第41話 熱波
「――はい、スプリーン村はえーっと……薄薄青っと……。うーむここからだと確認しにくいか。……。……。……。よし、これからはもう少し近くで確認をしていきたいと思う。全員橋の近くまで寄ってくれ。それと次に挑むものをその間に決めておけ」
ざわつく村長たちに対してツムギさんは淡々と誘導を行い、順番を進めようとする。
そうしてできるだけ冷静に振る舞おうとはしているものの、にやけ面がちょいちょい見えている。
多分だけど自分の適当な攻撃よりも、あれだけ自信満々に名乗り出たトウゲン村長の護衛による攻撃が弱かったのが面白くてしょうがないのだろう。
気持ちは分かるけど、あんまり笑うと相手の機嫌が悪くなりかねないからもっと頑張って抑えて欲しくはある。
「――すみません。まさかあれほど強固な壁だとは思いませんでした。しかし――」
「良い。私でも分かる。お前の一撃がどれだけ強烈だったかなど。それにその指……全力を出してくれたことをどうして疑うことが出来るか」
「トウゲン殿……」
「……。お前がスプリーン村を出て行き、暗殺などに手を染めて……。その果てが情けないものであればこれほど怒りが高まることはないと思っていたが……。そうだな……その努力、身に付いた力は評価しよう」
「まさか、気付いておられるとは……。兄――」
「それを認めたわけではない。そう呼びたいと思うのならば今後はより村のためになれるよう精進するのだな」
「……。はっ。了解致しました」
それからツムギさんによる先導で橋の近くまで寄ると、トウゲン村長の護衛が片膝をついて頭を垂れていた。
そしてそれを見たトウゲン村長が進み出ると、他の人たちは怒鳴り声が響くことになるだろうと思い一歩下がったのだが……結果は予想したものとはまるで違った。
護衛の肩を優しく叩くと、この度の仕事を称えたのだ。
まさかの出来事に意外そうな顔でほとんどの人がその光景を見つめる……そんな中、次の順番となった人たちがゆっくりと橋の前に立った。
どうやら次は集団で挑むようだが……なんでどの人もこんなに怪しい雰囲気満載なの?
白装束で顔の見えない集団とか街や村って単位じゃなくて教会、教団……つまりはこの世界全土に渡る組織が絡んでるんじゃないか?
今後のことを考えると、この人たちにこの連合で強い権力を持たせるのはヤバそうだけど……今更やっぱなしとも言えんしなぁ。
――スリスリスリスリ。
……なんか失敗しろ。って念じとくか。
「……。なにやら我らが上位に躍り出ることをよく思っていなさそうであるな。レンヤ殿?」
「い、いえ……。そんなことは決して……。それで次の方はえっと……」
「そうであったな、我はヴェルガ。ロッソ・ヴェルガ。ヴェルガ街の長であり、かの国……シャトー国の知事とも親しくしているほどの家柄である。よって我が上位に入ることとなれば、より国との友好関係は良好となりであろう。安心してことの行く末を見守るが良いぞ」
「は、はぁそうですか……」
国とそれだけ近い街であるなら、その街も国として括られるべき……国と対等、いやそれ以上にやり取りが出来るように連合を結成しようって話なのにそれに混ざるのは明らかにおかしい。
話し方からしても胡散臭いし……。
この人絶対嫌われ者だろ。
「レンヤ殿……。あれはかなり厄介な存在。今のうちに排除すべきです」
「排除って……。ツムギさん、あんなでもこれからは仲間になる人たちですから」
「うむうむぅぅ……」
不服そうに頬を膨らませるツムギさん。
国で職務に当たっていた彼女からしても、この人の評価は相当よくないようだ。
これ、親しいってのは嘘か……ただ一方的にそう思ってるだけだな。
「――我、ロッソの名において命ずる。この壁を果てしなく濃い赤で色づけよ」
「「はっ!」」
「……」
ヴェルガ街長の命令に従って、白装束の人たちは魔法陣を宙に展開。
それはだんだんと拡張され、熱を帯びてゆく。
どうやらこの人たちは炎魔法で壁を攻撃しようとしているらしい。
壁には全耐性のスキルも発現しているから、村の人たちが蒸されるなんてことはないだろうけど……堀の水が干上がらないかだけがちょっと心配――
「――これはなかなかに面白いわ」
……さっきから1人だけ訝しげな表情を浮かべていたリーン街長。
そんな彼女は魔法陣を見てニヤリと笑った。
自分が使えないこともあって、魔法のことはあまり詳しくないけど……かなり高度なことでもしているのだろうか?
