表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

エピローグ

 書き終ったので、あらすじを少し整えておきます。まあ、大して変わってはいません。

 宝闘祭の最終イベント――講堂で開かれている食事会には、中等部・高等部関係なく何百人もの学生が集まっている。会場の後ろから壁際に料理や飲み物が並べられ、ビュッフェ形式だ。

 幸い左腕は手厚い治療を受けて大事なく、レイは食欲を刺激される匂いに惹かれ、色んな食事に夢中になっていた。傍らにいるコスモスが彼のコップを持っていて、中身はリンゴジュースだ。一度炭酸飲料を飲んだことがあるレイだが、刺激が強すぎたのか、それ以来飲もうとしない。

 先程までレイはフィリオラと話していたが、彼はミスリムの様子を見に行くと帰った。彼女は機体の中で『魔法掃除』に魔法力をスッカラカンにされ、かなりの疲労だったらしい。それなのにイリアルを再起が難しいんじゃないかってくらい凹ませた体力に、レイは素直にスゴイと思ったし、魔法使いじゃないだろって思った。

 聞く所によると『ミスリムとその仲間達』の三人は、今頃仲よく? 並んで治療を受けているらしい。

 会場では音楽に合わせてダンスも行われている。そのため学生の多くが着飾っていて、男子はスーツやタキシード。女子は思い思いのドレスだ。制服……というより、普段着なのはレイとコスモスぐらいだ。

 そんなこと全く気にせず、二人は踊ることもなく食事をとる。

 ちょうどレイがチョコレートフォンデュに夢中になっている所に、

「お兄さ~ん」

 背中を軽く叩かれて振り返った。

 そこにはテスラがいた。右肩が露出し、左肩の方は布地の結び目を花の飾りで隠し、スカートにスリットが入った白い片吊りのドレスをまとっていた。濃い藍色のポニーテールを止める飾りも豪華だ。元気な彼女に似合っている。

「いや~、お兄さんは探すのがちょ~楽ですな~」

 だが、口調はいつものように砕けたものだ。

「見てたよ、試合。もう一番盛り上がってたんじゃないですか。カッコ良かったですよ」

「いや~、疲れたよ。本当にコスモスやカレアラさんがいなかったら危なかった」

「お~。そう言えば、もう一人の先輩はどうしたんですか~? 姿がお見えにないですけど……」

 テスラがキョロキョロと周りを見回すが、カレアラの姿はどこにもない。

「学園の宝剣を元の場所に戻しに行ったよ。カレアラさん以外の人だとやっぱり抜けないらしい。カレアラさんと同じ職業の魔法使いやバランサーでも無理だって言うから、不思議だよ」

 レイが小首を傾げて疑問符を上げているが、テスラは好都合とばかりにニヤリと笑う。

「ア~イ~リ~ス~、登場!」

 と、テスラが横にどけると、後ろに隠れていたアイリスがレイの目の前に現れた。

 照れて俯く彼女も着飾っていた。ロングスカートで腰の所がキュッとくびれ、スタイルの良さがハッキリと分かる。淡いピンクのドレスで、恥ずかしがり屋の彼女らしく露出は少なく、肩も袖で隠れている。

 おさげにしている栗色の髪を結ぶ赤いリボンが、胸元近くで揺れている。

 アイリスとテスラの二人はやはり魅力的に見えるのか、あのレイが近くにいるのに、周囲の視線は彼女達に集中している。

「二人とも、その服よく似あっているね」

 レイに褒められ、さらにアイリスは頬を染めて目元が髪で隠れるほど俯く。

「う~ん、お兄さん惜しい。一緒くたに褒めちゃダメですよ。せっかく気合いを入れてるんですから、それぞれ褒めてくださいよ~」

 テスラに注意されて、レイは苦笑を浮かべる。そうは言っても、レイはファッションの良し悪しが分からない。服を褒めることだって、着飾っている女性を褒めないと機嫌が悪くなると、エリーで経験しているからだ。

