宝闘祭開始!
予想通りの渋滞とレイが失敗作シリーズのことを調べていたせいで、学園に着いたのはギリギリだった。そのため、レイは少しカレアラに叱られた。
会場となっているグラウンドでは、観客席の前に大型モニターが用意されていた。モニターは空撮しているドローンの映像が送られ、注目される画面が大きく表示され、他の映像も小さく分割されて出されている。
アナウンサーの放送委員と解説者の実況で、宝闘祭は随分な盛り上がりを見せていた。そして、グラウンドの一角に新たな対戦が始まろうとしていた。
『さぁ! なぜか話題騒然! 大注目! 『ミスリムと仲間達』VS『部屋番号五一六』の対戦がいよいよ始まるぅ~!』
アナウンサーの宣言で、観客席から一際大きな歓声が上がる。観客席に目を向けると、人間種が少ない。天使・魔神・エルフ、そして人間形態を取っているドラゴン。
『この試合を解説してくださるのは、解説者を買って出て下さった超有名人! 自然環境保護協会会長、フィリオラ=ステイト=ヒラシュミラさんです!』
『よろしく』
アナウンサーの女学生の隣で、身なりが整ったフィリオラが会釈する。
『まずは、どうしてこの試合の解説を受けてくれたんですか?』
『友人と孫が戦う見逃せない一戦だからな。投げやりに流されたら困る。同時にやっている試合には申し訳ないと思うが、贔屓するのであしからず』
『堂々としたもんですね。ですが、贔屓しないわけにもいきません。ネットの閲覧者数がすごい勢いで増えています』
女学生が横にあるパソコンを確認すると、生で流れている動画サイトがコメントなどで随分とヒートアップしていた。
『見逃せない人には見逃せない一戦だからな』
フィリオラはテーブルに肘をついて手を組み、ニヤリと笑う口元を手で隠す。
『観客席を見回しても、例年ならあまり見かけない天使や魔神の姿も見えますね。どうやら発信源は、マラクス先生とフルカス先生だとか。ネットでは「ロッド家が」と騒いでいますが、F組のレイ=ロッドがどうしてこんなに人気なんでしょうか?』
『さてな。それより、そろそろ始まるんじゃないか』
フィリオラはすっとぼけて、手元の装置で大画面にレイ達を映した。
グラウンドの一角でレイとカレアラとコスモスが、ミスリムとイリアルとリュサックと対峙している。そして、ミスリムの背後には〈工学魔導搭乗型機械兵器〉が雄々しく存在していた。カレアラが彼女を呆れた目で見て、文句の一つでも言うのかと思いきや、
「あんたらのパーティ名何なの? ミスリムがリーダーなわけ?」
「最も優れた者が先頭に立つ――当たり前のことですわ」
しかし、ミスリムの隣でイリアルが恥じ入るように顔を俯かせる。
「ジャンケンで」
それだけで、大よその命名理由は分かった。
「カレアラさん、ジャンケンって何?」
「お願い、レイ。やる前に疲れさせないで」
コスモスがレイにジャンケンを教えているのは放っておいて……。
「そっちこそ捻りの無いパーティ名ではありませんか」
「いいでしょ。同室の三人なんだし」
それを聞いた殺気満々のミスリムの視線がレイに飛ばされるが、ジャンケンの説明に集中している彼は気づいていない。
そして、開始の合図だけする審判が両雄の間に立つ。
カレアラが剣を抜き、レイが杖を構え、コスモスが彼を守るように若干前に出る。
イリアルが銃口を下にしてライフルを両手で持ち、リュサックが左を前にする半身で構え、ミスリムが〈工学魔導搭乗型機械兵器〉に乗り込む。〈工学魔導搭乗型機械兵器〉が手にしている武器は、マシンガンに刃を潰した大剣。
準備が整うと場に緊張感が張り詰める。
「始め!」