「……レンヤ様、少し下がった方がいいかもしれません」
「ルビーさん?」
「他の皆様も少し下がった方がいいと思います。手当てしないといけない人が増えるのは面倒なので」
そういってルビーさんは俺やツムギさんだけでなく、その場にいた全員を少しだけ後ろに下がらせた。
やはりそれだけ派手な魔法ってことかこれは。
「――ふっ……。それだけでは不十分かもしれないわよ」
俺の耳に聞こえきた囁き声。
これは……リーン街長のもの、か。
少し嫌な予感がするな。
「――炎波……」
俺たちが少し下がったことを確認でもしていたのだろうか、白装束の一人がようやく口を開き魔法が展開され始めた。
――ザバッ。
まるで水のように噴き出した炎はそのまま宙で止まり大きなうねりを作る。
そしてそれは高波へと変わり、壁の正面を焼く幾重もの津波と化す。
壁に弾かれたその波はそこで役目を終えて消えていこうとするが、ギリギリ橋や堀の中に火の粉は届く。
橋も俺が研いだ木材を利用しているからそんなにすぐ燃えてしまうということはないが……水が熱で蒸発して蒸し暑いのだけは勘弁だな。
――ポトッ。
「熱いですわね……。レンヤ様、お拭きしますわ」
「え、あ……ありがとうございます」
白装束の人たちによる攻撃はしばらく続き、額から汗が滝のように流れ始めた。
ルビーさんがそれを拭いてはくれるものの、止めどなく湧き出ては意味がない。
こんなことなら壁によって熱も遮断している村の中から測定を見届ければ良かったかな……。
なんだか頭がぽーっとして、景色が歪んできたようにも感じるけど……。
――ザバンッ。
俺だけではなく他の人たちの様子にも変化が見られた頃、ようやく炎魔法による攻撃は終了。
この壁には継続的な攻撃をしてもダメージが蓄積するわけではない、って情報を伝えていればもう少し早くこの地獄から解放できただろうけど……各々ができる限りのことをしたと思える方が後で納得もいくはず。
だからこの辛さは後の布石として重要だった。
それがいくら大した色の変化をもたらすことができなくても――
「って、藍色まで色が変わっている?」
白装束の人たちとヴェルガ街長に残酷な結果を伝えようと壁を確認。
しかし、そこには俺が思っているよりも遥かに色づいている壁があった。
彼らのレベルは平均で35。
魔法は派手だったけど、ここまでの反応を見せるのはおかしい。
炎耐性だけは低くなってしまった……。
或いは水蒸気が影響して……。
「ちっ。我は赤に色づけよと言ったのだ! それが何故こんなに青い! これではあの炎がまるで効いておらんようではないか!」
「で、ですがヴェルガ様、この壁にはこれが限界でございます」
「ふん! まあいい。一先ずはトウゲン殿を越えられたのだ、可能性はまだあ――」
「やはり不正行為を働きましたわね。ですが、全てお見通しですわ。そして、その幻もあなた方の正体も……魔力を存分に使った後であれば簡単に暴くことができますの」
俺が壁の色について思考を巡らせていると、リーン街長は一人涼しい顔でやけに癖のある魔法陣を展開するのだった。




