255 廃塔入り
レイ先生が正式に仲間になり、廃塔入りすることになった。
それにあたって側近チームに事情を説明する。
特に警戒していたヴィル兄様は説得が必要だったが、内実がわかってみればなんてことはない。
「まとめると……先生はヴィランデル家に縁の深い方で、準貴族だった町医者の伝手で学園に就職活動……しかし前学園長に目をつけられ反感を買い、不本意な目にあっていたと」
「はい。そのお医者様の影響で勉学と啓蒙の大切さを知ったそうなのですが、それを熱心に学園で広めようとして、方針の違う前学園長から疎まれたそうで」
「なるほどねぇ。道理で前はあまり姿を見なかったわけだ」
今の学園長に代替わりしてからは教師仕事をまともに出来るようになったそうだが、それまでは雑用係のように扱われていたそうだ。
むしろレイガトス前学園長を恨んでいる側である。
――こうしてレイ先生を正式に受け入れることになった。
ちなみにガルシア&フィアナ先生達の方はまだ連絡が無い。
少し時間をくださいと言われたので、もしかすると実家となにかやり取りをしているのかもしれなかった。
◇
さて。
廃塔入りとなれば避けて通れないのが、アベルさんとの顔合わせである。
学園長と親しいレイ先生なのでもしかしたら何か知っているのかなと思ったのだが、そこはノータッチだったらしい。
そんな訳でアベルさんの了解(しぶしぶ)も貰って、拒否反応が出ないかドキドキしながら三人で顔を合わせたわけなのだが。
「っはぁぁあ~~~~~……良かった……!」
「!?」
アベルさんを見た、レイ先生の最初の反応がこれである。
安心したようにヤンキー座りでしゃがみ込んだレイ先生を見たアベルさんが、一歩後ろへ下がってたじろいだ。
どうやら未知の反応だったらしい。
「えーっと、レイ先生?」
声をかけると、レイ先生はしゃがんだまま安心したような顔をした。
「いや、普通でよかったと思って……。お前が“今から会う方は少し変わっていますが、驚かないでくださいね”とかいうから何が出てくるかと思ったんだよ」
「何が出てくると?」
「悪魔系の人型魔獣とか、見るからにカタギじゃないマッドサイエンティストとか」
「レイ先生は私をなんだと……?」
レイ先生からの認識に疑問を持ちつつアベルさんの方を見ると、はてなマークを大量に浮かべて混乱した顔をしていた。
今は顔合わせということでモノクルを外しているから、朱眼に突っ込まれると思っていたのだろう。しかし、レイ先生は特に気にしていない。
そんな私たちの反応を見て、レイ先生が「ああ」と声を出した。
「スラムにはたまーにいたんだよ、目の赤い奴が。大抵は表の世界に居られなくなった普通の農民だった。当人は普通の生活を望んでいるやつばかりだったよ」
なるほど、それであまり驚かなかったらしい。……そしてやはり、外はアベルさんにとって生きづらい世の中のようだ。
そんなアベルさんといえば、今は別のことに疑問を抱いて動揺しているようだ。
それもそのはずか。
……今のレイ先生の姿は女だが、声の出し方はがっつり男だったのである。
「アベルさん。この方は女性の格好をしていますが男性で、教師です。寮の女子区画の担当もしています」
「……!!?!??」
アベルさんに電流走る。さっきから百面相だ。
そうだよね、考えてみるとレイ先生って属性過多だよね。
「それは……色々と大丈夫なのか?」
「多分……。嫌がる私を無理やり抱き上げて高い高いしたりしますが、多分悪い人ではないはずです」
あえて体を抱きしめながら悲しそうに言ってみたところ、アベルさんが私を後方に隠しながらレイ先生を絶対零度の眼差しで見下ろした。
その流れにぶちギレマークを浮かべるレイ先生である。
「それは謝っただろ!?」
「やることにはやったのか。下衆な……」
「ちが……違くないけど早速誤解されてるじゃねぇか!!」
「うふふ」
「うふふじゃねえ……! 変態だと思われてんだろうが!!」
レイ先生からこっちこいやとちょいちょい呼ばれ、案の定こめかみグリグリされてジタバタする。普通に痛い。
そうしてじゃれていると、アベルさんが私達の関係性を察したらしい。
軽くため息をついて用件は顔合わせだけかと聞かれたので、本題を切り出した。
「ええとですね。こちらのレイ先生も正式に廃塔に関わっていただきます。アルヘオ文字とタロットについての情報収集もしていただく予定です」
「……待て、何故タロットの名前を出した!?」
いよいよびっくりしたらしいアベルさんに掻い摘んで説明する。
「レイ先生によると、ヴィランデル家の現当主の女性がタロットの存在を知っている可能性があるのです。ならば急がねばと、契約をして協力し合うことになったのです」
「……」
色々と情報が多くて混乱しているようだ。しかしまぁ、もう決まっちゃったからな。
相談しなかったのは不味かったかもしれないが、モタモタしてもいられない状況だ。
「実際、隠匿の首輪や飛行具と同じ……いや、それよりもさらに強力な魔道具があったのです。それを用いて契約すると、お互いの秘密を決して合意なく口外することが出来なくなります」
「そんなものが。……いや、それよりも。ヴィランデル家だと言ったか」
口元に手を当てたアベルさんが慎重そうに声を出した。




