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ファンタジーなら700年もひと昔  作者: 春花
休日の魔法使い
13/24

バイトはウェイトレスです

 前回、次の話で課題を終わらせると言った手前、終わらせないわけにはいかない。でも、長くなったので二つに分けました。

 九千文字も一度に読むのは疲れるでしょうから、休み休み読んでください。

 この一週間カレアラと一緒にいて、レイは色々気がついた。

 まず、カレアラは男の人に慣れている。レイが着替えのため上半身裸になるぐらい何とも思っていない。それどころか、やせた体を見て「肉を食べなさいよ」と注意したほどだ。

 他にも、脱いだマントを椅子にかけていたら注意をしてから畳んでくれるし、「ただいま」「おかえり」「いただきます」「ごちそうさま」など基本的な挨拶をしっかりする。レイは一人暮らしになって長かったので、そこら辺が色々とズボラでよく注意を受ける。

 もしかしたら、団体生活の中で小さな子の面倒を見ていた経験があるのかもしれないが、そういったプライベートなことは聞かない。

 あと、魔法に関してだが…………小器用ではある。攻撃に回復に補助とバランス良く使え、どれもそつなくこなす。が、どれかが秀でているわけではない。生まれつき魔法力が低く、魔法を使える回数も限られているので、どうしても剣に頼らざるをえない。その剣の腕は見事なものだ。剣士を目指せば一流になれそうだが、彼女は魔法使いにこだわっている。何か明確な目標を持っているのだろう。

 日々、自分のするべき努力をしっかりしている。勉強しかり、バイトしかり……将来を見据えている真っ直ぐとした目の強さに、レイは好感を持っている。

 レイは先祖代々、どうしようもないものに苦しめられ、無駄だと知りながらも努力し、どうにかしようとする人達の手伝いをしてきた。『苦しみ』と『努力』をするのが当人達で、『どうしようもない』の部分だけを『どうにか』するのがロッド家の魔法使いだ。



 バイトの休憩時間に、ウェイトレス姿のカレアラは考えていた。どうすれば雷の魔法を遠く離れた的に当てられるのかを。考えも無しに魔法を使っていても、全然成果が上がらない。つまりは、何か工夫をしなければ始まらないということにようやく気付いた。

(……でも、今さらながらレイの時代に雷の魔法は無かったのよね。それこそ的外れなことやらされてたり……。って、疑ってもしょうがないか)

 それで思考の手掛かりとして思い出すのは、常識外れだったレイの的当て。

 よくよく考えてみれば、魔法は魔法で迎撃できる。つまり、雷をもぎ取ったのも魔法力でコーティングした手で攻撃したと考えれば、できない話ではない。武術系の魔法使いの中には、属性の魔法を体にまとわせてそのようなことをする人もいる。

 だが、その後はどう考える? 雷なのに曲がることなく一直線に進む。

(根本的なことだけど、雷ってどうしてジグザグになるのかな?)

 カレアラは携帯を取り出して調べてみた。

(雷って電荷を帯びているから異なる電荷に向かうんだ…………う~ん、何か原子とかイオンとか物理っぽいわね……え~っと、簡単に説明すると、まず目に見えない電荷が地表までの電気の通りやすい道を作る。その道がジグザグになるから、その通り道を使って電荷のやり取りをする雷はジグザグになるんだ)

 ふと、レイが熱くない火炎系の魔法を使ったのを思い出した。

(もしかしてレイって、魔法力をコントロールして属性の特性を消しているんじゃないでしょうね? それって、特性を生かして性能を上げる現代の魔法と真逆じゃない。参考にならないわね~まったく…………ん?)

