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49話 タコ墨

 バンっと、大きな音共に開かれたこの部屋の扉。


 出入りする時はマトマにも鍵をかけるよう言ってある……それなのにここに入ってこれたということは、ずっとこの家に隠れていた?


 誰かがいるならば気付けないわけがない。


 それなのに確かに野太い声は俺の元に届いた。



 姿が見えない……。

 まさか、シュエンさんのような音波攻撃が可能な敵か?


 だとすればまずい。

 俺やルビーさんはまだしもメアリーさんがそれを耐えられるかはわからな――




「いやいや、ここ! ここにいるから! そんなに上のほうから声は聞こえてないだろ! それと……『誰だ!?』みたいな反応もやめろよ! これでも結構話し合った仲だろ!?」




 野太い声は扉のドアノブよりもかなり下。


 怒鳴っているのは分かるが、あの身体のサイズと真ん丸な口だと大声に限界があるようでどうも迫力にかける。


 思えばこの野太い声もなんだか違和感が……。


 


「いや、そんなことよりも気掛かりなのは……。何でお前がここにいるんだ、()()()()

「あっ! その名前で呼ぶなっていったじゃねえか! 俺はタコアール・リン・エレタコクルス5世――」

「いや、だってそれ長いし……。それにこっちで見れる情報だとお前の名前タコタコになってるから」

「そ、そそそそそそそ、そんなわけあるかい! 俺は由緒ある集落、『オオアン』の頭領……その息子なんだぞ」





 壁の前で戦っていたときはあんなに不気味に見えていたっていうのに……。

 話してみるとなんというか、残念丸出し。


 ある意味愛嬌は増したけど、良いとこ出のプライド高い奴なんてツムギさんで間に合ってる。間に合いすぎている。




「分かった分かった。……それでここにいる理由と経緯を話してもらおうか。さもなければ……」

「わ、分かってる。話すよ話す! だから脚を切るのは止めてくれ! 痛くはないし、生えても来るけどさ……それでもそれなりに愛情もって伸ばしてるんやで!」




 それと感情が昂った時のこの口調……亜人ってみんなこんな話し方なのか?

 突っ込んでいいのかどうかもわからなくて扱いに困るんだが……。




「……ふぅ。そんじゃまず俺がどうやってここまでたどり着いたかと言うと……。普通に開けてもらった。それで普通にこの場所を教えてもらって、さっきもこの家の扉を開けてもらって普通に入った」

「え?」

「あの子ったら……。もしかして強くなったのはいいけど、危険を危険だって思えなくなってるのかも……。メアリーさん、マトマのことちゃんとお願いしたはずですけど」

「あは、あはははは!! き、きっと優しさに芽生えたのよ! マ、マトマちゃんカニグモのお肉と見つめあってたりしてたし……。だから命を大事に思って偉いな、って私誉めてあげたの! だからね、何も悪いようにはしてないはずで――」

「それはあの子の嫌いな食べ物だからです。もう! あの子の嘘にまんまと騙されちゃうなんて……。甘やかし放題だったのね?」

「あ、いや、それはその分頑張ってくれていたし、びっくりするくらい強かったから……。まぁ、ちょっとだけ嫌いなものは食べないでいいって……。問題無さそうなのは無視して、なんなら逃がしたほうが面倒も逃げてくって……。言った……かも?」

 「……あとでお説教です。マトマも当然メアリーさんも」

「はひぃ……」




 メアリーさんの情けない返事が部屋中に届くと、そんなことは無視してタコタコは俺たちの囲っていたテーブルにある空きの椅子をそっと引いた。



 お前、その身体だとその椅子高くないか?



 というか折角出てきたのに襲ってこないのか?




「よっと……。ありゃマトマの姉さんっていうのか……。あんだけ強いなら俺なんか瞬殺もできただろうに……。もう俺に敵対するつもりがないことを見透かしていたんだろうな。あれは凄い、ただ無視しただけじゃない。だからあんまり怒ってやらないでくれないか? 俺がこんなこというのもおかしいことだとは思うけどさ」



 そういいながらのしのしと椅子を登ったタコタコは俺たちの見やすい場所に着いたことを確認して頭を下げた。


 その見た目のせいで少し面白く思えてしまうけど、その誠意は間違いないように感じられる。


 そもそも不意打ちを仕掛けるのであればわざわざこんな風に真正面から声を掛けたりなんてしてこないはずだし……マトマと接して何か思うところがあったのだろうか?



