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失敗作流出

 今回はさっさと更新できるな~っと思っていたんですが、途中で大幅に変えなくてはいけなくなり、ちょっと時間がかかっちゃいました。

 レイは手ごろな広さの部屋に通された。そして、白いテーブルクロスがかけられ、小さな花瓶が置かれた円卓に座る。彼がリラックスできるよう豪華さを抑え、広さや飾りに心配りがされている。

 同席しているのはアイリスだけで、レイの対面でなく右斜めにいる。

「色々と考えたんですけど…………お弁当をとても美味しそうに食べられていたので、温かいものをめしあがっていただこうと、思いました」

「それは楽しみなんだけど……王室のマナーは知らないんだよね」

 レイは目の前にあるナイフやフォークなどの食器の数に戸惑っている。

「マナーなんて気にしないでください」

 レイの「王室」という言葉に、アイリスは楽しそうに微笑む。

 そして、運ばれてくる料理にレイは舌鼓を打つ。

 スープといえば塩とじゃがいもだったレイにポタージュ。サラダといえば生野菜だったレイに和風ドレッシングサラダ。肉料理といえば筋張って固い肉に塩を振っただけだったレイにステーキ。デザートなんてなかったレイにチョコレートケーキ。

 食後にキラキラと星を飛ばし、至福な顔で紅茶を飲むレイ。その機嫌の良さそうな様子を見て、アイリスは太ももの上に置いていた手をギュッと握る。

「この前は、すみませんでした」

 いきなり謝られて、レイの頭上に疑問符が浮かぶ。彼は不思議そうにアイリスを見るが、彼女は申し訳なく目を固くつぶり、顔を俯かせていた。

 レイはアイリスが話してくれるのを待っていたが、彼女は震えて黙ったままだ。

「僕には、アイリスさんに謝られる覚えはないんだけど」

 そう言ったが、アイリスはフルフルと首を横に振る。そして、意を決したように口を開く。

「先週……です。私……先輩に、ひどいことを…………言いました。私達のために怒ってくれたのに、その行為を……責めました。先輩はそれなのに、危険をかえりみずに私を、助けに来てくれました……」

 レイは話を聞いて、先週花壇を荒らした男子学生をカエルにしたのを思い出した。その時、アイリスに「そういうことしちゃいけないと思います」と注意されたのだ。

「……本当はそんな先輩に、どうお礼をしていいのか思いつきませんでした。とにかく、謝らなくちゃいけない……そう思って……でも、先輩に……怒られたくなくって……。先輩だけを招待して……機嫌が良い時を見計らって……」