 何か引っかかり、携帯の画面をジッと見る。そして、考えついたことを忘れないようしっかり頭にメモしたところで、休憩時間が終わった。

 名案を思い付いたことに気分を良くし、元気よく店内に戻ると、ウェイトレス仲間がひそひそと楽しそうに話していた。

「何かあったの?」

 振り向いた娘は口元をお盆で隠して小声で教える。

「すごいお客さんが来たの」

「え……怪しげな人?」

 ファミリーレストランには、時たま変なお客さんが来る。特に夕食時を過ぎた深夜が危ないが、夕食前のタイミングは学生のグループとかがうるさくって面倒なのだ。

 他のお客さんの迷惑になるし、下手な接客をすればSNSで何を書かれるか分かったものじゃない。

 だが、女性は首を横に振る。

「ううん。感じはすごくいい人よ。可愛い妹さんと一緒だし」

「ふぅ~ん、それなら何がすごいの?」

 と、ひょいと店内を覗いた。

「そりゃ、ファッションが」

 三角帽子にマントに杖! 日常的にそんな装備をしている人がそういるわけがない。間違いなくレイだ――ダメ押しにコスモスもいるし。

 あまりのことでカレアラはコケた。

「大丈夫? どうしたの?」

「だ、大丈夫です。大丈夫」

 とんでもないことになった。まだ半裸芸人がパンスト芸の意義について実演混じりに会議していた方がマシだ。と、カレアラはマジで思った。

 バイト仲間の態度から察するに、まだレイとカレアラの関係は気づかれていない。これは早急に対処及び口止めをしておかなければならない。

 颯爽とした足取りで、カレアラはレイとコスモスが対面で座る二人掛けのテーブルに近づく。

「あ」

 まだ少し距離があるのに、レイの方がカレアラに気づいた。先手を取らせるわけにはいかない。一足飛びに踏み込み、彼女は距離を詰めて強張る営業スマイルをくり出す。

「お客様! 何か御用でございますか?」

「どうしたカレアラ? いきなり礼儀正しい」

「あはははは、お嬢様。名札の名前を呼ばなくてもお伺いいたしますよ」

 他の人に見られないよう体で手を隠し、ハンドサインで「黙れ」と送る。その意味を把握したのか、カレアラの迫力に気圧されたのか、二人はすくみ上がって口を閉ざす。

 でも、用件だけは済まさなければと、レイはおずおずと尋ねる。

「今日はいつまでお仕事なの?」

「そういったことにはお答えできません」

 サッと手で「8」と示す。

「それでは、何か御用がありましたらそちらのボタンを押してお呼びください。くれぐれも! 名前などを大声で呼ばないようお願いいたします」

 そして、カレアラは仕事に戻った。気づいた時には二人はいなくなっていたので、ホッと胸を撫で下ろした。


 予定通り八時に仕事が終わり、寮への帰路について曲り角を曲がった所で、レイとコスモスが待っていた。

「何しに来たのよ!」

 第一声で叱られて、二人はしゅ~んとなる。

 その態度から冷やかしや悪ふざけの類ではないと思い、カレアラはため息と共に怒気を吐き出す。少し落ち着いてから、声の調子を普段通りにして聞く。

「どうして私のバイト先が分かったのよ?」

「学園にいたフルカス先生に聞いたんだ」

「カレアラが困ったことがあったら先生にって言った」

 学園にバイトの届け出は出してあったし、困ったことがあったら先生に連絡しろと確かに言っていた。

 カレアラは顔に手を当て、ぐしゃぐしゃの線を頭上に浮かべる。

「…………しょうがないわね、まったく。で、困ったことは何?」

 聞かれて、それこそレイは困ったように後ろ髪をかく。

「いや、夜に女の子が一人で歩くのも危ないだろうと思って迎えに」

 レイの態度にカレアラは訝しげな視線を向ける。昨日だってこれぐらいの時間だったし、平日は九時ぐらいの帰宅になる。でも、レイが心配している様子は微塵もなかった。

 たとえそこらの暴漢に襲われてもカレアラなら対処できる実力があるのは、レイも分かっている…………急にどうしたのだろうか?