 いや、話の感じからして、牢に閉じ込めていた時から何か心の変化があった、か。




「……。そんな風にされると私がすっごく悪い人みたいじゃないですか。分かりました、マトマには軽く注意をする程度にさせてもらいます。それに外で頑張ってくれたのにあんまり言うのは酷だとは私だって思わなかったわけじゃないですから」

「え、じゃあ私も――」

「メアリーさんは別です。大人だもの」




 シュンとするメアリーさんにルビーさんとタコタコが少しだけ笑いを溢す。


 なんかもう敵だったってことを忘れてそうな勢いなんだけど、この亜人さん。


 


「で、その心変わりはなんだ? 敵対するつもりがないのは分かったけどさ、流石にこの前まで殺そうとしてきた相手が急にそんな様子になられると、なんというか……ちょっと気持ち悪い」

「気持ち悪いって……。それはあんまりな言い方じゃないか、勇者様よ。ま、でも不思議に思うのはしょうがないか。俺だってこんな気持ちになるなんて思ってもいなかった。まさか殺そうとしていた相手に、人間に感謝したくてしたくてしょうがないなんて……。母ちゃんが聞いたら墨を吹き出して驚くだろうさ」

「感謝……。別に何かした覚えはないけど?」




 俺はしみじみと語るタコタコからルビーさんに視線を向けた。


 でもルビーさんも俺と同じように覚えがないのか、首を横に振った。


 ついでにメアリーさんも右手を自分の顔の前でパタパタと振って知らないアピールをしている。



 

「ふっ……。こういう扱いが普通になっている……。この村は小さいがその心は広大すぎるぞ。まずお前たちが牢屋といっていたあの地下室……。空気が悪くならないよう、定期的に出口を解放して、光が入るようにまでしてくれた。牢の中だっていうのにトイレは水洗で、回りから見えないよう壁が作られてさえいた。しかもベッド有りで3食付き、どれも熱々で旨い食事が運ばれてくる。洗体だって日中なら言えば連れていってくれて……何より怪我をしていた俺に対して惜しげもなく薬や専用の魔法を掛けてくれた。俺は捕虜。決して客人じゃない。それなのにここまでのことをするなんてのは俺の基準からするともう狂ってるのさ」




 ああ。

 そう言われれば待遇は良かったのかもしれない。


 でもこの地域で暮らしていく上で、多種族で無益な殺生をしたり奴隷のように扱えばあの魔族になにをされるか分かったもんじゃない。


 それにこいつがどれだけ暴れようが、今の村の人たちであればおそらく無傷で勝てる。


 それだけの武器はみんなに配っていると思っているし、そういった兵士のような役所に就いてくれている人たちがあの日以来鍛練を欠かしていないことを俺は知っている。



 だから警備が甘くても良くて、待遇だってタコタコのためというより、村のためにしているだけなんだけどな。



 

「それで俺は思ったのよ、これだけ良くしてくれる人たちのために何かしたいと……。牢から勝手に出た……というかマトマの姉さんに懇願したのは悪かったと思ってる。でもよ……。そんだけ俺はいてもたってもいられなかったんや!」




 熱い想いをぶつけるタコタコ。


 亜人種は数が少なく、仲間意識が強いと聞いたことがあったけど……ここまで義理人情が熱いとは思わなかった。


 色々と問題を抱えている人たちだけど、案外話せば仲良くなれる……のか?




「それで勇者様たちが魔石炭が欲しいって聞こえたから、ここは俺の出番と思ったわけや!」




 タコタコが自分の胸をドンっと叩くするとその口から真っ黒な墨がちょろっと姿をみせる。



「もしかしてそれ……」

「そうや! 俺たちタコ人種のトレンドマークのこれは魔石炭のおかげってわけや!」

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