105 表明
「あ、ありすしゃま」
「アリス様ぁ!」
たたっと駆け寄ってきたユレーナとマチルダ。
「あ……ごめ、ごめんね」
思わず謝ると、ユレーナは「よかったぁぁ、どこにいたんですかぁ」と泣き出した。
「もう!どうして何も言わずに消灯後まで……っ。それも、怪我されて……っ」
ひたすらはうはうしているユレーナに対して、マチルダは明らかに怒っていた。それでもやっぱり涙目だ。
私のことを純粋に心配してくれているのだろうし、職務としても日没後に女主人を見失うというのは生きた心地がしなかっただろう。申し訳ないことをした。
「ごめんね、ごめんなさい。もう勝手にどこかに行って危ないことなんてしませんから……」
そう言って宥める横では、ヴォルヤ君とルシアちゃん、そしてファニール君がフレッジ様に怒られていた。
「三人とも、何がいけなかったのか分かっているかな」
珍しく耳を斜め後ろ向きに立て犬歯をちらりと見せ、心配を通り越して怒りモードになっているフレッジ様は、静かに般若モードだった。
「う……。喧嘩に負けて、け、怪我した」
「消灯後も外にいた?」
「揉めちゃったから……?」
あわあわとする三人に、フレッジ様が一喝する。
「違う。結果としてアリス様を危険に晒した。その上報告がなかった」
あう……。と耳を垂れた三人。私もユレーナとマチルダに怒られている最中なので口は出せないのだが、ちょっぴり可哀想だった。
状況を掻い摘んで説明するも、フレッジ様の般若モードは解けない。
「まず、どうして団員証をスられたって報告しなかったの。ファニール」
そう静かに問い詰められて、ファニール君はうう……と唸った。
「だって、かっこ悪い。あんな奴ら蹴散らして、自分で取り返したかった……」
見た目は線が細くて髪の毛ふわふわの可愛いファニール君だけど、結構思考が男の子なんだよな。
そう思っていると、フレッジ様がはぁ、とため息をついた。
「もし本当に、絶対に誰も巻き込みたくなかったのなら、ルシアにもヴォルヤにもバレないように慎重にすべきだっただろ。勝てるようにきちんと作戦を立ててからその場に向かうべきでもあった。……無策で突っ込むのは狼じゃない。本当の馬鹿犬だよ、ファニール」
ぬあああ、ファニール君&話をこっそり聞いている私に痛恨のダメージ!!
無策で突っ込んですみません…………。
しかししゅんとしたファニール君に、フレッジ様はフォローを入れた。
「でも、そのプライドと闘争心は僕ら金狼族らしいね。実力をつければ。……一緒に強くなろう、ファニール」
「フレッジ様……」
おお、フレッジ様イケメン……。
そんなこんなでそれぞれ側近や仲間に怒られ、心配されながらその日を終えた。
◇
次の日。
事情を知る側近から知らなかった側近に話がもたらされ、心配がマックスになったヴィル兄様とヨハンに私がこってり絞られたりもしたが、とにかく試験前日になった。
試験が明日である為、授業はなく。自習のためのフリーな日である。
「心得そのいーち!」
校庭の片隅に声が響く。
「名前を書き忘れない!」
ヴィル兄様の声に続き、沢山の子供の声が復唱する。
「心得そのにー!」
「焦らない!見直しをする!」
「心得そのさーん!」
「眠くなったら手をぐーぱーする!」
「そのよーん!……」
……試験で眠くなると手をグーパーしまくるのは、私流だ。
さて。昨日までで、できる限りのことはした。
まずは自習という習慣をつけ、先輩から教えてもらうことに慣れてもらい。
それぞれのレベルを自覚させ、100点までの道のりを明確にし、反復練習で座学、実技共に短期間ではあるが磨いてきた。
それにしても。
友達のためのお勉強会のつもりが、黄金の夜明け団なんて大仰なグループ名がつくような大世帯になるとは思いもしなかったなぁ……。
初めはうちの側近、そしてローリエ様とレティシア様。
次にイヴァン様、そしてケモっ子達。
最後に私を信用して頼ってきた複数の子供達まで合流して、なかなかの人数になった。
