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ファンタジーなら700年もひと昔  作者: 春花
魔法使いレイ
17/24

インターバル

 イリアルから宣戦布告を受けた夜、レイは寮の部屋でカレアラにプリントしてもらった宝闘祭についての資料を眺めていた。背中にコスモスが寄りかかって、肩から彼女も資料を覗きこんでいるが、彼は気にしない。

 宝闘祭は学生の日々の研鑽を発表する場で、勝者は称えられて普段は大切に保管されている学宝を目にすることができる。出場する学生の中に希望する対戦相手がいれば、優先的に振り分けられる。

 魔法使いの研鑽を発表する場が、どうして血の気の多そうな対決になるんだとは、レイの疑問だ。が、現代はそういうものらしい。

 登録できるパーティの人数は一~五人と融通が利きやすく、ルールもうるさそうな細かいものはない。あらゆる武器の使用可の時点で、レイはため息をついたけど……どうやらカレアラによると、ご褒美の学宝よりルール無用のガチンコバトルにみんな燃えているらしい…………魔法使いとしてホントにどうかと思う。

 その時、カレアラがバイトから帰ってきたので(イリアルの言葉を信じてというより、それを理由にしてバイト先にばれたくない彼女がレイの迎えを断った)コスモスはレイから離れた。でもちょこんと隣には座っている。「ただいま」「おかえり」を交わしてから、ベッドに足を投げ出して座ったカレアラに、

「ねえ、カレアラさん。学宝ってどんなものなの? 高名な職人が作った杖とか? 伝説の魔術書とか?」

「見たことはないけど、噂によると剣らしいわよ」

 答えを聞いて、レイの頭上に呆れた暗雲が落ちた。

「なんで、魔法使いの学校の宝が剣なんだか」

「今時そんな所に疑問を持つ人なんていないわよ」

 レイは口元に手を当てて「それが常識か」と呟いて、カレアラの傍らにある剣を見る。

「……使ってみる?」

 レイの答えを待たず、カレアラは剣を彼に差し出した。それを受け取って、

「うん。持つだけで精一杯。これを振り回して戦えなんて、無理」

 それは決して冗談ではなく、レイの剣を持つ手が小刻みに震えている。ちなみに、カレアラはその剣を片手で軽々と振り回す。

 差し出し返せないレイは、隣にいるコスモスに頼んで剣をカレアラに返してもらった。

 カレアラはコスモスと戯れるレイを見て、

「ねえ、レイ。あなた『魔法力を溜める装置』の研究をしていたんでしょ?」

「あ~……フィリオラにでも聞いた? 恥ずかしながらそうです」

 レイは照れたように笑って、頬をかく。まあ、結果を伴っていないことを自ら話すというのも、気恥ずかしいものかもしれない。

「どうりで興味がありそうな素振りを見せるな~っとは思ったけど、どうしてすぐに調べなかったの?」

 聞かれて、レイとコスモスは目を丸くする。

「カレアラがそれを聞く?」

「え?」

「だって、登校初日にカレアラさんが僕に手伝いを頼んだじゃない」

 ……………………。

 カレアラは、しばしレイの言っている意味が分からなかった。

「つまり、私の方を優先させたってこと!?」

「それはそうでしょ。僕の方は別に急ぐものでもないし、逃げられるものでもないし」

「パパってそうだよ。頼まれたらまず、頼みごとの方に取り掛かる」

 カレアラはベッドに顔を突っ伏した。もうなんか……恥ずかしかった。レイには面倒をかけられっぱなしだと思っていたが、実は自分も彼に面倒をかけていた。しかも、門外漢のことを調べさせ、彼の研究を後回しにさせて。

 ガバッとカレアラは赤い顔になっている上体を起こした。

「言いなさいよ!」

「いや、だって……もう、答えを見て「へ~」って思うだけだから」

 ニッコリと笑って言われた言葉に、カレアラはコメントができなかった。それでも何かを言おうと、溜めに溜めて溜めきって――、

「言おうかどうか迷ったんだけど、あなたの弟子について会長から聞いたの」

 レイの笑顔がさすがに一瞬固まった。彼はしばらく黙って、上から下に大きく顔を動かしてため息をつく。そして、カレアラに正面切って「聞かせてほしい」と頼んだ。

「あなたの弟子は『魔導王』の親らしいわ」

「え!? あいつ嫁に行けたの!?」

 レイとカレアラが同じくらい驚いた。聞き捨てならなかったが、あまりのことで彼女は少し呆けた。

「え? 嫁?」

「うん? うん。嫁」

 …………………………………………。

「弟子って女の子だったの!?」

 驚いているのがカレアラだけということは、コスモスは知っていたらしい。

「そうだけど」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。まずそっちを説明しなさいよ。どういう子だったのよ」