 横ではコスモスがアイリスに対抗心でも燃やしているのか、不機嫌にムスッとしているし……どうすればいいんだか。

「まあいいや。それじゃお兄さん、踊りましょう」

 と、テスラに腕を引っ張られる。

「うん? いや、ちょっと待って」

 二・三歩踏み出してから踏ん張って、テスラに待ったをかける。

「僕、踊りはできない」

「え~。しょうがないですね~。リードしてあげますから行きましょう」

「だから、ちょっと待って」

 信じられないほど強く引っ張られる。おそらく、レイの力が弱いだけだろうが、テスラも魔法使いの学園に通っているのに、魔法使いと思えないぐらい力が強い。

「テスラちゃん、そんな強引に」

 アイリスがやんわりと止めようとするが、

「このチャンスを逃したら、お兄さんと踊るチャンスなんて一生無いかもよ!」

 止めようとしていた彼女の手がスッと下ろされた。

「あの……先輩。少しでも、いいので……」

 アイリスにテスラと逆側の腕をそっと取られ、さらに引っ張られる力が強くなる。

「大体にしてお兄さん。こんなに可愛い後輩にダンスに誘われて、何が不満なんですか」

「不満とかじゃなく……」

 レイが目に見えて困っていると、

「いい加減にする」

 三人の間にコスモスが割り込んできた。

「パパは疲れている。無理させるな」

 言われて、二人は気づいた。あれほど激しい戦いの後なのだ。治療を受けて平気そうに見えるが、抜けない疲労が溜まっているはずだ。

「あ――ごめんなさい」

 二人は配慮が足りなかったと気落ちして、レイの腕から手を放す。どうりでコスモスがアイリスに張り合って「自分も!」って言ってこなかったわけだ。彼女はちゃんとレイの状態が分かっていたのだ。幼く見えても、そこら辺はやはり年長者らしい。

 アイリスだけじゃなく、いつも元気なテスラまで飼い主に叱られた犬のようにしょぼくれる。

「……上流階級のたしなみのダンスなんて、性に合わないんだけど」

 二人が顔を上げると、レイがマントと三角帽子を外してコスモスに預けていた。

 シャンプーとリンスを使うようになったからか、レイのボサボサだった黒髪は艶を帯び、漆黒の輝きだった。白を基調にした制服とすごく合っていて、無駄な肉がないスマートな体格に現代人とは違う一種独特な雰囲気――清閑なオーラに、アイリスとテスラとコスモスはすっかり魅了された。

