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46話 不穏な音

「――すみません。俺もできる限りのことはしたんですけど……」

『はぁ。亜人からいろいろと聞いた結果が、あの方ってのが亜人にもわからない、あとは奴隷商が存在しているってこと、亜人種の集落が今国によって調査、発見されてるってこと……くらいか。実際に国に行っていろいろと話をするって役割だからもっとやばい奴の情報は知っておきたかったんだがな。ま、いいや。とびっきりの成果を持ってきてやるから安心して待ってな。そんじゃ切るから』




 ――ぷつ。



 意気込んでタコ型の亜人を拘束。

 その後に俺のほうで拷問……とまではいかないが、聞き取り調査を行った結果がそれだった。


 成果がないわけじゃない。


 でもあれから早速国へ貿易についての話し合いをすることになったと連絡をしてきたシュエンさんには、あまり有益な情報を渡すことはできなかった。




 日数にして3日。

 ツムギさんが亡くなったという嘘の報告はすでになされているはず……。

 それでいてベロニア村とは違い、国とのやり取りが多くある街からは連合の話が持ち出され向こうにも届いた……そんなタイミング。



 なんとなくこの辺りで呼び出され、話し合いをするということもあるだろうと踏んではいたけど……できれば敵の情報はもっと多く掴みたかったな。




 そうすれば要注意人物をマークすることも、弱みを握り、若干の脅しを仕掛けることもできたのに……。


 連合という形が国にとって大きなものとなっていること、また魔石炭がこちらの敷地内にあるということ、この二つは確かに強力なカードなんだけど、やっぱり敵の情報を知ることができているという強みには勝てないような、そんな気がしてしょうがないんだよな。




 ツムギさんの持っていた魔道具、ディン……通信の魔道具、それに移動手段ともなるフェンリルだっているわけだから、敵の情報を基軸とした戦略とかも打ち立てられたかもしれないというのももどかしい点だ。




 ちなみにこうして今シュエンさんと連絡が取れているのはディンのスキルと魔道具の効果。


 ディンも国出身だから、記憶は失ってはいるものの、その周辺とベロニア村であればスキルによってつなぐことができるらしい。




 これがあるからますます俺たちが出向くメリットはないわけで……結局――




「おーい! 今日も大量だぞ!! 早く国の奴らにもこのベロニア村のトマト、その美味さ伝えてやろうじゃないか!!」

「ツムギさん……。だ、大分村に馴染みましたね。俺なんかよりも、随分と」

「そうだな! 本当はこの剣でバシバシとモンスターを過労と思っていたのだが、村の連中が私にはこの麦わら帽子が似合うとうるさいのだ」




 俺たちは村の中でスローライフ状態。


 ツムギさんなんてもう今までの威厳を感じないほどに農家が似合ってしまっている。


 平和……それはすごくいいことなんだけど、こんなことをしている間にもスウェンたちがここを目指していると思うと俺はそこまで――




「――ツムギさんも不安な思いはあると思います。それでもああして気丈に振る舞うのは、やはりこうしてレンヤ様が心配そうな視線で見つめているからでは?」

「ルビーさん……」

「お茶を淹れました。リーン街長がおすすめしているお茶っ葉をベロニア村でも買い付けるようにしたので是非」

「……。そうですか、ありがとうございます。でも、こういった嗜好品は――」

「必要ですよ。レンヤ様はもちろん、村の人たちも。安全な場所で生活していると分かっていても、なにか安らげるもの、夢中になれるものがあるとないとでは活気が違います。平和だからこそ今の内に心身の準備もしませか?」

