2. 魔法学院入学
「ねぇ、メリッサ。魔法学院での生徒の生活で、気にしないといけない事は何かある?」
「申し訳ありません、お嬢様。私は魔力が弱いので魔法学院には通っておりません」
「あ、ごめんなさい」
「お陰でお嬢様のお世話が出来ております。お気になさらずに」
そう、そう言えば侍女のメリッサは随分若い。ノッティンガム領で私に付いた時は、普通なら魔法学院に通っている年頃だったのだろう。
魔力の強い人間は、周りの魔力を察すると言う。私も遮蔽を外せば周囲の魔力を感じる事が出来るけれど、母からは魔法遮蔽を外さない様にきつく言われている。そうすると周囲の魔力も分からないけれど、私の魔力も周囲の人に感じさせる事がない。そうして本来の魔力など隠した方が、やらなくていい事をやらなくて済むと言うのが母の教えだ。
その母の教えを破ったのがノッティンガム領に移動する途中の、体調の悪い詐欺師を診察した時だった。母の教えを守っていれば、詐欺に遭う事も無かった。たまたま……クィーンズベリー侯爵だったか、その家の人が通りかからなかったらどうなっていた事か。魔法学院では気を付けよう。
魔法学院に入学すると、私は3組だった。魔法学院では爵位と魔力でクラスが決まる。
1組が王族、公爵、侯爵の子女かそれ相当の魔力を持つ者のクラス、2組が伯爵と子爵子女の中で優秀な魔力を持つ者のクラス、そして3組は下位貴族相当の魔力を持つ者のクラスだ。
4~6組が一代貴族の子女および平民のクラスになっている。3組はだから、本来は子爵と男爵の子女のクラスの筈だ。そこに伯爵家を名乗る者がいるのは異例になる…異例に低い魔力を持つ者、と分かる。そんな私は、お披露目以降、全く社交をしていないから友人もいない。そういう訳でクラスでは一人隅っこに座る事になった。
昼食の食堂は貴族と平民は別になっている。クラス編成からすると、一代貴族の子女が貴族食堂に来ると人があふれてしまう。
そういう訳で貴族食堂にも居場所はないし、だからと言って伯爵家の人間が平民食堂にも行けない。だから、私はサンドイッチを買って学院裏の林のベンチで毎日一人もそもそと食べる事にした。
ところが、二日目にはベンチに座る私に近づく者がいた。見るからに上位貴族らしい、身なりを整えた上級生らしき男子生徒と、侍女の様に後ろから付いて来る女子生徒の二人組だった。
「隣、良いかな?」
彼を見上げる私の眼差しには、疑問が乗っていた筈だけれど、彼は気にせず貴族らしくふんわり笑っていた。仕方が無い。どうみても上位貴族の人だ。
「私がいても問題ないのであれば、どうぞ」
彼は苦笑しながら言った。
「君と話したいから、同じベンチに座りたいんだよ」
私はきっと不審な者を見つめる時のサーシャの様な目をしていた筈だけれど、彼は気にせず隣に座った。
「僕はクィーンズベリー家のライオネル。2年生だよ。良ければ君の名前を教えてくれないか?」
?以前会ったあの人の家族だろうか?
「私はノッティンガム伯爵家のエレナです」
「そうだと思った。3年前、キャンボーンで私の義兄が君に話しかけたと聞いているけど、覚えているかな?」
私はこくんと頷いた。
「何かあったらクィーンズベリー家を頼る様に、と手紙をいただきました」
「今度、その手紙を持って来てくれないかな?私の持つ指輪と紋章が一緒である事を確認すれば、間違いなく同じ家の人間と分かってもらえると思うんだ」
「はい、いつが良いですか?」
ライオネルは苦笑した。
「出来れば明日、別に明後日でも良いよ」
「お急ぎなんですか?」
「義兄経由で父に話が行っているので、不平不満が無いか聞き取りをして報告をしないといけないんだ。それが終わったら、普通に世間話をする友人と思って貰えると嬉しいな」
「ええと、クィーンズベリー家は確か侯爵家ですよね?知人も友人も沢山いらっしゃるのでは?」
クィーンズベリー家のライオネルはにっこり微笑んだ。
「貴族なんて、本当に打ち解けられる友人は少ないんだ。大人のしがらみが子供にまで影響するからね。そして君の場合は養女として貴族になったとはいえ、社交はしていない様だ。だから、君には友人がいた方が良いんじゃないかな?」
学院について分からない事を尋ねられる人がいるのは良い事だけれど、問題は彼の様な如何にも貴族らしい人と仲良くなって良いものか……
侯爵家の人間で外見もよく、人当たりも良い。周りの女生徒も好感を持っているだろうに、下級生の平民上がりが仲良くしている姿は問題とされるのではないか……
「何か気になるのなら、昼にここでしか声をかけないよ。君に迷惑をかけたい訳ではないんだ」
「ごめんなさい。その、如何にもモテそうな人だから、親御さんの指示で仲良くなるのも悪いかなと思ったんです」
ふふっとライオネルは笑った。
「僕の事を大切に思ってくれる人なら、僕が大切に思う人の事も大切に思ってくれるさ。君の事を知らないのに悪く思う様な人は、僕とも本気では親しくないと思うよ」
「それでしたら、あなたも私の事を知らないのでは……」
「人の良い、詐欺師に騙されそうな女の子だって知っているよ。だから、手助けをしたいと思っているんだ」
私は赤面するしかなかった。普段はそこまで無防備じゃない……
「だから、とりあえず話を聞いて、その後も他愛のない事を話し合える友人になりたいんだ。まあ、そちらは急がないから、ゆっくり仲良くなろうよ」
私は頭を下げるしかなかった。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」




