140 親族の晩餐会
「はぐぅっ」
「のわぁぁっ!」
嬉嬉として突入してきたスーライトお姉様により、中庭の入口でこっそりオルリス兄様の手合わせを覗いていたアルフレドとレリックが蹴散らされた。
スーライトお姉様は用事があるとかで、城に到着してからまだ会っていなかったのだが……な、なんだあの勢い、何が目的だ……!?
と戦々恐々とした所で、急ブレーキをかけてスーライトお姉様が私の前に停止した。
「ちょこっと久しぶりね皆! 所でアリスちゃん、学園ではさっそく色々やらかしたと聞いたわよ。 獣人の魔術に食事に皇子と決闘に…… その話題性、流石は我が弟子と言わざるを得ないわ!素晴らしい!」
「あ、ありがとうござ……? ひゃぁぁ!?」
やらかすのって褒め所なの??と脳内ツッコミしつつ、持ち上げられてクルクル回される。
「母上、ちょ、お待ちください!」
「お母様、アリスが目を回しております……!!」
ハイメ兄妹が慌ててスーライトお姉様を止めにかかる。それにより若干興奮を鎮め「あら、ごめんなさい」と一応言ったお姉様だが、実際全然鎮まっていなかった。メガネが光り輝き始める。
「それじゃ、成長の確認も兼ねて私と手合わせしましょうか!」
「スーライト様ー!?」
バージル兄弟の悲鳴がハモった。
何故、そうなるお姉様……。
我、幼女ぞ??
何故そうなる!?
もはや白目をむきつつ持ち上げられたままになっていると、オイディプスおじ様が遅れてやってきた。そしてスーライトお姉様と私の様子をちらりと見て、目を逸らす。
「…………。すまない」
いや、謝らなくていいから止めて??
この暴走師匠を止められるのはおじ様だけのはずなんだ……!!
そんな必死の想いも虚しく……。
私は手合わせという名の高威力魔術乱れ打ち攻撃を受け続け、中庭中を走り回ってひたすら逃げる羽目になったのだった。
◇
地獄の手合わせ(?)はオーキュラス前領主夫妻の到着によりようやく終わりを告げ、夕方には親戚一同での夕食会となった。
「年越しまであと少しになりましたな」
「本当にあっという間で。それにしても、今年はこうして集まる機会が多くて何よりです」
大人勢はワインを傾けながら楽しそうに歓談している。
少し意外なのはアッピキオおじ様とリヒテライトおじい様だ。二人はかなり爵位に開きがあるが、どうやら親戚と言うだけでなく、普段商業の話をする機会があるようで、かなりラフなやり取りをしている。
そこにお父様やおじ様も混じっていき、落ち着きのある大人な会話をしていた。
一方で女性陣はと言うと、上品ながらもきゃっきゃうふふと楽しそうだ。今は冬物の新調した衣類の話をしている。
スーライトお姉様がその話にノリノリなのはちょっと意外な気もしたが、よく考えてみたらこの国では先進的なボブヘアなのでその手の話が好きなのかもしれない。単なる研究オタクではないところが流石だ。
「これ美味しいねぇ」
「そうですね、兄様」
向かいの席に座ったオルリス兄様がのほほんとジンジャー風味の改造リューコを食べている。
瞬く間に広がったこの発酵パンは学園だけでなく、オーキュラス家と取引をした商人を通じて各地の富裕層に広がりつつある。
お母様がママ友サークル的にフレシアおば様と色々な風味を開発しているため、ハイメ領では特に広がりを見せてウケがいいらしい。
「発酵リューコといえば、アリスちゃん、学食でも色々面白いことをしてるらしいわね? “アリーセ”という職人を雇ってるとか雇ってないとか……」
むふむふとスーライトお姉様が話を向けてくる。どうもこの親戚達には私の所業はほぼ伝わっているらしく、嬉しそうだったりニヤニヤしてたりと様々な視線が向けられていた。
「他にも、あまり我々と親交のなかった獣人族の高位者とかなり親しくなったそうだな。派閥の者達とも勉学に励んでいるようだし、一年から人脈を築けるのは素晴らしいことだ」
オイディプスおじ様がうむうむと頷きながら褒めてくれるので、ちょっと照れながらそれほどでも……と返す。
一瞬「高位者って誰だ?」と思ったのは秘密だ。イヴァン様のイメージって頭を撫でてくれとゴロゴロアピールしてる姿が一番印象強いので……。うん。
「よく決闘も自力で切り抜けたな。母上の指示があって手出しできなかったが、ひやひやしながら見ていたぞ」
「ありがとうございます。……指示、ですか?」
続いてオニキス様(……まだお兄様と呼びそうになる)も褒めてくれる。
あまり姿を見ないと思っていたら、スーライトお姉様の言いつけなんてものがあったのか。
お姉様を見ると、「年上が手を出すと向こうも手段を選ばなくなるからね。アリスちゃんのことは信じていたし」とバチコーンとウインクされた。謎の信頼である。
「それにしても、皇子は少し……いや、かなり未熟であらせられるのかな。手を組む相手を間違えましたな」
「まさしく。同い年で味方にアリスかガブリエラ嬢を選べと言われたら、まずアリスを選ぶかと思いますがね。まさかとは思うが、上層部の指示で、エドムンドの財力が目当てで近づいた可能性も……」
アッピキオおじ様とオイディプスおじ様が難しい顔をしている。
それを受けてリヒテライトおじい様が口を開いた。
「皇城ではそれほどエドムンド派に大きな動きはなかった。故に、やはり皇子の独断ではないかな」
「それは本当ですか。いやそれならば、尚更なぜガブリエラ嬢なのか……。確かにアリス嬢は長く臥せっていたが、入学時には見違えていたし……」
うんうん唸る大人一同である。
私もそれは入学時にぼんやりと思ったのだが、主人公力が凄いな~位で軽く流してしまっていた疑問だ。
ある意味ではガブリエラのために決闘までしたのだ。あの心酔具合はなんらかのトラウマを狙い撃ちされて懐いたので間違いないのだろうと今は思う。
ガブリエラがどの程度シナリオや登場人物の詳細に詳しいかは分からないが、オルリス兄様にもそれっぽく近づいたことから確定である。
しかし、そんなありえない前世知識と推定を大人達にどう伝えたものか。このあたりはまだバージル兄弟にも詳しく話してないし……。
内心で唸っていると、アテナお姉様がぽつりと呟いた。
「……あぁ、そうなのね」
「え?」
雑談していた皆がアテナお姉様に視線を集めた。
頭の中の独り言が口に出てしまったのだろうか。
意味深なことを言って思いがけず注目を浴びたアテナお姉様は、メガネを押さえて恥ずかしそうに俯き黙り込んでしまった。
大人達から見た感想などなどでした。