合図と共に〈工学魔導搭乗型機械兵器〉のマシンガンが噴いた。飛ばされるのは火球で、狙いはレイだ。カレアラはその場から横っ飛びで離れ、コスモスはレイを抱きかかえて高く跳ぶ。
空中でコスモスは迫ってきたリュサックに襲われ、彼の蹴りを右腕で受けた。彼女の防御力をもってすれば本来なら何でもない一撃だが、その衝撃は腕から肺に伝わり、呼吸を乱された。そのせいでレイを抱えていた左腕から力が抜け、彼を滑り落とした。
リュサックの浸透系の攻撃をコスモスは忘れたわけではなかったが、体勢的に受ける他なかった。
「レイ!」
落下地点に走りこもうとしたカレアラの足下に、銃弾が着弾する。視線を向ければ、イリアルが第二射を撃とうと構えていた。
その前にレイを受け止めて、雷の魔法をパワーアップさせて迎撃する! とカレアラは思ったが、ガクンッと体勢が崩れる。足元を見ると、変形した地面に足が掴まれていた。
足を拘束する土を剣で突き立てて破壊し、最早間に合わないと判断して背後に飛び退いた。ギリギリ、薄いライトブルーの髪に銃弾が掠った。もし前進していたら、間違いなく当たっていただろう。
地面に激突しかかったレイは、三角帽子の中からホウキを取り出して浮上した。
「カレアラさん! コスモス!」
動こうとしたレイを囲うように数発の火球が着弾した。耐熱・耐火のマントは燃えないが、その速さに彼は汗を流した。レイが驚いた速さはマシンガンから放たれる火球の射出速度だけじゃない。連射の速さにもだ。
あれほどの射出速度だと、防御力が低いレイが喰らったらかなりのダメージがあるだろうし、連射の速さはレイが魔法を一発使うまでの間に百発は軽く撃てそうだ。
レイの動きが止められている間に、カレアラとコスモスがイリアルとリュサックの牽制を受けて離れていく。
「こっちの心配より、自分の心配をしなさい! あんたの相手が一番キツイわよ!」
「パパ! すぐ戻ってくるから!」
二人とも、相手チームの作戦に気づいたようだ。
開始数秒で、その場に残されたのはミスリムとレイだけになった。
『おお~っと! これはバラけた! どうやらミスリムとその仲間達の作戦は、各個撃破のようです!』
『これは個々の実力がものを言う展開になったな』
ホウキに乗って浮遊しているレイは、あらためて相手をよく観察する。
防御は硬く厚そうな装甲。攻撃は近づけば剣、離れれば銃。人型で二足歩行。ミスリムが乗り込んだのは背中側からで、大きな胸部に彼女はいると思われる。動きは少し見たが鈍重とは言い難く、巨体であるのを考えれば十分素早い。
差し当たって、欠点らしい欠点は見当たらない。
「ステータスの違いを見せつけて差し上げますわ!」
銃が火を噴き、火球の連射がレイを襲う。
レイはホウキを操ってその場を離れ、ホウキの藁が地面をこするほどの低空飛行で機体の後ろに回り込もうとするが、それを追って機体も回る。
「あのゴーレムもどきよりホウキで空を飛ぶ方が非常識って、納得できないな、僕は!」
レイが叫ぶが、それに同調する人はこの時代に誰一人としていないだろう。
『期待に反して、レイは逃げの一手ですね』
『不用意に魔法を使おうとすれば、攻撃を喰らいかねないからな。ひとまずは距離を取りつつ、ミスリムの観察って所だろ』
『なるほど。それではその間に、他の戦場を見てみましょうか』
『一番盛り上がっているのは、間違いなくここだろ』
と、フィリオラが映像を切り替えて、大画面にリュサックとコスモスの姿を出した。
レイの元に戻ろうとするコスモスだが、リュサックはそうはさせず、上手く立ち位置をコントロールしていた。
「仲間の所に戻りたいなら、まずは俺を倒すんだな」
