47話 最悪な報告
「――エリだって!?」
「……。その様子だとここにはまだ来てないみたいね。というか誰にも見つかっていないって感じかしら? ま、何も起こっていないのならよかったわ」
似合わない深刻な表情を見せたメアリーさんは、ほっと胸を撫で下すと白金貨に手を伸ばしてまるで子供をめでるように撫でた。
メアリーさんにとって安心できるものは何より金、ってことなんだろうな。すっごい幸せそうな顔。
「メアリーさん、その……エリのことについて、その東側で話題になっている話をもう少し詳しく教えてもらってもいいですか?」
「もちろん。でもこんな外で話すことじゃないでしょ? 中で……あ、お楽しみの最中だったならそれが終わってからでもいいけど?」
「「あ……」」
俺とルビーさんは重ねた手をさっと引くと急いでベンチから立ち上がった。
どこからどこまで見られていたのか、そんな風ににやにやしながら見られて恥ずかしくないわけがない。
「ほら、マトマも中に入りましょ。おみあげをお母さんに見せて欲しいなあ」
「うん! わかった!」
ルビーさんは真っ赤な顔をしながらもうまいことマトマを家の中に誘導。
俺は俺で手に持っていたお茶の入ったカップを口に当て一気飲み。
平和と戦のスイッチを切り替えて、家の中に戻っていった。
◇
「それで、エリが西側に来ているというのは本当ですか?」
「うーん、正確に位置がつかめているわけじゃないから本当のところは憶測なんだけど……。ま、王都が西側の扉を開いたってのはもう誰もが知っていることで、開けておいて誰も通していないなんてことはないはずだから間違いないはずよ」
「そうですか……」
エリが西側に……。
俺が知っている限り、エリの魔王に対する攻撃性……それは嘘じゃない。
ということはスウェンとルミアと別れてから、自分なりに王都から西側へ……そして魔王の元まで赴こうとしている?
だけど、今までの旅を無駄にしてまで……。おそらく転移のスクロールまで利用して、大金をはたいてまでそんな行動に移っている。
そのメリットはなんだ? エリは何を考えている……敵? それとも味方?
魔王を倒したいという面だけで見れば敵にはなりえないように思うけど……あの骨が聖剣じゃないってバレて恨みを買った可能性もなくはないよな。
「……。ちなみにスウェンたちは今どのあたりにいるかわかりますか? その情報を入手するのは難しいとは思いますけど……」
「魔王討伐の……魔王城へのルートからはやや逸れて旅を続けているわ。王都から魔王城、その間に開かずの門があるじゃない? あそこを目指しているはずよ」
「王都から直接西側に渡るにはそれなりに権力者とのコミュニケーションが必要。今のスウェンの状態を考えると、それはリスクになる。だからそっちを利用するつもりか……。それは俺たちにとっても都合がいいですね。……というか、そこまで詳細にスウェンたちの旅路を把握しているってことは……何かしました?」
「ご名答! でも危険なことはしてないから安心して! 私たちはただ剣を売っただけだから! その証拠にほら、さっきのお金があるわけよ」
メアリーさんは図多袋を笑顔で振り回し、マトマはそれを見てお茶を飲みながら胸を張る。
さっきちらっと見ただけだけど、いくら俺が研いだ剣を売ったからってあんなに稼げるのは異常。
ただ売っただけ……か。
「相当な太客が数組……。いや数時十組はできた感じですかね。その門の周り辺りに住む貴族や軍隊を中心とした」
「本当に面白くないくらいに気づくわね。そう、魔族が待ちにまで現れるようになってから私たちはその辺の人たちを中心に剣を裁くようにしたのよ。それによってスウェンたちが王都から西側に渡ろうってならないようにね。きっと今頃スウェンは……この門を超えたところ、その近辺にレンヤが潜んでいる、そういう誤解をしているはずよ」
「対面することなく誘導、それでいて剣の需要の高いところに目星をつけて販促活動……。恐れ入ります」
「ふふ、金稼ぎとずるがしこさには自信があるの! でもね、やパp理あのあたりの人たちに剣を売ろうとすると魔族と接触する確率も高まるわけで……いやぁ
