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45話 怯える赤

「――真っ青、か……」



 リーン街長によるスキルが紫色の判定だったのに対して、2段階も上の威力を壁は表していた。


 威力だけで見れば通常状態のルビーさんの攻撃と同等……70というレベルだけどあの音波を操るスキル、その影響を受けた攻撃はS級冒険者相当なんじゃないか?


 ま、S級冒険者なんていう存在に俺はまだ出会ったことがないから想像上の推測でしかないんだけどね。




「……。あの正確にこの実力、ほかの連中は最早張り合おうという感じもないし、トウゲン村長もなんでか他と一緒になっちゃってるし……。こうなったらシュエンさんに連合長として働いてもらうでよさそうですね。いやあめでたしめでたしです。……。と、いうわけでとりあえずの外交はシュエンさんからの指示、そしてそれをリーン街長と……場合によってはトウゲン村長がフォロー。俺たちもサポートとして働くことがあると思いますので、報告だけはしていただければと思います」

「……。了解しましたわ。でも本当にいいんですの? 連合なんてものを発足するからには何か欲しているものがあったのでしょう?」

「あそれはそうなんですけど……。よくよく考えると、顔が割れているであろうツムギさんを抱えている身で国に直接赴くのは危険で……それなら周りの人たちに利益を流しながらでも国で行動してもらったほうがいいかなって。別に俺が本当に欲しいものの一番は金ってわけでもないですし……。連合を形成する村の一つとして国が俺たちのことも評価をしてくれればそれでいいんですよ」

「国からの評価……。となると、東側に渡ることが最終目標ですか?」

「最初はそのつもりだったんですけど、それよりもそこの……関所の権限と国の兵力、今はそれが当面の目標ですね」

「兵力!?」




 俺の目的のものを聞いてリーン街長はぴくっとその身体を反応させた。


 兵力から連想されるのは戦。しかも未だ正式ではないにしても勇者と呼ばれ始めている人間がそれを言い出すんだからそりゃ怖く思うのも普通。




「リーン街長、レンヤ殿は自ら進んで戦をしたいと言っているわけではありません。あくまでこれから襲いくるであろう者から西側を守ろうと、それだけです」

「ええ。ですから野蛮と思わず、今後も協力いただければと思います」




 顔を引き攣らせたままのリーン街長に対して、さっきまで敵意を向けてさえいたツムギさんとルビーさんができるだけ優しく語りかけた。


 戦……俺はまだこの間の魔族とのやり取りくらいでしか経験していないけど、西側に住む人たちは魔族が身近にいるという状況の中で何度もそういった場面に出くわしているのだろう。


 お互いが平和を望んでいれば、その過程はどうあれ結局は仲間になれる……それが西側、過酷な地で暮らす人たちの当たり前なのかもしれない。




「――はい、こちらからもよろしくお願いします。……でもまさか魔族の人とこうして普通にお話することになるだなんて思ってもいませんでしたわ。これからは良き()()()()としてよろしくお願いしますね」

「え? ラ、ライバル? ――」

「ええ。全力でかかってきてください。私負けませんから」

「うむうむぅ……。私だって負けはせんわ!」



 あれ? さっき協力するってなったよね? なんでいった側からさっきメラメラの宣戦布告なんかしてるんですか?