コスモスは悔しそうに歯を食いしばり、リュサックの背後を見る。距離が離れてしまってミスリムの機体しか見えず、引っ切り無しに聞こえる轟音で不安がつのる。
「どこを見ている」
レイのことが心配で相手から目を切っていたコスモスの隙を見逃さず、リュサックが間合いを詰めていた。
「銀の鱗表出!」
腹部に入ったリュサックの拳を銀の鱗で防御したが、衝撃は背中へと抜けていった。だが、一発程度のダメージなどコスモスは気にすらしない。
コスモスは手をかぎ爪の形にし、リュサックに振り下ろした。それを彼は上体を後ろに反らしたスウェーで避け、戻りしなに彼女の顔面を狙って拳を振り下ろす。彼女は拳の勢いに逆らわず首を回し、ノールックのまま彼の腹部を狙って小さな拳を下から突き上げるように放つ。が、その拳は彼の空いていた手で受け止められた。
動きが止まり、両者は示し合わせたように後ろに下がった。
『なんという攻防でしょうか! コメントを挟む隙もありません!』
『高いレベル同士の戦いだ。少しの隙も命取りになる。コスモスはリュサックを倒すまで仲間の元へ行くことは出来ないだろう。焦ってミスをしなければいいが』
コスモスは相手に対して正対し、手は握らず軽く開いている。呼吸は短く吸って深く吐く。
リュサックは左を前に出した半身の構え。拳は軽く握り、若干前のめり。戦いに集中した獰猛な視線は、獲物から外れることはない。
動いたのはリュサックだ。地面に足跡を残すほど強い踏み込みのスタートダッシュは、一瞬でコスモスとの距離を消した。
コスモスが右手を返して人差し指と中指を揃えて上方に向けると、リュサックの足下から風が舞い上がり、彼の体が宙に浮いた。
踏ん張るための大地を失った相手に、コスモスは指を伸ばした突きをくり出す。リュサックは当たる寸前でその突きを両手で押さえ込み、その腕に巻きつくように体を動かして十字固めの体勢に入る。流れる動きに巻き込まれる形で彼女は倒されかけるが、足を地面にめり込ませて杭にし、転ばされるのを防ぐ。
そして、コスモスは腕を大きく掲げてリュサックを地面に叩きつけた。
さすがの衝撃でリュサックはコスモスから手を放し、地面を転がって間合いを取る。
『やるな、リュサック』
『え? リュサックの方ですか?』
『叩きつけられる前に離れようと思えば離れられた。だが、彼は叩きつけられることすら利用して、コスモスの腕を壊しにきた』
『あ~!』
見ると、コスモスが苦悶の表情で右肘を押さえていた。
『関節を極められた状態で強い衝撃を受けたんだ。いくらヴィシャル種とは言え、腱を痛めたか下手したら折れたか……ミスと言えばミスだな』
『これで片腕が使えなくなったわけですね。これはマズイ』
『しかし、リュサックも頭部にダメージを受けたはずだ。視界が定まっているかどうか分からない今が、コスモスの攻め時だと思うが……』
『動きませんね』
『もしかしたら、それほど腕のダメージが深刻なのかもしれないな。リュサックのダメージが抜けきったら、決着がつきそうだ』
かなり間合いを開けて対峙する二人の動きが止まったので、また大画面の映像を切り替えた。
カレアラとイリアルの戦いは一方的なものだった。
剣が得意で距離を詰めようとするカレアラと、銃器が得意で距離を取ろうとするイリアル。
イリアルは一対一になると、ライフルから二丁拳銃に持ち替え、速射で弾幕を張ってカレアラを寄せ付けないでいた。彼女も何とか近づこうと雷の魔法を駆使するが、魔弾に迎撃されて効果は無い。リロードの隙を突こうとしても、二丁拳銃で隙など出来ない。
それならばと、カレアラは舞台をグラウンドの隅にある林へと移した。
