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第7話 3等級魔族

「あの方……?」

「ほう、これはこれはきれいな紅眼ですね。可愛らしくとぼけてはいますが、やはりその血筋……混血ではありますが流石といったところですか」



 マトマが首を傾げると、魔族はどこか納得したような様子で笑った。


 マトマは魔族とのハーフ。

 ということはこいつの様子から察するに……。



「マトマのお母さんがこいつらと繋がっている……いや、だとしたら汚染水で苦しんでいたのはおかしい。だとすれば……それ以外――」

「ふふふ……。いいですね、その悩む表情。そちらの子のとぼけ顔も好みではありますが、やはり人間が眉を顰める姿というのは格別です」



 やけに中性的な顔立ちの、おそらく男であろう魔族は俺の顔を見てぺろりと自分の上唇を舐めた。


 艶やかでいかにもモテそうな仕草だが……それ以上に背筋が凍った、と思うほどのより凶悪な殺気が風と共に吹き抜けていった。



「――たああああああああああああああっ!!!」

「っ!?」



 そんな殺気にあてられてしまったのか、マトマは魔族目掛けて駆け出した。


 そうだ。

 危険だとかなんだとか思って尻込みしているくらいなら攻めるべきだ。


 間違いなくこいつは水源を汚染をしていた魔族であって、ほかの村の人たちを殺した張本人……そんでもってこの剣の前だってのに余裕綽々の隙だらけなんだからよ!



「だりゃあっ!! マトマ、突っ込め!!」

「きひっ!」



 腰に下げていた剣を投げ、トマトに指示を送る。


 残念ながら俺の身体能力はマトマに及ばない。


 なら、それを最大限に活かすサポートをするのが今回の仕事。



 つまり……それは俺がずっとこなしていた役回りだってことだ!



「くっ! だが……」


 眼が見開かれ、額にしわが寄る。

 俺の行動が予想外だったのだろう、焦った魔族は避けようとすることができなかったのだ。



 ――キィン!



 だが魔族は咄嗟にその長い爪を剣先に触れさせて、そのまま弾いて見せた。

 少しでもずれてしまえばその指がスパッと切れてしまうというのに、そのリスクをものともしない、まさに神業だ。



「すごい。でも……きひっ! 殺った!!」



 ただ、それにばかり集中していた魔族の懐にはすでにマトマが潜り込んでいた。


 そして陽気なのに不気味な笑い声を漏らすマトマは魔族が何か言い残す間もないままに剣を振るった。



 ――ぴちゃっ。



 舞った血は地面に、マトマの顔に落ち、生々しい音を立てた。


 しかし、その量はあまりにも少量。



「むぅ……」

「……。なるほど。これが勇者の力ですか。まさかこの私の皮膚を切り裂くとは……しかし、私はほかの雑魚とは違うのですよ」



 額から汗を垂らす魔族。


 その腹には傷跡と、真っ二つになった黒い……おおよそ魔力の塊であろうと思われるものがあった。


 スウェンたちと冒険をしていて防御魔法を用いる敵に何度か遭遇したことはあるけど、こんな形状のものは初めて見る。



「俺に見覚えがない魔法……それも闇魔法か?」

「ええ。私はこれでも『3等級魔族』。あなた方の基準はわかりませんが、名前を授けられた魔族なわけでですね……このくらいの魔力操作は分けありません、よっ!!」



 ――カンッ!!



