139 中庭の手合わせ
よく晴れた冬空の下、軽快な剣戟の音が中庭に響き渡っている。
場所は白亜のハイメ城。ハイメ領都の中心に位置するお母様の実家である。
その中庭にて、バージル兄弟が短剣を交わし合っていた。
ヴィル兄様が勢いよく芝生を蹴ると、葉のへこみを残して姿が一瞬消えたように見えた。
その次の瞬間、オルリス兄様の真横に現れたヴィル兄様が下から鋭く銀色を振り上げる。
「貰った!」
「まだだよっ」
オルリス兄様がそれをキンと弾き返して距離を取った。少し苦しそうだが、どことなく楽しそうだ。
いつもの長いローブを脱ぎ、髪もポニーテールにした身軽な姿が目に新しい。
「おお、普通にカッコイイ」
「むぐぅ……」
思わず素直な感想を漏らすと、横のお父様が唇を尖らせて非常に不満そうな声を出した。私を挟んで座ったお母様はそれを見てくすりと笑っている。
ちなみに、前方の試合は決して喧嘩ではない。実益を兼ねた暇つぶしと言うやつである。
それというのも、クラエスの大通りでちょっとした食べ歩きをしたり見世物を見た後、城下町に入りハイメ城へ来たのは良いものの。
まだ肝心の親戚が揃っていなかったのだ。
久しぶりに会うお母様やハイメ家の一族、バージル家の一族とひとしきり挨拶した後暇そうにしていたら、オイディプスおじ様に散歩でもしてきたらどうだと提案された。
そんな訳で、ハイメ城まで来たメンツにお母様をプラスして庭園をぶらぶらしたものの、少し肌寒く。
馬車移動で体が固まってしまったし、手合わせでもして体を動かそうかということになったのである。
そんな回想をよそに目の前の試合は目まぐるしく展開を変えていく。
元々スピード型だったヴィル兄様は最近さらに腕を上げたが、意外とオルリス兄様も負けていない。
元々、引きこもる前はヴィル兄様と一緒に魔獣だの薬草だのをよく狩りに行っていたので、実は剣技もそこそこ扱えたりするのだ。
その上、最近は暇があれば二人で手合わせしているらしいので尚更である。
オルリス兄様の方がかなり背が高い分リーチもあり、体格差もあるため一撃は重いようだ。
総合的にどちらの方が強いのかはよく分からないが、幼女の動体視力では二人がたまに消えたように見える位なので、どっちもスゴいっす……という感じである。
「あ! わー!だめだめ!」
少し目を離した隙に焦った声が飛び出し、前方に目線を戻すと、オルリス兄様の周囲にわっさわっさと伸びた芝生が広がっていた。
それを見てヴィル兄様が剣を下ろし、「兄上の負けです」とクスクス笑う。
「あぁあ……また、やっちゃったよ……」
しょんぼりと肩を落としたオルリス兄様の背中をヴィル兄様がぽんぽんと叩く。どうやら、オルリス兄様の例の自動防御が出てしまったら違反負け、みたいなルールらしい。制御の訓練も兼ねているようだ。
こちらに歩いてきた二人にお疲れ様ですと声をかけると、オルリス兄様が苦笑した。
「うーん、まだ完全に制御するのは難しいね」
「残念でしたね、兄様。でも、前よりも格段に操作できてますよ!」
なにしろこれだけの人前で兄弟仲良く手合わせしているのだ。昔を思えば凄い進歩である。
にぱーと笑って褒め褒めすると、嬉しそうに笑ったオルリス兄様の周囲にお花エフェクトが…………。
……って、これホントにお花飛んでないか!?
それに気づき、慌てて手でわたわた払おうとする可愛いオルリス兄様を眺めてニヤニ……ゴホン。
……癒されていると。
中庭に、恐ろしく機嫌の良さそうなスーライトお姉様が入ってくるのが見えた。
昔と比べると、オルリスがどんどんスムーズに喋れるようになっています。そして仲良く手合わせも……。
しかし、次話は乱入するブートキャンプ曹長回ですw




