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三者三様の決着

 小出しにしようかと思いましたが、字数的に余裕が見えたので一気に載せます。

〈工学魔導搭乗型機械兵器〉が垂直上昇した轟音はグラウンド中に響いていた。

 それは一進一退の打ち合いをしていたコスモスとリュサックにも聞こえ、両者の動きを止めさせた。

「どうやら、何か進展があったみた――」

 リュサックの言葉を最後まで聞かず、コスモスは彼の脇をすり抜けようと動いた。

「東軍八拳・純水聖拳!」

 横を抜けようとしていたコスモスの背中に、リュサックは手刀を叩きこんだ。

 地面を転がったがすぐさまコスモスは起き上がり、前を目指す。だが、すでにリュサックが立ち塞がっている。

 今度は猪突せず、リュサックの左を抜けると見せかけて、フェイントを入れてターンをして右から抜く。しかし、死んでブラブラさせていた右腕を容赦なく掴まれ、捻られて転がされる。地面に転がった所に、さらに腹部に膝を落とされた。

 呻きもなく空気が吐き出され、コスモスの体が力無く地面に横たわる。

 リュサックは素っ気なくコスモスの右手から手を放した。

 つまらない結末だったなと、リュサックはコスモスに背を向けて去ろうとしたが、ピタリと足が止まる。肩ごしに振り返ると、右腕を垂らし、お腹を左手で押さえ、満身創痍のコスモスが立っていた。

「……どけ…………コスモスは、パパの所に行く……」

「行きたければ俺を倒せ」

「そんな暇はない。パパの所に」

 コスモスの体がドラゴンの形態を取ろうと光り出した。その打ってくれと言わんばかりの大きな隙をありがたく受けて、リュサックは彼女にハイキックを叩きこんだ。

 コスモスの体が地面を削って転がり、彼女は倒れ伏した。だが、すぐに地面に手をついて、体を起こす。

「邪魔だ、人間の小僧!」

 咆哮と共にコスモスを中心に風が吹き荒れる。身を切り裂くような風と怒気に、リュサックは恐怖を感じた。だが、それほどの相手だと思うと、逃げたい気持ちより挑みたい気持ちの方がわずかに上回る。知らず知らずの内に、彼は薄く笑っていた。

 そして、明らかな怒りをぶつけてくるコスモスにリュサックは聞く。

「なぜドラゴン種であるお前がタダの人間を「パパ」と呼び、それほど慕う」

「……怪我をして飛べなくなったコスモスにパパは飛び方を教えてくれた。『それまで自然に出来ていたことがこれからは出来なくなるかもしれない。風を見て、風をつかまえ、風に乗る』。そうして再び空に戻った…………でも、その時……パパは隣にいなかった」

 コスモスの吹き荒れる風に、一滴の水が混じった。

「コスモスは二度とパパと別れない!」

 風を背に受け、コスモスは一直線にリュサックに迫る。

「東軍八拳・純水聖拳!」

「銀龍の裂爪撃!」

 交差は一瞬だった。

 空中を回転しながら着地したコスモスは、後ろを振り返りもせず駆けて行った。

 残されたリュサックの体に激しい四本の爪痕が刻まれ、地面に華々しく散った血の中へ彼は膝から崩れ落ちた。

『い、一体、何が起こったのでしょうか? スローで確認してみましょう』

 大画面に交差する瞬間がスローで映し出される。

 スピードに乗ったコスモスをリュサックの拳が迎え撃つ。画面には二人の動きを計測した数字が出る。

『え~この時のスピードはコスモスが時速一二〇キロ越え。リュサックの拳の速度が時速二五〇キロ越え。コスモス視点で拳を見ると、音速を超えていますね』

『それを、避けるか』

 フィリオラの言葉通り、コスモスは小さな体をさらに沈み込ませ、それこそ地面スレスレを走るほどだ。

『コスモスにはリュサックの攻撃が見えたんでしょうか?』

『……見えたのかもしれないな。拳ではなく、リュサックの動きの風が』

『風が』

『攻撃の動作は無駄をなくすほど素直に動く。さらにあの時、フィリオラは前から強風を受けていた。それに逆らって動くんだ。コスモスの目にはどんな攻撃が来るのかリュサックの初動で分かったんだろう』

