252 狙い
「俺が差し出せるのは、このモシュネの小箱と俺の正体だ。これで正式な入団は許されるか?」
「もちろんです、先生」
即答する。というか、正直ここまでぶっちゃけてくれるとは思わなかった。
ワケありだということは前から匂わされていたが、まさかここまでとは……。
「さっきも言ったが、契約に使うのはこのモシュネの小箱だ。魔力を持って交わした秘密を喋ろうとすれば、その秘密についての記憶が消える」
「え、怖……」
「そうでもないさ。死ぬとか洗脳するとかじゃないんだ、まだ安全な方の道具だと思うぞ」
そう言われればそうだが、そういえばこの小箱ってなんなんだろう。
あまりにもサクッと出てきたからツッコミ損ねたが、アルヘオ文字が刻まれているのだ。大問題である。
チート枠であるアベルさんが文字を知っていることはそれほど驚かなかったが、まさかレイ先生から出てくるとは思っていなかった。
「あの、先生。この小箱はヴィランデル侯爵家に伝わるものなのですか?」
「ああ。当主のみが持ち、その配偶者や家族にも決して存在を伝えることは無い。跡継ぎが確定した時にだけ伝えてきたらしい」
それはかなり厳重だ。家族からうっかり秘密が漏れることはままあるが、本人しか知らないものならば門外不出でいられる可能性は高まる。
「いつから存在するものなのかとか、誰が作ったのかとかは分かりますか?」
「俺の場合は急に渡されたから情報が少ないんだが……話では、初代から受け継がれているらしい。新貴族であるウチの初代は商人から成り上がった人のはずだから、貴族以外が持っていたことになるな。製作者はわからん」
「なる、ほど……? いやもう重大情報すぎてなるほどとしか言えない……」
聞いていて頭痛がしてきた。これ、私以外の人間、それも複数がアルヘオ文字を知っている可能性が非常に高い。
アベルさんの知識の出どころも結局まだ教えて貰ってないけど、そことも関係あるんだろうか?
「やばいものだってのは分かるが……なんというか、そこまでやばいのか?」
「やばいですね」
「そんなにか」
「大やばですね」
「大やば」
気を語彙力に回す余裕が無い。レイ先生がよくわからんという顔をしている。
「そりゃあこの箱……というか中の魔石は危険だが、お前だって研究しているものなんだろう? 前にお前のところの側近から“空を飛ぶ道具”の開発を仄めかされたことがあるが、そういう、ルーン文字の強いやつってくらいじゃないのか」
「それは、そうです。この魔石に刻まれた文字……私たちはアルヘオ文字と呼んでいるのですが、これ自体は使い方を間違えなければそこまで危険ではありません」
そう、アルヘオ文字は時間をかけて世に広めていこうと思っている。
横槍が入らなければ、世の中の役に立つ形で公開できるはずだ。
しかし問題なのはアルヘオ文字ではない。
アルヘオ文字とセットの、タロットの方だ。
アベルさんは「アルヘオ文字とタロット」をセットのものだと知り、その内容も虫食いではあるが知っていた。
なら、この道具の製作者……もしかすると道具を受け継いできたヴィランデル侯爵達も、タロットの存在を知っているかもしれないということだ。
そして、レイ先生は「この道具を持って逃げろ」と言って道具を託され、逃がされた。
何から逃げるのか?
――決まっている。
それは勿論、この道具を狙っていたであろうグラツィアーナからだ。




