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第4話【スウェン等視点】なんで!?

「――くっ!! なんでだ……。なんで刃が通らねえんだよ!」



 昨日までは竜だってあんな簡単に切り裂いてたじゃねえか……。


 それなのに……今は聖剣に重みさえ感じねえ。



「ぐるるるるる……」

「犬っころの毛ごときに聖剣が絡まるだと? ありえねえ!!」



 ダークウルフ。

 この俺がD級のモンスターなんかに受けられているなんて……そんな馬鹿なことがあってたまるかよ。



 ――ぷしゅっ……。



「な!?」



 ダークウルフの爪が……。腹に……。


 いてえ。これ、かなり深くえぐられてやがる。


 血が……血が止まんねえ。



「ヒ、ヒール!!」

「スウェンっ!!」



 暖かい……エリの回復魔法、いつもより魔力が込められてる。

 そんなに俺が頼りなく、まずい状況に見えたってのかよ。


 それに……ルミア、なんでお前泣きそうな声出してんだよ。こんな奴に俺が負けるとでも本当に思ってるのかよ。



「どいつもこいつもなめやがって!!」



 聖剣から手を放して久々に素手でモンスターを殴る。


 一発目はダークウルフの顔面をとらえ、二発目は不意をつけずにその鋭い牙で受け止められた。


 拳には牙が食い込んで、激痛は全身を駆け巡る。


 だけど、そんなの問答無用でぐりぐりと拳を押し込む。

 


「グ、ヴォエッ!!」


 

 そうして俺の拳がぐちゃぐちゃになると、ダークウルフは嗚咽とよだれを垂らしながら拳から牙を引き抜いた。


 拳を口の中に押し込められたのが苦しかったのか、それとも俺の血がまずかったのか……とにかくダークウルフは後退。


 そのまま逃げようとする。



「させない!!」



 それをさせまいとルミアが俺よりも前に出て、その槍を放った。


 ルミアが俺よりも前に出るなんてことも、こんな強引な攻撃を仕掛けるところも……初めて見た。


 でもこの槍の投げ方、勢い、正確さ……間違いなく当たる。



「グオオオオオオオオオッ!!」



 思った通りルミアの槍はダークウルフの胴体、その側面のやや毛の薄い箇所を貫いた。


 俺の聖剣が通らなかったのを見て、防御力の低い箇所を狙った、と……。



「ちっ……。なんだよそれ。それじゃ俺がかませ犬みてえじゃねえか――」

火球(ファイアボール)



 ルミアの槍によって致命傷を負ったものの、未だ逃げようとするダークウルフ。


 それを見逃さまいとエリが攻撃魔法を発動させた。


 そうすることで火球は拳を押さえ、その場にしゃがみ込む俺の真横を通って……着弾。



 ダークウルフは抵抗する力も回避する力もなく、あっという間に炎に包まれていった。


 これで受けていた依頼の品であるダークウルフの毛も牙も消失。

 他の個体を探すにしても今からじゃ……。



「依頼不達成、か……」



 視線の先で残っていたのは俺の、役立たずな聖剣だけ。


 ……。なぜだ。なんで聖剣の切れ味が急に悪くなった? 見た目は特に変わりない。それにレアリティに変化もないってのに。



「まさか、俺が聖剣を扱う器じゃないって……そういうことなのか?」

「大丈夫スウェン? 今ポーションを……」

「いい」

「え?」



 ルミアに差し出されたポーションを受け取らず、俺は無理矢理立ち上がった。


 聖剣に認められていないのは、きっと俺が弱いから……この程度でひぃひぃ言ってちゃダメなんだ。



「でも。その怪我……」

「いいって言ってるだろ!!」



 ――パリン。



 再び差し出されたポーションが地面に落ちた。


 瓶の割れる音があたりに響き、その場は静まり返る。



「それよりもだ。ルミア、その槍の扱いはなんだ?」

「あ、えっと……。スウェンが隙を作ってくれて、そこを私が後ろから安全に突く……それは確かに理に適った戦法だと思うんだけどね、私ももっと戦えるようにならないとって訓練してて――」