 画面では左手をかぎ爪の形にしたコスモスが跳び上がりざまに、リュサックの右腹部から左肩にかけて爪を走らせていた。


〈工学魔導搭乗型機械兵器〉が垂直上昇した轟音はグラウンド中に響いていた。

 それはカレアラとイリアルの所にも聞こえていた。

「この衝撃……ミスリムがやったか」

 イリアルは思わず、会心の笑みを浮かべた。

 カレアラはレイのことが気になったが、自分に「落ち着け、落ち着け」と言い聞かせる。もしここで不用意に出ればイリアルに撃たれるだけだ。

 確実に作戦が成功する位置まで、あと少し。それを感情に任せて台無しにするわけにはいかない。

 しかし、イリアルに近づいたここからが難所だった。地面に張り巡らされた錐状の地面。それを避けて進もうとすれば、彼に動きを予想されて狙い撃たれる。その予想を逆手に取って、錐状の地面を斬って進む方法もあるが、手間取ればやはり撃たれる。

 カレアラは磨き上げた剣を影にしている木から出し、イリアルの状態を反射させて確認する。彼は変わらず木を背にして、拳銃を構えている。

 一つ大きく深呼吸をし、次の目的地を見定めて木の影から走り出る。

 イリアルの速射が放たれ、カレアラは木に向かって飛び蹴りをかまして、三角跳びの要領で進路を逆方向へ取り直した。

 予想していた進路に銃を動かしていたイリアルは虚を突かれて狙い直したが、すでにカレアラは木の影に隠れていた。

 イリアルがしてやられたと思った次の瞬間、カレアラが消えた木の影から剣が投げられてきた。だがその剣はまったく見当外れで、彼より上の幹に突き刺さった。

 武器を手放してどうするつもりだと、カレアラの方に銃口を向けつつイリアルは上の剣を見上げた。その剣は帯電していた。

「デインブラスト!」

 放たれたカレアラの稲妻は剣に当たり、木から離れかけていたイリアルの体を電撃が走った。体が痺れて倒れた彼に彼女は接近し、肩辺りに手を当てて直接電撃を放った。

 イリアルは体を一度大きく跳ねらせ、ブスブスと体から煙を上げて沈黙した。

 カレアラは木から剣を引き抜き、急いでレイの所へ向かった。

『イリアルに雷が当たったようには見えなかったんですけど……』

『雷がしている時は電柱や木から四メートル以上離れて、姿勢を低くして退避しろって言われているだろ。その範囲内にいたら落雷時に危ないからなんだ。残念ながらイリアルは木から近すぎた』

『とすると、この勝負は雷の魔法を活かしたカレアラの勝利ということですね。しかし、剣術が得意な彼女が剣を手放すとは』

『意思表示だろ、自分はあくまで魔法使いですって。魔法でケリを着けたかったんだよ』


 レイは何とか意識を保っていたが、体中の痛みで指一本動かせないでいた。

「貧弱ですわね。攻撃を二度受けただけでもう動けませんか」

「…………これでまだ、動ける魔法使いが、いたら……戦士や武道家は……商売あがったり、だろ……」

 ミスリムは機体の歩みを進め、フェンスを剣で押し潰して越える。

「今時戦士や武道家なんて……全ての職業は魔法使いが兼業していますわ。あなたのような貧弱な魔法使いは、最早用無しですわ」

「職業の……隔たりも、無くしたのか…………多様性は伸びても、専門性は……大丈夫なのか……」

「そんなことより、今は自分の心配をした方がよろしいのではなくって?」

 ミスリムがレイに近づくまでの場繋ぎの会話が終わる。レイは間近まで迫った黒い機体の顔を見上げ、いつもの笑みを浮かべる。

「何がおかしいのですか?」

「その、ゴーレムもどき……魔法力が空になっても、動くのかな?」

「!」

 コクピットの中で、ミスリムは驚きに身を固くした。

「さっき、僕に近づいて、穴に落とされたんだ……普通なら、今度は警戒して近づかない。瀕死の僕なら動けないし……遠くから、一発撃てばいい。それなのに、近づいてきた。もう、火球を撃つほどの……魔法力も無いんだ」

 ミスリムは歯を食いしばり、画面越しに瀕死のレイと睨み合う。

『どうなんですか、フィリオラ会長?』

『おそらく、レイの言う通りだろう。垂直上昇にはかなりの魔法力やエネルギーを使うからな。今思えば、レイに剣を突きつけたのもカレアラやコスモスのことを考えて魔法力を温存しとこうとしたんだ』