 その打算を考えた自分を嫌がってアイリスは頭を振って、顔を上げてレイを必死な瞳で見つめる。

「先輩。何でも言ってください。私に出来ることでしたら、何でも――」

「ストップ」

 レイはアイリスに掌を見せて、押し止める。

「アイリスさん。僕は本当に気にしてなかったけど、謝るってことはあの時の僕の行動を容認するの? 次に僕が同じことをしても何も思わないの?」

 その質問に答えかけたアイリスの口がレイに見つめられて止まり、俯くのに合わせて力無く閉じられた。それから、小さく口を開く。

「…………口には出さないと思いますけど、やっぱりしちゃいけないと思います」

「どうして?」

「やり過ぎだと思いますし……それに、だって……」

 泣きそうで、それでいてレイを責めるような、複雑な表情をアイリスは彼に向ける。

「良いことをしているはずの先輩が、悪い魔法使いに見えちゃいます」

 レイは今の今まで、子孫でもエリーとアイリスは似ても似つかないと思っていた。エリーはいつも生意気で高飛車、アイリスはお淑やかで恥ずかしがり屋。

 でも、その思いを込めた瞳……優しい鮮烈な瞳がレイの脳裏で重なる。

 レイは椅子に引っかけていた三角帽子をアイリスに深くかぶせた。いきなりのことで彼女はつばを持ち上げようとしたが、上がらない。

「僕達は善悪を気にして研究をしてこなかった。だから、作れたものがたくさんある」

 声を聴いて、アイリスは背筋に寒気を感じた。その声質には覚えがあった。レイが誘拐犯にかけていた声が、まさにそれだった。

 でも、すぐにレイの方から感じる雰囲気は和らいだ。

「魔法に興味を持っていなかったキミに引っ張られるなんて、本当に未熟な師匠だった」

 遠くの人に呟くように、

「ありがとう」

 感謝のように、別れの言葉のように。


 アイリスがためらいがちに三角帽子を取ると、目の前にいたレイは普段通りの様子でコップの水を幸せそうに飲んでいた。まるで、何事も無かったように。

 またあの話題に戻るのもはばかれたし、アイリスはなんだか戻れない気がした。静かに三角帽子を元の位置に戻して、椅子に座り直す。

 沈黙を気まずく感じるアイリスは、頭の中をひっくり返して話題を探す。

「……あ、先輩は確か、今日の宝闘祭に出られるんでしたよね?」

 上手く普通の声が出せたことに、アイリスはホッとする。

「うん? うん、そうだよ。よく知っているね」

「はい。ネットの参加者の中に名前があったので…………」

 と、アイリスはホンワカと和んでいるレイに一抹の不安を覚える。

「もしかして先輩……知らないんですか?」

「何を?」

 キョトンと疑問符を頭上に浮かべるレイを見て、少し青ざめた顔でアイリスは携帯を取り出して、操作してから画面を彼に見せる。

「先輩の相手……〈工学魔導搭乗型機械兵器〉を用意しているそうです」

 画面には黒光りする重厚な巨人がいた。足元で記念撮影している人間と比べると、体長は人間六~七人分はありそうだ。

 それを見て、レイは苦々しい顔で前髪を指でかく。

「ゴーレムか……原料は土じゃなさそうだけど、何だろ?」

「ゴーレムなんて架空のものでは、ないんですけど……原料は……何でしょう? 鉄とかだと思いますけど……私もロボットには詳しくないので」

「鉄か……魔法耐性が高い金属を用意してきたな。これは骨が折れそう」

「え? あの……戦うつもり、何ですか? こんなのたぶん、学園側に言えば使用を控えるようにしてくれると、思いますけど……さすがにこれは、ちょっと」

「戦うために用意したんだから、向こうもそう簡単に譲らないと思うよ。まあ、実際に性能を見て、勝つ方法を考えるさ」

 気負う様子も無く、いつも通りのレイ。

 生身で〈工学魔導搭乗型機械兵器〉と戦うなんて正気と思えず、アイリスは何と声をかけて止めようかと迷っていると、

「心配してくれてありがとう。アイリスさんは見に来るの?」

「え? え~っと……はい。家族から許可をもらったので、テスラちゃんと一緒に応援するつもりです」

「そっか。それじゃ、良い所を見せれるように頑張らないと」

 レイに微笑まれ、アイリスは頬を赤くして俯く。彼女は彼の笑顔にはぐらかされたのに気づかず、気恥ずかしさから若干早口で別の話題を尋ねる。

「――そ、そう言えば……ロボットと同じくらいネットで話題になっていましたよ。先輩が宝闘祭に出るって、天使・魔神、エルフやドラゴンのコメントがすごかったんですけど、何か理由があるんですか?」

「うん? それは~その~」

 まさか「昔馴染みが多いから」とは言えない。

 言い訳に苦慮していると、レイは何かを感じ取って三角帽子をかぶり、椅子に立てかけていた杖を取った。アイリスがそれを不思議そうに見ていると、廊下の方で食器でも落としたような音が聞こえた。そんな初歩的なミスをするのも珍しいなっとアイリスが思っていると、レイが立ち上がってドアへと向かう。

