失敗作・魔法掃除
へたり込んでいるレイのもとへ、カレアラとコスモスが近づく。
「パパ、大丈夫?」
「人の心配より、あんた手を見せなさい」
コスモスの右腕の怪我を目ざとく見つけ、カレアラは回復魔法をかける。
「……二人の相手は?」
レイに聞かれ、二人は互いがいた方向を指さす。
「あっちで寝ている」
「こっちも倒してやったわ。魔法で」
得意気なカレアラの話を聞いて、レイの眉がピクリと動く。彼は杖を支えにして立ち上がり、彼女が指差した方向を見る。
「魔法耐性が高い魔法使いを、魔法で倒すのは簡単じゃない。魔法で倒す前に剣でダメージを与えていた?」
指摘されてカレアラは気づいた。最近魔法の威力が上がっていたが、それはレイから魔法力を受け取って使っているからにすぎない。
本来の彼女の魔法力では、大した威力の魔法は使えない。ましてや、ステータスが高いA組を魔法一発で倒せるなんてありえない。
「これだけは使いたくなかった」
気づいたのに合わせるように、イリアルの声が響いた。
上空を見上げると制服こそボロボロだが、肉体のダメージは左程ではないイリアルが翼を大きく広げていた。
「あんた、ワザとやられたフリをしたわね!」
カレアラの激昂を受け、イリアルはビクッと肩を跳ねらせた。
「ワザとでは決してない! 本気でやった結果、カレアラさんの作戦勝ちだった! 確かにあの時、動こうと思えば動けないことはなかったが、体が痺れた状態で戦えば苦戦は必至! ならば、体調が回復するまで休んでいようと」
必死になって抗弁する様子を見ると、どうやらまだカレアラに対する苦手意識は抜けていないようだ。言葉に嘘はないだろうが、それだけでもないような気がする。そこら辺を突っ込まれたくないのだろう。イリアルは展開を進め、三人に取り出した干物を見せる。
その干物はしわくちゃな十字の形で、掌より多少大きいぐらいだ。
カレアラもコスモスも疑問符を上げる中、レイだけは目をむいて干物を凝視する。
「それは!」
レイの反応を見て、イリアルは優越の笑みを見せる。
「知っていたか」
イリアルは誇らしげに干物を高く掲げ、
「これこそ古代の秘宝、魔法使い殺しのアイテム『マジックイーター』!」
「門外不出・失敗作シリーズ――『魔法掃除』!」
レイの言葉とかぶった。
何やら微妙な空気が流れる。
レイはカレアラとコスモスの疑問に満ちた視線に気づき、杖の先で干物をさす。
「あれは僕の父さんが作った失敗作なんだ。僕がノビノビと周囲を気にせず魔法の練習が出来るように作った的があれだ。もし魔法が的から外れても、触手が伸びて回収してくれる。ただ、魔法力を取り込むのに積極的過ぎて魔法使いまで襲いかねないんだけどね」
説明を聞いて、カレアラはちょっと強めのツッコミチョップをする。
「そんなもの残しておくんじゃないわよ!」
レイは潰された三角帽子を直しながら、
「一つの成功を生み出すために、万の失敗を覚悟するのがロッド家なんだよ。だからうちの最初の教えは『どんなことでもメモをしろ』なんだ。志半ばで死んだ時、受け継ぐ人が同じ失敗を重ねないために失敗作を残しておくし、その過程も記しておく」
レイの言い分にカレアラはちょっと納得できたが、それでも不満さが膨れる頬に表れている。彼も気まずそうに頬を指でかく。
「まあ、七十二の魔神から認められるほどの実力者である父さんの作品は、成功・失敗含めてとんでもないものが多いんだけどね」
再び、カレアラのツッコミチョップがレイの三角帽子を潰した。
「貴様が〈工学魔導搭乗型機械兵器〉を行動不能にしようとすれば、必ず魔法力を過剰注入させるという荒業に出ると予想はついた。貴様は甘い男だからな。しかし、それはこの魔法使い殺しと言われるマジックイーターには好都合!」
イリアルは改めて干物を掲げ、朗々と語る。
「こいつは魔法力を貪欲に喰らい、それをエネルギーとして暴れ回る。その暴走が貴様に止められるか!?」
