表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/50

第2話 俺は勇者以上

「――ふ……。あははははははははははははははははっ!!」



 スウェンの剣が骨に戻るさまを想像してしまうと、俺は笑いが止められなくなった。



「ははは……。うっ、目が……」



 そして笑いすぎたからなのか、いつの間にか目には涙が溜まってしまっていた。


 俺は咄嗟にそれを右手で隠し、漏れ出そうになる嗚咽をぐっと飲みこんだ。



「……ルミア」



 それから間もなく、気持ちがやや落ち着いたかと思えば、俺の口からは勝手に思い人の名前が……。


 勇者スウェンにパーティーを追放されてしまったこと以上に、ルミアが俺を選んでくれなかったことが堪えてしまったようだ。


 結局ルミアの価値基準は強さ……いや、勇者というブランドだったのかもしれない。



「もし……。もしスキルの覚醒が早ければ……。その効果の程度に気づくことができていれば……。俺自身が勇者となろうとしていれば……。ルミアは俺を選んでくれたのかな」



 ルミアがスウェンを選んだのは事実。でも、俺をかばってくれていたことも事実。


 そう簡単にルミアへの思いを断ち切るというのは無理な話。



「だったら……どうする?」



 簡単な自問自答。


 その答えは考えるまでもない。



「勇者に……。いいや、俺は勇者以上の存在――」




「――お兄ちゃん、勇者様よりすごい人なの?」

「は?」



 俺の独り言に対して少女の声で質問がされた。


 誰かに聞かれているなんてありえないという思いと、恥ずかしさで俺は素っ頓狂な声を上げながら右手を外した。



「だから、お兄ちゃんは勇者様よりすごい人なの?」



 するといつの間にかゲートが繋いだ先に到着していたらしく、俺は地面に寝ころんでいたことに気づいた。


 そしてそんな俺の顔を少女が上からのぞき込んでいることにも。



「その、あの……その前にそこを退いてもらってもいいか?」

「んっ!」



 俺がお願いをすると少女はあっさりと離れてくれた。


 ここがどこかわからないが……とりあえず敵ではないらしい。



「それで?」

「あ、ああそれは……」



 ただ俺に向けられているキラキラと光る瞳はどんなモンスターの攻撃よりも高い攻撃力を誇り、その期待を裏切るような言葉は発せられなくなってしまう。



「……多分。すごい……いやすごくなれる、と思――」

「おばーちゃっ!! おばーちゃっ!! 本当に来たっ!! あたしのっ……おかーちゃの言ってた王子様!!」



 自分に保険をかけながら、それでも期待も裏切らないよう、歯切れ悪くも言葉を紡いだ。


 途端に少女は嬉しそうに駆け出して行ったのだが……もう嫌な予感しかしない。



「……。この魔素濃度……多分だけど『西側』、だよな? この様子だと」



 勇者パーティーとして冒険していたのは中央にある王都より東側。


 というのも東側はすでに過去の勇者たちによって一定の『魔族』が滅ぼされ、魔王城までの道のりがある程度確立されているから。



 では『西側』というと……ほぼ手つかず。


 反対に『西側』は『禁足地』と呼ばれ、現在人間が住んでいるかどうかも謎とされていたのだが……。



「まさか、未だに居住区があるなんてな……。しかも、一応ここは村……だよな?」

「そうさね。ここは西地区にあるベロニア村。まさか本当に人間の来訪者があるなんて……長生きするもんだねえ」



 辺りを見回しているとさっきの少女と一緒に老婆がやってきた。


 そこそこのお歳だとは思うが足腰は丈夫なようで、案外素早い歩様だ。



「おばーちゃっ! この人があたしの王子様なの! この剣で一緒に戦うの!!」

「ふふ、そうかいそうかい。でもね『マトマ』、お客人をあんまり困らせてはいけないねぇ。ほら、このお方からはあまり魔力を感じないだろう?」

「……そ、そーいえば」



 み、見破られた。

 ステータスは他人に見えないよう訓練したつもりだったんだけどな……。



 きっとここの人たちは魔族から逃げるためにその力を読み取るスキルが発達しているのだろう。



 というか、少女の名前の『マトマ』って……あんまりにも野菜っぽい名前だな。瞳はそれとは反対に青色だけど。



 ま、今抜いた剣は赤い錆でトマトって感じに見えなくもない……かな?