イリアルは林の前で立ち止まった。カレアラの狙いは分かる。遮蔽物を利用して、何とか距離を詰めるつもりなのだ。
林とはいえグラウンドの隅にあるものなので鬱蒼としたものではなく、見通しはいい――木が開けた向こう側が見えるぐらいだ。木々の間隔もある。
『さあ、イリアルはこの分かりやすい誘いに乗るのか?』
『乗ってくるだろう。もしカレアラを見失って他と合流されたら、せっかく引き離した作戦が台無しだ』
『あ~その場合、あの二人に何を言われるか分かったものじゃありませんね。あの二人の厄介さは、他の学年でも知られる所ですから』
二人の声が聞こえたわけではないだろうが、イリアルは警戒心を強めて林に足を踏み入れた。直後、上から葉が激しく擦れる音が聞こえ、確認するよりも前に前方に飛び込んだ。
前回り受け身で反転して背後を確認すると、上段に剣を振り上げたカレアラが迫っていた。
イリアルが魔弾を地面に打ちこむと、そこが隆起して壁になり、カレアラの進路を塞いだ。が、その壁は一刀のもとに切り落とされ、残った土台を利用して彼女は彼に飛び掛かり――魔弾を左太ももに受けて体勢を崩し、彼に届かず地面に両手両足をつけて落ちた。
イリアルは拳銃をカレアラに向けたが、その時には彼女は木を盾にして去っていた。
『入口で待ち構えていたか。すごい奇襲だったが、少し強引過ぎるな。あの怪我では機動力は確実に落ちる』
『そこは心配ないでしょう。カレアラはバランサー。回復魔法も使えます。あれぐらいの傷ならば、彼女でもすぐ治せるはずです』
『ほう。バランサーか』
『はい。カレアラは剣術を認められた一芸入試で学園に合格し、F組に在籍しています。魔法の腕前は大したことありませんけど、「力」「すばやさ」「体力」のステータス項目は高いですよ』
『これ、彼女には他に向いている職業があるんじゃないか?』
イリアルは張り詰めた緊張感の中にいた。木を背にし、拳銃を顔の前に構えている。
『イリアルの魔弾は土の魔法が付加されているので、直接攻撃の他、地面に打ちこむことで地面に影響を与えます』
銃火器には大きく分けて二種類ある。ミスリムの機体のように自分の魔法を弾として射出するタイプと、イリアルのように弾丸に魔法を付加させて射出するタイプだ。前者は魔法力が続く限り連射できるが、威力はそれほど高くない。後者は弾こそ限られているが、威力は高く、付加した魔法を利用することもできる。
『それなら、あながちあのフィールドはイリアルに不利とも言えないな』
奇襲が失敗したカレアラは姿を見せつつ木を盾にし、素早くイリアルに近づこうとしている。直接彼女を狙えば当てることは困難だろうが、彼は彼女の進行方向に弾を撃ちこみ、地面を錐状に隆起させて妨害している。
これでは容易に距離をつめることは出来ない。
『こうなったらイリアルは下手に動かず、カレアラが焦れて強攻策に出るのを待つだろうな。いくらカレアラがバランサーでも、突撃しながら回復もするなんて器用なマネは出来ないだろう』
『そんな魔法の腕があったら、F組になってませんよ』
『さて、仲間達はこう着状態になった。味方の援護を期待できない状況で、魔法使いでしかないレイはどうするかな』
大画面が切り替わり、再び映像はレイの所に返ってきた。
レイはホウキに乗って空を飛び、マシンガンから火炎放射のように放出される火炎を避けている。ホウキは攻撃をオートで避けてくれるが、接近してきた機体が無骨な剣を振るうと、発生する突風でホウキがあおられて不安定になり、そこを射撃で狙われる。その際は、彼が操作して避けないといけない。
