第40話 壁の色
不敵な笑みを浮かべながらシュエンさんは座り込んだ。
これを端から見ている人だったらあれだけ威勢がよかったのに何をしているんだよ、と笑ってしまうかもしれない。
しかし、この場にいる全員がその異常なさっきと威圧感であっけにとられていた。
「――時間を使って攻撃力を高めるスキルか? なるほど、この壁を見てもあれだけ余裕な顔をしていたのはこのためか。うむうむぅ……。もっと驚いて仰け反るこいつが見たかったのだが」
「レンヤ様、この男の魔力の質が高まり、さらには膨らんでいます。魔族へと変化する様子はありませんが……聖剣の力を使いますか?」
そんな時間が数秒経つと、ツムギさんとルビーさんが口を開いた。
強がってるわけじゃなく、それでも自分のほうが強いと自信をもってからかうような言葉を吐くツムギさん。
冷静にシュエンさんの魔力を測り、耳打ちしてくるルビーさん。
どちらも驚いた様子を見せはしたものの、この切り替わりの速さ……頼もしすぎる。
一応俺のほうがレベルは高いんだけど、二人のほうが強者っぽい雰囲気するよな。
ま、俺はあくまで研師。サポートしつつ、今は仲間を強くするってことに注力してればいいか。
そうしていればそのうち俺のスキルのレベルも上がっているだろうし。
「――あの、レンヤ様?」
「聖剣、というか俺のスキルについてはあまり知られないほうがいい気がします。東側であればまだしも、西側でこれが広まれば自分も自分もって人が集まってきてしまう可能性もありますし、その結果価値も低くなりかねません。敵対する人たちが折れん剣を携え始めても困りますしね。あくまで、売るのは東側だけ。接することがあまりない人たちのみにしていきましょう」
「分かりました。でもあそこから放たれる一撃は……」
「ああ、そこは大丈夫だと思いますよ。魔法でも打撃でも耐えます。ただ、村の人たちが危険にならないように上空からの攻撃だけは注意してみていてください」
「……はい。分かりました」
ルビーさんは少し納得できなような顔で、すっと後ろに下がった。
壁からは魔力を感じることができない。つまりルビーさんであってもその強度を信用するべき物差しがなくて不安に感じているということ。
それも今日で吹き飛んでくれればいいんだけど。
「……。おーい。お=いっ!! 駄目だ、こいつ集中して全く動く気配がない」
「でしょうね。じゃあ他の村の方かに先をお願いしましょう。っと、その前にまだ説明をさせてもらいますね」
さっきまでとは違って初手を奪い合うということがなかったお陰で、俺の声はシュエンさん以外にちゃんと届いてくれる。
ま、壁を殴るという形式であれば後半ほうが有利って考え方もあるんだけど。
「壁を殴るだけではその順位をつけることは通常できません。ただし私たちベロニア村の壁には面白い仕組みがあってそれが可能です」
「これだけの建造物に魔法効果を付与している、と……。まるで遺物ですね」
リーン街長が息を飲みながら気になる単語を漏らした。
遺物……。過去に栄えた文明が残した特別な力を持った魔道具。
その文明の高さからなぜ現存していないのか、と疑問が湧き上がるだろうがその時の魔王が世界中で天変地異を起こすほどの力を持っていた、といえば誰もが納得してしまうだろう。
ただその魔王は魔族という別の手法を用いて、天敵である勇者と直接対峙することなく再び人類を淘汰しようとしているわけなんだけど。
「そうですね、いずれ遺物と呼ばれるくらいこの壁が魔族に対して有能な働きをしてくれればと思います」
「……すごい自信ですこと」
「まぁ今からの説明でそういいたくなるようなものであると理解していただけるでしょう。ツムギさん、事前にお話ししていた通りお願いできますか?」
「了解だ」
――ひゅんっ。
俺が視線を送ると、ツムギさんは腰の剣に手を添えた。
そしてゆっくりとそれを抜いていつもより弱めの斬撃を飛ばした。
――カン。
飛んでいった斬撃が壁に当たると甲高い音が鳴り、次にその接触部分が一瞬だけ白色に色づいた。