「あ、先輩。気にしないであげてください」

 使用人もお客様にミスを見られたくないだろうと、気遣ったアイリスがレイを止めようと声をかける。が、彼はドアに手をあて、顔をよせて外の様子を窺う。

 そして、何かを確信して勢いよくドアを開けた。

 いたのは、廊下を歩く西洋甲冑。対応していた数人の執事の中で、レイを迎えに来た執事がドアの音に気づき、

「レイ様はお下がりください。私どもが対応いたします」

 言うやいなや、数人の執事が鮮やかな魔法で西洋甲冑を崩した。しかし、廊下に散らばった甲冑はすぐ元通りに組み上がっていく。

 執事たちの表情に動揺の色が見える所、もう何度も繰り返したようだ。

 レイはその光景を見て「やばい」と冷や汗を流していた。あの西洋甲冑は門外不出・失敗シリーズ――『騒音の動く(ガシャーン)』だ。防犯のために作られたもので、侵入者に反応して動き出し、攻撃を受けるとすぐにばらけて音を立てて家人を起こすというもの。自動的に組み上がる所に力を入れたため、敵を撃退する攻撃力もなければ、ちょっとの攻撃ですぐに崩れるので使えないという、恥ずかしい失敗作なのだ。

「誰も入っていないどころか、中身が空っぽなのにどうして動く!? どういう原理で勝手に組み上がるんだ!?」

「怪談話でこんなことを聞いたことがある。馬上試合で非業な死を遂げた騎士がいると」

「なぜあえて馬上試合!?」

「馬はどこいった!?」

「だから馬とワンセットなんだよ。馬ごと滅さなければ成仏しないっていうアレだよ」

「ドレだよ!」

 テンパっているんだろうと、執事達の会話を聞いてレイは頭に大きな汗をかいた。

 レイはあの鎧が動いている理由を知っている。

 あの動く鎧は原動力の魔法力を補給するため、レイを求めているのだ。魔法力が少なくなると動かなくなりただの鎧となるが、作り手が近くにいると補給を受けるため残量で動き出す。つまり、あの恥ずかしい失敗作はレイの作品なのだ。

 レイは三角帽子のつばを下げ、赤くなった頬を人目から隠す。

「落ち着け。おそらく各パーツが完璧にコンピューター制御され、崩れると組み上がるようにプログラミングされているのだろう。雷の使い手を呼べ。電気を流してショートさせれば済む話だ」

 執事の指示が飛ぶが、雷の魔法を使った所で対処できない。

 この鎧を行動不能にするためには――レイが杖を床に立てる。支えが無いのに倒れることがない杖の先に手をかざし、魔法力を溜めて光らせる。甲冑の額にある赤い石に狙いを定め、杖の先の魔法力を解き放った。

 執事達を避けて縦横無尽に飛来する魔法力は、一寸の狂いなく甲冑の赤い石に当たり、甲冑は崩れることもなくピタリと動きを止めた。

 しばし執事達は身構えていたが、完全に動きが止まったと分かると安堵のため息をついた。そしてレイは安堵しながらも、疑問にとらわれていた。

 どうして門外不出であるはずの失敗作シリーズが、二つもこの屋敷にあるのか。

 レイが部屋に振り返ると、ドアの所に心配そうに立つアイリスがいた。

「アイリスさん」

 声をかけられ、アイリスは背筋を伸ばして返事をした。

「先程の『魔導王』の自由帳、見せてもらえないかな」


『魔導王』の自由帳はマサラ家の知的財産であるため執事は良い顔をしなかったが、アイリスの恩人で先程の騒動を治めてくれたレイということで、渋々了承された。

「写本の方でしたら」と言われて、レイは用意してもらった写本を手に取る。

 食事をした円卓で、アイリスと執事に見られながらレイはページを開く。

「先輩……古語で書かれていますから、辞書も用意しますか?」

「大丈夫」

 むしろ、レイにとっては現代語よりも慣れ親しんだ字だ。

 前半部にある失敗作シリーズは飛ばし、後半の余ったページに書かれたレイの手じゃない文章を読む。

 確かに師匠――レイに対するエリーの恨み言が書かれている。バカ師匠だとか、実験の事故死なんてとんだマヌケだとか、そんな声となって聞こえてくるような感情溢れるページの後に、引き取った物という一覧があった。

