253 秘密の共有
「グラツィアーナはこのモシュネの小箱、もしくは小箱の中身の文字を欲しがっている。ということまでは間違いないですよね」
「それは間違いない。親父は、何があってもこれだけは奪われるなと言っていた」
小箱の話に合わせて、少し先生の実家についての話をしてもらう。
――先生いわく、グラツィアーナは第二夫人として家にやってきたらしい。
グラツィアーナ本人も元々ヴィランデル侯爵の親戚にあたるらしいのだが、両親が急死して頼れる人がいなくなり、「本家ヴィランデル家に使用人としてでもいいから入りたい」と言ったのだそうだ。
親族に対して仲間意識の強い侯爵はそれを受け入れ、しかも意気投合したため、使用人ではなく第二夫人の座を与えた。
……小箱の話を聞いたあとであれば、「身内以外を血にできるだけ加えない」というのも目的だったかもしれない。
ヴィランデル家の外へ秘密が流出する可能性を可能な限り防ぐべく、本家は親戚での婚姻を繰り返してきたのではないだろうか。
そう聞くと、確かにレイ先生の母親もそうであったらしい。
……しかし第二夫人が入った後、正妻である第一夫人、つまりレイ先生の母親が病気で亡くなった。
もう謀略の匂いプンプンである。
しかし証拠はなく、グラツィアーナは第一夫人となった。
「そこから先はさっきも話した通りだ。俺も段々と衰弱して最後は部屋から出られなくなった。親父は話ができない状態で……使用人も気づけば知ってる奴は殆どいなくなって、家はグラツィアーナの天下になった」
「それは……」
まるで真綿で首を絞められるようだったことだろう。
ちらりと、ウチにもそういうメイドがいたなということを思い出した。
あのメイドは報いを受けたけれども、レイ先生の家をめちゃくちゃにした奴は……まだ上でふんぞり返っている。
「でも俺は元々気性が荒かったからな。こんなところで死ぬもんかと、隠し通路を使って屋敷を逃げ出そうとした。その前にひと目親父に会ってから行こうとして……その時はタイミングが良かったんだろう。正気の親父と出くわして、託されて、今に至る訳だ」
話し終えたレイ先生は、椅子に深く座り直した。
「で、話を戻すが……そういえば俺も、どうしてグラツィアーナが小箱のことを知っていて、しかも狙っているのか、その理由は知らないんだよな」
「そこなんですよね。代々のヴィランデル本家が秘密にしてきたものを、どうして知っているんでしょう」
そこはかなり重要なポイントだ。その知識の出どころ、そしてグラツィアーナがどこまで知っているのかはなんとしても知りたい。
そう思ってレイ先生を見ると、先生はもしかしたら……と話し始めた。
「親父の親父……のそのまた親父、つまり俺の曽祖父は双子だったらしい。で、双子が産まれるとうちは家を分けるんだよ」
「家を分ける……?」
「ああ。お家争いを無くすためとかで、双子が産まれたら、下の方を必ず子供のうちに分家にして家から出してしまうんだと。そこまで調べてなかったが、グラツィアーナはそっちの家の血を引いてるのかもしれないな」
そう考えると合点がいく。知識の流出がそこで起こった可能性は有り得そうな話になってくる。
「次に、なんでこれを欲しがっているかだが。確かにあれば便利だろうが、人を何人も殺してまで欲しいものかというと謎だよな。場合によっては自分の両親も手にかけてる可能性すらある訳だし」
「それについては……私に、思いつく動機があります」
少し緊張する。
私が話そうとしているのは、人によっては、人を殺してでも欲しい力……すなわちタロットを欲している可能性の話だ。
だがもう、腹を括ってしまおう。
どのみちこれは私とアベルさんだけで対処出来る話でもない。
モシュネの小箱での契約もするだろうし、なによりレイ先生は信用できると感じる。
「今から話す、私が予想できるグラツィアーナの動機……これは、本当の本当に門外不出の話です」
「お、お……?」
姿勢を正して真面目な顔をした私に、先生が生唾を飲んだ。
「さっきの以上にやばい話ってことか」
「大やばですね」
「大やばか。……それで、どんな理由が?」
思い切って話をする。
「……例えば、街中の好きな場所に魔獣バフォメットやドラゴンを召喚できるカードがあるとしたら、それを欲しがる人はどのくらい居ると思いますか?」
私が出した例えに、レイ先生が固まった。




