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ファンタジーなら700年もひと昔  作者: 春花
休日の魔法使い
11/24

炎の伝承者

 カレアラは見ていて「古典的な手法が好きな奴」とは思ったが、レイ相手ならちょうどいいかもと彼の様子を見ると、投げつけられた手袋を見て小首を傾げていた。どうやら、レイはもっと古かった。

 ただ、決闘の意味は知っていたようだ。

「命のやり取りはちょっと……」

「どこの世界に休日の朝からそんな本格的な決闘をする人がいるんですの! どちらかが負けを認めるまでの勝負ですわ! 常識で考えれば分かるでしょうに!」

 それが一番、レイには難しいのだ。

「あ~そういうこと。分かった。いいよ」

 と、レイが受けた瞬間、ミスリムは彼に肉迫して鉄扇を振るった。

 レイは後ろに下がってその一撃を避けたが、ミスリムはさらに踏み込んで間合いを詰めて攻撃をくり出す。猛攻に押されて後ろに下がるレイの足が止まらない。

 意外とすばしっこいレイのマントをミスリムが捕まえ、動きが止まった所に鉄扇を横殴りにくり出す。

 が、その攻撃は空を切った。

 マントと三角帽子を残して姿を消したレイは、ホウキに乗って上空に避難していた。マントと帽子がない姿の彼は珍しい。

「まさか殴り合いをしたかったなんてね。職業を疑いたくなるけど、やっぱりキミも魔法使いなのかな」

「当たり前ですわ。それより早く下りて来なさい」

 その命令にレイは手を振って「いやいや」と答えて、

「僕は魔法の勝負だと思って受けたんだ。殴り合いならするつもりはないよ。決闘の方法を聞かなかった僕の負けを認める」

「そうはいきませんわ。まだ勝負はついていません」

 見物しているカレアラは、レイが困った顔をして人差し指を動かしているのを見て、どう言い繕うか迷っているんだと察せられた。一対一であれだけ接近戦を仕掛けられたら、呪文を唱える暇がないレイに勝ち目はない。怪我をされて朝練に支障が出るのも嫌なので、間に立ってあげようと踏み出した足が――止まった。

(何で、ミスリムはレイの弱点を知っているの?)

 そう思っていたら、レイが何故かホウキの上でバランスを崩して落ちた。

「なら、魔法で決着をつけてさしあげますわ!」

 ミスリムの鉄扇が炎をまとい、落ちてきたレイの顔面を綺麗に捉えた。

 コスモスの悲鳴が上がる中、レイの姿が白い煙と共に消えた。

『え?』

 見ていた全員が呆気に取られた声を上げた。

「必ずしも効果が出るものじゃないんだけど、まさか全員にかかるなんてね」

 声の方に振り返ると、離れた場所に立ち、瞑目して杖に手をかざすレイが呪文を紡いでいた。

 さすがにその距離ではもう接近するのは間に合わないと思ってか、それともレイにマントが無ければやれると思ってか、ミスリムはスタンスを広く取って強力な魔法をイメージする。