 その中に、失敗作シリーズと見られるものがいくつもあった。

『見られる』などとあやふやなのは、先程の『騒音の動く甲冑』は『甲冑一式』。『魔法の鏡』は『姿見』と表記されているからだ。

 なぜこうなってしまったのかとレイが考えてみると、物と名前が一致する人が誰もいなかったせいだと気づく。

 レイが書いた失敗作シリーズは、効能や注意することを簡単に書いたもので、名前から連想できるものについては絵などの補助的説明は省いていた。つまり、エリーは品物を見て、それが失敗作シリーズなのかどうなのか見分けがつかなかったのだ。

 さらに、爆発した家の後始末をしたのはフィリオラだった。もしエリーが後始末をしていたら、一所にあったから気づいたかもしれない。

 フィリオラには「研究は弟子が引き継ぐのがロッド家」と話したことがあったので、気を利かせてくれたのだろう。使えそうな物をエリーに渡してくれたのだ…………家が爆発で吹っ飛んだと聞いたので、てっきり何も残っていないと思っていたのに。

 誰も責めることはできない。もし責める相手がいるのならば、エリーに失敗作シリーズを教えるのは彼女がそれを扱えるぐらいになった時でいいやと考え、そんなことは先のことで、そういうことはいつでも伝えられると思っていたレイだろう。

 自己嫌悪のあまりレイは本を横に置いて、頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

「先輩?」

「だ、大丈夫、だいじょぶ」

 と体を起こすが、誰が見てもダメージを喰らっている。そっと、執事が気を利かせて水を差し出してくれる。

 レイはコップの水を一口飲んで、深いため息をつく。

 自分がいない間にこんなことになっている……とは、もう何度も思ったことだが、今回は一層身に染みて実感した。

 口から半ば魂が抜けかけているレイを見て、アイリスは困ったように、

「あの~……もし、先輩が、そこに書かれているものに興味を持ってくださっても、お見せすることはできないんです」

「え? あ、うん。資料館にあるんだっけ?」

「いえ。資金集めのためにほとんどが売られてしまったのです」

 執事の言葉を聞いて、レイの口から出た魂が宇宙をさ迷いに行ってしまった。

「先輩?」

 アイリスに声をかけられ、レイはハッと気を取り戻した。

「え!? 売った!? いつ!? 何を!?」

 慌てふためくレイがアイリスと執事を交互に見るが、

「そこまでは何とも…………」

 曇った表情で明確な答えは返ってこなかった。

 マズイ。これはまず過ぎる。危険なだけでなく、レイも含めた先祖の恥部でもあるのだ。七〇〇年も経てば失われたものや壊れてしまったものもあるだろうが、『騒音の動く(ガシャーン)』の例もある。放っておくことはできない。

 変な空気になったと感じ取ったアイリスは、何とかして雰囲気を変えようとする。

「あ、先輩。そろそろ出ないとマズイですね。ネットで話題になっているので、道が混み合うかもしれません」

「……………………!!?」

 ドッと、レイは嫌な汗を全身にかいた。

 そう言えば……イリアルと宝闘祭で負けたら魔法使いをやめるという約束をしていた。もし負けてしまったら、『騒音の動く(ガシャーン)』のように、止めるために魔法力を使わなければいけない失敗作シリーズを集めるのが難しくなる。

 魔法使いをやめたところで化けてくる先祖はいないと思うが、失敗作を放置しっぱなしだったら化けてくる先祖はいそうだなっと、レイは思った。

 レイは何とか凹んだ心を回復させ、真剣な顔でグッと杖を握る。

「何が何でも勝たないとな」

 その真剣な横顔を見て、アイリスは心臓が一度大きく高鳴ったのを自覚した。

 何気に、大事な回になりました。次回からはついに宝闘祭に入ります。三対三というより、一対一が三つという感じです。

 それでは、また次回。

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