不思議なことに、なぜかレイは上空高くに逃れようとせず、低空飛行をずっと続けている。時たまホウキの藁で地面をこすることもあるので、もしかして土埃で煙幕でも張ろうとしているのかもしれないが、それは無駄というもの。グラウンドの固い地面で十メートルの巨体を覆うほどの土埃を、ホウキで掃いた所で起こせるわけがない。
小回りはさすがにレイの方が上で、攻撃の合間を縫って短い呪文を唱え、ミスリムの機体に魔法を放つが、顔や関節を狙ってもダメージを与えられない。
『レイの魔法では機体の装甲を破ることは出来なさそうですね』
『魔法に集中できていないからな。どうにかして時間を稼ぐ必要がある』
『しかし、レイは上手いこと逃げますね。開始十分ですが、いまだ被弾ゼロですよ』
『…………なるほど。ミスリムも考えているな』
『え?』
『見ていろ。そろそろ均衡が崩れるぞ』
唸りを上げる剣の一撃を避けた後、きりもみするレイに向けて放たれた火球。それが彼のホウキの藁を捉えた。
ホウキが白い煙を上げて墜落し、レイは地面に投げ出された。低空飛行だったからよかったものの、高所から墜落していたらこれで決まっていたかもしれない。
『おおっと~! ついに被弾! フィリオラ会長、これは一体どういうことですか?』
『単純な話、レイの体力の低下だ』
『へ? いや、まさかまだ始まって十分ほどで……』
と、ドローンのカメラがレイをズームすると、彼は地面に手をつき、激しく肩で息をついていた。
『本当です! これは明らかに疲れている! 信じられません!』
『レイの体力の無さは群から抜け落ちているほどだからな。あれだけ振り回されていたらこの結果は当然だ』
ミスリムの機体が一歩一歩地面を振動させてレイへと近づき、銃口を向ける。
撃たれるより早くレイは身を翻し、ミスリムに杖を向ける。
「フォトンミラージュ!」
レイの杖から発せられた眩しい光に、コクピットのミスリムはメインカメラの画面から目をそらした。そして、光が消えてあらためて画面に目をやると、何十人ものレイが動いていた。
『これは一体!?』
『光による幻だろう。短い時間だったが、早口で唱えたな』
『幻って、カメラ越しに私達にも見えているんですけど!?』
『屈折率を変えるとかそんな単純な幻じゃないんだろう。光の魔法によってそこにいるように見えるんだろう』
『え~どういうことですか?』
『説明なんて出来る訳ないだろう。魔法なんだから』
『…………よく分かりませんが、これはミスリム困った! どこにレイがいるか分からなければ、体力を回復されるだけでなく、逃げられてしまうかもしれない! どうすればいいでしょうか?』
『そうだな。魔法力に余裕があるなら軒並み撃ってみるのも手だと思うが』
だが、以前幻に惑わされたミスリムにとって、これは予想出来た事態なので動揺はない。機体のコンソールを操作し、画面を切り替える。そして辺りを見回し――見つけた。
一発の火球が一人のレイを捉え、吹っ飛ばした。すると、倒れた1人を残して他のレイが消えた。
『これは!?』
『一発でレイの本体を当てたようだ』
『どうやったのでしょうか?』
その疑問に、戦場にいたミスリムが答える。
「サーモグラフィーですわ」
それは会場にではなく、無様に倒れるレイに勝ち誇るための説明だった。彼はマントの上から右脇腹辺りを苦しそうに押さえ、
「……モグラ? モグラで何が分かるんだ?」
「サーモグラフィーですわよ! 対象が発する熱を色分けして見る機械ですわ。どれほど上手く幻を作ろうとも所詮は幻。本体とは違いますわ。幻の温度は二十度未満。しかもはおっているマントと体の境がありませんでした。一発で分かりますわ」
懇切丁寧に説明してやったのに、やっぱりレイは理解できていない顔をしていた。
『なるほど! これは頭脳プレイ!』