そんなイリアルに白い目が向けられる。みんな「こいつ、聞かなかったことにするつもりだな」と勘付いている。
とは言え、責任を背負っているイリアルはなりふり構わず、そんな他人の視線程度では止まらない。眼下にある〈工学魔導搭乗型機械兵器〉の上半身に干物を投げつけると、閃光が溢れかえった。
〈工学魔導搭乗型機械兵器〉の上半身に憑りついたマジックイーターは瑞々しい黒と白のマーブルの触手二本を使って地面を踏みしめ、蛇の頭のように残りの触手が鎌首をもたげる。そして、その二本の触手がレイに素早く伸ばされる。
すかさず三人は後ろに飛び退いたが、触手はさらにレイを追い求める。彼は杖に少し魔法力を込めて触手に向かって放り投げ――触手はそれに絡みつき、粉々に砕いた。
「この――」
「ダメだ、カレアラさん!」
雷の魔法を使おうとしたカレアラを、レイの声が止めた。
「その通りです。下手な魔法は吸収されるだけで逆効果ですよ。貴様のハンドメイドマジックも同様だ!」
イリアルのカレアラとレイへの態度は明確に違う。それが素になっている時点で、彼はもう彼女に勝てそうにないが……とにかく、イリアルは高みの見物でレイを見下ろす。
マジックイーターは足にしている触手を動かし、〈工学魔導搭乗型機械兵器〉の上半身を引きずって移動する。が、ドラゴンに戻ったコスモスのテイルが、下からマジックイーターを叩き上げた。
マジックイーター諸共〈工学魔導搭乗型機械兵器〉が激しく地面に叩きつけられた。
それに慌てたのが、カレアラだった。
「ちょっとコスモス! あれにはまだミスリムが乗っているのよ! いくらコクピットが衝撃を吸収するように作られていても、やり過ぎよ!」
『そんなのコスモスは知らない。パパを守れればいい』
薄情な言葉にカレアラは歯噛みし、次に「あのドラゴンは厄介だ」と表情を曇らせているイリアルを睨む。
「ちょっとイリアル! 他人を巻き込むやり方は本意じゃないんでしょ! せめてミスリムを機体から出しなさいよ!」
「いや、え~っと……戦っていた仲間だった以上、無関係な他人というわけでも……それに、下手に近づけば私も狙われますし……」
言い訳を並べているイリアルは、カレアラの睨みで言葉尻を小さくする。それはまさに蛇に睨まれたカエル状態だったが…………彼は気弱を跳ね除けるように、気合いを入れて胸を張る。
「わ、私は、負けるわけにはいかない! 世界の安寧が私にかかっている! 責任を背負っている以上、退くことはしない! 何としてでも勝つ!」
震えてこそいるが、そのたたずむ姿にはこの前なかった力強さがあった。
「それはこっちも同じでね。負けられないんだ。コスモス!」
レイの言葉に頷き、コスモスは翼を広げる。
「待ってレイ!」
レイは腕を掴んできたカレアラの表情を見て、思いっきり困った。どうやら彼女は何て言おうか迷っているようだが、表情にはもうアリアリと出ている。彼は耳の上あたりの髪を手荒くかき、
「コスモス! 『魔法掃除』をゴーレムもどきから引きはがせないか試してくれ!」
指示を飛ばす。
カレアラの表情と気持ちが晴れ、
「まったく、あんたを助けるのも二回目ね!」
やる気がみなぎって剣を構えた。
先程コスモスに吹っ飛ばされたマジックイーターの触手は、近くの観客席に伸ばされつつあった。
レイは観戦しているアイリスとテスラがいるそこを襲わせるわけにはいかない(フィリオラの心配はしていない)と、マジックイーターに向けて魔法力を放った。
レイとマジックイーターが一本の光で繋がり、触手は観客席から離れて彼へと向かう。どうやら、マジックイーターの一番の好物はレイの魔法力のようだ。彼用に作られたのだから当然かもしれない。
〈工学魔導搭乗型機械兵器〉を引きずって近づくマジックイーターを、上空から降下してきたコスモスが踏みつける。そして、踏みつけながら機体とマジックイーターの境に手を差し入れ、引き離そうとする。