「プロミネンスドライブ!」

 レイへと向かって一直線に、轟く炎が猛威を振るう。

 少し遅れて、目を見開いたレイは杖を大きく円に動かす。

「フレイムウィップ」

 杖の先端から放たれた炎の鞭はミスリムの炎にぶつからず、螺旋に囲んだ。そして、レイが杖を引くと鞭が炎を締め上げ――ミスリムの炎は蒸気を上げて消えた。

 その結果に呆然とするミスリムの足首に炎の鞭が絡みつき、レイが指を鳴らすと燃え上がって彼女の全身を包んだ。

「すぐにやめなさい」

 後頭部にツッコミチョップを受け、レイの魔法が消えた。彼が振り返ると、カレアラが頭痛を起こしたっぽい頭を手で押さえて影を背負っていた。

「常識過ぎて注意し忘れていたわ」

 疑問符を浮かべるレイに、近寄ってきたコスモスが回収したマントと帽子を手渡しながら教える。

「さっき言ったアスタント議定書で、決まった方――炎の伝達者以外は火炎系の魔法を使っちゃダメになった。ドラゴンもファイアーブレス禁止」

「それはやっぱり、星の温暖化をまねくから?」

 コスモスが頷くのを、三角帽子とマントを装備しながら確認する。

 気を取り直してカレアラは顔を上げ、ミスリムの方を見る。それほどヒドそうには見えないからその内復活するだろうと放っておく。

「ミスリムなら負けたことを誰かに言うなんてないだろうから安心だけど、他の人に見られていたら」

「朝っぱらから元気だな、おまえら」

 スーツ姿で現れたフィリオラの呆れ顔を見て、カレアラは内心で叫んだ。でも、まだ見られたとは限らない。ここは遠回しに確認して……。

「ところでレイ、紛らわしい火炎系の魔法を使うなよ。捕まるぞ」

 しっかり見られていた。

「あの、今回はちょっと大目に……」

 愛想笑いで合掌するカレアラを見て、フィリオラはピンッときて背中を向ける。

「俺も自然環境保護協会の会長として、環境破壊に関わることを見過ごすわけにはいかんっ」

 キッパリと言い放たれ、どうしようか悩むカレアラ。

「からかうな」

 ポコンッと軽く、レイはフィリオラを杖で叩いた。

「いや、けっこう深刻に心配する顔を見たらつい、な。仲良くやってるようで、けっこうけっこう」

 笑い合う二人を見て、カレアラは何が何だか分からず二人の顔を交互に見ている。

「カレアラさん、心配ないよ。相手をよく見るといい」

 と確認しようとしたら、向こうから近づいて来た。起き上がったミスリムは少しぼんやりしていたが、こちらを見るやいなや地面に手をつけながら駆け寄ってきた。

「おじい様!?」

「おじいさま~!?」

 全員の視線がフィリオラに向けられた。当のフィリオラはと言うと、ミスリムの瞳を覗くように見つめた後にハッとして、

「ミスリムじゃないか。ん? おまえってもう学園に通う歳だっけ?」

 制服姿の彼女を見て首を傾げた。

「そうですわ。今年度から高等部に上がりました」

「この前小学校に上がったと思っていたのに、時の経つのは早いな」

 そんな風に悪気なく答えるフィリオラに、ミスリムは嬉しそうな笑顔を向けている。先程までは澄ました顔をしていたのに、随分な変わり様だ。

「まさか孫がレイと同じ学年とは、面白いもんだな」

「孫の学年ぐらい覚えておきなよ。どうせフィリオラのことだから仕事にかまけて忘れたんだろうけど、そんな調子だったら奥さんや子どもに怒られるよ」

「そうは言うが孫も九人いると、誰がいつ何歳の何年生になったとかこんがらがるぞ」

 親しそうに話すフィリオラとレイを見て、ミスリムは怪訝な顔をする。

「おじい様、その方とお知り合いなのですか?」

「ん? ああ、まあな。俺がレイとコスモスを学園に推薦してやったんだ」

 それを聞いた途端、ミスリムはショックで体を硬直させた。

「ところで、こんな時間に何をしに来たんだ?」

 レイに聞かれて、用件を思い出したフィリオラは本題に入る。

「二人の学生カードが出来たらしいから注意しに来たんだ」

「あの学園のゲートを通過できるカードか」

「学園に保管してあるから取りに行け。それでだな、学生カードは購買や食堂など、学園内なら買い物にも使える。料金は月末に俺の口座から引き落とされるから、無駄遣いするなよ」

「その場で金銭のやり取りをせず買い物が出来るのか」

 興味深そうに驚いているレイを見て、フィリオラはため息を一つ吐く。

「だから、その場ではしないけど月末に請求されるんだよ。ったく、念のため釘を差しにきて正解だったぜ。面白半分に使うなよ」

「分かった。注意する」

 調子のいい返事だったので、フィリオラはカレアラとコスモスに向かって「よく見ていてくれ」と念を入れといた。

「おじい様! どうしてその男にそこまでするのですか!」

 我慢できずにミスリムはフィリオラに詰め寄る。

「俺の古い友達なんだよ」

「ともだち?」

 呟くように繰り返してから、フィリオラとカレアラの間に立つレイに凄まじい吊り上った視線を向ける。彼がその眼力に怖気づいていると、

「おじい様。その男は火炎系の魔法を使ってわたくしに攻撃してきました。温暖化防止法に違反したのは明確ですわ。たとえおじい様の友達といえども許される行いではございません。然るべき処罰を」

「ミスリム。攻撃されて気づかなかったのか? よく自分を見ろ」

 言われて、ミスリムは不思議そうに自分を見下ろす。特に変わった所はないし、大きな怪我と思われるようなものもない。まあ、本人にしてみれば、レイごときの魔法で怪我などするわけがないと思っているのだろう。