「うぎゅっ!」



 魔族はそういいながらその長い脚をけり出した。


 あまりに速く重い一撃だったのか、マトマは剣の腹でそれをガードしたにもかかわらず後方へ吹っ飛ばされてしまった。



 この魔法……。

 こいつの言い方をするなら魔力操作になるが……これだけ自由な魔力操作を扱うことができるってことははやり、汚染水もこいつが……。



「強い……。でも、あたしちょっと楽しいかも」

「ふふ。そうですね。不覚にも私……この『フルーレ』も血が滾ってしまいます。ですが……これの回収は済みましたし、時間もちょうどいいでしょう」



 ――シャラン。



 フルーレと名乗る魔族はいつの間にか奪っていた魔除けの鈴を軽く鳴らして見せた。

 こいつがわざわざこの村を襲ったのはこのため、ということか。


 もしかすると、最近魔族が増えたというのも村人がこれを持って出歩く機会を待っていたからなのかもしれない。


 どうやらほかの魔族と違ってこいつには、このランクの魔族には魔除けの鈴の効果がないように見えるしな。



「だけどわからない……。お前がその鈴を奪ったところで何になるんだ? 魔族を寄せ付けないようにするだけの道具なんてお前にとっては脅威にならないんだろ?」

「? ああ、そうですか。あなたにも鈴の価値が分からないのですか。まったく……国や王都だけでなく勇者も見る目がありませんね」



 俺の質問に聞き、呆れたようにフルーレは首とその鈴を揺らした。



 ――シャラン。



「うっ……。なんかその音、ちょっと嫌」

「だ、大丈夫か?」



 再び鈴が鳴ると、マトマが苦しそうな声を上げた。

 魔族とのハーフ……。だけど、さっきはなんともなかったのに……。 



「……。うむ。私程度の魔力でもその系色を絞って上げれば効果は高いようですね。混血のその子にすらこれとは」

「お前、何をした?」

「大したことではありませんよ、この音色でその子が死ぬことも怪我をすることもありません。ただですね……この後はわかりません」



 フルーレが不敵に口角を上げると、遠くから複数の足音と生き物の気配が……。



「まさかその鈴の力……魔族を操るのか?」

「ご明察……と、言いたいところですが正解は『魔族も』、です。ふふ……。ということで私は失礼させていただきますね。あの『化け物』をあやす役目がありますので」

「ま、待て! お前は……ここら辺の水源を汚染した原因なんだろ!? だったら逃がして――」



「――はて? 確かにベロニア村にはあの方が干渉、その水場も利用したはずですが……そんな大規模なことはしていませんよ?」



 フルーレはとぼけるでもなんでもなく、本当に不思議そうに首を傾げた。



「お前、じゃないだと?」

「ええ。むしろ誰がこんなことをしてくれたのか、調べてお礼が言いたいくらいですよ。そのおかげで私たちはおいしい水を、水飲み場を確保できましたし、こうして簡単にこの鈴を手に入れることができたのですから。……っと、こんなおしゃべりをしている間にもわらわらとやってきたようですよ。あなたたちの遊び相手が」



 嫌な予感で胸がいっぱいになっていると、辺りには魔族とモンスターが数十匹俺たちを取り囲んでいた。


 モンスターはダークウルフ……いや、首が二つあるな。


 色合いからしておそらくはオルトロスダーク。東側だとB級のモンスター……。



「前だったら4人で何とか倒せるかどうかだった敵がわんさかいるとか……どんな冗談だよ」

「レンヤ様……」



 地獄のような光景にため息を溢すとマトマが不安そうな表情を見せた。


 だから俺はいつもより余計にかっこつけて一歩前に出て、懐から一本のナイフを取り出した。



「俺が大事な武器を一本簡単に投擲に使った理由、それがこれだ」

「なるほど、それが勇者の本当の武器というわけですか。……いやそれにしてはさっきの剣と比べて貧相。まるで食事の時のそれにしか――」

「大当たり。これは昨日の晩飯の時に使ったナイフ。んで、切れ味が悪かったんでしっかりと研いだ……至極の一品だ!!」



 ――ストン。



 牙をむき出して飛び込んできたオルトロスダーク。


 しかしその歯牙はナイフを当てただけで簡単に切り落とされ、そのまま顔面を半分にした。



「うぉぉぉん……」



 オルトロスダークは片方の頭が切断されたことによる苦しみと悲しみの遠吠えをこだましながらそっと地面に倒れた。


 そしてその身体は光となり、ナイフの元へと運ばれていく。



「こ、これは……」

「すごーい……」

「ナイフってのは食べるときに扱うもんだろ? だからこれで食ってやったんだよ。『経験値』ってやつを、たっぷりとね」

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