しかし、マジックイーターは機体の中を毛細血管のように張り巡り、強固に憑りついている。コスモスの力でもビクともしない。
そして、三本の触手がコスモスの首と両腕に巻きつき、締め上げる。
苦しげな咆哮が空へ響く中、カレアラが大胆にマジックイーターを足場にして駆け、コスモスの首に絡みついている触手を切断した。ピンッと張っていたとはいえ、触手の太さは大人二人が腕で作る円よりも大きいのに。
コスモスは切れて緩んだ首の触手を振り払った。
だが、切断された両方の断面から触手が伸びる。その中間に、カレアラがいる。
「カレアラさん! 剣から手を放して!」
考えるより早く、レイの言葉に従ってカレアラは剣を投げ放した。
剣にレイの魔法力が当たり、触手はカレアラの目前で軌道を変えてそっちへ向かい、くっ付き合う中に剣は消えた。自分がそうなっていたと思うと、カレアラはゾ~っとする。
マジックイーターの上に落ちる前に、コスモスがカレアラをつまんで背中に乗せる。そして、両腕を思いっきり引っ張って巻きつく触手に向かってブレスを吐いた。
豪風に触手は引き千切られ、コスモスは羽ばたいてマジックイーターから離れた。
『切っても切っても元通り! しかも魔法は効果なし! 頼みのコスモスもミスリムを気にして全力が出せない! フィリオラ会長、これはもう部屋番号五一六には打つ手なしなのでは?』
プロ根性か、観客席には逃げ出す人もいる中、実況席にいる女学生とフィリオラは悠然と座っている。
『いや、どうかな……まだ、レイがいるからな』
『しかし、彼の魔法はマジックイーターの食糧ですよ。魔法が使えない彼が戦力になるとは思えないんですけど』
女学生の言葉に、フィリオラは呆れたように首を横に動かす。
『本物の魔法使いを知らないな。いいか? 魔法使いっていうのは、頭が動いていれば脅威なんだよ』
飛行するコスモスがレイを拾い、マジックイーターの周囲を大きく旋回する。
コスモスの背中で、レイはカレアラに伝える。
「カレアラさん、無理を言うよ」
「とりあえず言ってみなさい」
「あのゴーレムもどきの左わき腹辺り」
レイは自分の体を使って該当箇所を指さす。
「ここに『魔法力を溜める装置』がある。それを壊せば『魔法掃除』は魔法力の大本を失って弱まる」
「どうしてそこにあるって分かるの?」
その時、伸びてきた触手をコスモスがかわして二人は大きく揺れた。
「あのゴーレムもどきと魔法力のやり取りをしたからね。その時、あの中で魔法力がどう流れているか分かったんだ」
上昇・下降を繰り返し、コスモスは触手を避ける。背に乗っているレイとカレアラは、必死にコスモスの背中にしがみついている。
「これが出来るのはカレアラさんしかいない。僕はもうあまり魔法力が無いし、コスモスだとそこだけ上手く破壊することはできない。剣を扱うカレアラさんが、その場所を貫くんだ」
「…………」
つまりそれは、〈工学魔導搭乗型機械兵器〉の装甲を剣でぶち抜けとレイは言っているのだ。砲弾にも耐えると言われている装甲を剣で…………レイでさえ、あれを破壊するのに装甲は避け、中から破壊していた。
「無理なら、コスモスに僕の残った魔法力を全て与えて、強力なブレスで『魔法掃除』を吹き飛ばしてもらう」
『パパ。カレアラは剣をもう持っていない。どうせ無理』
その通りだ。カレアラの愛用の剣は先程マジックイーターに取り込まれた。
だが、カレアラは携帯を取り出して操作する。そして、
「コスモス! 校舎のあそこに行って!」
カレアラが大声で指示を飛ばす。が、コスモスは迷って彼女が指差す先に進路を取らない。
「無理や道理を何とかするのがレイの言う魔法使いなんでしょ? 私は魔法使いよ! やってみせようじゃないのよ!」
その答えを聞いて、レイは満足そうに笑う。
「コスモス! カレアラさんが言う場所へ!」
それで、コスモスも迷いなくその場所を目指した。