「というわけでお客人。ここはあんたがいるには危険な場所じゃ。早々に王都へ帰ることをお勧めするぞ」

「そうしたいのは山々なのですが……。路銀もなく……。この通り飲み水も……」



 俺は戦闘の際に使っていたポーチを取り出すと蓋を取ってひっくり返した。



 でもそこからは一滴垂れるだけ。



 パーティーで移動する際に使っていた馬車の中であれば食糧なんかも充実していたのだけど、馬車から降りての移動が長かったせいでポーチのアイテムは不足気味になっていたのだ。



「そうか……。じゃが……」

「水ならこっちにあるよ!」



 顔を渋らせるおばあさんとは別にマトマは明るい表情でこっちこっちと手招きをした。


 仕方なしといった様子でおばあさんはそのあとを追い、俺もついていく。


 この感じから察するに……。



「――ほら! ここ!」

「おう……」

「ふむぅ……」



 嫌な予感は的中。


 連れてこられた井戸からは異臭が漂い、このそこに飲み水があるとは思えない様子だった。



「……。最近水源近くに魔族が住み着くようになっての。濃い魔素を水に含ませるようになったのじゃ。わしらに嫌がらせをするためにの」

「嫌がらせ、ですか? それになんの意味が?」

「人間の苦しむ顔を見たいがため。それだけじゃよ。……ただそのせいでこの村の半数は死んでしまった。魔素は人によっては毒じゃからの」



 実は魔族による被害を実際に見るのは初めて。


 その悪行は知っていたつもりだったが……まさかここまでひどい奴らだとは。



「幸いわしらは許容量が多くてあと何日かは生き繋いでいけると思うが……」

「そうですか……。あ、そういえば魔族が直接攻めてくることはなかったのですか?」

「それはもう何十年もないのう。前に来てくれた勇者様が結界を張ってくれたおかげじゃて」

「……。それで、この子のお母さんは王子がどうのと……」

「そうさね。村のみんなは縋るしかなくてのぅ。それだけ魔族は強靭なのじゃよ」



 おばあさんは俯き、マトマの汲んだ水を見てため息を溢した。


 それにつられて俺も俯いてしまった。


 飲み水をせがんでしまったことをこんなに悔やむ日が来るなんて、思いもしなかった。



「お客人に恨みはないのじゃが……。すまんのう。飲み水はこのありさま。作物も育たず、備蓄も少のうて……」

「はい。この場は早々に去ろうと思います。お話してくださいありがとうございました」

「ほらマトマもお別れの挨拶をせんと」

「……。おにーちゃ、役立たず」



 悪くもないのに頭を下げるおばあさんの姿に胸が締め付けられた。


 しかもマトマの役立たずという言葉に俺はやるせない気持ちを感じてしまった。


 俺はこんなところでも武野のレッテルを張られてしまうのか、勇者と比べられて……って勇者っていってもそんなすごい結界を張ることができるものなのか?


 そんなことができるのは聖剣の力あってこそじゃ……。



「……」

「こ、これ! お客人になんてことを!」

「だって、だっておにーちゃはおかーちゃを助けてくれない!! おかーちゃはあたしより――」



「ちょっとそれ貸してみてくれるか?」



「「え?」」



 喧嘩を始めようとする2人は俺の言葉が意外だったのか素っ頓狂な声を漏らして静止した。


 だから俺は勝手にマトマが腰に下げていた鞘からさびた剣を取り出してその場に腰かけた。


 そしてポーチから携帯用の小さな砥石を取り出した。



 通常研ぎをする前に錆取りが必要だが、俺の研師はこれを必要としない。



 ――しゅっ。



「なるほど。これでも5秒とかからないわけか」



 マトマの錆びた剣はたった一研ぎできらりと輝き、新品と見間違う出来の一振りへと変わった。



「そんでもってこれなら……」



 ――じゃぽ……。キラッ!!


 

 そしてそのまま汲み上げた水の中にその剣をつけると、汚染され異臭を放っていた濁り水は甲高い音共に輝き……清水へと変わったのだ。


 勇者が聖剣によって結界を張ったという情報から、魔のものを払う効果を付与できるとは思ったが……予想通り。


 というか……。 



「そ、そんな馬鹿な!! こ、この剣は……まさか!!」

「あたしの剣……聖剣になっちゃったの?」




 「――それはちょっと違うかな。マトマの剣は聖剣以上のものへと変わったんだ。言ったろ、俺は勇者以上って、な」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