50話 休暇終了のお知らせ
「ということは、タコタコさんの集落……その付近では魔石炭ご多く採れるということですわよね?」
「ああ、ごっつ採れるで!」
あの洞窟で魔石炭を採ることはできる、けどあの場所は国にバレているわけで、ディンのように私利私欲のために訪れる人、また今度は国が隊を組んで視察、さらには無理矢理に確保へ動くこともなくはない。
だからこそあの場所はシュエンさんたちによってこちらの保有地だと認めさせるまで、或いはルビーさんの提案である国の人と協力して採掘作業の人間をこちらで雇う、という仕組みができるまでは手出しが難しいと思っていたわけで……他にも採掘場所が、しかも国に悟られていない場所が確保できるのは大きい。
「確認なんですけど、そこってタコタコの仲間以外出入りしたりとかしてるのか?」
「だからその名前で……いや、もういいや。それでツッコミっていうのは思ったよりも体力使うしな。無駄なことは省かせてもらうことにした。というのも……その場所には人間はいないものの、モンスターがわんさか。あそこにまた行くってなると少しでも温存せんと」
身体をひねり、頑張って力こぶを作ろうと気合いを込めるタコタコ。
でも変身は出来ても筋肉は大して発達していないのか、力こぶはひょっこりと、可愛らしい山にしかならない。
「まだ行くって決めたわけじゃないんだけど――」
「聞いたところによると、シュエンさん? シュエン殿? ま、会ったことないからどっちでもいいんだけど……連合として初めての会談、その一番重要な貿易についての話し合いは数週間後らしいじゃない。だったらそれまでに採掘場所、もとい仕事場を決めちゃって、その発電所……? とかの設置まで進めちゃおうじゃない!」
「「――イエーイ!!」」
俺の話を遮って勝手に盛り上がるタコタコとメアリーさんはがっしりと腕を組んで嬉しそうに声を上げた。
こいつら……今日会ったばかりとは思えないくらい仲良いのはなんなんだよ。
利害の一致って友好関係を築くためのツールとして最強か?
「はぁ……。分かりました。行くのは行きましょう。でも、魔石炭がなぜ必要になるのか、それを占有する許可を貰うためにも発電所の設営は必須。それでそこから引っ張る電気の配線とかを済ませて……国にこの事を理解して貰うまでの道のりはまだまだ遠いです。あまり先走らないよう気をつけて――」
『――いやいやいやいやいや。先走って焦って貰わないとこっちが困るって。送電線、変電所、配線のあれこれ……そんなのが何でか全部全部この魔道具の中で、情報として残ってるから早急に頼むぜ。ってか、その道のりに勇者レンヤのびっくりスキルを用いた場合が想定されてねえ。なに、どれを作るにしてもそれがあればあっという間。その素材やら魔石炭やらがあればなんとかなるって!』
……。昼間は電気の無駄遣いになるからって電源を落としていたはずなのに……何でディンがいるあの魔道具が動いているんだ?
「今日は俺とルビーさんくらいしかあれを触ってないはずなのに……。まさか……」
「いや、えっと、違うんです! たまたまお茶を入れる時に倒しちゃって大丈夫かなって触ってただけなんです! それにさっきまでは画面が真っ暗で……。その、私はできればこの期間くらいはゆっくりと――」
――ジジ。
「「え?」」
ルビーさんが加勢に加わろうとすると魔道具の画面が切り替わった。
そしてそこには俺とルビーさんの顔が近づき始めた瞬間が……それに、映像とは関係ない甘い声が聞こえてきて……。
『こんなこともあろうかと、あんな瞬間、あんな音声を録音して保存しているのだよ。ま、流石にそこまで鮮明なのは無理だし、薄暗い中を撮影するのは不可能なんだけど……。この映像を最初から最後まで、それと昨日録れていたこの音声も最後まで流そ――』
「レンヤ様。やっぱり出来ることがあるならやってしまったほうがいいと思います。きっと気も紛れますわ」
ルビーさんは魔道具を懐に挟んで映像を見えなく、そして音声も流れないようにすると、さっきまでとは反対のことを口にした。
そこまでして聞かれたくないものって……いや、俺もあれを何回も見られるのは恥ずかしいわけだけど。
「こうなったらギリギリまで挑戦するしかなさそうですね。だとすれば……。発電所の班と魔石炭の新しい採掘場所班で……。あ、そういえばそこって他の鉱石も採れたりとかするのかな? 銅、鉄鉱石……金剛石とか」
「ん? むしろそっちの方が多いと思うぞ。だから俺たちは鎧を着るのに慣れてるわけだしな」