 同じようにジッと見つめていたカレアラが気づいた。

「あ、服も髪も焦げていない」

「え?」

 ミスリムは左肩から前にきている金髪を確認した。確かに綺麗なままだ。あれほどの炎で包まれたにも関わらずだ。

 レイは杖で帽子のつばを少し上げて、笑顔で解説をする。

「それはね、さっきの炎がまるで熱くなかったからだよ」

「魔法力のみで作られたレイの炎は熱すらもコントロール可能だ。それこそ、氷のように冷たい炎も作れるし、空気が無くても燃えるから水中でも真空中でも使えるぞ」

「いやいやいや、何をバカなことを」

 冗談だと受け取って半笑いのカレアラに、レイはマジメに人差し指を一本立てる。

「この手法は僕の祖父の兄弟が、火あぶりの刑に処せられた人を助けようとして作り上げた方法なんだよ」

 火あぶりという単語でさらに冗談だと深めたミスリムと、マジかもしれないと思い直したカレアラ。コスモスは最初っから信じきっていて、疑ってすらいない。

「まあ、今では常識外れなことだし気づかなくてもしょうがない」

「コスモスが熱くしちゃいけないって教えてくれたからね。ありがとう」

 レイに感謝され、コスモスは嬉しそうに彼の腰に抱きつく。

 フィリオラはまだ何か言いたそうなミスリムに向き合い、

「魔法力を扱うことに関して、俺はレイ以上の存在を知らない。同じ学年なら実技の授業とかで顔を合わせることも多いだろう。ミスリムも頑張れよ」

 その言い方はまるで、「参考にするように」と言っているようなものだ。

 ミスリムは怒りに肩を打ち震えさせ、ギンッとより一層視線に力と殺気を込めてレイを睨みつける。

「二人の前で――……続きをやりますわよ! あなたごとき、わたくしの敵ではありませんわ!」

 鉄扇を向けられ、レイは困った顔で彼女にひょいっと近寄って小声で伝える。

「やるにしても、もう一人をどうにかしてくれないと」

 その内容に反応してか、近づいて来られたことに反応してか、ミスリムはすぐさまレイから離れた。そして、レイが傾けた杖の先を振り向き――ビルがあった。

「用事を思い出しましたわ。おじい様、失礼いたします」

 丁寧に頭を下げて立ち――

「わたくしはまだ負けていませんわよ」

 捨て台詞を残して立ち去った。

 その背中を見送ってから、

「レイだけじゃなくミスリムもいるなら、今年の『宝闘祭』には顔を出すかな」

 フィリオラは考えながら声に出した。

 レイとコスモスが『宝闘祭』について尋ねると、

「来週の日曜日にある学園のイベントで、事前に登録したパーティ同士で戦って、勝った方は学宝を見たり触ったりできるんだ。夜には食事会もあるぞ」

 レイの興味はどちらかと言うと夜の方で、

「美味しいものも出るかな?」

「そら食事会だしな。舞踏会みたいなもんだ」

「楽しみだね、パパ」

 二人は喜んでいたが、カレアラは興味が一切無い素振りで会話にも入ってこなかった。


 それからカレアラは的当てに戻り、レイとコスモスはフィリオラを見送る。

 フィリオラは集中して魔法を使っているカレアラを見て、

「弟子にしたのか?」

「そんな本格的にじゃないよ。ただちょっと手伝っているだけだよ」

「――あのな……おまえの…………」

 何かを言おうとしたが、レイを見てフィリオラは言葉を呑みこんだ。

「いや、相変わらず人の手伝いをしているんだな」

「ロッド家の家訓だからね。『必要は発明の母。だから、困っている人がいたら手伝え』。そうやってうちは色々なことが出来るようになったんだから」

 フィリオラは軽く手を振って出勤していった。


 ミスリムはレイがさし示したビルの屋上に来ていた。そこにはライフルを脇に置いて、リンゴの缶ジュースを飲みつつ、イリアルが待っていた。

「決闘に横やりを入れるなんて、私に恥をかかせるつもりですの!」

 激昂を受け流すように、イリアルは肩をすくめる。

「恥なら十分かいただろ。せっかく弱点を教えてやったのに攻めきれず、幻にドヤ顔で攻撃したのは、見ていて笑った」

 カチンッとミスリムの頭上に星が飛んだが、イリアルは平然と缶ジュースの残りを仰ぎ飲んだ。

 ミスリムが今までの鬱憤も込めて八つ当たりで火球を放ったが、それは空中で霧散した。イリアルの腰のホルスターからいつの間にか抜かれた拳銃で迎撃されたのだ。

 ミスリムはその早業に舌打ちし、憮然と腕を組む。

「幻を見せる魔法なんていつの間に使ったのかしら」

「ホウキに乗って指を動かしていた時だろう。実際は俺の弾丸を避けた後、バランスを崩さず俺の死角にすかさず逃げ込んだ」

 その時、スコープで覗いていた目とレイの視線が合ったような気がしたが、イリアルは気のせいだと首を振った。

 やはり一筋縄ではいかない。しかも、相手はすでに陣容を固めつつある。こちらもそれ相応の面子を集めなければと、イリアルは目の前にいるミスリムを見る。

「あんな奴、あんな奴」

 ぶつぶつと毒づくミスリム。

 まあ、敵愾心が大きくなったなら収穫はあったというところだろう。

 レイは着々といらん所で恨みを買ってますね。それでこそ、ラストバトルが熱くなっていくもの。

 そして、何やら狙撃されていたようで、どうしてこんなに狙われるんでしょうね? まあ、そこら辺はおいおい。

 それでは、また次回。

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