 三人が自分に見惚れていることになんて気づかず、

「本当に下手だし、間違って儀式用のダンスを踊って訳の分からないものを呼び出しても知らないからね」

「え? マジっすか?」

「冗談だよ」

 誰が言ってもウソにしか聞こえないのに、思わず本気で確かめてしまうのはレイの日頃の行いのせいだろう。


 レイの踊りはお世辞にも上手いものではかった。それでもどうにか二人と踊りきり、なけなしの体力を振り絞ってその場では倒れず、コスモスに外へ連れ出してもらった。

 今は、ぐったりと木に寄りかかってコスモスと並んで座り、夜風を感じている。

 恰好はもう普段の三角帽子にマント姿に戻っている。

「そんな所でなにしてるのよ」

 声に反応して見上げると、少し太っている半月の前にカレアラがいた。

 月光を背負うカレアラは、いつもと同じ制服姿だ。

「休憩中」

「なに? 食べ過ぎたの?」

「違う。アイリスとテスラと踊ったせい」

「…………よく踊れたわね」

「まあ、エリーの練習相手をしたことはあるけど、踊りの教養なんて僕にはないからね」

「違うよ、パパ。カレアラは踊れる体力が残っていたことを言っているんだよ」

「二つともそうだけど……私が言いたいのは、その恰好で踊ったの?」

 カレアラはレイの服装を指さす。

「周りが着飾っている中だと恥ずかしくない? 私だったらちょっと無理だわ」

「もしかしてカレアラ。だから会場に戻って来なかったのか?」

 カレアラは「当然でしょ」という顔で頷いた。どうりで剣を戻すだけなのに、全然帰ってこなかったわけだ。

「元々宝闘祭には出る気もなかったし、ドレスをレンタルする出費ももったいないし……終わる時を見計らって、余っている食べ物をタッパーに入れてもらうつもりよ」

 と、カレアラは腰に下げていた鞘を外して、レイの隣にストンッと腰を下ろした。

「ところで、私達は勝ったわけだけど、宝剣見に行く?」

「う~ん、もう見ちゃったからな」

「今さらだし」

「そうよね」

 カレアラは一応聞くだけ聞いた後に、嬉しそうな笑顔でレイに鞘に納まっている剣を見せる。その剣は学園の宝剣ではなく、彼女がいつも使っているものだ。

「壊されたと思ったけど無事だったの。落ちているのを見つけた人が届けてくれたわ」

「カレアラはお金に苦労しているのか?」

 コスモスに遠慮なく聞かれ、カレアラは口元を波立たせてぐしゃぐしゃの線を頭上に浮かべる。

「あんたにはデリカシーってものが無いの、まったく……」

 チラッとカレアラが横目でレイを見ると、興味なさげに月を見上げていた。

「レイのことばっかり聞いたし、レイが聞くなら私のことも話すわよ」

「うん? うん。別に話さなくても――」

「聞きたい?」

 強めの声で聞き返す。

 どうやらカレアラは、今まで一方的にレイの過去話を聞いたのはフェアーじゃないと思っているようだ。ここで重要なのは、彼女から話すんじゃなく、レイに聞かれたから答える。それで対等になるのだ。

「あ~、聞きたい……かな~」

 察して、レイは苦笑しながら答えた。

「私、中学まで施設で育ったのよ。親は知らないわ。赤ちゃんの時に捨てられたの」

 カレアラはレイの表情を確認する。そこには驚きも憐みも無かった。その感情を向けられるのが彼女には一番鬱陶しいのだ――話を続ける。

「よく理由は分からないけど、たぶん魔法力が低かったから捨てたんじゃないかしら。施設にはそういう子も何人かいたし……で、私はそれが何か無性に悔しかったのよ。捨てられたことが悔しいんじゃない。魔法力が低いだけで見切りをつけられ、将来が望めないと勝手に決めつけられたのが悔しかった」

 気負いなく、カレアラはさらに話を続ける。

「だから、私は魔法使いになる。それも国家に所属する優秀な魔法使いになって、魔法力で人を判断するような奴らを見返してやる。狙うはダンジョン遺跡類の『探索・調査魔法使い』。万能性が特に求められる職業だから、魔法力が多少劣っても、バランサーの私なら可能性がある。それに、今日のことは評価に直接関係ないとしても、A組の連中に勝ったんだから間違いなくプラスになったはずよ」

 熱くならず淡々と語るのは、誰に何を言われても変えないという意志を、もう心に決めているからだろうか。

「……幸せだね」

「おっと、その感想はさすがに予想外」

「生まれに関係無く、自分の将来を自分で選べるなんてすごい時代だよ。信じられない」

 その感想を聞いて、カレアラはあらためてレイが過去からやってきたんだなっと実感した。もしかしたら、彼にとって親のいない子どもというのは、珍しいことでもないのかもしれない。

 よっと、レイが腰を上げた。

「カレアラさん、食事しに行こう。すごいのがあったよ。『ちょこれ~と』の滝。果物をつけるとすぐ『ちょこれ~と』が包まって面白かったよ」

 すぐにこんな他愛のない会話をするぐらいだ。

「チョコフォンデュとか食べてみたいけど……ね」

 カレアラも立ち上がって、自分の制服を見下ろす。みんなが着飾っている中、こんな普通の恰好で入っていく図太さは彼女にはない。

 と、レイが何やら呪文を唱えていた。そして、指をならすと光る粒子がカレアラの周囲を囲んだ。

 カレアラが不思議に思っていると、粒子が一際輝いて――光が治まった時、彼女はドレス姿だった。

 黒の落ち着いた雰囲気のドレスで、肩・胸元・背中が大きく開いている。背中の方は薄いライトブルーの髪で隠れがちだが、胸元は中央にスリットがあって谷間がのぞき、彼女の大きな胸が強調されている。手にはドレスと同色の手袋がある。

 いきなり過ぎる大人びた装いに、カレアラは慌てて両手を交差させて自分の肩を掴んで体を隠す。

「ちょっ! な! え?」

 驚きと怒りと照れが混ざって、カレアラは真っ赤な顔で混乱している。

「よし、それじゃ行こうか」

 レイが進み出し、それにコスモスがついて行く。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 止まって振り返ったレイは、キョトンとしている。カレアラは恥ずかしさを誤魔化すように大きな声を出す。