 ミスリムの機体が剣から手を放し、空いた手をレイへと伸ばす。

「心配無用ですわ」

 機体の手首からワイヤーが飛び、レイの腹部に先端が突き刺さった。彼は短く呻いてから、腹を見下ろす。そこには、何やら物々しい複雑な機械があった。

「さあ、あなたの魔法力をいただきますわよ!」

 レイの体からワイヤーを伝って、機体に光が流れ込む。彼は体の中から魔法力が強制的に搾り取られる感覚に、叫び声を上げる。

『な、なんと容赦ない! さすがと言いましょうか、噂にたがわぬえげつなさですね』

『え? あいつそんな噂がたっているのか?』

 祖父として、ちょっと複雑な心境だった。

『しかし、その手は少しマズイかもしれないぞ……レイに対してはな』

 ミスリムは機体に魔法力が満たされていくメーターを見ていたが、その上昇がいきなり止まった。不思議に思っていると、次は減り始めた。

「な、なんですの!?」

「魔法力の……コントロールには、自信があってね……もらうよ」

 レイがワイヤーを掴んで、逆に機体から魔法力を吸い上げる。ミスリムは舌打ちし、すぐさまワイヤーを回収する。その際、彼の掌がワイヤーで切れて血が舞った。

「これだけ回収できれば、もう十分ですわ!」

 ミスリムが銃口をレイに向ける。最後の抵抗も終わり、レイは覚悟した。銃口の中で燃え盛る火が、噴火を待ち望むマグマのように見えた。

 ミスリムの指がトリガーに力を込めた。

 至近距離で放たれた火球はレイが横たわっていた地面を深くえぐり、焼け焦がした。跡には、レイの姿形すらなかった。

 何もなかったことで、会場中が静まり返る。ただ、その中で撮影用のドローンだけが機械的に仕事をこなす。

 映像が移動し、大画面にレイのマントを口にくわえたコスモスが映っていた。映像を引くと、ぐったりとしたレイ自身もいた。

 歓声が沸く中、先程のスローが流れる。

 火球が放たれるギリギリの瞬間、飛び込んできたコスモスがレイのマントをくわえ、しっかり放さず回転しながらフェードアウトした。

『よくもまあ突っ込みましたね。一歩間違えば諸共やられていますよ。しかしなぜ口で? 映像を見ると首がグキッていきかけてますけど』

『右手が使えないし、左腕は初めにレイを滑り落とした悪いイメージがあったからだろ。ドラゴン種の顎の強さはかなりのものだからな。悪い選択じゃないと思うぞ』

 コスモスはゆっくりとレイを地面に下ろし、泣きそうな顔で彼の顔を覗き込む。

 薄く目を開けたレイは、コスモスに笑いかける。

「ありがとう」

 コスモスは高まった感情を抑えるのに精一杯で言葉が出せず、勢いよく顔を横に振る。

「デインブラスト!」

 二人を囲った電撃が、飛来してきた火球を阻んだ。

「まったく、一人だとすぐピンチになるんだから、レイは」

 駆けつけたカレアラは剣を地面に突き刺し、すぐさまレイの体に手を当てて回復魔法を施す。

「でも、やられてないだけ上出来。よく粘ったわね」

「ありがとう」

 レイに笑いかけられて、カレアラの意気が少し抜けかける。

(どうしていつでもどこでも、こんな嬉しそうな笑顔が出来るのよ)

 回復の間、言われなくてもコスモスはミスリムに立ち向かって行った。

「頼りにならないだらしない男達ですわね!」

 三人そろったのを見て、仲間に毒づきながらミスリムは剣を拾い直し、それでコスモスと格闘する。

 コスモスの素早い動きをミスリムは捉え切れないが、コスモスの風の魔法もミスリムの機体に効果的なダメージは与えられない。

「もう十分だよ」

「あ、ちょっと」

 回復の途中で、レイが起き上がる。彼は遠くに転がっている杖に手をかざし、引き寄せて掴んだ。彼にとっては何気ないそのことも、カレアラにとっては非常識なことだ。

「便利ね、それ」

 でも、もうカレアラも慣れたものだった。

「詠唱に入る。時間稼ぎを頼む」

「仕方ないわね、まったく」

 レイは呪文を唱え始める前に、カレアラに懐から取り出したものを渡し、一つだけお願いをした。それから呪文を唱え始めた彼をその場に残し、彼女は剣を引き抜いてコスモスの所へ行った。

