48話 金の匂い
「……。勇者パーティーは解散していない……ってこと? 三人で分担して未だに仕事をしていて?」
「パーティーで活動しているなら、もっと別の……例えばスウェンの存在を隠しながら西側へ抜ける方法を考えると思います。だからどっちかと言うと利用しようとしている、スウェンの力をおもむろに拡張……暴走させて、それで魔王を倒そうとしているんじゃ……」
「スウェンって、あれでも勇者のスキルを持っているのは間違いないから、自分の手で……魔に落としてでも強化させて魔王を倒そうとしてるってわけ? はぁ、そんなことしなくてもパーティーとして一緒に旅をして、それで正攻法で倒そうとすればいいのに」
「それだけ失望したんだと思います。骨を聖剣だと思って調子に乗ったスウェンに。それに……歴代の勇者ってそもそも魔王を討伐できていない。その力を弱めることができたのは先代までで、以降は人助けに徹して崇められはしたけど、結局魔王城まで到達できたのはたった1人とか……」
「だからとにかく無茶させて、暴れさせて……ってとんでもないわね」
「まだ決まったわけじゃないですけどね」
メアリーさんと俺はひとしきりエリについて話すとため息を溢してお茶を一口。
ルビーさんも話に混じってこないものの困った様子でお茶を啜る。
一見和やかなお茶会だけど、事態は当然あまり良くない。
エリが直接ここを訪れ何か干渉してくる可能性は薄いけど……スウェンが俺の目の前に現れるまでの猶予がこのままだと高まってしまう、かもしれない。
「何より西側の王都、それと国にエリが近寄って門を開けるよう指示を始める可能性があるっていうのが何より不安なんですよね。それってつまり反対の目的を明確に持たせてしまうことにもなりますし……」
「最悪国と連合で戦争ってこともあるわよね……」
「!? 戦争……ですか」
メアリーさんが発した戦争という言葉で空気が異様に重くなる。
まだ何もかも可能性での話しでしかないわけだから、ルビーさんや村の人たちが不安になるようにはしたくない。
だからここは嘘でもできるだけ否定すべき……。
「シュエンさんには先方と懇意になってもらって、国がエリの要求を飲むよりも先に俺たちが手中に納める……そこで優位に立てればエリを数で脅せる。争いになる前に戦意喪失させることができるはずです。だからベロニア村も含めたこの辺一帯の村や街の人たちは心配しないでも大丈夫ですよ」
「そう、ですよね。うん。そうしましょう」
俺が微笑みかけると、ルビーさんは前向きに頷いてくれた。
「と、なるとその連合のシュエンって人頼みかぁ……。なんか自分たちでできることが何もないっていう状況が歯痒いわね」
「そうでもないですよ。やれることは色々とあります。連合と懇意になることでのメリットを作る、それこそ武具の売買で価値を見せつけたり、あとは施設や食べ物……そういった物が突出してしていることを知らしめるのも大切です」
「でも武器を本格的に敵になるかもしれない奴らに渡すのはねえ……。実際こっちには国に狙われている人もいるって、ちょっと前に連絡してきたよね?」
「それは……」
「それにこっちの人間は東側よりも目敏い可能性もあるのよね。レベルが高い人も多くて、鑑定スキルを持っている人も多そうで……東側みたいに多少でも嘘はつけないと思ってるけど」
実は販売している俺のスキルの効果が付与された剣には有効期限が付いたものも混ぜられている。
使い方によって剣の精度が著しく落ちる場合があると言っておいて、変わった取引相手……もっと言えば悪意が見える相手にはそれを売っている。
事前に通告していることと、東側では鑑定スキル持ちが多くないということもあってクレームは今のところなし。
そもそもそういった環境であるが故に、売り手による商品の鑑定義務も特にないため、うっかり変なものを買わされてもそれは買った自分の責任……というのが東側では当たり前になっているのだ。
だけど西側での商売はこれが当たり前になっている可能性は薄い、というか分からない。
村や街の間ではそんなに厳しいやり取りは見受けられなかったけど、出会った時のツムギさんのレベルや他の街や村の長のレベルを見ると……メアリーさんが心配するのは分からなくもない。
「うーん。だとすれば俺たち用の武器、連合で使っているものを全てグレードアップ、あとは販売するものはグレードダウンさせて上げるしかないですね」
「それ、簡単に言ってるけどできるの? 最近じゃ有効期限付きの駄作の方が作りにくくなってるって言ってなかった?」
スキルのレベルが上がったことで、適当で雑に仕上げてもそれなりに強いものが生まれてしまう。
だから元から質の悪い剣を利用したりと色々工夫していたんだけど……これがなかなかに大変。
それでその難点については考えていることがあった。
「スキルレベルを下げることも、母体となる剣の質を落とすのも限界。だったら……砥石を工夫してやるしかないと思ってます」
「というと?」
「ずっとやりたかったことなんですけど、色んなグレードの砥石を入手するための採掘をしようかと。そうすれば使う砥石によって用途の違う差のある武具を生み出せます。それにそろそろ魔石炭を有効活用するための発電所作り、その素材も必要だと思っていたところなので丁度いいかなって」
「ほう……。それはまたまたお金の匂いがする話ね」
「あはは……。でも、まずは儲けるよりも人手集め……支出ばかりになりそうですけどね」
俺が乾いた笑いを溢すと、メアリーさんは少し考えてがっかりと肩を落とす。
しかし、そんなメアリーさんを見てルビーさんが口元に手を当てて顔をしかめた。
どうやら何か考えついたみたいだけど……。
自信がない感じなのかな?
「ルビーさん、何か思い付いたことがあれば教えて下さい。間違ってても大丈夫ですから。なんでも提案してもらったほうが、こっちも色々閃くかもですし」
「レンヤ様……。はい、では失礼して……。あの、例えばそれで……国の人たちをこちらで雇ってあげる……。なんて話になれば……それも向こうにとって利益になったりしませんか? 国での貧困の差は大きいと聞いたことがあったりもしますし……。その人たちにもお金が回るようになれば色んな所で儲けが出て、税金も多くとれるようになるかと」
「「!?」」
ルビーさんの提案に俺とメアリーさんは顔を見合わせた。
それは確かに互いにとって大きな利益になる。
それに……。
「そうすれば国との関係は間違いなく濃くなるし、今回の対談において武器になる」
「あとあと、もしその人たちが働いてお金を貰うようになれば……。支払った分をこっちの娯楽やらなにやらで回収したりして……支出を最小限にできる。ううん、そこから評判になって、一大事業が生まれるかも……」
メアリーさんの目が金貨のように光輝く。
これはもう実行するしかないな。
「シュエンさんたちの滞在期間中に採掘場を確保する方向で動いてみましょう。それと、そのための資金稼ぎとして東側での販売数も増やして……人も増やしてメアリーさんとマトマにはこっちで採掘場探しをしてもらいましょうか。あんな近場で魔石炭がとれる場所があったのなら、他でも同じようなところ、砥石だって採れるところがあるはずです」
「ふふふ……これは楽しくなってきましたね」
「ただ、魔石炭は国の人たち……ツムギさんを狙う人たちも狙っているものだったはずです。それと合わせて敵、特に強力な力を持つ亜人には注意してください」
亜人……。
あの明らかに弱そうなタコですら強かったからな。
この魔石炭等の採掘場探しのついでに国が干渉していない亜人探し、それと門を閉ざす亜人たちの情報を聞くのも悪くないかもしれな――
「それなら俺に1つ心当たりがあるぜ」




