第43話 13段階
「あの色……なら大丈夫そうだな」
この壁、初めてSS級になったこいつは色によって攻撃の危険度を表すスキルが付与されている。
つまりこの色の範囲内であれば壁が壊れることはなく、ベロニア村の人たちは安全であるということ。
しかもそれは内側からでも視認が可能なため、敵からの攻撃にいち早く気付くことができ、場合によっては早急に逃げたり、隠れたり……ということも可能なわけだ。
で、そんな壁が一体どの色まで変化することができるかというとだ――白から赤の約13段階。
白、薄い青、薄い緑、緑、紫、藍、青、灰、黒、ピンク、橙、赤……。
色の濃淡が攻撃によって微細に違うから、もっと細かく分けることもできるけど大体こんなもの。
その中で見ていくと紫は5段階目。
色の変わったところをよく見ると、紫にしては薄い気もするけど……もうそこは気にしない。
というのもこの色合いになる攻撃なんて、ツムギさんが普通の剣で全力の居合斬りを放った場合くらい。
俺の剣を使わなかったとしてもレベル100の攻撃と同程度の攻撃方法、或いは防御方法を用いることができるならリーン街長があの亜人種によって穴だらけになってしまう可能性は限りなく0に近い。
だからもう気にすることも、心配する必要もない。
――ギリギリギリギリギリギリギリギリ……。
「う、くっ……。こいつ、これでも押されるというのか……」
「そう思っていた時が俺にもありました。……って、ボケッと見てる場合じゃない」
敵の回転に対してリーン街長は刺部部を避け、両腕でそれを挟むようにして掴み、抵抗。
スキルの力、印の力によって得た怪力によってそれ以上前へ進むことを許しはしない。
しかし、その高速回転が止まるわけではなく挟み掴んでいた腕と鎧の一部が常に擦れあう。
まるで金属が擦れ、削れる時のような音がなるだけでなく、そこでは火花が散り焼けて焦げる音さえも響きだす。
スキルの力をもってしても結局はリーン街長側は生身。
今は拮抗してなんとかなっているがそれが崩壊してあの刺がリーン街長の身体を貫いてしまうのは時間の問題。
俺は急いでナイフを取り出すと亜人の元へと駆け出した。
そしてそれを見たルビーさんは剣を抜き、聖剣の光で浄化を試す。
「――レンヤ様の剣、浄化の光が通じない?」
「いや、効いてます! だから続けてください! 俺がこれを止めるまで!」
ルビーさんが剣を抜くと少しだけだけど、その回転は弱まり舞い散る火花は少なくなった。
それによってある程度回転の規則性が読めた俺は次の刺が下りるタイミングでナイフと腕を突き出す。
――カ、キンッ。
そうすることでナイフの切れ味が勝り数本の刺が折れる。
だが回転は勢いを著しく弱らせながらも次の刺が襲い来る。
「よし、これで一先ずは止められるか」
俺はこれをわざとナイフではなく、素手で掴みにかかる。
筋力に自信がある訳じゃないが、リーン街長の力もあるし、流石にこの勢いくらいは殺せるだろ――
「――形態変化:刺丸……から、『両端槍』」
安堵の息を溢すとついに敵が声を発した、と同時に回転はピタリと止まり鎧の表面に波が打った。
「――避け……」
「くっ……きゃっ!」
――びりっ!