『レイも油断していたな。体力がない所に直撃だ。ダメージはかなりのものだろう』
「身の程を知らず、本来わたくしがいるはずの場所にヌケヌケと居座るあなたに、敗北を贈りますわ」
わざわざミスリムはレイに近づき、銃口ではなく剣の切先を突きつける。誰の目からもどちらが勝者か分かりやすい演出だ。
「妙な動きはよしなさい。それと変な呪文を唱えようとしてもトドメを刺しますわ。自らわたくしに敗北したことを認め、ギブアップを宣言なさい」
レイは剣の向こうにある機体の顔を見上げ、薄く口元に笑みを見せる。
「もう動く必要もないか」
「そうですわ。さっさと負けを認めなさい」
「書き終わったしね」
レイが指を鳴らすと、機体の足下に光る模様が浮かび上がる。
「落ちろ」
いきなり機体がスッポリ入るほどの大穴が開き、ミスリムは穴の中に吸い込まれるように落ちていった。穴のふちで、レイは杖を支えに立ち上がる。
呆気に取られたのは会場中だ。何が何やら全く分からなかった。
『う~わ~……俺も初めて見た。あんなのレイは使えたのか』
『え? え? 何でいきなり地面に穴が開いたんですか? 魔法ですか?』
『あれは『力ある文字』だ』
『何ですか、それ?』
聞いたことある人の方が少ないようで、会場のほとんどの人の頭上に疑問符が浮かぶ。
『穴が開く前に浮き出た模様を覚えているか?』
アナウンサーが手元で操作して、画面に先程機体が落ちる前の映像を出す。光る模様もバッチリ映っている。
『これですね? いきなり現れましたね』
『いや、レイはしっかりと書いていた』
『いつですか?』
『低空飛行していた時に、ホウキの藁を地面に接触させていただろ? ああやって逃げながら書いていたんだ』
『ただ逃げていたわけじゃなかったんですか』
『本物の魔法使いは魔法を使うことが能じゃないからな』
『それで、この模様は一体?』
『この模様は模様自体に意味があり、おそらく「穴」という意味だ。だから、文字の大きさに合わせて穴が開いた』
『そんなバカな』
『俺だって『力ある文字』なんて不確かな伝承だと思っていたよ』
フィリオラは心の中で「七〇〇年前ですらな」と付け加えた。彼は知らないだろうが、実は以前にもレイは『力ある文字』をミスリムに使って幻を見せていたことがある。
レイは大穴を覗きこむ。深く開いた穴は底まで見通せず、ミスリムがどうなったか分からない。
「あれほどの巨体だ。重量もかなりのはず。穴に落ちたらもう登って来られないだろう」
ここは終わったと思い、レイはカレアラとコスモス、どちらの方へ駆けつければいいのかと、両者が消えていった方向を見比べる。
その様子を見て、フィリオラはマイクのスイッチを切り替え、グラウンドにまで声が届くようにする。
『お~い、レイ。教えておいてやるけどな』
突如聞こえたフィリオラの声に、レイはキョロキョロと周囲を見回す。
『あれ、垂直上昇できるぞ』
地面を揺らすほどの轟音が響き、穴から風を突き破って〈工学魔導搭乗型機械兵器〉が飛び出した。
スラスターから発生する熱風を背中に受け、マントがそれをはらんで体が浮き上がり、レイは体の自由を奪われた。そこを、当たる面積を広くした剣の腹で叩かれた。
吹っ飛ばされたレイはフェンスを突き破り、校舎の壁に叩きつけられ、血反吐を吐いて倒れ伏した。
三組ともレイ達がピンチですね。まあ、レイが一番ピンチですけど。やはりどう考えてもね、純正魔法使いが一人で戦闘なんて無茶ですよ。ボス戦でもし魔法使い以外がやられたら全滅間近ですよ。
そんな訳で、助けがこないことには始まらない。次回はコスモスの所に決着をつけます。
それでは、また次回。