今は、早い段階で参加した初期組も、後から参加した後期組も関係なく全員を集めて、注意事項を伝えたり、不安解消に質疑応答したり鼓舞したりしているところだ。
それというのも、「私」の考えや目的を伝える前に。状況を整理したり一体感を持ってもらいたかったからである。
「そろそろ言う?どうする、アリス」
耳打ちしてきたヴィル兄様に、私もそろそろ頃合だと思っていたと返す。
すると、生徒の間を行き来して対応していた先生役の先輩達が自然と前方、私の傍に戻ってきた。
自然と視線もこちらに集中する。
「えー、おほん」
つい緊張してオヤジくさい咳払いをしてしまう。いかんいかん。
「コホン。皆さん、聞いてほしいことがあります」
なんだなんだ、とこちらに注意を向けるちびっ子達。これを言うのは少し緊張するのだが、意を決して私は口を開いた。
「ここに集まっている皆は、私の仲間、団員だと思っています」
そう切り出して、様子を伺う。
その言葉を聞いてふんすと喜色を浮かべている子もいれば、それなりな子もいて、反応は千差万別だ。
「黄金の夜明け団には、特定の思想はありませんでした。……でも、貴族の集まりである以上、私達には責任と影響力があります」
ちびっ子達の頭の上に、「影響力……?」というハテナがぽやんと浮かぶのが見えた。
私は慎重にその様子を観察しつつ、話を進める。
「影響力とは、つまり私たちのやることによって、周りの人達が何かを感じたり、思ったりすることです。そして場合によっては反応を返してくるということです」
ふんふん、と聞いている子供達。
「そして責任とは、私たちのしたことによって良いことも悪いことも起きるということを自覚し、何かあった時にきちんと解決しようとすることです 」
できるだけわかりやすい言い回しを選んで言葉を続けていく。
ゆっくりと語り、置いてけぼりな子がいないことを確認した上で私は言った。
「私は、言ってみれば団長です。ここに集まっている皆の代表です。……つまり意図しなくても、私の考えがみんなの考えだと周囲に受け取られることになります。だからこそここで、ハッキリと私は言います」
すー、と息を吸って、一息に私は言った。
「私は黄金の夜明け団を、助け合いのできる組織にしたい。人種や身分、先入観に囚われず、共に学び、前を向いていく組織にしたいと私は考えています」
少し抽象的かもしれない。しかし影響力が強いからこそ、使える単語は制限される。
ひとまず、これが私の言いたいことだった。
獣人に対する蔑視、会費により制限される交流などなど、この学校には子供に良くないことが多すぎる。
魔術学園という夢のある世界に、そんなものは不要だ。なにより子供を守るのが大人の役目である。……いまは幼女だけど。
大世帯になってしまったのだから、いつかは指向性を持つ集団になるだろう。それならば舵を取らねばならない。
そして、慕ってくれる獣人を守りたいという気持ちが芽生えてしまった以上、私はその考えを表明するのが団長の責任だと感じたのだ。
私の思想は、団の思想だと思われてしまうのだから。
私の言いたいことが薄々わかったのだろう。少しざわついた貴族の子供たちだったが、異論は出なかった。
団員として私の考えを受け止めてくれたということだ。
それに安堵しつつ、私は次の話を出した。
「そして、それとはまた別のお話があります。……これは団についてと言うよりも、私の目標の話なのですが……」
そこまで言った時。
校庭に面した外回廊からこちらに向けて、ぞろぞろと歩いてくる集団が見えた。
「あらあら、獣臭いと思ったら……。猫の集会と犬の集会ですわ、皆様!」
「嫌ね、神聖な学園で……。これでは集中できませんわ」
「全くです、お嬢様」
……その集団は、お察し。
ガブリエラ率いる、「高貴なる薔薇の会」だった。
ちょっと難産でしたが、初めて黄金の夜明け団としての方向性を発表しました。
次は薔薇の会vs夜明け団です!