 なんか挙動不審なカレアラに首をひねり、レイは簡単に弟子の自己紹介を始める。

「この辺りを治めていた領主の三女だよ。父はよく領主と会っていたから、僕も彼女とは小さい時から知り合いだった。名前はエリー=ピアノート。年下だったな」

「あんたって、昔から小さな子に好かれていたのね」

 カレアラが言っているのは、アイリスとテスラのことだろう(もしかしたら、七〇〇歳を超えているコスモスも入っているかもしれないけど)。

「う~ん、それはどうだろう。よくだらしない、覇気がないって怒られていたよ。師匠なのに」

「何でそんな子が弟子になったの?」

「父が死んで領主が葬式をしてくれたんだけど、その時いきなり「私を弟子にしろっ」て命令してきたんだ」

 なぜそんな人の気も知らないタイミングなのだろうと、カレアラは不思議に思った。自分勝手が過ぎる。それとも、昔の身分がある人はそんな人ばかりなのだろうか。

 そんな疑問を持ちながら、話の続きを聞く。

「ホント突拍子もなかったよ。それまで魔法のことなんて興味もなさそうだったのに…………未熟な僕に教えられることなんて無いし、父が死んでそれどころじゃなかったから断った。というより、無視した」

「無視?」

 レイらしくない行動に、カレアラは聞き返した。彼は申し訳なさそうに頭をかく。

「まあ、あの時の僕はちょっと抜け殻状態でね。ぼんやりしていた。葬式が終わってからは家に引きこもって……それなのにエリーは毎日僕の所に弟子入り志願しに、懐柔するためなのか食べ物を持ってきていた。あの食べ物がなかったらたぶん僕、餓死してただろうね。それほど何もする気が起きなかった。で、結局僕が折れて、弟子にしたわけ」

「ねえ、その子弟子になりたかったわけじゃなくって、レイを繋ぎ止めようとしていたんじゃないの?」

「ん? ん~…………どうだろうね。まあ確かに師匠と弟子って感じじゃなかったかな。兄と生意気な妹って感じ」

 レイが生意気というぐらいだから、かなりのレベルだったんだろう。

 一通り弟子の人となりを話し終わって、レイは納得したように数回頷く。

「しかしそうか。あいつがマサラ家に嫁に行ったということは、ちゃんと許嫁との結婚は上手くいったんだな」

「許嫁がいたの!?」

「珍しいことじゃないと思うけど」

 レイの時代はそうらしい。が、現代はそんな話実際に聞いたことも無い。

「僕が事故にあった日に都会で顔を合わせる予定で出かけたよ。よっぽど気乗りしてなかったみたいで、本人は親の仕事の手伝いとかって言ってたけど……会ってみたら良い人だったのかな」

 気がかりが一つなくなったレイは、安堵した微笑みを見せた。

 カレアラは弟子のエリーがレイにどういった想いを持っていたのかは分からないが、少なくともレイは、エリーに親愛の情以外のものを持っているようには見えなかった。

「なるほどなるほど。あいつがマサラ家に行ったから、マサラ家が魔法に関わるようになったのか。納得……ん? とすると、あの天使は俺の弟子の子孫だからアイリスさんをさらったのか?」

「とお~い」

 呆れたコスモスの言葉に、レイも心底呆れた。

「本当にね。しかも、それを僕が知らなかったんだから、策を凝りすぎて本末転倒になっているよ。カレアラさんやコスモスを人質にするには手強いと思ったとしても、だよ」

 そんなくだらない話は興味無く、カレアラはレイに考えていたことを伝える。

「私は、もしかしたら弟子がレイの研究を横取りするために、事故を故意に引き起こしたんじゃないかって考えたんだけど」

「それをするならちょっと早い。進めていた実験の結果が出てからやった方がよかったと思うよ。ちなみに、このクリスタルがその進めていた実験」

 と、レイは懐からいつもいじっているクリスタルを出して見せた。

「これは魔法力を集める鉱石を、魔法力を弾く水晶で囲ったものなんだ。弾く水晶は完璧じゃなくってね、濃い魔法力は弾け切れず染み透るんだ。その染み透った魔法力は中の鉱石に集積し、水晶に囲まれているから放散されない」

「え? じゃ、『魔法力を溜める装置』は作れたの!?」

「いや、これは失敗作だ。魔法力のコントロールが難しくて簡単には扱えない。誰でも使えるものじゃないとね」

 そう言って、レイはクリスタルを懐にしまう。

「ロッド家は研究の全てを弟子に引き継がせる。だから、エリーが僕の研究をどうしようとも僕に文句は無い。むしろ、完成させてくれてお礼を言いたいぐらいだ」

 朗らかな笑みを見せたレイは……誇らしげだった。だが、数日後には弟子のせいで危機に陥ることを、この時の彼は知る由もなかった。



 金曜日にイリアルはパーティにクラスメイトであるミスリムとリュサックを誘った。事前に協力を取り付けていたのは、レイの周りに人が集まっていたので、こういうグループ戦の可能性もあるかもしれないと思っていたからだ。