「私の制服は!?」

「大丈夫。それ時間が経てば戻る幻だから。日付が変わる頃に戻るよ」

「ドレスを着たんだから恥ずかしくない。早く来る」

 コスモスに手招きされるが、カレアラは一歩も踏み出せない。

「いやいや、別の意味で今度は恥ずかしいわよ! どうしてこんな恰好なの!?」

「どうしてって」

「レイの趣味!?」

 問いただしながら、趣味だと言われたら仕方ないかなって思うカレアラだった。

「……あれ? カレアラさんが見せてくれた『ふぁっそんざっし』にそういう服が載っていたし、カレアラさんもよく見ていたから、そういうのが着たいんだと思ったんだけど」

「見せたけど! 載っていたけど! 確かにちょっと見てたけど!」

 レイにそれとなく見せたファッション雑誌は寮の古雑誌の中から回収したもので、宝闘祭の時期的に、ドレスの特集記事が載っていたものだった。

 ファッションにはお金がかかるので普段着とかは気にしないカレアラだが、そこは女性としてやはり興味はある。しかしこのタイプは…………こんなの、自分だったら着られないだろうな~って思いながら見ていた部類のだ。

「もっと大人しめのやつに変更できない!?」

「ごめん。もう魔法力が本当になくって」

「そういう恰好の奴、たくさんいたぞ。カレアラは文句が多い」

「っていうか、幻って……カメラとかに撮られても大丈夫なの!?」

「う~ん。そう言えば、ミスリムさんがモグラで幻かどうか分かるとか言っていたっけ」

「何それ?」

 心配になって、カレアラは携帯を取り出す。もしカメラに実際の制服姿が写るなら、ハリボテを着ているようでなおのこと恥ずかしい。

 自分で撮ろうとして、カレアラは少し考える。そして二人に近づいて、コスモスに携帯を渡す。

「自分じゃ撮りにくいから撮って」

「…………構わないけど、そこだとパパも入る」

「確認するだけなんだから、レイが入っていてもどうでもいいわよ」

 レイはカメラのことをよく分かっていないので、目の前にいる二人のやり取りをただ見ている。

 コスモスはムスッとしていたが、さっさと撮った。そして、カレアラに携帯を返す。

 カレアラが携帯の写真を確認すると、ドレス姿の自分とレイが一緒に写っていた。

「どうだった」

 コスモスにすぐ聞かれて、カレアラはドキッと肩が上がって携帯を背中に隠す。

「うん。問題なかった」

 そして、後ろ手で写真を保存した。

「それじゃ行こうか」

「本当にこういう恰好している人が他にもいるんでしょうね?」

「カレアラはしつこい。他人からどう見られようとも別にいいと思う」

「何ならマント貸そうか?」

「それだと本末転倒でしょ」

 カレアラは間にいるコスモスを越えて前を歩くレイに手を伸ばし、弱めのツッコミチョップをした。

 そんな風に縦一列になって歩く三人。その並び順は魔法使いが先頭という、セオリーではありえない順番だった。


 セオリーなら、魔法使いは最後尾。

 魔法力を自在に操り、魔法の無限の可能性に向き合う太古の魔法使い、レイ=ロッド。


 中が武道家。

 絶大の防御力を誇り、風を見るドラゴンの武道家、コスモス。


 そして、先頭は……。

 平和の世と、万能の魔法使いの多さから、当人達でさえ自覚を失った伝説の器用貧乏な職業、勇者カレアラ。



 古代からやってきた魔法使いレイ。彼と出会い・再会し、流出した失敗作を回収していく経緯で、いずれ伝説となるパーティ。

 人は彼らのパーティを、部屋番号五一六と呼ぶ。

 カレアラがちゃんと素で勇者っぽかったかだろうか? 一応「巻き込まれ体質」「見捨てられない体質」「雷系魔法」と意識していたつもりだったんですけど。

 純正魔法使いだということを意識しているから、最後を決めるのは勇者であるべきだと思う訳です。

 そして、童話の魔法使い要素も入れているからこそ、最後はヒロインに魔法をかけて着飾らせるやつをやらないわけにはいかないでしょう。

 

 このストーリーはこれで終わりです。最後まで気にかけていただきありがとうございました。感謝です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