5. 魔法学院の日々 (3)
昼休みも半ばを過ぎ、食事は終わって私とライオネルが世間話をしている時、明らかに護衛と思われる二人を連れた男子生徒がやって来た。ライオネルが目くばせをしてから立ち上がる。彼より高い地位の人なのだろう。私も急いで立ち上がる。ライオネルの侍女らしき人は最初から立っている。
「やあ、邪魔してすまないね。ご一緒しても良いかな?」
「殿下、その、彼女は社交をしていないので、殿下の事を知らないのです」
「ああ、すまない。私はアレクシス。この国の第一王子で、1年として通っている。ライオネルの事はよく知っているが、君の事は知らないんだ。名前を教えてくれるかな?」
おうじ……そんな立場の人がいるとは知っていたけれど、まさかこの学院に通っているとは思わなかった。大分動揺している私は、この状況で魔法遮蔽が上手くいっているか自信が無くなってしまった。とはいえ、自己紹介をしないと……
「ノッティンガム伯爵の養女、エレナです。1年3組です」
「なるほど、3組で、しかも養女となると私も知らない顔な訳だ。以後、よろしく頼むよ」
「はぁ、その、お顔を合わせる事は滅多にないと思いますが、よろしくお願いします」
「つれないね。私の顔より、ライオネルの顔の方が好みかな?」
「え、ええと、ライオネル卿とは……お兄さんと以前に知り合いまして……」
ここでライオネルが間に入った。
「殿下、エレナ嬢は以前に義兄のクラレンスと会った事があり、その縁で友人として話しているのです」
「ふむ、クラレンスか。何か問題でもあったのかね?」
「移動中に詐欺師に引っかかってしまいまして、義兄が収めました」
「ああ、まあ世間慣れしていないとそういう事もあるかな。何時頃なんだい?」
「3年前だったかな?」
ライオネルも詳しくは覚えていないのだろうか。自分で答えよう。
「はい、3年少し前です」
「治安が悪いのは問題だね。それは王都だったのかい?」
「いえ、ノッティンガム領の隣だったと思います」
「ああ……地方だと私が口を出すのも良くないね。もし王都でそういう事があったら相談してくれ。善処しよう」
「はい……その時はお願いします」
「それで、ライオネル。君の家が動いていると言う事は、彼女に何か問題があるのだろう?よければ相談してもらえないかな?」
問題?何かあったっけ……そうか、ライオネルのお義兄さんが私を心配して、家の人にも話してくれたんだった。
返答に困って固まっている私の代わりにライオネルが答えてくれた。
「そういう前科があるので、特に問題が起きる前に、色々話を聞いているんです」
「そうかね?魔法使いに関するマイナートラブルはそこら中、山ほどあると思うのだが。嫡男の君が動くのだから、それなりの理由があると思うのだが?」
ライオネルは軽く息を吐いた後に答えた。
「穏やかな彼女と話す時間に癒されるので、こうして世間話をしているんです。それだけですよ」
え、私、そんなに穏やかかな?母に比べるとずっと落ち着かないと思うんだけど。増々話す言葉に困る私は、汗をかいて突っ立っているだけだった。
「ふふ。まあ今はそういう事にしておこうか。じゃあ、エレナ嬢、これからは私達も友人同士だ。今度また話を聞かせてくれ」
王子様に話す事など本当に何もないけれど、そう言われたら好意的な回答をしないといけない。王子様相手なんだから。
「ええと、つまらない話でよろしければ、またお願いします」
「人の数だけ物語があるものだ。それなりに興味を引くものだから、是非聞かせてくれ。それじゃあ、邪魔したね」
ライオネルも私も、侍女らしき人も王子の背中に向かって頭を下げた。王子の足元が見えなくなってから、ライオネルが頭を上げた。
「やれやれ。すまないね。僕と話していたから、変に殿下の気を引いてしまった様だ。今後、殿下に話しかけても、普通に世間話をすればいいから。無理に悩み事など打ち明ける必要はないからね」
「殿下……王子様って、悩み事相談も受け付けるんですか?」
「普通はしないさ。悩みを解決して欲しければ、何か代償を払う必要があるくらいだ」
「つまり、あなたと話をしている私だから、何か問題がないかと興味を持ったという事でしょうか?」
「そうなるね。本当にすまない」
「いえ。今度話しかけられたら、如何に私の毎日が平和かを話せば良いんですね?」
「そうだね。悩みがあるなら僕に言ってくれ。僕なら代償など受け付けずに悩みの相談に乗るから」
「ありがとうございます。今のところ平和ですけど、悩み事が出来たら、是非相談に乗ってください」
「ああ。気軽に相談してくれていいからね?」
「はい。ありがとうございます」
エレナが去った後、ジェニファーがライオネルに小声で話した。
「如何いたしましょうか?」
「とりあえず殿下に対しては知らんぷりだ」
「承知しました。こちらも詳細は分かっておりませんので、答えようもありませんし」
「もう少し、彼女と打ち解けられると良いのだけれどね」
「彼女の方が誤解するかもしれませんよ?」
「その時は責任を取るさ」
「……」