 ただ誘っただけでは二人とも断ったが、レイとカレアラとコスモスが相手だと知ると乗ってきた。ただし、と二人は条件を付けてきた。

「コスモスの相手は俺がする」

「わたくしの敵はレイですわ。おじい様とカレアラの前で完膚なきまでに叩き潰しますわ」

 まあ、出てくれるならばとイリアルは了承しかけて、ピタッと止まる。

「……ちょっと待って。それだと俺の担当って……」

「カレアラですわね」

 ズガーンッと、イリアルはショックの風に吹き飛ばされそうだった。

「待ってくれ! ミスリム、相手を交換してくれ!」

 泣きつくように、必死に提案する。

「嫌ですわよ。大勢の前でカレアラを倒すなんて、嫌われてしまうかもしれないじゃありませんか」

「もう嫌われているんだからその心配をする必要はないだろ」

「訳の分からないことを言わないでくれます? そんなことありえませんわ。毎日のように気兼ねなく本音で接するわたくし達はもう友達以上。日々、友情という階段を二人で上っているんですから。ちょっと前の休みには、部屋に招待もされましたわ」

 ペットを飼っているかどうか疑い、無理やり部屋に押し入るのを招待と言うのだろうか?

「すごいな、おまえ」

 陶酔して語るミスリムに、リュサックは半眼の目を向けて大きな汗を頭に浮かべる。

「リュサック! キミは相手に不満はないのか? レイに借りを返すべきじゃないのか? ベクター先生の仇でもあるだろ。三人ともレイと戦いたいならば、公平にクジで相手を決めるのはどうだろう!?」

「奴とは専門とするものが違う。敵と離れて戦う奴を相手にしてもいまいち燃えないからな。宝闘祭で戦うなら、コスモスとの方がいい」

 出場する生徒の多くがガチンコバトルに燃えるが、リュサックもその口らしい。

「ふぅ~ん。浮いた話一つ聞かないとは思っていましたけど、あなたってああいう娘が好みなんですのね」

「どうしてそうなる。俺は純然と己を高めるために――」

「あら、わざわざ否定するなんて珍しい」

 本格的に厄介な言い合いを始める前に、イリアルは二人の間に立つ。

「俺がカレアラと戦う。それでいいだろ」

「文句を言い出したのはあなたですわよ」

「おまえが一番勝手だからな」

 変な所では協力し合うんだから、とイリアルはげんなりする。このパーティにチームワークは望めそうにないが、彼の作戦には支障ない。

「相手のパーティでキーになるのはレイ=ロッドだ。彼は魔法力をコントロールしてコスモスとカレアラをパワーアップできる。だから俺達は三人を引き離し、各個撃破していく。個人の能力値は比べるまでも無く俺達の方が上だ。必ず勝てる…………ただ、心配となるのはミスリムだ」

「あら、何故ですの? わたくしがあのような者に遅れを取るとでも」

「やられるとは思っていない。が、幻を見せられて取り逃がし、他の人と合流されてしまうかもしれない。ミスリムは一度、レイの幻に引っかかっただろ」

 初耳の情報にリュサックの口角が少し上がる。それを見逃さないのが、ミスリムだ。

「あなたなんて潰されたでしょ」

 その程度の返しは気にせず、リュサックはどこ吹く風で腕を組んでいる。素っ気ない態度にミスリムは苛立つ。彼女は人に相手にされないというのをひどく嫌うのだ。

 だが、些細なことで声を荒げるなんて彼女の品性が許さない。

「心配など必要ありませんわ。一切の容赦なくわたくしが勝ちますから」

 感情をどぎつく込めた目で見られ、イリアルはたじろいだ。

 これだから、ミスリムとリュサックがそろうと厄介だと言われるのだ。

 不安を感じつつも、イリアルはパーティを組んで学園に申請し、対戦相手としてレイ達を希望した。

 イリアルがミスリムの容赦なさを実感したのは、土曜日にグラウンドに搬入されてきた〈工学魔導搭乗型機械兵器〉を見上げた時だった。そして、これでレイと戦うのならば「あれが使えるかも」と、イリアルはほくそ笑んだ。

 展開やページ数のことを考えて、プロローグのレイがやっちゃった所を一つ変えました。情けないですが、グダグダと長くするのもどうかと思いますので。

 ミスリムは自分が中心の世界を持っている人ですね。こういう人ってけっこうめんどくさいタイプですが、見ている分にはトンチンカン加減が面白いと私は思うんです。

 次回はクライマックスの日、当日になります。覚えているでしょうか? プロローグでレイは遅れてきていました。どうして遅れてくるのかが、次回で分かります。

 それでは、また次回。

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