――カンカン。
さらにツムギさんが二つの斬撃を重ねて壁に攻撃を当てると、今度は接触部分が薄い青色へと変化した。
「? これは何ですかな? まさかいろんな色が見れて楽しい、ベロニア村は他よりもおしゃれと、のたまうわけではないだろうな?」
「ふふ……。トウゲン殿にはあれがそんな子供のおもちゃ程度のものにしか見えなかったのですね。ですが、私の目からすればこれは大したもの、大したもの過ぎると感心してしまいました。……。レンヤ殿、あの色は敵の攻撃の威力に合わせて変化しているのでしょう? それもかなり細かし段階を設けていると見ました」
「な!? それだけの仕掛け……。付与魔法使いが何人、何十人……それも数年、数十年はかかる代物だぞ!」
「ええ。私も驚きましたが、遺物という言葉に対してそれだけの自信……。その裏付けとなるにはありえない機能を有していませんとおかしいですから」
リーンさんの分析を聞いて辺りがざわつき始めた。
だが、ルビーさんが相手となる時とは違って緊張感はそこまで高くない。
命が掛かるような思いをしなくていいことが明確になったことで、関心が上回ったのだろう。
そうそう、連合の代表を決めるだけの日なんだから血生臭いのはやめにしようよ。
「分かっていただけたようですので、これより最も攻撃力の高い色をあの壁に色づかせた村、或いは街を代表としたいと思います。さぁ誰から挑戦しますか?」
挑戦のゴング代わりに俺が問いかける。
すると、誰よりも早くその人間が一歩前に進み出た。
「――お預けを食らったのだ。まずは私から行かせてもらおう」
トウゲン村長の護衛の人。話を聞いたところ、暗殺を主にしている人間。
一撃の重さをメインにしているわけではないはずだが……やけに自信満々といった様子だ。
「お、おい! お前大丈夫なのか!? その細い腕で、しかも魔法は使えないんだろ?」
「大丈夫ですよ、依頼主殿。私は確かに暗殺、人を殺すことを生業にしていますが、それは非力であるからではありません。実はその反対、決して派手ではありませんが一撃必殺の技を持っているからこそなのです。むしろそっちの魔族を殺さないように襲うという仕事よりもはるかに簡単なのです」
「……ならば任せるが」
あまりにも自信満々なその様子にトウゲン村長はもう何も言わず、その護衛を送り出す。
この護衛、実はレベルを見ることができない。
おそらくはその職業的にレベルを見られないようなスキルか何かを施しているのだろうが……それはほかの人たちと比べてレベルを意識して鍛錬を重ねている証でもある。
ルビーさんへの攻撃にしてみてもかなりの実力者で、どこかその攻撃を受けたことのあるルビーさんが緊張感ある表情を見せている。
「これはかなり期待できるかな……って村の人たちも不安そうだな」
壁の内側には外の様子が分かるようのぞき穴があるスペースを何か所か作っていたのが、そこに人が群れているのが俺の視点からだとよく見える。
どの人もこの人も……。
「そんな不安吹っ飛ばしてやるから安心してくれよ」
「――強化箇所集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中っ。……指先衝:激」
そうして不安がる人たちに視線を送った直後、護衛の人はその足を加速させてそのまま壁に向かって突っ込み、飛んで行った。
その勢いすら攻撃の威力へと変えようというつもりなのだろう。
――ド、ンッ!!
そしてそれはその思惑通り一撃の威力を高め、衝突音凄まじいものへと変えた。
空気すら震える一撃、ピリピリと肌が震える感覚がこれだけ離れているのに伝わってくる。
しかし……。
「――そんな馬鹿な!! 壁を壊すつもりで放った一撃……。上位の魔族すら殺したことのある一撃だぞ!?」
壁にはヒビ一つなく、振動が伝わった様子もなく……。その指が触れた面には限りなく白に近い薄い青色、ツムギさんの二撃目よりも浅い色が浮かんでいたのだった。