、マトマちゃんたちがいてくれて本当によかったわ」
「私、マトマ頑張った!!」
お菓子のくずを頬に付けたままマトマはふふんと鼻を鳴らした。
幼く見えるけど、とっくにマトマはこの村の戦士だよな。
そういえばレベルも……。これはそうとな数の魔族を倒したみたいだな。
「そうか、よしよし」
「むふぅ……。うん! 満足! おうち戻っていっぱい寝てくる!」
「あ、ああそうか? しばらくは向こうに行かなくてもいいだろうからたっぷり休むんだぞ」
「寝る子は育つ! 寝てても育つ!」
「あ、はは……。楽しみにしてるな」
そういうとマトマは俺の家から出て行った。
あの様子からして、もっとここに居座ると思っていたんだけど……意外だ。
「ああ見えてかなり疲れてたのよ、マトマちゃん。慣れない土地ってだけじゃなくて、魔族の数もかなり多かったし……。いくら剣の力が強大とはいえあの年齢の子にしては働かせすぎちゃったみたい」
「そうみたいですね。俺もその点は反省です。でも頼もしくなりました。なんだかこの短い間に大きくなったような気もします」
「あ、それは……。……。いいえ、今のは忘れてください。うふふ……」
しみじみとマトマの姿を褒めているとルビーさんが不意に笑った。
何か隠しているみたいだけど……。悪いこと、じゃないよな?
「それでスウェンたちが門をこじ開けるまでにはどれくらいかかりそうですか? ってこんなのまでメアリーさんに聞くのはどうかと思いますが」
「そうね。私は門について詳しいわけでもなんでもないし……。でも、取引している軍の人たちが言うにはあそこをこじ開けるのはもう不可能だとか」
「不可能、ですか? もしかして門の開閉システムが壊れているから……」
「それだけならいいんだけどね……。実はあそこ、亜人種が反対側から占拠してしまっているみたいなのよ」
「「亜人種……」」
俺とルビーさんの言葉が重なる。
ここ数日でその言葉はあまりにも耳にしすぎている。
亜人種の発現方法、亜人種の奴隷……そして今度は亜人種による門の占拠、か。
単純に亜人種が自分たちの住む場所を守るために門を占拠した……というよりは、誰かの指示で、ほかの種族の指示で門を塞いだ……その可能性が高そうだな。
それは人間か、魔族か……。もしかすると、俺たちが今対峙しようとしている国の人間かもしれない。理由までは分からないけど。
「亜人種のことは私も当然よく知らなくてね……。システムが壊れたなら物理的にスウェンたちがすぐに入ってこれないからよかったんだけどなぁ」
「俺の知っている亜人種は人間に対してすごく攻撃的です。それにどういった存在であれ、わざわざ門が開かないようにしているわけですから当分は大丈夫かと」
「ふーん、わかんないけどそういうものなのね」
「となればこっちにやってきているかもしれないエリと東側の王都、直属の軍のほうが気がかりです。その目的って出回ってます?」
「魔族の出所が西側にあるから、それを食い止めるために勇者とは別の路線で戦う……みたいな感じ、だったと思うわ。スウェンがレンヤを狙って動き出したなんていうのは他の人たちは知らないようだからすごく納得していたわよ。それに魔族を討伐した実績を王都に持ってきたみたいで……今やエリが勇者みたいになってるらしいわよ」
「なるほどですね。であればやはり俺たちと敵対することはなさそうですね。それに、門からこの村って結構離れているはずですし……直接それと交わるということはなさそうですね」
「ええ。それに村や街には寄らず、まずは国、そして王都を目指すはずじゃないかしら? これを機に西側と東側で交流を深めたいとも思っているでしょ?」
「国……」
エリが国と関わる。しかもツムギさんを殺そうとしているような人間がいる、亜人を奴隷にしている人間たちがいる国と……。
もしそれによって、エリ……あの魔法使いによって何かされた場合……。
「その門を塞いでいる亜人……。そこに介入されて……。まさか、そこを開けよってつもりじゃないだろうな?」