この状態から敵が攻撃を仕掛けてくると思い、俺はリーン街長に避けるよう指示。
しかしそれを言いきる直前でその鎧はぐっと一部に凝縮、続いてそれを一気に放った。
刺を伸ばすところを事前に見ていたこともあって俺は咄嗟に屈んでそれを回避。
やや髪の先を切られはしたもののダメージゼロ。
だが、向かい側で俺と同じ様な状況になっているであろうリーン街長はそれが難しかったようで、その威厳と妖艶な容姿からは似合わない可愛らしい声をあげていた。
声をあげられるのであれば即死ではないと思うけど……早々に治療しないとまずいかもしれない。
「悪いが、手加減してやれないみた――」
――じゅる。
決着を焦った俺は体勢を整えると亜人の身体目掛けてナイフを振りかぶった、のだが気持ちの悪い水音が全身に悪寒を走らせ、物理的に脚を止めた。
更に頭の後ろまで振り上げた手には何か巻き付いた感覚が……。
「こ、今度はなん――あ、赤い触手?」
慌ててその正体を見ようと足元を見た。
するとそこには太く赤い触手が右足に絡まっていた。
それにそこには白くて丸い吸盤が無数に並んでいて、なかなかに気持ち悪いものに掴まれてしまったということが分かってしまった。
俺、こういうにょろにょろはやっぱり苦手です。
でも剥がそうにもこれ、思ったよりも強力で……。
「こうなりゃ……べたべたべたべた引っ付いてくるお前が悪いんだからな!」
――ドンッ!
俺は遠慮なく、まだ唯一動かすことのできる左足を目一杯伸ばしながら、亜人の股関部分を蹴り飛ばした。
敵のレベルは70。
上位の魔族と同じくらいではあるものの、今の俺からすればかなり格下。
そんな中での急所への一撃は飛び上がってしまうほどの痛みだろう。
「――!?」
「って、本当に飛び上がって――いだっ!」
――びりぃっ!!!
凄まじい速さと勢いで亜人が飛び上がるもんだから巻き付いていた服が思い切り破かれて、さらに直に触れていた部分は毛が一気に引き抜かれて激痛が……。
これ絶対肌赤くなってるやつだよ。
「身動きとれない宙に逃げたのなら、私の風で……」
「だったら……リーン街長、やつのあの触手が出ている面を俺の頭上に――」
「――いやっ! こっちを見ないでくださいます!?」
そのまま畳み掛けるため、リーン街長に亜人の位置変更をお願いしようと視線を向けたのだが……。
そこには可愛らしい桃色のそれらに包まれ、必死にいろんな所を手で隠すリーン街長の姿があった。
そんなリーン街長は恥ずかしさからか、顔を真っ赤にし、俺もまずいと思って顔を逸らしてしまった。
「馬鹿が……。今度こそ死ね」
そんな俺たちを一瞥。亜人は苛立った声色で暴言を吐いた。
――またあの槍が飛び出してくる。
そう思い、改めて亜人を見たその時……何やら地面が揺れたような、そんな気がした。
「――おうおうおうおうおうっ!! どいつもこいつも勝手に進めやがって……。どけっ! 俺は順番を守らねえやつと約束が守れねえやつは大嫌いなんだよ!」
すると地鳴りの代わりにシュエンさんの声が……。
どうやらようやく一撃を放つ準備が整ったみたいだけど……。
この声一体どこから?
周りにはシュエンさんらしき人はいないけど――
「「「――が、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」」」
空気が細かく、強く振動する。
その上幾重にも重なるそのけたたましい咆哮はいつまでも耳の奥に残って、痛みさえ覚える。
それでもダメージが大きくないのは、きっとシュエンさんが対象だけに声を届けようと波長をいじっているから。
だから、さっきの声はシュエンさんの姿が見えなくても、まるですぐ側にいるみたいにはっきりと聞こえたんだと思う。
何でそんなことが言えるのか……それは目の前で起きている光景が証拠。
俺たちとは違って亜人は苦しそうに呻き……。
――パキバギバキメキ。
その鎧も……鎧だっていうのに苦しそうに、辛そうに音を立てながら割れていく。
どうやら対象は生き物に留まらないようだ。
「凄い、な……」
「でも亜人はまだ生きています――」
――じゅりゅるる。
こちらに走ってきていたルビーさんが宙にいる亜人を指し危険を伝えようとしてくれた時、とうとう鎧の中身……亜人が俺たちの目の前に姿を現――
「――みゅきゅっ!?」
「不細工なタコ野郎だな。だからその丸顔、もう少し平たくしてやるよ」
現したのだが、とてつもない速さで跳んできたシュエンさんがその顔を拝むよりも前に、比喩でも何でもなく本当にタコ殴りを始めてしまうのだった。




