第3話 赤眼の覚醒者
とは言いつつ、半信半疑ではあったんだけど……。
そもそも聖剣の性能って俺が知る限り切れ味がすごいってのと、刃こぼれしないってぐらいで……今それがどこにあるのかもわからないから情報を仕入れることもできないんだよな。
だから俺の研いだ骨がただの骨に戻ったならスウェンたちはまず本物を探すところからになるかもしれないな。
でも見つけたとしてもそれはあの骨以下なわけで……想像するだけで降格が上がりそうになってしまう。
っと、そんなことより研いだばっかりの剣の性能のチェックでもしようか。
きっと普通の剣を使っているから相当な出来になってるはずだ。
◇
研師【覚醒】LV1
□対象物:鉄の剣(D級)
□効果時間:スキル対象者が死亡するまで。(現距離において)
□効果:切れ味強化(S+級)、刃こぼれ防止、魔特攻(清めの力付与)
◇
ふむふむ、切れ味はよくなっているっぽいけどそれ以外はそんなに変わらないか……。
それでいてこの魔特攻ってのが本来の聖剣にあった能力で……あっぶね、ただの骨だったらこれ付与できてないじゃん。
そう思うと、スウェンのあれって切れ味だけで……余計にしょぼく感じちまうな。
「――すごい! すごいよ! すっごいおいしいこのお水!!」
「おお……。あのなんの変哲もない剣が……。これは神の御業か?」
おばあさんは両手を合わせて何かに祈り始めた。気持ちはわからなくもないけど、大げさだって。
「――っと、そんなことより早くお母さんのところに水を持って行ってやりな。体調悪いんだろ? 多分体の中の魔素もこれでどうにかなるはずだぞ」
「うん! ありがとう王子様!」
「そのそれは恥ずかしいからやめて。俺はレンヤ。ただのレンヤだ」
「レンヤ? 変わった名前。でもありがとう! 役立たずって言ってごめんなさい!!」
マトマは謝りながら清水の入った桶を持って走り去ってしまった。
謝れない大人もいっぱいいるのけど、あの子は何だかんだいい子だな。
「いやはや、まさかお客人がこのような力を持っているとは……。それにしても……」
「ははは……。まさか俺もここまでだなんて思っていなかったですよ。あ、そうだ! この井戸の底にあれをもう一本刺しておきましょうか。そうすれば他の人たちも楽でしょうし」
――チリーン。チリーン。チリーン。
おばあさんは懐から鈴を取り出すと左右に振って鳴らした。
決して大きな音ではないがその透き通った音色はどこまでも響き渡り、村全体を包むよう。
「――緊急の鈴!? 何かありましたか、村長!? まさか……魔族!?」
「違うわい! いいからお前さんは剣を一本持ってきておくれ! それと他の者は桶を用意するのじゃ!」
鈴の音一つでそこら中の建物から人が姿を現し始めた。
きっと体調が悪い人が多くてなかなか出てこれなかったんだとは思うけど……まさかこんなに人がいるなんて。
住人の数は5、60はいるんじゃないか?
「――も、持ってきました! それでこれをどうするんですか?」
「うむ。ではこれを頼めるかの?」
村人からおばあさん……じゃなくて村長に剣が渡り、俺の元まで流れてきた。
村中の視線が俺の元に……っていうか、あんたが村長って知ったら余計に緊張するんだが。
――しゅっ。
そんな緊張感の中は俺は剣を一研ぎ。
今度の剣はさっきの鉄の剣と同じものみたいだから多分大丈夫――
「――見つけた。まさか、ここに現れるとは」
「な!?」
俺が剣を研ぎ終わったタイミングで村人の中から一人の男性が俺目掛けて走り込んできた。
しかもその脚力は異常。
踏み込んだ場所にはクレーターができ、近くの村人は吹っ飛んでしまった。
咄嗟のことに当然俺は反応しきれず、その男の手は俺の首に。
「ぐ、るじ……」
「真の勇者であればこっち側に来る可能性のほうが高いなんて……あれは嘘だと思っていたんだがな。くふふ……。これで俺も魔王軍の幹部だぜ」
甘く絞めてくれているのか、息はギリギリできる。
おそらくだがこいつは……魔族の男は俺を拘束して生きたまま連れて行こうとしているのだろう。
初めての魔族。
力は強い。スピードも……スウェンの比じゃなかった。
それにこの皮膚……鉄みたいに冷たくて固い。
「く、おおおおおおおおおおおっ!!」
「ふっ」
もがいて拘束から逃れようとしていると、村長が服の中から護身用であろうナイフを取り出して、勇猛にも魔族に攻撃を繰り出す。
しかし……。
――キィンッ!!
