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278 作戦準備


 次の日。

 ローリエ様とレティシア様、ヴィル兄様に目くらましを頼み、「ザイン」の呪文で登録しておいた飛行具を取り寄せた私は単身ロレンス家を抜け出した。

 行き先はもちろん廃塔だ。

 

「と言うわけで、道具を取りに来ました!」

「渡すわけ無いだろう!」

 

経緯と目的を説明したところ、アベルさんが綺麗にぶちギレれた。

 

「大教会に忍び込むなど正気ではない。そんなことが許せるはず無いだろう!」

「でも行くしかないんです、だって友人の家庭の危機なんです」

「許容できない」

 

 むん、と睨み合う。

 時間が無いのだ。

 

「実家に戻って〝準備〟もしないといけないんです。そこを通して下さい」

「駄目だ」

「……そりゃ、私が大教会でヘマを打ったらいろいろな魔道具のことがバレてしまうかもしれません。でもそうなる前に消し炭にしてでも隠します。アベル様のことだって言いません。頑張って作った道具が無くなるかもしれないのは、お嫌かも知れませんが」

「道具などどうでもいい」

「……へ?」

 

 てっきり秘密の流失を警戒しているのかと思ったのだが。

 アベルさんが真剣な顔をした。

 

「君に何かあったら、どうするんだ」

 

 思わず目をぱちくりする。

 

「えっ、と……」

 

 少し動揺していると、アベルさんが更に詰め寄ってきた。

 じとりと睨まれる。

 

「自分に何かあったらそれまでだ、とでも言いたげだな」

 

 ……そんなことは言わない、とも言い切れなかった。

前世も今世もいろいろなことがあった。

その経験から、私の基本方針は「後悔しないように生きる」だ。

 今回のことだってそう。レティシア様の悩みを内密に解決に導くためなら、やれることは全部やりたい。

 それは、例え危険があってもだ。

 

「無責任な子だな」

「……え」

 

 言われた言葉が飲み込みきれなくて聞き返すと、アベルさんが伏し目がちに溜息を吐いた。

 

「これほどまでに周囲を振り回しておいて、自身の危険は顧みないなど、許されるわけ無いだろう」

「……えっと」

 

 どういう意味だろうと首をかしげると、アベルさんは一拍置いてからフッと笑った。

 

「私が、帰らない君を待ち続ける哀れな人間になってもいいのか?」

「へ!?」

 

 薄い笑みを浮かべてから、アベルさんは首を振ってわざとらしく嘆いて見せた。

 

「ああ、私はとことんツイていない。やっと出来た友人に置いて逝かれるなんてな……」

「ちょっ、勝手に殺さないで下さい!」

「夜明け団の子供達も哀れだ。これと決めたリーダーが自ら鉄砲玉になろうというのだから」

「鉄砲玉じゃないですよ!」


 ぎゃんと抗議するとアベルさんはハァとふざけるのを止めた。だが苦い色は変わらない。

 

「冗談抜きでそうなる可能性もある。教会はエドムンド派閥と癒着しているだろう」

「そうですけど……」

「誰にも気づかれず縄張りに入ってきた敵の重要人物を、そのまま誰にも気づかれないうちに消しても……あるいは裏取引なんかに使っても、問題は無いと思わないか?」


 うう、とたじろぐ。

 じゃあどうすればと抗議しかけたところで、アベルさんが言った。

 

「どうしてもやるのなら、私も巻き込め」

 

 ふたたび瞬きをする。

 すると、アベルさんは苦笑して。

 

「本当なら外に出てはならない身だから、リスクは高い。姿を見られたら、問答無用で襲い掛かられる可能性もある。……だが、君に何かあったときの保険くらいにはなれる」

 

 アベルさんは、同行すると言ってくれているらしい。

 アベルさんは正式な夜明け団の一員でもないし、レティシア様と特別親しい訳でもない。

 それでも、一緒に。保険に、と。

 ……それがどうしてなのか、分からないほど鈍感ではないつもりだ。

 

「丁度ドラコンティアの調教も終わった。流石に先頭切って中に踏み込むことはできないが、私も教会近くで待機する」

「……う、ううん。でも」

 

 アベルさんはただでさえ教会から目を付けられている身だ。学園長の管理下にあるから、軟禁で済んでいるような人である。


 それなのに危険すぎると言いかけたのだが、アベルさんは言った。

 

「後悔したくない」

「……」

「君もそうなんだろう」

 

 そう言われてしまえば、私には何も言えなくて。

 口をはくりと動かすが言葉が出てこない。

 

「何事もなく、群青の薔薇を持ち帰れたらそれでいい。私もそれを願っている」

「……はい」


 不安はある。

 でも、戦力は多いほうがいい。

 悩みつつも合意した私たちは、準備に取り掛かった。


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