それ」
「うん、多分、そうだと思う」
ラヴィルは折角頑張って書いたのだろう手紙を掴んだままだった為、膝の上に置いた拳に力が入ると共にぐしゃりと紙が潰れる音がした。既にぐしゃぐしゃなその手紙に、またシワが刻まれる。
「決行はすぐにでも、それこそ一週間以内にとかいう会話が聞こえて来たから、このままだとナージャが……!」
助けてもらった事実があるからか、その事実にラヴィルは酷く悔しそうな顔で涙を浮かべていた。
「……でも、すぐにってわけじゃないんでしょ?今日とか明日とか、そんなすぐにってわけじゃ、無いのよね」
「うん……そのはず、だけど。僕、どうしたら良いのかわからなくて……」
「明日よ!」
ナージャの大きな声に、ラヴィルはビクリと肩を揺らしながら顔を上げる。
「今日明日じゃないのなら、こっちは明日動けば良い。時間的に今日は無理だけど、明日の朝にまた来てちょうだい。幸い休みで勉強会の予定があったから、カーナが迎えに来てくれる事になってたし。カーナに事情を伝えて、尚且つ他にも協力してくれそうな……そうね、ヴァレーラ先輩とかに声を掛ければ手数は揃うはずよ」
「手数?」
「ラヴィル先輩っていう証人が居る。それはつまり証拠があるって事よ。そして一诺をお姉様から引き剥がしてお姉様を保護して、証拠を元に可能ならお姉様に害を為そうとする分家の解体まで……っと、これはラヴィル先輩的にアウトかしら」
「ううん」
ラヴィルはふるふると首を横に振った。
「あんな家、一回壊れた方が綺麗になるよ。ヴァレーラ先輩がいざとなったら頼れって言ってくれてるから、分家が無くなっても保護先はあるし」
「なら安心ね」
……ヴァレーラ先輩は正義感の方向性がちょっと直進過ぎるとこはあるけど、でも裏表がない性格だからこそ信頼出来るわ。
「とにかく今日はこれ以上遅くなる前に帰って、何か聞かれたら誤魔化して。仲間集めと決行は明日よ」
「明日に全部やるの?」
「当日中にやらなくちゃ、でしょ。万が一間に合わなかったら、後悔したってしきれないわ」
プレイした時に何度もバッドエンドを見たからこそ、あんなものは見たくないとリーリカは拳を強く握る。
「絶対に、お姉様に手出しはさせない」
ええ、そう。
「必ず、お姉様をあの外道共から守り切って見せるわ」
そうして笑顔を見るのだと、リーリカは心を奮い立たせた。