村長の持っていたナイフは魔族のその皮膚によって簡単に弾かれてしまった。
というか村長の動きも人のそれじゃなかったんだが。
「やはり、このなまくらでは無理じゃったか……」
「ふふふ、潜伏するにしてもお前のことだけは注意しろと言われていた。なるほど、その意味がよくわかったが……今の魔族はそんなにやわじゃねえんだよ」
「むぅ……」
「一応死んどけよ、ばばあ」
そのまま地面に倒れ込んだ村長目掛けて魔族は腰に下げていた剣を抜いて刺しにかかる。
絶体絶命の窮地。
だが……その皮膚に絶対的自身があるのだろう、俺の攻撃は簡単に届く。
「ぐ、うぅぅう!!」
「はっ! 聖剣なんてのは過去の遺物! すでに克服しているに決まって――」
俺が村長から渡された研ぎ済みの剣を振ると、魔族は余裕な表情でそれを受けた。
すると、その首は紙よりも簡単に切断されて……。
――ぼと。
地面に落ち、神々しく消えた。
「え……こんなんで勝てるのか、俺が、俺なんかが……」
「……。勇者様だ……。勇者様が現れたんだ!! み、みんな勇者様が――」
歓喜の声が上がろうとした時だった、さらに数人が村人の口を抑え込んだ。
どうやら勇者を狙って何人もこの村に忍び込んでいたようだ。
その姿はもはや人間の者ではないわけだが……魔族は人間に化けられるというわけか。
「いやはや驚いたぞ。まさか意図も簡単に仲間を切り捨てるなんてな。だが、人質を見殺しにはできんだろ? お前は勇者だからな」
「いや、俺は勇者じゃ……ってそんなこと言ってる場合じゃないか」
どうする? こいつらを斬れるのは俺の剣だけ。
一人を助けられたとしても、その間にもう一人……いやそれ以上が殺されるかもしれない。
聖剣以上とはいえ範囲攻撃なんて持ち合わせてねえぞ。
「――くくく……」
「あ? 何がおかしいんだばばあ」
困り果て冷や汗が額を流れたかと思った時、村長が笑った。
「ふふ、こうして全員姿を見せてくれたことがうれしくてのう。これで、あの娘の負担が減る。それに……貴様らは勇者様を見くびりすぎじゃ」
「はっ! 頭でもおかしくなったかばばあ! 勇者は動けん上に聖剣はそれ一本! この状況をひっくり返すのは不可能――」
――ぶしゅっ! ぶしゅっ! ぶしゅっ!!
村長を笑っていた魔族の首が飛んだ。
俺の時とは違い神々しく消えるということはないものの、仲間の首も続々と落ちる……当然人質を殺す暇もなく。
そうだ。俺が研いだのは一本じゃない。
「……。残念ながら俺は同程度の剣を何本も作れる。それに……どうやらこの村にはとんでもない剣豪が隠れていたみたいだな」
「さすがはわが孫と婿殿といったところじゃな。勇者様の剣を用いている上に全快すれば……この程度訳ないわい」
魔族を殺しつくしたその『少女』は返り血をふきながら俺たちに向けて屈託のない笑顔を向けながら口を開く。
「勇者様……。じゃなくてそれ以上の『王子様』、とこの剣で一緒に戦う。みんなとの約束やっと果たせた! でも……もっと、もっとだよ!! ね、レンヤ様!」
高揚したその瞳はさっきまでの青ではなくトマトなんかよりも鮮明な赤に変わっていて、その姿を見た村人たちは目に涙を浮かべながら咆哮。
これがこの日、この村より発せられた魔族……魔王への反撃を知らせる合図となるのだった。