『キタ~! これが見たかったあぁ~!』

 フィリオラの興奮の声に同調して、観客席からも最高潮の声が響く。

『一体何ですか? この盛り上がりは!?』

 アナウンサーの女学生は訳が分からず、キョロキョロと周囲を見回している。

『ここが勝負の分かれ目だ! レイの魔法が完成すればレイの勝ち! 阻めればミスリムの勝ちだ!』

『ホント、どういうことです!?』

『魔法力を完璧にコントロール出来るレイにしか出来ない――ハンドメイドマジックだ!』

 ミスリムはコスモスとカレアラを相手にしながら、レイに視線を走らせる。

 詠唱に集中しているレイは隙だらけだ。

 マシンガンを向けたが、コスモスに銃口を蹴り上げられて狙いを外される。

 カレアラは近づいて機体に電撃を流したが、機体の表面には電気を流す作りが施されていて、電撃は地面へと流れていった。

「こんなのと、レイは何分も戦っていたの!?」

 カレアラはこんなの何分も相手になんてできないと思いつつ、機体の剣撃を剣で受け止めて後ろに下がった。だが、レイならばそんな風に防御も出来ないだろう。

 ミスリムはこれ以上二人に関わっていたらマズイと考え、巨体を活かした強攻策に出る。つまり、二人の攻撃を無視してレイに突っ込もうというのだ。

 走り出したミスリムの機体は、一歩一歩がそれこそ地震のように周囲を揺らした。

 だが、〈工学魔導搭乗型機械兵器〉に負けないほどの巨体が、進路を阻んだ。

 銀色の鱗が太陽光を反射させて輝く。ドラゴンの姿に戻ったコスモスが、体でミスリムの進行を止めた。

『パパの邪魔はさせない!』

 ロボットとドラゴンが相撲のように組んで力比べ。それはほとんど互角。コスモスの右腕が使えないのと、機体の魔法力残量が少ないのが拮抗している理由だろう。

 ミスリムはコクピットの中で、馬力を上げようとしても上がらない事態に苛立つ。魔法力が絶望的に足りない。その時、レイの姿が目に入った。あれほど集中していれば、先程のように魔法力を逆流させることなんてできないのではないかと考える。

 マシンガンを持っている右腕はコスモスの左手で押さえられている。左腕の剣を捨て、掌をレイへと向ける。

 全力で力比べをしているコスモスは、ミスリムの左手をどうにかする余力はない。

 機体からレイを狙ったワイヤーが放たれた。

「レイからのプレゼントよ」

 そのワイヤーはレイの前に立ったカレアラに受け止められた。彼女がどうやって受け止めたのかと言うと…………レイが魔法力を溜めこんでいたクリスタルで、だ。

 ワイヤーが突き刺さったクリスタルから、ものすごい勢いで光が機体に流れていく。

「食べ過ぎは体に毒よ」

 機体が異音を上げて止まり、コクピットの中の計器があまりの魔法力の量に狂い出す。

「そんなまさか! この機体の最大容量は、並の魔法使い五十人分に勝るはずなのに!」

 その時、混乱するミスリムですら気づくほどの眩しさが、モニターに映し出された。

 レイの杖が一際輝きに満ちていた。

交錯(ネスノース)する光帯(フォトン)道!」

 出現した六条の光の帯がミスリムの機体を透過する。その六条の光が重なった一点で――激しい光の奔流が外側に向かって炸裂するように溢れ出した。

「キミ用に作りこんであげた。その装甲でこの魔法は防御出来ない」

〈工学魔導搭乗型機械兵器〉の上半身と下半身が離れ、地面に沈んだ。

『魔法力を完璧にコントロールできるレイは、対象に合わせた魔法をその場その場で作れる。それがハンドメイドマジックだ。その見事な匠の業に、魔法力の高低関係なく、魔法を使える全ての者が見惚れたもんだ!』

 フィリオラは満足げに呟いた。

 他の人が自分の得意な魔法を使っているのに対して、レイだけは相手に合わせて魔法を使っています。それが普通のことだって思っている彼は、ホント自分が分かっていませんわ~。

 『ハンドメイドマジック』というのも他の人が勝手に言っているだけで、レイは「ふぅ~ん」ですよ。「何か変な所でもある?」ですよ。

 さて、これにて宝闘祭はレイ達の完全勝利……ですが、やけに一人アッサリやられた人がいます。そして、ストーリー的にこのまま終わってしまったのでは、失敗作が流出しちゃった(テヘッ)。が、活かせていない!

 ということで、もう一波乱あります。

 それでは、また次回。賞のために一月までにこの話は終わらせないと(アセアセ)。

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