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279 作戦タイム


 ヴィル兄様がメンバーを呼ぶ。


「今作戦のメンバーはアリス様、僕、ヨハン、ニコラス、イヴァン様、フレッジ様、アベル様の七名です。基本は二人で一組、上空ではアベル様に状況の監視を兼ねて待機していただきます」

「はい!」


 子供達の声が響く。

 場所は廃塔の外、周りは陽が落ち始めてオレンジ色に染まっていた。


 ちなみにユレーナ、ローリエ様、レティシア様にはロレンス家に待機して貰い、ちょっとした幻術も駆使して私が「そこにいる」よう振る舞って貰っている。


 そうして昼間の間に仮眠も済ませてきた。


 レティシア様は自分も行くと言って聞かなかったのだが、事が事だ。

 彼女は夜明け団の団員の中でも一番飛行具に乗るのが苦手な方なので、今回の作戦には向いていないのである。

 寝不足や悩みもあって体調も万全ではない。だから説得して、私達の不在を誤魔化す側に回って貰うことにした。


 しかし、それだとやや人手が足りないため……レティシア様の許可をもらって理由を話し、皇都の獣人街に滞在していたイヴァン様とフレッジ様を急遽呼んだのである。


 ケモっ子の中でも抜群の身体能力と魔術の扱いを持つようになった二人は、連絡したところ二つ返事で了承してくれた。


「ご協力感謝します」


 改めてそう言うと、二人は胸を張って笑顔になった。


「いえ、協力できて良かったです。仲間の為ですから」

「むしろ呼ばれなかったら寝込んでいましたよ?」


 そんな風に会話を挟みつつ、日が完全に落ちるのを待ちながら作戦会議をする。


「偵察してきた感じ、大教会はこんな形をしています」


 ヴィル兄様が地面に木の棒でざりざりと線を引き、上空から偵察してざっと見てきた大教会の見取り図を説明し始めた。


 十字の形の建物を描いていく。


「この十字の、下の部分は大教会の前半分。大聖堂です。昼間は一般参拝者が入れるところだから薔薇はないことが確定しています。よって問題は上半分です」


 十字の下のでっぱりを×で消したヴィル兄様が、それ以外を棒でトントンと示す。


「上から見た感じ、建物の外に庭や温室、倉庫の様なものがいくつかあって、その更に外側をぐるりと高い塀が囲んでいる感じでした」


 その説明を聞いてダブルリーダーがふんふんと頷いた。フレッジ様が地図をまじまじと見る。


「庭と温室がいくつか、ですか。目的の薔薇はどこでしょうか」


 それを受けてニコラスが「そういえば」と言った。


「ガブリエラのお供で、この左側にだけ行ったことがあります。その時、この庭にはそれらしいものはなかったはずです」

「おお」


 貴重な証言に一同がざわめく。感謝しつつ、ならここは探索しなくてOKだなと左側を消した。


「じゃあ残るは右側、上の方、中庭か」

「一番ありえそうなのはこの真ん中の庭ですよね」


 ダブルリーダーがそう言うと、アベルさんが「いや」と発言した。


「本に書いてあったことなんだが……教会は群青の薔薇の他にも、いくつか貴重な薔薇を保有しているらしい。〝奇跡の群青の薔薇〟の他に、〝寵愛の赤い薔薇〟、あと本当かどうかは知らないが〝神の恩寵たる金の薔薇〟などがあるそうだ」


 それに私は少し驚いた。


「金の薔薇……」


 この世界に似たゲームのタイトルって、確か「金色の薔薇」だよな……。


 そう思いつつ意識を作戦会議に戻す。


「まぁ、その本は教会が発行した物だったから、読んだ時は権威を示すための嘘じゃないかと思ったが。しかし有っても無くても、金の薔薇専用の温室を設けていてもおかしくはない」


 なるほどと頷く。

 禁足地を作り、伝説の宝がそこに〝ある〟とするのは宗教では良くあることだ。

 特別な人間しか見ることを許されない宝は権威付けにもってこい。

 しかも教会の深部なんていう一般人が入れない場所なら、そのお宝があるのかないのかなんて誰にも分からない。


 ……しかしそうなると、目的地が少しぶれてくる。


「てっきり、群青の薔薇は真ん中かと思っていたんですが。そうなると、右か上かが分かりませんね」


 ヴィル兄様が唸る。


「実際、外の庭にあるのか、温室の中にあるのか、実在するのかも博打だしね」


 うーんと全員が首を捻った。


「あるかも分からない金の薔薇と、比較的ありそうな青い薔薇……どちらが真ん中なのでしょう?」


 うんうんと悩みつつ、まぁこれは行ってみるしかないという話になった。


 エドムンド派閥の高位貴族は教会深部に入れるようだが、ハイメ派閥は非常に入りにくくなってしまっているのが現状だ。


 〝ラーミナ大教会〟の内部は未知数。

 なら、しらみつぶしに行くしかない。


「いずれにせよ、アリス様とヴィルさんの目的地はここですね。薔薇が一カ所に集められている可能性もあると思いますし」


 そう言ってフレッジ様が中央を示した。それにヴィル兄様が頷く。


「その可能性は僕も高いと思います。ですから、一番性能の良い隠匿の魔道具を着けた僕とアリスでここを確認しようと思います」


 なら、とヨハンが地図を指さした。


「上と右周辺を探索して何もなかったら、俺たちが軽く騒ぎを起こして警備の注意を逸らし……警備が手薄になった状態で中央を探っていただくというのはどうでしょう?」

「それなら合図をくれ。私が動きを監視して伝えよう」


 それを受けて提案する。


「目当ての薔薇が無ければ発光の魔術を一回、上側と右側の両方になければ上空から合図をして、撹乱開始……という風にしましょう」


 そんな風にいくつか手筈を整理して全員が頷いた。

 そうこうするうちに、完全に日が落ちて出発時刻になって。


 ヴィル兄様が準備していた「道具」を配るために袋をごそごそし出す。


「全員、これを身につけて貰います」


 そう言ってヴィル兄様が魔道具と一緒に取り出したのは。


「……これ?」


 誰かが呟いたその言葉にヴィル兄様が頷く。


「これは本来なら秋の慰霊祭に使うものですが、上屋敷に残っていたマチルダに無理を言って仕上げてもらい、借りてきました。顔と獣耳を隠すのに丁度良いです」


 ヴィル兄様は大真面目だが、その横の私はニコォ~と笑ってしまうのを止められなかった。


「変装するのに越したことはありません。万が一姿を見せることになった時にも相手の動揺を誘えますし、印象を服の方に向けられます」


 そう言いながらヴィル兄様が服と魔道具を各々に渡していく。


「これは……」


 んんっ、とニコラスが咽せて赤くなった。

それについニマニマする。


「ニコラスとヨハンはそれですね。むふふ」

「ぼ、僕達はこれですか」


 フレッジ様も複雑そうな顔だ。

 ……ちなみに。


「私は着ないぞ」

「そう言わず」

「……」

「作戦ですから」


 そんな問答を某氏としつつ、準備を終えた私達は夜の空へと飛び立った。

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