「そうか。なら尚更問題なし、と。じゃあ今回の班はルビーさん、マトマ、ツムギさんで発電所作り、俺とタコタコとメアリーさんで採掘場所の調査を……あ、それと帰りのことも考えて相棒にも来てもらおうかな」
「ま、待ってください! その、私たちだけで発電所をですか? 知識がある人もいないのにそれは難しい気がしますわ」
俺が班分けを発表すると、ルビーさんが少し慌てた様子で引き留めてきた。
その内容にメアリーさんもうんうんと頷いて、同調。
いや、この人はどちらかというと戦闘をしたくないだけな気もするけど。
きっとこの村にいる間にも金を稼げる産業を見つけたり、やってきた他の村の人たちと商談したり……そっちがしたそうでもあったし。
それとルビーさん……。
一緒にいる時間も多くて、戦闘能力の高さもよく分かってるし、なんとなく不機嫌になってるのも分かってる。
ただなぁ……。
「俺の我が儘で申し訳ないんですけど、ルビーさんにはしばらくマトマと一緒にここにいて欲しいなって……。なんだかんだまだ子供で、あれだけ長い間村から離れて、また母親と離れて……じゃああまりにも可哀想かなって」
「それは……そうかもしれませんけど。……。私がレンヤ様と離れるというのも同じくらい問題なんですけど……」
ルビーさんは俺の言葉を聞くと理解してくれたようだったが、どうも納得いかない点があるようで子供みたいにぷくっと頬を膨らませた。
可愛らしいけど、これはあとでフォローしておかないと面倒なことになりそうだ。
「ツムギさんに関してはやっぱり外に出て仕事をしてもらうのはリスクが高いので残ってもらい、タコタコは当然道案内として……」
「その、それで私は? 私は残っちゃダメなの?」
「メアリーさんには鉱石の判別係として来てもらいたいんです。俺もタコタコもある程度は分かると思うんですけど、商人として色々な鉱石に触れ、流通させてきたメアリーさんほど詳しくないですから。それに場合によっては俺たちが探してるもの以外にも村の発展に役立てられそうなもの、お金になりそうなものが見つかるかもしれないですよ?」
「それは……確かに!」
メアリーさんはたちまちに目を輝かせ、口の端しから溢れそうになった涎を拭いた。
この人、本当にお金大好きだな。
でも村とか組織の運営ってやっぱりこういう人が1人、2人は必要なんだよな。
「それで、さっきのルビーさんの質問。残った人たちには知識がないから厳しいって話なんですけど、それについては予めディンにその情報を紙に起こしてもらって、それに従って動いてもらえればと。出力は可能だよな?」
『問題なし。最初からそれはしようと思ってたさ。あー、あとこっちに残らされてた……しまってあった道具なんかもちらほらあるからそれも取り出せるぜ。普通は発電所だのなんだのってのはちょっとやそっとじゃ難しいもんだけどよ……これがあれば案外って感じらしい』
「……。そうか、じゃあ安心だ」
俺がベロニア村に残らず外に出る訳。
それは危険度が分からないってことと、国、というか敵の動きを知る手掛かりを知りたいということ……何より俺がいなくても発電所作りは進められるんじゃないか、という期待がうっすらとあったから。
というのもディンがあれだけ急かすってことは、それが難しかろうと、作ることができる自信がそれなりにあるってことで、それに際しての情報以外の何かを手にしている可能性が高いと踏んでいて……。
それがやっぱりあった。
あったけど……そんなものが魔道具内に残されていた意味がどうも気掛かりだ。
魔法でほとんどのことはどうにでもなってしまうような 世界で、何でわざわざ……。
それに発電所なんてものは書物の中に記載があるだけのもの。
それ自体を……俺は実際に見たことはないし、存在も確認していない。
こんなに残っているものは多いのに、なぜ?
西側ではまだ動いているものでもあるのだろうか?
引っ掛かる……。西側には俺たちの知らないことがまだ山のようにあって……もしかしてそれを知られないためにも西側は放棄されたんじゃ――
「いや、今それを考えるのはよそう。それよりも……作業の指揮にあの人にも来てもらおうかな? 連絡しろってうるさく言われていたし、その方がルビーさんも……たぶん安心だろ」
俺は不安そうなルビーさんに視線を向けると、早速次の行動の準備をしてもらうよう働きかけ、俺自身も休暇モードから仕事モードへと本格的に切り替えたのだった。