「何があったのよ」

 再度聞いた時、レイとコスモスはニッコリと微笑んだ……微笑んだまま、無言。

「笑って誤魔化そうとしているでしょ」

「まあ、とにかく帰ろう。寮の夕食が待ってるよ」

「…………」

 そう言われたら、仕事終わりでお腹が減っているカレアラは何も言えない。仕方なく、歩き始める。

 今から戻っても寮の夕食時間はとっくに終わっている。ただ、カレアラは後片付けを自分でやることを条件に残しておいてもらっているのだ。

「カレアラさん。的当てのことなんだけど」

 露骨に話題を振ってきた。ますます怪しいが、簡単に事情を話すとは思えない。

「それならもう目途がついたわ。なんなら、夕食後にやってみせる?」

「すごい自信だね。期待が持てるよ」

「で、私が課題をクリアしたら、レイが隠していることを話してもらうわよ」

 立ち止まったカレアラと、数歩進んでから立ち止まったレイ。コスモスはその間で二人を見届ける。

「……………………いいよ。僕の課題をクリアしたら、話そう」



 夕食後に三人は寮の近くにある公園に来ていた。カレアラは剣を持ち出し、気合い十分だ。レイとコスモスは黙って見守っている。

 カレアラは五十メートル先にある的を見つめ、剣を抜く。そして逆手で柄を持ち、雷をまとわせて投擲し――一直線に走った剣は見事に的に突き刺さった。

 コスモスは目を丸くさせていたが、レイはその結果に拍手した。

「お見事。雷の魔法を的に当てたね」

「まだよ! デインブラスト!」

 続けて放ったカレアラの稲妻は、ほぼ真っ直ぐに走って剣と的に当たった。

 白い煙を上げる的に背を向け、カレアラは前にかかっていたライトブルーの髪を後ろに払った。

「雷には通りやすい道がある。その通り道を作るため、まずは帯電させた剣を投げた。それから、改めて雷の魔法を使う。雷の魔法はその道を通るし、突き出した剣に当たりやすい」

「へ~僕の予想以上だ。どうやら、随分と雷の魔法について理解を深めたみたいだね」

 レイの予想を上回ったことが嬉しそうに、カレアラは胸を張る。

「それじゃ」

「うん。それじゃ」

 パチンとレイが指を鳴らすとコスモスの体が輝き出し、ドラゴンの姿に戻った。コスモスはレイを背に乗せ、カレアラを爪でつまんで飛び立つ。

「次の課題に行こうか」

「ちょっ! 約束が違うじゃない! それに、ドラゴンで飛ぶと航空法に引っかかるっていうの! 夜に無灯火ってホントダメだから! 飛行機とニアミスしたらどうするつもりよ!? せめてホウキで飛びなさいよ!」

 レイが何かをやっているようで、上空を飛行しているのに寒くなく、話すのも問題はなかった。

「約束は守るよ。僕の課題はアレだけじゃないからね、まだクリアしたとは言えない」

 そう言われて、カレアラはムスッと頬を膨らませた。引っかけられた気分だ。

「本来なら段階的にやっていこうと思ったけど、カレアラさんならもう最終課題でも大丈夫だと思うよ。コスモスに調べてもらったら、ちょうどいいものもあったし」

「ちょうどいいもの?」

「その目的地まで遠いから、僕のホウキじゃ時間がかかるんだ」

 下を見ると、いつの間にか海上に出ていた。とりあえず、暴れるのは控えようとカレアラはしばらく黙り――隣に三日月が見える。

(月が綺麗。少し前なら、こんな風にドラゴンにつままれて空の旅を楽しむなんて考えられなかったな…………レーダーに捕捉されたら戦闘機に追いかけられるのかな…………どこで間違えたんだろう)

 何やらショックを受けていたら、ちょっと暗くなったと感じた。顔を上げて見ると、目の前に厚い雲があった。

 その雲、何やら切れ間からピカッと光るものが見える。そう言えば、テレビの天気予報で明日の夜ぐらいから荒れるとかって言っていたのを、カレアラは思い出した。

 何の感情も持てず雲を見上げているカレアラに、ホウキに乗ったレイは近づく。

「じゃ、あの雲を消し飛ばそうか」

「無理! 魔法でどうにかなるレベルを超えているでしょ!」

「やらないならそれでもいいよ。ただ、それなら僕はカレアラさんの前から消える。面倒をかけることになるからね」

 思わず、カレアラは息を呑んだ。

 あまりのことに言葉を失い、しばし固まっていた。それから、ゆっくりレイの顔に手を伸ばし、

「今まで面倒をかけていなかったとでも言うつもりぃ~」

 こめかみをグリグリと拳でねじってやる。

「痛い痛い痛い! ナニコレ!? すっごい痛い!」

 ひとしきりやり終えると、レイは撃沈しこめかみから白い煙を上げてホウキに横たわる。

「……あと一発でも小突かれたらやられる……」

「どれだけ貧弱なのよ、まったく!」

 カレアラはムスッと腕を組む。

『パパが言いたいのは、この程度のことも出来ないなら足手まといだってこと』

 下腹に響くコスモスの声に、カレアラの頭上にカチンッと星が飛ぶ。さらに追撃するべく、レイが上体を起こし、

「無理や道理をどうにかするのが魔法使いだよ。それとも、カレアラさんは魔法使いじゃないのかな?」

 レイの魔法使いの定義は絶対に間違っていると思うが、そう言われてはカレアラも退けない。

「やってみようじゃないのよ」

 カレアラがホウキを操るレイの後ろに乗ると、

「コスモスはここで待っていて」

 コスモスから離れた。心配そうな目でコスモスは雲に入っていく二人を見送った。

 それでは、さっさと次を更新します。レイの一族が何をやって天使に目をつけられるようになったのか分かります。

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