 ……。好意を向けられのが嬉しくないわけじゃないけどさ、面倒ごとが増えるのは御免ですよ。それに……。




「ルビーさんには話してますけど、俺の答えはルミア……。その襲いくるであろう者と今一緒に行動しているその人と話をしない限りには――」

「だったらそのルミアさん? と再会するよりも早く仲良くしていただかないと……。そうでなければ第1夫人の可能性は0になりかねませんわ」

「そうですわよね! 人妻だからって遠慮している場合じゃありませんわよ、私! シンヤがいいって、そうしろというのだから結果を出さないとです!」

「ひ、人妻……。重婚は珍しい話じゃありませんけど、まさか旦那様がいらっしゃるとは……。魔族という種族は私が思っている以上に性欲が強いようですわね。この、淫魔」

「い、いいいいいいい淫魔ですってえ!?」




 珍しくルビーさんは声を荒げた。


 不倶戴天の敵現る……って、冷静にしてる場合じゃないよ。どうすればいいのよ、これ。




「――おい勇者……。いいやこれからは連合の仲間として同じくらいの立場でやってくわけだからレンヤでいいか」




 その場で頭を抱えていると、また距離はそこそこあるのにシュエンさんの声がはっきりと聞こえてきた。

 あの魔道具による通話よりもすぐ近くにいるみたいに伝わってくるから余計にびっくりするな、これ。




「ま、連合……そっちでも話してたみたいだけどよ、国交については俺に任せてくれや。そんでレンヤは女の問題に集中してくれ」

「……。シュエンさん、随分と俺で楽しんでますね。こっちはもうため息が止まらないってのに」




 シュエンさんたちのほうを見ると、いつの間にかトウゲン村長を含めて権力者たちが俺を見て笑っていた。


 はっずかしい。穴があったら入りたい。

 でも……。




「くはははは!! 思ったよりもとっつきやすそうなやつで助かったぜ!! 俺は偉そうで変に緊張感のあるやつもあんま好きじゃねえからな」

「だからって砕けすぎもよくないですけどね……。ま、でも……。改めてよろしくお願いします」




 俺が遠くからでも頭を下げると、ほかの人たちにもその声が届いていたようで笑いながら会釈を返してくれた。


 何はともあれ何とかやっていけそうではあるな。



 それに……。




「――皆さん! 飲み物や休める場所も用意してますから是非是非! この村、鉄壁のベロニア村を楽しんでいってください!!」




 どうやら村の人たちの心配は拭えるどころか自信に変わったようだ。


 一部始終を見ていた人たちが村から出てくると怖いくらいの出迎えを始めているし、まじまじと壁を見る様子はどこか誇らしげに見える。


 間違いなくいい方向に変わっている。

 あとはこのことが国に届いて、積極的に関わってくるようになれば……。


 こっちが明確に有利になれるものとか、恩を売ったりできるようなこと、それと国にいる()を何とか出来れば……スウェンによる強襲も一安心かもな。




「……。となればまずはこいつに詳しい話を聞く必要があるか。おい、起きてるんだろお前」

「……。なんでわかった。気配は完全に殺していた。呼吸さえしていなかったのに」




 俺は周りの人たちが心配しないようにそっと亜人に近づいて耳打ちをした。


 そうすると亜人は俺に感心するような表情を見せながら体を少しだけ揺らした。


 痛みは当然あるようだけど、その瞳にはいまだ闘志が宿っている。




「その頭上のレベルが上がってたからな。きっと今の戦闘でレベルアップして、その分である程度回復してるんじゃないか……てな」

「鑑定眼、か……。なるほど厄介なスキルを持っているものだ。村長という立場になる人間というのはやはり特別というわけか。だが……それを俺に伝えるのは悪手。俺はその個人の情報を知ることで、能力の擬態が可能――」




 得意げに話していた亜人は急に話すのをやめた。


 そしてその額からは汗がにじみ始めた。




「……」

「そんな、馬鹿な……。これだけのレベル、スキル……あの方に匹敵するというのか?」

「そうか……。一対一で戦うならもう十分な強さだと思っていたんだけど……。これはもう少しレベリングをしたほうがよさそうだ」

「勇者、まさかこれほどとは……。だが、この距離であれば――」



 亜人はその口から紫色の何かを吐いた。


 墨、ではなくおそらく毒。



 しかしそれはあまりにも遅い。それに……。




 ――キィ……ン。




 「そういったものの対処って、俺の専売特許だったりするんだよな」

「俺の毒を、斬った……。それだけじゃない、まさか毒を無効化したのか? しかも壁の色……」




 毒を完全に視認したあとでも俺のこのナイフでの一振りが遅れることはなかった。


 だからそれを一刀両断するのも可能だったわけで……ただ、勢い余って壁を斬りつけたのはよくなかった。



 こんなに俺の攻撃で赤く色づいた、最大の判定をこの壁が表せばこいつは余計に怯えてしまうかもしれないから。




「お前が雇われたて仕事をしていたのは知っている。そして……おそらくは国から脅されて。だがこれ以上敵意を剥き出しにするようならば……容赦はしない。そうなれば、シュエンさんの一撃のように生きていられることはないと思え」

「は、はは……。これが勇者、か。あまりにも桁が違う」

「正確には勇者候補だ。それに、このくらいはツムギさんでもルビーさんでも可能。さ、話してもらうぞ。洗いざらい、すべてな」

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