「それで俺よりも強くなっちまった、と。はは、弱い俺をそうやって後ろから見て笑ってたんだな」



 苛立ちからか、いつもルミアには言わないような言葉が次から次へと出てくる。



「そ、そんなことない! 私はただスウェンと一緒に戦いたいってそれだけで!」



 卑屈な言葉を跳ね返そうとルミアは珍しく声を大きくして俺の言葉を否定した。


 途端に罪悪感が襲い、情けなさが突き抜ける。


 俺は、好きな女にこんな顔をさせたいわけじゃ――



「私とレンヤ君はそうやってずっと努力してたのよ」

「レン、ヤ……?」



 すべての感情があいつの名前のせいで怒りに塗り替えられる。


 ルミアの口からはいつもいつもいつも、レンヤレンヤレンヤレンヤレンヤ……。



「その名前は、もう出すな。あいつは……もういない。お前だって、あの時に理解してくれただろ」

「!? ごめん、なさい」

「……」

「……」


 大声を張り上げたい気持ちを押し殺して俺はルミアに注意を促した。


 するとルミアはしまったといった表情を見せた。



「ふぅ……。とにかくこれで聖剣の回収はできたわ。怪我の治療と期限までの依頼達成が不可能になったことを報告することも兼ねて一旦街に戻りましょうか」



 向き合った状態でお互い黙り込んでいると、エリが聖剣を回収して俺たちに声をかけてきた。


 やれやれといった様子ではあるものの、エリは今回の失態を受けても悲観的な顔を見せない。



「――お前は、お前だけはあいつの名前を出したりしてくれるなよ?」



 街に帰るために踵を返して一歩二歩。


 そうして歩きながら俺はエリに聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。



「ん? なにか言ったかしら?」

「……いや、何でもない」



 するとエリはゆっくりと振り返って質問を繰り出した。

 なぜかいつもよりも嬉しそうな、そんな顔で。





「――ねぇ、なんで私のところに依頼がいっぱい来てるのよ」

「いや、そのそれはこの街でも上位のランクである『メアリー様』でなければこなせない、と……それだけの信頼があるということですよ!」

「信頼ねぇ。冒険者の仕事なんかほとんどしなくなったってのに、依頼者のおっさんたちは何を見ているんだかなぁ。あ、もしかしてスケベ目的?」

「ギ、ギルドではそんなよこしまな狙いのある方の依頼はですね――」

「わかってるわかってる! ちょっとした冗談じゃないのさ」



 商談を一つこなして実家のある街に戻ってきた。


 そんで久しぶりついでにあんまり顔を出してなかったギルドにやってきてみると、早速職員さんに捕まってあれもこれもやれって……。


 しかもダークウルフの素材集め、オークの討伐にオーガにさらわれた子供の捜索って……どれもこれも私向きとは思えない戦闘メインの仕事ばっか。


 冗談で言っただけだけど、このナイスバディを要求されるほうが何倍もしっくりくるわ。



「というか、ちょっと前にこの街にも勇者様が来たって言ってなかったっけ? こんなのは全部勇者に任せちゃいなさいよ」

「勇者様を面倒ごと係みたいに……」

「じゃあ無償で持ち上げるだけ持ち上げるっての? 勇者相手でも等価交換は成立しないとおかしいでしょ?」

「そりゃあそう思いますけど……。はぁ、相変わらずの商人気質ですね、メアリー様は」

「当然! どんな商材も売ってみせるのがこのメアリー様なんだから! それで、その勇者はどこにいるの? まさかもう魔王城に到着してたりして」

「……あそこにいますよ」

「え?」



 ギルドの受付のすぐ側にある食堂、そのテーブルにはまっ昼間だっていうのにぐでんぐでんに酔った男と介抱する女が二人。



「まさかあれが……」

「勇者様です。依頼をろくにこなすこともできずにああやって飲んでばっかりの……ダメ勇者ですよ」

「あんた、結構言うわね」

「本当のことですから」



 恨み節を込めて説明してくれる受付嬢さん。


 あの勇者、一体どれだけ依頼失敗してんのよ。

 というか、勇者のくせになんでそんなに弱いのよ。



「勇者といってもまだレベルは高くないようで……。それなのに背伸びしてこの街までやってきてしまったようなんですよね」

「ふーん。確かに勇者ってレベルどうこうじゃなくて、素質で選ばれるっていうものね。でも、道中は強いモンスターも多かったでしょうに。よく王都からここまでこれたわよね」 

「どうやら聖剣を手に入れたらしいのですが……。その力が十分に発揮でできなくなってしまったらしく……」

「聖剣……。ちょっと見てみましょうかね。『鑑定』」



 私は勇者が手に入れた聖剣とやらを勝手に鑑定。


 私が冒険者兼商人として稼げてるのもこのレアスキルのお陰で……この鑑定をきっかけにまた一儲けできれば、なんて――



「これって……」

「ど、どうしたんです、メアリー様」

「ふふ……。ギルドに来て正解だったわ。まさかこんな掘り出し物を見つけられるだなんて」

「それって勇者様のことですか?」

「違うわ。あんなのじゃない。もっと面白いのが……多分、西側にいる」

「に、西側!?」

「っと、それがわかれば……ねえ、このお金で王都までの移動スクロールをくれるかしら? 確か魔道具の販売もあったわよね?」



 鑑定で見た聖剣の情報。


 そしてそれを聖剣にまで高めた存在を知った私は一年分の家賃である金貨70枚を受付嬢さんに手渡したのだった。



「商人人生最大のチャンス……。これを見逃してたまりますかっての。待ってなさい、研ぎ師……レンヤ」

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