カレアラが指示した場所は、夜の食事会が行われる講堂の横にある小ぢんまりとした小屋――だが近づいて見ると作りは頑丈で、小屋というより巨大な金庫だ。
「去年勝った人がネットにこの小屋の前で撮った写真をアップしていたから、この中に学宝の剣があるはず」
コスモスから飛び降りたレイとカレアラが入口に向かうが、円形のドアは固く閉ざされていた。カレアラは取っ手を掴んで引っ張ってみたが、当然ビクともしない。
「どいて。魔法で鍵をかけられていたら無理だけど……」
レイが呪文を唱えて魔法を使うと、小屋の扉は重そうな音を響かせて開いた。
「泥棒だけはしないでよ」
「しないよ。僕の職業は魔法使いだからね」
二人は小屋の中に入り、中央にある剣を見つけた。
その剣は地面に剣先が突き刺さり、柄にたくさんの鎖が絡みついて、その鎖も地面に繋がっていた。剣の周辺の地面は他の地面と色が違う。グレー……いや、白銀だろうか。とにかく異様だ。
その姿に目を奪われ、カレアラの口から自然と言葉が出る。
「これが、学校の宝剣」
「……ダメだ……この剣は、使えない」
レイの呟きを聞いてカレアラは眉根を寄せたが、「まさか!」と気づいて、
「これもレイの家の失敗作とかって言うんじゃないでしょうね!?」
「違う! これは成功作だ!」
レイはカレアラに反論した後、改めて眩しそうな目で剣を見る。
「ドワーフ史上最高の天才と言われた鍛冶師が作った最高傑作――それがあの剣だ。あまりの出来栄えに悪用されることを恐れた彼は、僕の一族に「信用出来る者でなければ、この剣を扱えないようにしてくれ」と頼んできた。そして作り上げたのがこの「職業の鍵」! これは持ち主がいなくなると、この星を鞘にする。無理やり引き抜くことも掘り起こすことも不可能。それは、この星をどうにかするようなものだ」
その時、小屋が揺れた。どうやら追ってきたマジックイーターをコスモスが押さえているようだ。一刻の猶予もない。
「信用出来る者って誰よ!」
「そんなのは分からない。成功作は依頼人に渡し、設定の多くは依頼人が決める。ただ……名称からして、職業に設定されているはず……だけど」
「…………その職業が魔法使いじゃなければ、アウトってことね……」
カレアラは意を決して、柄の空いている場所を両手で掴む。もしこれが抜けなければ、マジックイーターを止めることは出来なくなる。そうなれば、ミスリムが乗る〈工学魔導搭乗型機械兵器〉ごと吹っ飛ばさなければいけなくなる。
力を込めて抜こうとしたら、思いの外スッポリ抜けて尻餅をついた。
「へ?」
「は?」
カレアラの手の中に長刀両刃の剣がある。柄は包帯が巻かれ、鍔の中央に輝く青い宝玉がはめられ、何百年も経っているのに刃は怪しい輝きを放っている。
キョトンとしていた二人は、地面の振動で気を取り戻した。
「とにかくこれで武器はオッケー! 行くわよ!」
「う、うん!」
小屋から飛び出した二人は、小屋にもたれるように倒れていたコスモスに気づく。
「コスモス、大丈夫か!?」
『大丈夫』
コスモスが小屋に手をついて起き上がるが、ドラゴンが体重をかけてもその小屋はビクともしない。
「レイ、魔法力貸して」
見ると、カレアラは剣に雷をまとわせていた。
「わかった。でも、無理に突っ込まないで。カレアラさんの前に、ゴーレムもどきの左わき腹部分を晒すから」
狙う箇所はマジックイーターが引きずっているため、地面と接している。そのままでは狙いにくいことにレイは気づいていた。
カレアラに魔法力を与えると、帯電していた雷が剣だけでなく彼女の体にまで広がった。
ダメージがあるようでカレアラの顔に痛みが表れるが、心配しようとするレイに「構わないで」という強い視線を向ける。
それからレイはマジックイーターの触手がカレアラを襲わないよう、自分の左腕を魔法力で光らせて触手を引き寄せ、コスモスの背に乗った。