「そうですね。慌てて、悩んで、そればっかりでは何も始まりませんよね」

「うふふ……。そうですよ。それに、今日はマトマたちが報告に帰ってくる日ですから、そんな顔をしていてはいろいろと面倒ですよ」

「そ、それは確かに……。んっ。うまい」




 農作業するツムギさんを見ながら近くの休憩スペースで腰かけていると、それを見たルビーさんは気にかけて飲み物を持ってきてくれた。


 他の街や村との関係、貿易も順調で、最近では農具やコンクリートの素材、食べ物や作物の種等などが敵的に届くようになっていた。

 同時にこちらからもトマトや俺が研いだ道具などをそれとなく送っている。



 特にそういったものはシュエンさんの街を主に送り……こういういい方はよくないかもしれないが、連合で最も意識される地点としている。



 安全は確保できているわけだから、今はこうして気持ちのケアをしてもいいのかもしれない。

 ルビーさんはいつもいつも俺より上手で、本当に助かる。


 もしルビーさんがあの時魔族の力に押し潰されて……今、敵となってしまっていたら……。




「ルビーさん、本当にありがとうございます」

「……。うふふ……。お茶を淹れただけで大袈裟ですわよ」




 俺の気持ちを知ってか、ルビーさんは少しばかり黙ったかと思うと微笑を浮かべてくれた。


 その仕草、表情は美しくて……。

 この感情はルビーさんの母性のせい……なのかな? それとも……。




「ルビーさん……。俺、スウェンたちと対峙して、ルミアのこともちゃんと清算できたらちゃんと向き合いますから」

「……はい。それはツムギさんやリーン街長とも――」

「ルビーさんから! 一番は絶対にあなたと! そうしないと他の人たちとは、無理です」

「……」

「すみません。最悪ですよね、気持ちを向けてくれている人にこんなこと言って……。待たせて……。最低の浮気男ですよね?」




「――浮気……。それは、その、えっとあの……。ルミアさんと同じくらい、私に気持ちが揺れているってことですか?」




 感情のままに口が滑ってしまったと反省していると、ルビーさんから思っていたなかった返答が……。



「私……うれしいです。夫がいる……。人妻なんですよ、私。それなのに……。シンヤは許してくれるって言っていましたけど、レンヤ様は結局受け入れてはくれないと……。そう思ってましたから」

「あ、あの、えっと……。その、まだそのちゃんとした返事というのは……。それに俺たちはまだ出会ってからそんなに時間が経ってないので――」




 ――ぎゅっ。



 ルビーさんは俺がドギマギしているのを艶やかな顔で見つめると、顔を赤らめながら俺の手を握った。


 そしてそれを自分の胸まで運び、顔を近づけてくる。


 嫌じゃない、嫌じゃない。むしろこうして好意を向けられるのって初めてで、求められて嬉しい。



「でもさっきも言いましたけど……。それは清算してから――」

「いいじゃない。どろどろになっても……。私はもう、どんな結果になっても……。必要ならルミアさんには悟られないように頑張るから。だから……。だから安心して……。平和を感じて、身を預けて……。レンヤ……」




 ルビーさんの身体が、自分の顔が熱い。


 このまま飲まれてしまいたいって……思ってしまっている。

 口調が、顔が、気持ちがあまりにも近い。



「ルビーさん……」

「レンヤ……」




「――マトマのことも呼んで! 二人だけ仲良しでずるーい!!」





「「え?」」




 唇が重なろうとした瞬間、聞き覚えのある元気な声が久しぶりに聞こえてきた。


 そしてその声の主は俺たちの間に入ってきて、どこで用意したのか自分もお茶を啜る。




 ――ずるる。




「おししい! 今までよりちょっとにがにがだけど、匂いがいい! でもマトマのおみあげもなかなかだよ!」

「うんうん! マトマちゃんの選んだ菓子はどれも絶品! でもでもでも……これもすっごいよ」

「メアリーさんも……。あの、いつ帰って来られたので――」



 

 ――ジャラジャラジャラジャラジャラ。




 俺の質問を聞こうとせず、いつの間にか帰還したメアリーさんはずた袋から白金貨をこれでもかと撒いた。


 そして……。




「これだけの成果を上げられたのも、魔族が増えて剣の需要が増えたから。きっとこっちにあいつらがやってくるのは遠くない未来。それと……王都のお偉いさんが西側への門を開けた、一人の女のために。向こうではその話題ばかりなんだけど……。こっちでその女……勇者パーティーの一人だった女、エリは来てたりしない?」

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