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138 大好きな……


 そこそこの大所帯で宿を出発する。

 泊まった宿の一角は高級店が多いため道が綺麗に開けているのだが、進むにつれて人混みや露店が増え、威勢のいい商人の声や雑踏の物音が大きくなってきた。

 広場になった場所では、楽士が日銭を稼ぐために歌や踊りを披露する様子もちらほら見られる。

 

 脇道には商売人達の生活圏が広がっており、放し飼いにされた家畜の鳴き声が遠くから聞こえ、ロープに渡された洗濯物が路地にひらめいているのが横目に見えた。

 

 皇都の実家周りは貴族街のためこういう賑やかな場所はないし、ブートキャンプで忙しく、ほとんど外出はしなかった。

 学園に入学してからも、街の様子を見かける時は馬車の窓からだった。

 こうして市民生活を肌に感じる距離に出ると、異世界・中世ファンタジー感が凄くて一段とワクワクしてしまう。

 

 そんな賑やかな風景をニコニコと眺めて歩いていると、一際目を引くものがあった。

 

「!! あ、あれはなんですか、お父様!?」

「うん? あぁ、あれは……」

 

 お父様に説明をねだると、横からオニキス様のアルトの声が割って入った。

 

「あれはカロだな。牙や毛皮が素材として重宝する魔獣だ……見たこと無かったのか?」

「はい。カロ……、 カロというんですねあれは!!」

 

 ……横でお父様とオニキス様が一瞬見つめ合い、謎の火花を散らした。が、私はというと、名前を知った目の前の存在に夢中だった。

 

「はぁぁん、虎……!! 大きい虎……!!!!」

 

 大通りに面した店の軒先には鉄の檻がいくつか並べられ、その中には虎……否、巨大なサーベルタイガーとでも言うべき、立派な牙を持つ存在が鎮座していたのである。

 ちなみに私は動物の中で特に好きなのが虎だ。猫や狼や鷹も同じくらいこよなく愛しているが、ホワイトタイガーなんかは特に好きで檻の前で二時間はじっと鑑賞していられる。

 まぁ要するに、美しくて賢い猛獣や猛禽類のことを可愛く感じて仕方ない部類の人間なのである。

 

 うっとりしながらふらふらとサーベルタイガー……カロの檻へ近づく私を見て、お父様が慌てて握る手を強めた。

 カロは諦め切ったように静かに座っていたのだが、私の異様に熱い目線に怯えたのか、威嚇のための巨大な咆哮を上げた。

 

「きゃぁあっ!?」

「うわっ!!」

 

 鼓膜がビリビリするほどのそれに近くにいた人々から悲鳴が上がる。びっくりしたアテナお姉様が悲鳴をあげてオニキス様に飛びついたのがちらりと見えた。

 

「アリス!!」

 

 至近距離の真っ正面から咆哮を受けた私を見て、慌ててお父様が私を抱き上げて避難させる。

 ……が、私はもはや陶然としていた。

 

「か……、か、か……!」

「アリス?」

 

 心配そうな目でこちらを見る一同に構わず、私は黄色い悲鳴をあげた。

 

「か、か、かんわいいぃ~~……! はぁぁ、お父様見ましたか、今の大きな口と牙!? とっっても強そうで最高に可愛いですねぇ……!!」

 

「ぁ、アリス……?」

 

 そうドン引きした声で呟いたのは、誰だったか。

 

 もしかしたらその場にいた私以外全員だったかもしれないが、私は私を警戒して檻の中をウロウロ(むしろオロオロ?)するカロちゃんに夢中なのだった。

  

猛獣に吠えられてクネクネしながら喜んでる幼女、それがアリス(笑)

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