「コスモス! 少し頑張ってくれ!」
触手の一つがレイの左腕に絡みつくと、残り三本の触手もここぞと彼に殺到する。左腕、右腕、腰、左足と絡みつき、彼から魔法力を奪う。
『パパ!』
触手はレイを引きこもうとするが、彼はコスモスの体を壁にして何とか耐える。しかし、そのままだと四肢が引き千切れる。
「引っ張り上げろ!」
叫んだレイの体が一瞬強く輝いた。残り全ての魔法力を放出し、マジックイーターを食べることだけに集中させた。
その瞬間、コスモスは小屋を掴んで体を勢いよく上昇させる。それに引きずられて、マジックイーターが機体ごと上がる。
構えていたカレアラの目に、〈工学魔導搭乗型機械兵器〉の左わき腹が晒された。
「雷道貫徹!」
次の瞬間、〈工学魔導搭乗型機械兵器〉の機体に大きな穴が開き、突きの構えを取っていたカレアラは地面に焼け焦がした轍を長く残して止まった。
会場の大画面では、スーパースローの映像が流れているが、それでも追えないほどカレアラの動きは速かった。
『数百年持ち主がいなかった学園の宝剣――『惑星に突き立つ剣』をカレアラが持って出てきたのには当然驚きましたが……何ですか、あの威力は!? 機体の特殊合金繊維をぶち抜きましたよ!?』
フィリオラは「おそらく」と前置きをして、解説を始める。
『先走った彼女の気持ちに反応して体から電荷が放たれ、左わき腹までの経路が出来た。そして、電荷をまとった彼女がその道を――流れたと表現しようか――流れ、突き出していた剣で貫いた。並の剣ならば折れていただろうし、体にかかる負担はとんでもなかっただろう』
その言葉通り、カレアラの手から剣が滑り落ち(地面に突き刺さると同時にまた鎖が現れ、変化した地面に固定された)、彼女はすぐに自分に回復魔法をかける。
何とか動けるまでに回復して、疲労タップリの体を引きずって機体に近づき、搭乗口を開ける。
ぐったりとシートに座るミスリムは、ゆっくりと振り返って疲れた笑顔を向ける。
「よし、生きているわね」
確認だけして、カレアラはさっさと離れた。
「もう少し心配してくれてもいいではありませんか!」
心配の必要がない元気な声を背中で聞いて、カレアラは姿が見えないレイとコスモスを探す。
「カレアラ、お願い!」
少女の姿に戻っていたコスモスが、レイを背負って駆け寄ってきた。
カレアラがすぐにレイを診ると、左腕が特にひどかった。皮膚は所々大きく裂傷し、筋肉や腱は傷つき、肩は脱臼しかかっていた。
「あとでちゃんと病院で診てもらいなさいよ」
応急処置的に回復魔法をかけている最中に、
「私には責任がある」
イリアルがやってきた。すぐさまコスモスが身構えたが、彼は両腕を上げた。
「私達の負けだ」
あっさりと言われたギブアップに、レイ達は目を丸くした。
「敗北を認め、後始末をつけるのも責任を持つ者の仕事さ」
そう言ってイリアルは颯爽と去って行こうとしたが、その後頭部にミスリムの鉄扇がぶつけられ、機体から下りた彼女につめ寄られていた。彼女にしてみれば、断りも無くマジックイーターに組み込まれたのだ。文句なら山ほどあるだろう。
その様子を見て、カレアラは頭に大きな汗をかいてため息をつき、レイに笑いかける。
「とにかく、勝ったんならレイは魔法使いのままってことね」
「そのようだね」
レイは三角帽子を脱いで、カレアラとコスモスに笑いかける。
「二人ともありがとう」
お礼に隠れて、レイは干物に戻した『魔法掃除』を三角帽子に入れた。
カレアラが『魔法力を溜める装置』を破壊した後、レイはマジックイーターから残りの魔法力を吸い取って、干物にまで戻していたのだ。
そしてレイは、「一つ目っと」心の中で呟いた。
学園の宝剣も出したし、流出した失敗作も出したし、トドメはカレアラが決めたし、綺麗に終わった。
それでは、次回がエピローグです。最後ですので、風呂敷をたたみます。お付き合いくだされば嬉しいです。
また次回。




